第三王子エリシオン
エリシオンは焦燥を募らせていた。
父である国王に謁見を申し入れてからもう一刻以上が経つ。その間、ルシアンのことを考えると気が気ではなかった。
ルシアンはエリシオンにとって兄のような存在だ。その彼が、王妃との不義密通の罪で密かに処刑されたと聞いたのだ。
真偽を確かめるべく父王に会おうとしたが、それがまだ叶っていない。イライラは頂点に達しようとしていた。
「失礼いたします」
扉が開き、控えの間にやって来たのは宰相のフロイだった。
彼はエリシオンに慇懃に礼をしてから口を開いた。
「陛下はご予定が詰まっておりますゆえ、私がお話を伺います」
エリシオンは文句を言いたいのを堪えて、フロイに事の真偽を問い質すことにした。
父王に直接訊きたかったが、無理に会おうとするよりもフロイに訊いたほうが断然早い。
「……ルシアンが処刑されたと聞いた」
「ほう。誰にですか」
「誰でもいいだろう」
そんなことはどうでもいいから早く真相を言えと、エリシオンは目に力を込めてフロイを見つめた。
フロイは一つため息を吐くと、エリシオンを真っ直ぐに見て答えた。
「ルシアンという侍従は病により亡くなりました」
その瞬間、エリシオンは絞り出すように「嘘だ……!」と叫んだ。
「嘘ではありません。彼は病気で死んだのです。噂になど惑わされぬようお気をつけ下さい」
「……では、彼の遺体に会わせてくれ」
「病気の蔓延を防ぐために、すでに火葬に処しております」
エリシオンは唇を噛み締めた。
噂を肯定する証拠はない。だが、病死というのも信じられない。
「お話は以上でしたら、私は退室させていただきますが」
淡々と言うフロイを睨むが、エリシオンにはこれ以上どうすることもできない。
きっと父王に訊いても、答えは変わらない。
「……王妃様は、いかがお過ごしか」
最後にそう訊くと、フロイは眉を僅かに上げて「お変わりなく」と答えた。
フロイが去った後、エリシオンは在りし日のルシアンを思い浮かべた。
銀の髪に水色の瞳の、穏やかで優しい人だった。元神殿楽士であった彼は、エリシオンの求めに応じて、綺麗な音楽を奏でてくれた。
物心ついた時からずっとそばにいたのに。
王妃が彼をそばに置きたいと願わなければ。
そうしたら、今も彼は生きて穏やかに笑っていたはずなのに。
(赦さない……!)
エリシオンの瞳に暗い憎しみの炎が宿った。
そんな彼を、侍従のアランだけが心配そうに見つめていたのだった。




