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カレーなる王様の軌跡 後編

王様視点のラストです。

前回までとは逆にシリアス要素はありません。

ミーナという少女と過ごしはじめて数ヶ月が経った。

何でも望む物を用意しようと告げたあの日、なぜか頭に拳骨(げんこつ)を食らった。

前世ではともかく、生まれ変わってからはされたことのない仕打ちに真っ青になって固まる周囲をよそに何故か胸がときめいた。


それはさておき、あれからミーナの望む物といえば『薬の材料』だとか『研究室の防音・防臭対策』など色気のないものばかり。


気を使っているのだろうかと思って宝石や流行りのドレスを贈れば、すぐに街中の質屋に売られる。

…俺って嫌われているのかな?


そんなことを考えることもあったが、あれからミーナはちゃんと『薬』という名目で毎日カレーを運んできてくれる。

あきることがないようにと創意工夫されたカレーはホントに美味しくて全然飽きることがない。

体調も今まででは考えられないくらい良くなって仕事もはかどり、夜もよく眠れるようになった。


ただひとつ、問題といえばミーナの望む薬の材料が入手困難な物が多いこと。

市場で手に入るようなものならば部下に任せているが、あまりに危険な物ならば俺自身が取りに行くこともある。


…そう、今現在もまさにそういう状況だ。


「ちょっと王様!ボーっとしてないで早くあれ取ってよ」


…ミーナ、ちょっとくらい現実逃避させてくれてもいいじゃないか…


目の前には大きな岩の塊かのような物体がその身を震わせ、聞いたこともない咆哮(ほうこう)をあげている。

全体的に薄汚れた茶色の物体はその身体中にボコボコとした丸い突起物をまとっている。


こんな生物は今まで見たことない。

…それに突然出現したのも町外れにある王家管理下の薬草園、ありえないだろ。

まさかと思い愛剣を片手に持つ俺を盾にしながら背後から叱咤激励(しったげきれい)のヤジを飛ばすミーナに不信の目を向ける。


俺の物言いたげな視線に気付いた彼女は、一瞬バツの悪そうな表情を浮かべたがすぐに笑顔で誤魔化した。


「あっ、もしかして気付いた?あれね元はジャガイモの仲間なの!なんかこの世界では断崖絶壁(だんがいぜっぺき)にしか育たなくて取れる量も少ないの。やっぱ頻繁(ひんぱん)に使うものだから、なんとか自家栽培できないかと思ってこの薬草園に植えて私特製の栄養剤をあげてたらこんなに元気に育ったの!!」


…いや、そこ喜ぶとこじゃないだろ。

なに勝手に王家の薬草園に物騒なもの植えてんの?!

せめて一言相談してよ!

俺そろそろ泣いちゃうよ?!


それからなんとか目の前の正体不明の物体の身体からをジャガイモもどきを回収すると、離れた場所まで移動し地面に崩れ落ちるかのようにして腰を下ろした。


息を整えながら額から流れる汗を服の袖口(そでぐち)(ぬぐ)っていると、目の前で驚きの光景が繰り広げられていた。


「はい、ジャガイモさんお疲れ様でした。これいつもの栄養剤ね!」

「グ、ゴゴゴゴ…」


ミーナが手にしていた緑色の液体の入った瓶をジャガイモもどきの本体に渡すと、どこか悲しげに()えながら広大な薬草園の奥へと姿を消した。


「…ちょっと待て、もしかしてミーナはアレと意志疎通ができるのか?」


「もちろん!だって私が創造主だよ?大体だけど言ってることとか理解はできるよ」


「…おい、それなら俺が実力行使でジャガイモを取ることなかったんじゃないか?!」


「だって、やっぱ体の一部をはぎ取られるのって痛いらしくて私でもなかなか取らせてもらえないのよね。…大体、そんな強引なことして嫌われたくないし。」


「……………」


いや、もう、何んも言えないわ。



ちなみにその日の夕食と共に出されたカレーに大きなジャガイモの塊がはいっているのを見て複雑な気分に襲われたのは言うまでもないだろう……。



………結果から言えばミーナによって手塩にかけて育てられた得体の知れない生物のジャガイモの入ったカレーは、今までで一番美味しかった。



ーーーーーー自分の食い意地が憎い!!!!!


