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カレーなる王様の軌跡  前編

今回は王様の過去話から始まります。

少し暗い雰囲気の話になってますので注意してください。

俺は普通の中学2年生だった。 軍事オタクだった父親の影響で我が家はいつも金曜の夕食はカレーだった。


母親の作るカレーはまさに海上自衛隊カレーで毎回隠し味を変えていたが、いつも美味しかった。


その日はいつもの金曜日。


図書館から借りた三国志などの本をカバンに詰めて家 路を急いでいた。 今日はカレーの日だ、逸る気持ちを押さえながら自宅近くの路地を曲がったところで眩いばかりの光に視界を奪われ、直後に激しい衝撃が体全体に走った。


そのままブラックアウト。


気付けば「ほぎゃほぎゃ」泣く赤ん坊になっていた。 しかも王様の第1子の跡取り息子、つまり皇太子とし て新しく生を受けたらしい。


大切に育てられた俺はすくすくと育っていったが、どうしても生まれ変わる前の記憶が忘れられなくて、ふとしたことで落ち込むこともあった。


いつまで経っても慣れない環境。その上、新しく生を受けたこの世界では料理の味付けがひたすら甘くてお菓子を食べているみたいだった。


小さい頃はまだよかった、子供味覚で甘い物でも喜んで食べていたが大きくなるにつれ苦痛になっていった 。


食事の時間が地獄に感じ始める頃、国王であった父親が病で亡くなった。 あんな食生活をしていたらそりゃあ長生きできるわけない。 俺もあんな風に死ぬのかな……… そんな不安に苛まれながら新しく王位を継いだ俺はまだ10歳だった。


幼い子供の俺に国王など勤まるはずがないと侮っていた周りの大人たちも、次第に俺の行うことに何も言えなくなった。


それもそうだろう前世の記憶がある俺は父親の影響で軍事オタクの仲間入りをしていて、ありとあらゆることに精通していた。


国王の代替わりのゴタゴタに乗じてこの国に侵略してこようとした近隣諸国を頭の中に詰め込まれていた知識によって退かせ、戦場に出れば先頭に立って軍を指揮した。


平和な日本での生活を懐かしむくせに、その手は次第に血で汚れていく………


軍事オタクだった父親も、まさか本当にその知識を使い息子が戦争しているなんて考えてもみなかっただろうな。


そんな血生臭い生活をしているうちに王位を継いで9年が経っていた………


前世で毎週金曜日に食べていたカレーが食べられなくなって数年、曜日感覚がなくなった俺は身体がいくら大きくなっても中身は中学二年の14歳のままだった。


その頃になると俺の周りには敵となる者も居なくなり逆にご機嫌伺いの連中ばかりになった。 それと同時に妃を娶れと煩くなる周囲に辟易する日々 。


年上の幼馴染みで宰相となったばかりのアーノルドだけは俺に同情的で、その手の話を上手く断ってくれていた。


それでもなくならない縁談話に悩んでいた頃、妃候補の筆頭だと呼ばれている令嬢と出会った。


公爵家の一人娘である令嬢は教養深く物静かで可愛らしい人だった。


前世で小学校が同じだった初恋の子にどことなく似ていた彼女に次第に惹かれていったのも仕方ない。 初恋の子とは違って少しだけふくよかな令嬢はいつも甘い香りをさせていてコロコロとよく笑う。


彼女とならこの先一緒に生活していくのも悪くないかな………


出会って数ヶ月、そんなことを漠然と思い始めた頃に城主催のパーティーが開かれた。


それはとてもきらびやかなパーティーで、招待された貴族たちは皆がみな見事な装いでその場を楽しんでい た。


玉座に座り会場の中を一通り眺めて溜め息をつく。 誰も彼もが王である自分に媚びを売ろうと必死で、それはなんとも醜かった。


紹介される令嬢たちの熱の籠った視線とあからさまな誘いの言葉、綺麗に着飾っていてもその中身は権力や自分本意な考えでいっぱいなのだろう。


こんな馬鹿げたことに時間を使うならボードゲームでもしていたほうがよほど勉強にもなるし楽しいのにな ………


そんなことを考えながら玉座まで挨拶に来る貴族たちを相手にしていたら、あっという間に時間が過ぎてい た。


「……アーノルド、喉が渇いた。少し席を外す」


「かしこまりました陛下」


席を外したあとのことを宰相として側に控えていたアーノルドに任せて、気分転換を兼ねて庭園のほうへ足をのばすことにした。


途中、給仕の手から掠め取るかのようにして奪ったグラスを傾けながら人目を避けて庭園の片隅に置かれたベンチに腰を下ろした。


そういえば今日はまだ公爵令嬢を見かけてないな………


最近は特に忙しくて、つい彼女のことを蔑ろにしてしまったな。 溜め息をつきベンチの背もたれに身体を預けながらボーッと月明かりの下で幻想的な雰囲気を放つ庭園を眺めていると、わずかに吹く風に運ばれて聞き慣れた声が耳に届いた。


