「山の頂のドラゴン」
1、「山の頂のドラゴン」
真っ暗闇。光のない洞穴の奥。
宝石が敷き詰められた硬い寝床で、彼女は眠っていた。
「ぐごごごごごご……っス……。
ぐーすかぐーすか、ぐごごごご……っス……。
……」
可愛らしい(?)寝息に混じって。
唐突に。
腹の音。
ぐううううるるるるるる!!!
自分の腹から鳴るうるさい音に、彼女は閉じたままの目をしかめた。
ぐううううるるるるるう!!!
「ううー……っス……」
ぐううううるるるるるう!!!
「……う……
うるっさああああああああああいっス!
どこの誰っス!? 安眠妨害っス! 雷落として黒焦げにするっス!」
彼女は怒り心頭な様子で頭を上げたようだ。闇の中、光るエメラルドのような緑色の目が開いて、音の出所を探してきょろきょろと周囲を見た。
その下方、腹の位置から、また音がした。
ぐううううるるるるるう!!!
「……」
くたっと、彼女は再び頭を下ろして宝石の枕に顎をつけた。
緑色の目を閉じた。もう一度寝ようとしたのかもしれない。
その腹から、また音。
ぐううううるるるるるう!!!
「……お腹、減ったっス。
お腹減って動きたくないっスけど、お腹減ってもう眠れないっス」
それでもまだ未練がましくじっとして眠れないか試した後で。
「……よし、っス。
何か食べに行くっス!」
意を決して起きあがって。
寝床から、出口へと向かった。
暗い洞穴の中。彼女は進んだ。
雪のように綺麗な白金色の鱗に覆われた、細くしなやかな体で。
聞く者のいない、楽しげな歌を歌って。
やがて、前方に光。
緑色の目を細めて、光に慣らしながら、さらにそちらへと向かった。
そして。
大きく開いた洞穴の出口に姿を見せた。
ここは、世界最高峰の山。
雲海よりも高くそびえる険しい隆起。
薄い空気と厳しい寒気に、山の中腹より上は動植物の姿など見えない無人の霊峰。
その頂上近く、切り立って崖になった場所に、ぽっかりと開いた横穴。
彼女はその横穴から出て、長い蛇体を宙に浮かせて、広がる世界を見渡した。
眼下、散らばる雲の間。氷雪に覆われた山の、さらに遙か下に目を向けた。
標高が下がれば、森と高原の緑が広がる。
その所々に、植物の緑とは違う色が見えた。
人の営みの色。例えば、煉瓦や石の色の建物の屋根。
彼女は景色を眺めながら、誰も聞く者がない独り言を言った。
「しばらく前までは、あそこは森だったっスね。
人間たちも、よくやるもんっス。
わざわざこんな高い所まで来て、町を作るなんてっス。
じゃ、あそこに行ってみるっスかね」
伸びをして。
「今年も、いいお天気っス! 何かいいことがありそうっス!」
ぐううううるるるるるう!!!
と、お腹の音が、賛同するように高らかに鳴った。