その日、俺は生まれ変わって初めて涙で枕を濡らした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



何だかんだでミーナと共に過ごす日々は今までで一番充実していて楽しかった。


ミーナと語る日本の話は色々と興味深くて懐かしいものばかり。

西暦とかを確認すればやっぱり前世の俺が生きていた時代から何年か経った時間からミーナはやって来たらしく、どさくさ紛れに年齢を確認すれば19歳だという。

日本人は幼く見えるというけれど、やっぱり詐欺だろう。

どう見ても14、15くらいにしか見えない。…でもその性格を観察してみれば確かに年相応なのかも……


「私の年齢を教えたんだから王様の年を教えてくださいよ。そのお腹の出具合からしたら35~6くらいですか?でもそのわりに結婚とかしてないんですよね?宰相様がこないだ愚痴(ぐち)ってましたし。」


アーノルド~~~~~~~!!!!!!

お前何でそんなことミーナに愚痴ってんの?!

ってか35~6って俺そんなに老けて見えんの?!

それ以前に頼むから腹のことはもう触れないでくれ。

最近、食生活が充実してきたお陰で以前よりもっと腹の肉が目立つようになったんだよ!!(涙)


「俺は今年で24だ。日本人と比べてこの世界の人間は少し老けて見えるんだ。断じて俺だけが老けているわけじゃないからな!!」


「えっ……まさかの5歳差?!あり得ない……」


なに、その疑心暗鬼な表情は?!嘘なんかつくはずないだろ!

俺ってば一応はこの国の王様なんだけど知ってる?!


そう言えば、逆に呆れた目を向けられた。


「知ってるに決まってるじゃないですか。だって私いつも『王様』ってよんでますよね?」


……もう、マジ泣きしたい。


その後もなにかと機会があれば色んな話をした。

前世の日本では俺は13歳で中学2年だったと告げれば、


「やっぱりね、言動が子供っぽいもん。しかも、リアル中二病だ!!(笑)」


と言って指を指されて笑われた。


中2病って何だよ?!なんか新しい病気の種類とか???


そう問いかければ尚いっそう爆笑された。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ミーナが居てくれるお陰で孤独を感じることが少なくなった。

自然と表情も明るくなったらしく、他国からの使者からも『何かあったんですか?』と頻繁(ひんぱん)に尋ねられるくらいだ。


城の中にも以前にはなかった笑いが溢れ、その中心に居るのはいつもミーナだった。

彼女(ミーナ)は孤独な俺を(あわ)れんだ神が遣わしてくれた人物なのかもしれない。

現に、カレーを作るのも食べるのも飽きた!といいつつ具を変え、味を変え執務室(ここ)まで毎日運んできてくれる。


「そういえば今日はまだ来てくれてないな……」


ぼそりと呟けば俺の机の横で書類整理をしていたアーノルドが殺気みなぎる瞳で睨み付けてきた。


ーーーーなんだよ、ちゃんと仕事してるだろ。


どこか不貞腐(ふてくさ)れた思いで、再び減らない書類の山に手をつける。

しばらくしてドタドタと騒がしい足音が廊下の方から聞こえてくると、次の瞬間には大きな音を立てて扉が開いた。

犯人はもちろんミーナ本人。

彼女の背後では扉を守る衛兵が真っ青な顔でなすすべなく立ち尽くしている。

毎日の恒例なことなのに、まだまだ慣れないんだよな?……わかるよ、その気持ち。

俺もアーノルドも口を酸っぱくして注意するけど直らないんだよ……(涙)

あぁ、何か隣から凍えそうなほどの殺気と冷気が漂ってくる……


ちなみに渦中の人物はニコニコと微笑みながら見慣れぬ大きなリュックを背負っている。


「王様、王様。これからちょっと隣国まで行ってくるから。2~3日は帰れないと思うからその間のカレーは作りおきしてあるから温めて食べてね!」


「はぁ?!ちょっと待て、突然なんの話だ?なんで隣国へ行く必要があるんだ!!」


「何かカレー作るの本格的に飽きてきたし、新しい食材を探しに行こうかなって思って。醤油とか作りたいから色んな豆とか見てみたいし、何よりジャガーさんからのお願いを叶えてあげたいのよ。」


ジャガーさん???誰だよそれ、聞いたこともない人物なんだけど……


「ジャガーさん、自主的に薬草園の警備をしてくれているんだけど最近なかなか手強い敵が現れたらしくて一緒に戦う仲間の四天王が欲しいんだって。……やっぱ仲間って言ったら『ニンジン』『タマネギ』『お肉』かなぁって考えてるんだけど、どうかなぁ?」


待て待て待て!!!