「まさか令嬢がここにいるのか?」


人気のない庭園の片隅に何故彼女が? 疑問に思いながら息を殺し、気付かれないように足音 を忍ばせると庭園の中央に建てられた東屋で彼女の姿 を確認した。 公爵家の令嬢である彼女の周りには、これまた貴族階級に属する令嬢たちが集まって楽しげに談笑してた。


「―――そういえばディアージュ様は先日、陛下から贈り物を頂いたとか。ご婚約前からご寵愛されて羨まし いですわ」


「そうですわ、数多くの女性との縁談話があっても興味を示されなかったあの陛下がディアージュ様とは親しくされていて…本当に羨ましい限りですわ」


羨望の眼差しの下に隠された妬みや憎悪の感情を一身に受けながらも、顔色1つ変えず微笑み続ける公爵令嬢。 その微笑みがどこか勝ち誇っているかのように見えるのは俺の気のせいだろうか? なにか嫌な感情に襲われながらも令嬢たちに気付かれないように無言でことの成り行きを見守ることにする 。


「―――あら、皆さん私のことを羨ましいとおっしゃるけれどそうでもありませんわ。先日、陛下から頂いた贈り物なんてそこらに咲いている平凡な花束でしたし、その前はボードゲーム一式でしたわ。陛下の元には敗戦国から没収した財宝などが沢山あると聞いていたので期待していたのですが、とんだ肩透かしでしたわ……こう言っては何ですけど、陛下はお年の割りに子供っぽくて正直言って疲れてしまいますわ」


「あら」「嫌だわ」などと令嬢たちが声が上がりバカ にするかのように笑い合う。 その中心に居るのは初恋の子に似ていると思って淡い想いを抱いていた公爵令嬢。 ……ただ、彼女の姿はもう醜い異形の生き物にしか見えなかった。


普段は滅多なことでは動かない影に控えている護衛が 、あまりの不敬さに堪り兼ねた様子で飛び出そうとしたのを片腕で制止しその場を後にした。


堪らなく気持ち悪くて自分の中で何かドロドロしたものが溢れだしてくるのがわかった。


令嬢の為にと指を傷だらけにしながら早起きして庭園で摘んだ花束、共通の趣味を持てたら……あわよくば 戦の時に共に戦術を練ることができたら、という思いで送ったボードゲーム。


アーノルドからは「女性にプレゼントするなら宝石やドレスがいいのでは?」とは言われていた。


だが、近隣諸国から集められた宝石などの価値があるものは、どうしても自分の物とは思えず換金したりして戦で親を亡くした子供たちを養育できる場所を作った。 ドレスも令嬢は何十着も持っていて必要ないだろうと思ったのだ。


そんな考えが令嬢の言う『子供っぽい』ということなのだろうか?


なんかもうすべてが嫌になる。 好きで生まれ変わったんじゃないし、王様にだってなりたくなかった。 皆が俺のことを文武両道に優れていると言うけれど、 そんなのは前世での先人の知識を真似ているだけであって自分自身で考えたことではない。


武道だって前世の習い事で空手や剣道をしていたからそれを応用しただけ。


俺の知識は13歳のまま、身体だけがこの世界の時の流れに沿って成長している。 なんてアンバランスで滑稽なことなのか!!


――――甘い香りも、甘い言葉も、甘い態度もみんな要らない!!


