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オガトト

作者: 駒沢

「みなさーん、こんにちはっ! 心臓ドキドキ、鳥肌ゾクゾク♪ オガトトの時間でーす!」


華やかな音楽とハイテンションなトークで、今週もまたオガトトの当選発表が始まった。


オガトトというのはオーガントランスプラント、つまり生体移植用の臓器が当たるクジのこと。

生体移植が本格的に始まったのはいまから20年ちょっと前。しかし当時は臓器提供者が少なく、2年待ち3年待ちは当たり前だった。結局ドナーが見つからないまま患者が死んでしまう、ということも珍しくなかった。


「ではまず、皮膚からいってみましょう! ……はいっ、S組末尾322、S組末尾322です。当選した皆さん、おめでとうございます!」


そこで始まったのが、このオガトトだ。

オガトトは、臓器移植を望む人が部位別のクジを買う。一人何枚買ってもOK。外れたらパーだけど、当選すればたたちに移植を受けられるという単純なもの。


「続いて角膜です! 角膜は相変わらず人気が高いですよね。はいっ、では番号の発表です。C組末尾885、C組末尾885ですっ。当選した皆さん、おめでとうございます!」


当選確率は移植する部位によって変わる。比較的移植が容易な皮膚などは高いけど腎臓や肝臓はだいぶ当たりにくい。


「次は腎臓です! いいですかー、発表しますよー。はいっ、番号はK組末尾2640、K組末尾2640です。当選した皆さん、おめでとうございます!!」


オガトトの売上金はいったん政府によってプールされ「希望者」に分配される。


「希望者」というのは、ぼくのような失業者がほとんどだ。つまり生活の糧がなく、そのままでは生きていけない人たち。だけど、オガトトの分配金を「希望」するだけで毎月生きていくために十分な額を受け取ることができる。


「おまたせしました、肝臓です! 肝臓も大人気の部位ですよね。番号は……L組末尾4403、L組末尾4403です。当選した皆さん、おめでとうございます!!」


もちろん、何の代償もないわけじゃない。まず分配金を「希望」する際に全身をくまなく調べられ、健康であることが確認される。健康でない場合は失格だ。定期的な検査も義務付けられている。

そして、もしオガトトの当選者と生体反応が適合すると判断された場合は、そのすべてを提供しなきゃならない。


「さあっ、最後に心臓です! 私まで心臓がドキドキしてきましたよ! えー、当選番号はH組1698、H組1698です! 当選した方、おめでとうございますっ!!」


そう。適合する場合は心臓も。


かくいうぼくも、前回のオガトト当選者と適合したという連絡を受けて心臓摘出手術が決まったところなんだ。ときどき逃げようとする人がいるみたいだけど、頭蓋骨の内側にチップが埋め込まれているからムダなんだけどね。


さて、そろそろ臓器移植センターへいかないと……。そんな寂しそうな顔をしないでよ。失業したまま5年も生きてこれたのはオガトトの分配金のおかげなんだから。

でなければ、とっくの昔にのたれ死んでたと思うよ?


「はい、そろそろお別れの時間です。当選した皆さん、おめでとうございました。今週も皆さんが無事に生き延びられますように。それでは、さようなら〜っ!」

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読んでいただいてありがとうございました。よろしければ、他の作品もどうぞ。
駒沢的怪異譚
― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい。って駒沢さん作品に何回この表現を使っているのやら。 悲壮感と狂気を、明るいテンションで読み終われる短編優良作品。 面白かったです。
[一言] タイトルの意味が気になってお邪魔しました。 意味はすぐに明かされましたが、テンポのいい文章だったので、最後まで読了できました。 明るい感じのキャラクターと、 語り手の対比が明暗、分かれていて…
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