もしかしなくてもジャガーさんってあのジャガイモもどきの生物のことか?!

ってかいつの間にそんな薬草園の警備なんてしてんの?


「そういえば薬草園の周辺の警備の者から最近多くの獣が現れて作物を荒らすと報告があったな……。まさかジャガー男爵のとこにまで被害があったとは深刻だな……」


おいおいおい!!!

なんだよ男爵って!?

ってかアーノルド!!お前なにワケ知り顔で普通の反応をしてんの?!

しかもなんか深刻な雰囲気を(かも)し出してるし!!


「おや、陛下はご存知ないのですか?ジャガイモという食物を産み出すあの生物は、自らの体から食べ物を私たちに与えるだけではなく薬草園の維持管理も担ってくれているのですよ。この功績を称えて爵位を授けられ、新たに『ジャガー・イモー男爵』と名乗ることになったはずですが?」


「……そんな話聞いたことないぞ。」


それ以前に『ジャガー・イモー男爵』ってなんだよそのネーミングセンス。センスがなさすぎだろ!!!

……さすがにそんな事とてもじゃないが口に出しては言えないが。


「そういえば許可申請の紙は大量の書類に混ざっていたので陛下も気付かずにハンコを押されたのでしょう。」


「……お前それ確信犯だろ」


なんかドッと疲れが増したのは気のせいではないはず。

どうしてそんな人の裏をかくようなことをするかな?!

普通に申請を出しても俺は反対なんかしなかったはずだ……多分。


「大体、いくら国の為に貢献しているとはいえ爵位を授けるなんて前代未聞だろ。せめて男爵などではなくて騎士に任命するとかあっただろ?」


「ダメダメ!ジャガーさんはメークインでもキタアカリでもない、男爵なのよ!!!」


ってジャガイモの品種かよ!!

確かにあのジャガーさんとやらは男爵いもみたいにゴツゴツとしてて丸っこい姿をしてるけどさ……。


「コバヤカワが男爵だと言うのでその爵位を与えたのですが、何か問題でも?」


……はい、何も問題ありません。だからそんなに睨まないで。……最近アーノルドの俺に対する態度が雑な感じががするのは気のせいだろうか?(涙)

不敬な感じとかミーナにかなり影響されてきてないか???


「話がずれたけど、そういうことで隣国に行きたいの!!なんか噂では上質なタマネギらしき物がとれるみたいなの。ジャガーさんの期待に応えるためにも早く出発しなくちゃ!!!」


「待て待て!!四天王とかジャガーさんとかそれはまず置いといて、1人で旅なんか無理だろ!隣国までの道は平坦な道ばかりではないし、国境では盗賊が出没すると報告が来ている。危険すぎるだろ!!」


そう、1人旅なんてもってのほかだ!!!

俺は机の上にある適当な書類をひっくり返して裏の白紙部分に筆を走らせると、書き上がったその紙を隣のアーノルドに突きつけるように渡した。


「俺も隣国に視察に行ってくる!それ休暇届だから今すぐ申請してくれ!」


「はい、却下。」


ビリィィィィィ


「あぁ!なんてことするんだよアーノルド!!!」


無惨にも目の前で破り捨てられた紙をかき集めながら猛然と食ってかかるが、絶対零度の視線を向けられ黙りこむ。


「王様が付いてきてくれなくても大丈夫です。騎士の人と魔法使いの人が一緒に旅してくれるそうなので安心してください。」


ニッコリ微笑むミーナの姿に言い様のない不安に駆られ、直ぐ様どんな人物なのかと探りをいれると思わぬ事実が判明して衝撃を受けた。


ミーナが言うには騎士とは城の警備の任にあたる人物で薬草園でジャガイモを収穫するときにお世話になっているらしい。

……だから最近俺に収穫の手伝いの声がかからなかったのか……

まぁ、ジャガーさんの体から俺自身がジャガイモを収穫した時は、その日に出されたカレーを見ると複雑な気分になるからなぁ。

だから別に騎士の1人がジャガイモの収穫を手伝ってくれるのは正直助かるが……何か納得いかない。


とにかくその騎士にいつもお世話になっているからと、ジャガーさんから取られたジャガイモを薄くスライスして油で揚げ、塩をまぶして即席ポテトチップスを作って食べさせたらしい。