それから俺は例の公爵令嬢との交流を絶ち、他国との関係を深めていった。 泣いて縋ってきた令嬢に対して何の感情も起こらなかったが、護衛からある程度の話を聞いていたであろうアーノルドが静かに激怒し、それ以降は公の場で令嬢を見かけることはなくなった。


俺自身も令嬢のその後にはなんの興味も抱けず、それ以前に周辺諸国を渡り歩くことに忙しかった。


他国はよかった。 独自の食文化が発達していて甘い物ばかりが並ぶ自国 とは全然違った。 確かに割合的に言えば、やっぱり甘い物が多いが僅かながらも辛い物や酸っぱい物などもある。


嬉しくて嬉しくて、そういう国に積極的に援助したり 交流を持ったりしていたらいつの間にか僅かに並んでいた甘い物以外の物が無くなっていった。


俺の国に感銘を受けた者たちが、感謝の意を込めて甘い物を輸入するようになり、民衆の中でも互いの国に移住する者たちが現れて、あっという間に『俺』の求めていた物が『俺』の国によって侵食され、居場所を失った。


ここ数年どこの国に行っても結局はその繰り返し。 自国の名声が上がるにつれて俺の心の中は空虚になるばかり。 甘い物はもう嫌だ………


その頃になると俺の食べるものと言えば、これはジュース!!と言い聞かせながら食べる甘いばかりのトマトスープと何も手を加えていない生野菜。


料理長たちは必死になって色んな料理を作ったが、どうしても甘くて食べられなかった。


自分一人が異質で、何物にも交わることができない不純物に思えた。


次第に憔悴していく俺の姿にさすがのアーノルドも危機感を覚えたのか幼い頃から隣国に遊学している弟王子を呼び寄せた。


「陛下、お久しぶりです。隣国に居ても陛下の名声は 聞き及んでいますよ」


「……あぁ、お前も元気そうでよかった。授業などで忙しいのに宰相が無理に呼び寄せたのだろう?悪かっ たな」


血を分けた兄弟だというのに顔を合わせたのは数えるほど、そんな弟が凛々しく精悍な若者に育っていた。 隣国でまだ学生だというのに魔導士としての才能に恵まれ、将来有望だと聞いていたとおりの姿に目を細めた。


正直、弟が羨ましかった。 俺だって家庭教師ではなく学校に通いたかった。 前世の時みたいに友達に囲まれ勉強に部活に習い事、 みんなもう一度してみたかった……。


「陛下、私が今日この場に来たのは宰相様に言われたからだけではありません。実は私が通う学園で想う相手が出来ました。将来的には結婚もしたいと思っております、お許し頂けますか?」


「―――殿下、何を言って……!!」


あまりの予想外の発言に俺も勿論だがアーノルドでさえ驚きを隠せないでいた。 兄である俺から見ても弟は何に対しても特に興味を持たないどこか冷めた性格をしていた。


それなのに、そんな弟が想う相手!? その上その相手との結婚も視野にいれているとは…


「殿下、お相手はどこの令嬢ですか!?それ以前に他国の人間と結婚されるとなると我が国の王位継承権は剥 奪されますよ!!」


「それで結構です。私は継承権を放棄し、彼女と共に歩むことをお伝えしたくてここに参りました。学園卒業後はこの国には帰ることなく、そのまま隣国に住もうと思っております。」


「―――なんてことを!!」


あまりのことに絶句してしまったアーノルドを視界の端にとらえながら玉座から一段下のカーペットに立つ弟を見下ろした。


自分の持っていないものを手にいれた弟。


……いつか俺も求めている物を手にいれることができるだろうか?


「……許す、学園卒業後に王位継承権の放棄を認めよう。その際は相手の女性と一緒に登城するように。」


「陛下?!」


「アーノルド、俺がいいと言っているんだ。お前は口を挟むな」


「……兄上」


不満そうな顔でまだ何か言いたそうにしているアーノルドを尻目に、その場を後にしようとした俺をふいに弟が呼び止めた。 しかもいつも他人行儀な『陛下』という呼び方ではなく『兄上』だなんて…… 懐かしい呼び方をされ無意識に足を止め、弟を振り返る。


真っ直ぐな瞳でこちらを見つめている弟と視線が絡み合う。


「兄上、少しお痩せになられましたね。国のことも大切ですがお身体も大事にされてください。国民はふっくらとした身体をしているのに国王である兄上がそんなゲッソリとした姿では示しがつきませんよ」


そう言って微笑む弟の姿に胸を打たれた。 自分の幸せな姿を見せに来ただけではなく、確かに俺のことも心配していてくれた。 他人行儀な弟の不器用な言葉に、自然に笑みが浮かん だ。


「そうだな、お前の婚約者にもちゃんと威厳のある姿で会わないといけないしな」


―――本当に久しぶりに心のモヤモヤが晴れた気がした。








次話は明日24日の18時に投稿予定です。

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