「少年とサムライ」(3)
◇
ぐううううるるるるるう!!!
また、腹の音。
ジョージ少年の視界の隅で、緑目のローブの少女がわくわくと料理が来るのを待っていた。
やがて、その前に、料理が運ばれてきた。
もともとメニューなど用意されていないような食事処だし、今は、フパシャシュの一団のために大人数の食事を作る必要があったこともあり、用意されている料理は一品目だけだった。
つまり。
フパシャシュたちや、ジョージ少年が食べているのと同じ。
クナイ・ハチロウが、悲鳴を上げながらちょうど平らげようとしているのと同じ。
辛さたっぷりの、唐辛子の煮込み料理。
上機嫌な少女は、木製のスプーンを手に取って。
料理を一匙、スプーンになみなみとすくって。
ジョージ少年のいるところからでも、丸ごとのままの唐辛子がその匙の中に顔を見せてるのが見えた。
その一匙を、待ってましたと嬉しそうに大きく口を開けて。
ぱくりと。
口の中に入れて。口を閉じて。
……。
…………。
………………っ!!!
次の瞬間の光景を見て、ジョージ少年は目を丸くした。
火柱。
轟炎轟雷。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「うっひゃああああああああッス!
か、か、か、辛ぁああああああぃっっっっッス!!! っス!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
天井に向かって大きく口を開けた少女の口から。
炎が盛大に吐き出されていた。
ついでにその髪は逆立ち、パチパチと雷をまとっていた。
!!!??????
は?
口から炎?
人間の口から?
食事処内にいる全員の目が、当然のごとく、驚きとともに少女を見た。
「わ、わ、わ、やっちゃったっス!
ご、ごめんっス!」
炎を吐き出し終わり、雷も消えて、少女は我に返ると。
片手に料理の入った木鉢を持ったまま、軽業師のように、テーブルを足場にして天井に向けて回転しながらジャンプした。大きく広がったローブの裾が天井を撫でると、不思議なことに、天井に残っていた炎が一瞬で消えた。
テーブルの上に着地した少女は天井を見上げ、火が消えたことに安心した顔をした。
それから周囲を見て、視線が自分に集まっていることに気づくと慌てた顔をして、懐から宝石を一個取り出してテーブルの上に置いてから給仕のおばさんに声をかけた。
「天井の焦げは、これで修理してほしいっス!」
それから、料理の入った木鉢を持ったまま、慌てて外に走り去っていった。
呆然と、残された一同。
その中で、フパシャシュが叫んだ。
「おい! 今の女を追いかけろ!」
その声が発せられるよりも早く、クナイ・ハチロウが駆け出した。
「ジョージ少年、行くでござる!」
「!」
慌てて追いかける、ジョージ少年。
背後で、フパシャシュが他の兵たちを急いで追い立てながら、言った。
「あいつが、ドラゴンだ!」
クナイ・ハチロウも言った。「そうでござる! あれがきっと、拙者らが求めるドラゴンでござる!」