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心の無いジョージとドラゴンの少女  作者: yamainu
第1章 『高地の国ドルク』
7/28

「龍の少女」(3)

 ◇


 変化。

 一瞬で、まず髪が、質量を大きく増した。伸びたのもあるが、どうやら、生える場所が背中まで大きく広がったようだ。

 体をすくめ、屈めたその首が、一気に伸びた。

 伸びたと思ったときには、既に人の姿ではなくなっていた。

 その姿は。

 龍。


 東の国の書に曰く。

 頭蓋の形は駱駝に似、

 目の光は鬼に似、

 角の形は鹿に似、

 耳の形は牛に似、

 うなじから下に伸びる体の形は蛇に似、

 それを覆う鱗は鯉に似、

 長い体を三つに分けた節目の部位に生える、二対四本の足の先、掌の形は虎に似、

 掌の先にある爪の形は鷹に似る。


 それは、正しく、龍。

 東のドラゴン。

 翼を持たずとも泳ぐように宙に浮く、幻の獣。


 同時に、その頭上遙かに雷鳴が轟いた。

 降り注ぐ雷光が、彼女に向かっていた全ての矢を焼き尽くす。


 大鐘のような声がした。

「びっくりしたっス! 何するっス!」


 ……その口調は変わんないのか、とジョージ少年は思った。


 ともかく、ルナナの姿は龍へと変化して、そこにいた。

 全長十メートル近くの、白い鱗の龍。

 森の木の間を縫うようにして、地面から少しの高さを浮いていた。

 人の姿だった時にはサイズが大きすぎるようだったゆったりしたローブが、今ではその胴回りの直径にちょうどよく、前腕を袖に通す形で丈の短い上掛けのように着こなされていた。その裾が、羽衣のようにたなびいていた。

「射るのを止めるな! 射続けろ!」

 と、フパシャシュが兵たちを恫喝した。

 龍の出現に驚いていた兵たちが、慌てて再び弓を構えた。

「むむむ、っス!

 いい加減にしないと、ルナナちゃん怒るっスよ!」

 水面をゆったりと泳ぐ蛇のようにゆらゆらと宙を浮いて、ルナナは頭をもたげて吠えた。弓兵が放った矢は、再び雨のようにルナナの周囲に降り注いだ落雷に、全ての矢が打ち落とされた。

「怯むな! 打ちかかれ!

 龍に大きな傷をつけた者には、それだけ大きな報償をやるぞ!」

 フパシャシュの声に促され、兵たちのうち、雇い兵を中心に構成された、剣を持った者たちが殺到した。

 だが。

 雷の小休止を狙って一番早くルナナの体にたどりついた者の剣も、龍の硬い鱗に弾き返され、傷一つ負わすことはできなかった。

「痛っス! 傷がついたらどうしてくれるっスか!」

 ぐわっと牙の生えた口を開け、ぎょろりとルナナの目が周囲をにらんだ。

「必殺! ルナナちゃん電撃スパーク!」

 再び、雷光。

 今度は頭上からではなく、ルナナ自身の体から放射状に全方位に短く雷が放たれた。剣を手に至近距離まで近づいていた雇い兵たちは、避ける間もなくそれを受け、ほとんど言葉を発することもなく倒れた。

 だが、倒れた兵たちを見ると、気絶しただけで、息はあるようだ。

 放電の届かない距離にいた他の雇い兵たちは大きく怯んだが、フパシャシュがなおも大声でせき立てると、再び剣を構えて打ちかかった。

「うー、とことんやる気っス?

 じゃあ、観念するがいいっス! ルナナちゃんもとことんやるっス!

 ルナナちゃん二十五%本気電気トルネード!」

 近づく者を立ち止まらせる強風豪雨と。

 立ち止まった者を打つ雷。

 ルナナの周囲を、頭上から突然の豪雨を伴った風が円を描いて取り巻き、雷光が走った。剣を持って近くにいた兵たちはその雷に打たれて気を失うか、でなければ、慌ててそこから逃げ出した。

「凄いとは思うが、その恥ずかしい技名はなんなんだ」

 ジョージ少年が、逃げ隠れていた先の木の陰で言った。独り言のつもりだったが、聞こえたらしく、答えが返ってきた。

「適当っス」

「適当かよ」

「はっはっはっ! 龍の嬢ちゃん、やるでござるな!」と、反対方向の別の木の陰で同じく様子を見守っていたクナイ・ハチロウ。

 一方、フパシャシュは舌打ちした。

「チッ……。

 やはり、手に負えんか」

 不機嫌な顔をしていたが、剣で打ちかかった雇い兵の多くが雷で気を失ったの確認してから、言った。

「退くぞ! 動けぬ者は置いていけ!」

 そして、率先して離脱していった。続いて、まずは正規兵を中心とした兵たち。最後に、おろおろした様子の雇い兵たちも。

 気を失って倒れたままの者たちを後に残して、彼らは離脱していった。

 あっという間に、気を失っていない兵士は一人もいなくなった。

「ふむ……」

 クナイ・ハチロウは、思案げに顎を撫でていたが、一番最後にフパシャシュたちの後を追った。


 後には、気を失った兵たちと、ルナナが残された。

 それと。

 木の陰に隠れてルナナの様子を伺っているジョージ少年が。


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