エリシオンの憂鬱
エリシオンは今朝も届いた肖像画をため息混じりに見つめていた。
27歳で婚約者の一人もいないエリシオンの元には、毎日のように見合い用の肖像画が送られて来る。
それをとりあえず見ることだけはしているが、形だけでも妻に迎えたいと思う女は今日もまたいなかった。
王族であっても第三王子であるエリシオンには無理に結婚する必要などないのだが、こう頻繁に肖像画を送られてくると結婚しなければいけないような気分になってくる。
――それが狙いで伯父たちは送って来るのだろうが……。
……恋情を感じることはできなくても、好意を感じた女と結婚してしまえばいい。そう思いはしても、共に暮らすと思うと踏ん切りがつかなかった。
(ずっと一緒にいたいと思えるような女がどこかにいるのだろうか……)
そんなことを思いながら、エリシオンは竪琴を手に取ると幼い頃にルシアンから教えてもらった曲を弾き始めた。
そうしていると心が落ち着いて穏やかな気持ちになってくる。
15年前にルシアンの死を知った時のような激しい感情は、今のエリシオンには残っていない。
あれだけ憎んだ王妃は、病気療養という名目で10年前から母国に帰っている。
顔を合わせることのなくなった王妃に対して、いつまでも憎しみの心を向け続けることはエリシオンにはできなかった。
それからポッカリと空いてしまった心の隙間を埋めるために、公務を兼ねて地方を渡り歩く日々を送っているのだった。
旅先にまで令嬢の肖像画を送って来る伯父は、きっと自分のことを心配してくれているのだろう。
その気持ちに報いたいと、とりあえず見ることだけはしているのだが……今日もこれといった令嬢はおらず、送り返すことになるだけだった。
(王妃はルシアンを愛していたのだろうか……)
竪琴を弾きながらエリシオンは考える。
かつて王妃の離宮から聞こえたルシアンの竪琴は、とても切ない音を奏でていた。
彼のほうはきっと王妃を愛していたのだろう。
相思相愛だったのなら……それならまだ救われる。
しかしルシアンの片思いであったのなら。
戯れにルシアンを自分から取り上げただけならば、決して王妃を赦せはしない。
真相を知ることなどできないけれど。
それでもエリシオンは思うのだ。
せめてルシアンの想いが報われていてほしいと――。