その初めての味に驚きと感動を受けた騎士はそれ以降、ミーナの作る物に興味を覚えて旅にも同行することにしたらしい。

魔法使いも似たようなもので、ミーナの作る栄養剤に感銘を受けて彼女の作り出すものに興味を引かれたみたいで一緒に同行すると言っているらしい。


話の内容に不快な思いを感じながらも、ある部分に引っ掛かりを覚えて眉をひそめた。


「……ミーナお前、塩なんてどこで手にいれたんだ?……俺は買ってやった覚えはないが?」


そう、塩は海が遠いこの国では希少価値が高くて中々手に入らない。

しかもこの世界では塩は固形ではなく液体のままで取引されている。

どこの国でも、塩をわざわざ乾燥させて手間ひまかけて小さな結晶の状態にしなくても塩水のままで大体の味付けを済ませてしまう。


だからこそ余計に輸送の段階でその重さと量で手間がかかりこの国につく頃には高額な値段になってしまうのだ。

さすがの俺でもそうホイホイと用意してやれる物ではない。

なのにどこから塩を手にいれたのだ?!


「塩は陛下から貰ったドレスとかの中に混じってありましたよ。見た目は白い結晶の塊だったから宝石と間違えたんじゃないですか?それらしい高級そうな箱の中に入ってましたし。私もはじめは気付かなかったんですけど舐めたらしょっぱかったんで塩だって分かったんです。よく考えたら地球にも岩塩って存在してたし、この世界にも同じようなものがあってもおかしくないですよね。」


ーーーーー岩塩?

まさかそんなものが贈った物なかに混じっていたとは……。

そういえば以前、視察に行った国からお土産という名目でたくさんの白い宝石が渡されたがそれが岩塩だったのだろうか?

何も考えずに宝物庫にある物を贈ったのだが結果的にミーナにとっても俺にとっても良かったんだな。


……とは言え、普通プレゼントされた宝石を舐めるか?!

どうしてそういう行動になるのかホントに疑問だ。


「……なんかまた話がずれてきてるんですけど、もしかしてわざと行かせないように邪魔してますか?」


なかなか鋭いじゃないか。

とりあえず今すぐ出発なんてことにはさせないように少しずつ話を逸らしたはずだったのに。


ゲフン、ゲフンとわざとらしい咳払いをしながらアーノルドに救いのを求める視線を向ける。それに気付いたアーノルドは周りを震え上がらせるかのような黒い笑みを浮かべた。


これは後でどんな要求をされるか恐ろしいな……でも背に腹は変えられないし……


結局、別室に連れていかれたミーナはアーノルドの説得により、すぐに隣国に旅立つことを断念した。

どんな手を使って何気に頑固なミーナを説得したのか気になるところだが、戻ってきたミーナが若干涙目だったので聞くに聞けない。


もしかしてこの国で最強な人物は国王である俺ではなく、宰相のアーノルドじゃないのか!?




翌日、俺の執務室の机の上には前日の倍の量の書類がうず高く積み重ねられていた。

しかもどの書類も急を要するに物ばかり。

……なんだろう、視界がボヤけて見えるぞ。そうだ、これはきっと心の汗に違いない。

あまりにも恐ろしい現実を目の前にしてその場で呆然と立ち尽くしたのは言うまでもない。


ちなみにそんな膨大な量の書類が1日で処理できるはずはなく、俺は休む暇もそれこそ睡眠時間すら削ってひたすら机に向かった。


アーノールードー!!!お前は鬼だーーーーーーー!!!(涙)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そして今日もこの国は平和だ。

もちろん俺自身の心の中も腹の中も十分に満たされている。

ミーナ、君に出会ってから俺の世界に色がついて真っ暗だった目の前が綺麗に晴れたんだ。

ずっと変わらず俺の側にいてほしいと思う、この思いが恋愛感情からなるものなのかは今はまだわからないけど、いつかは君に俺が歩んできたこれまでのことを話したい。






ーーーーーー日本に居る父さん、母さん。あなたたちの息子は異世界の空の下で今日も精一杯がんばって生きてます。
















最後まで読んでいただいてありがとうございます。

コメディから恋愛ジャンルに移動したはずなのに恋愛色が弱い…

自分の無力さに絶望中です★(涙)

感想を頂いたので張り切って続きを書こう!!と、思ってはいます。

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