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カレーなる王様

もともと短編コメディで投稿していた話です。

楽しんで喜んでいただけたら幸いです。

「うそっ!?これが巷で噂の異世界トリップ!?」



小早川みなみ、年齢19歳。

元の世界ではどこにでもいる平凡容姿の黒目黒髪の日本人。



本日、まさかのまさかの異世界トリップ初体験です!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ミーナ!!またそんな得体の知れない薬作ってるの!?臭いが研究所の外まで漏れてるわよ!!」



「あら大変、また苦情の嵐ね」



鍋の中身をお玉でかき混ぜながらたいして大変そうでもない口振りの私に、同僚の薬師であるノーラは苛立ちを隠せない様子で頭をかきむしる。



只でさえ徹夜続きでボサボサの頭がもっと酷い状態になってる、寝不足のせいで余計に気が立ってるのかな???



「~~~とにかく、その薬を早く完成させて臭いの元を断ち切るか、もともと利益にもならないんだから作るのを辞めるかどっちかにしてちょうだい!!」



それだけ言うと部屋全体が揺れたかと思うくらいの勢いでドアを閉めて出て行った。



「せっかくここまで作れたんだもの、今更止められないわよね~」



クルクルクルクル、鍋の中身をかき混ぜながら顔が緩むのが止まらない。



見るからに怪しげな茶色のドロッとした液体。

ところどころに歪な形をした物体が浮かんでいる。


そう!私が作っているのはインド人も日本人も大好き、『カレー』だ!!




◇◇◇◇◇◇◇◇◇



私がトリップしたこの世界は地球で言うところのヨーロッパみたいな感じで、みんな色が白くて色んな髪や目の色をしている。



そんな中で私の姿はかなり目立っていて、何度か誘拐されかけた。そんなある日、何度目かの誘拐の際に助けてくれた薬師のお爺さんのところで薬師見習いしながらお世話になることになった。




この世界の人は基本的に優しい人が多くて、何も分からない私にとてもよくしてくれた。



地球では早くに両親を亡くしていて天涯孤独。

だからこそ元の世界に戻りたいなんてことはなく、早くこの世界に慣れなくちゃって思ってた。



―――――ただ1つ、どうしても我慢できない重大な問題があった。



「和食が食べたいっ!!!!!!!!!!!」



というわけで、ないなら作ればいいじゃん!?的なノリで料理し始めるがこれがまた困難な道のりだった。



普通に市場に行っても和食に必要な食材がないっ!!



あるのは肉やパン、辛うじて魚があるが海から遠い陸地のため新鮮とは言いづらく、ほとんどが干物として売られていた。


しかも高い。



他にも和食に必要な調味料もなくて、自分で料理して食べるなんて到底むりだった。



あぁ、手に入らないと分かると余計に欲しくなる。

醤油・塩・味噌etc………



食べたいのに食べられないストレスで、その鬱憤を晴らすがごとく薬草をゴリゴリしていると気付きました!!

持っている薬草の一部が元の世界の香辛料に似ていることに!!!!!



それから毎日、薬草を調合していたらいつの間にかお城お抱えの薬師になっていて、これ幸いにと自分に与えられた研究室でスパイスをブレンドしカレーを作り出すことに専念した。



まさか同僚たちは私が薬草を使って料理を作っているなんて考えるはずもなく、ほぼ黙認してくれているが時折漏れ出すカレーの臭いには敏感に反応し、苦情を言ってくる。


だが、そんなことで私の情熱を消えるわけない!!


―――そんなこんなで色々なことがあった3ヶ月だったが、本日ようやく念願のカレーが完成した。


カレー、それは決して和食ではないが日本人のソウルフード!!



お米的な物は残念ながら見付からなかったのでルーだけ盛り付けされたカレーにスプーンを入れた。




「いざっ!実食っ!!!」



「いただきまーす」という掛け声(?)と共に多めにすくって口に運ぶ。

口の中で何度も何度も噛み締めるように食べていると、あまりに懐かしい味に涙が出そうになった。

これだよこれ!!

カレーの味がちゃんとするよ!!



感動のあまり身震いして、さぁもう一口!!とばかりにスプーンを皿に入れたところで何か熱い視線を感じた。


またノーラが苦情でも言いに来たのかな~と思いながら入口を振り返れば、そこには見知らぬ人物が。



この国では一般的な金髪碧眼のスラリと背の高い美青年。


服装はところどころに金色の刺繍が施された白い学ランみたいなもので、その容姿と相まって夜中に見ると目がシパシパする色彩だった。



その美青年に熱い視線で見つめられて年頃の私としては、嬉し恥ずかし胸を高鳴らせ…………なんてことはなく、折角の食事の邪魔をしやがってとばかりに低い舌打ちをする。



「あの、こんな夜中に研究所になんの御用ですか?……もしかして具合が悪くて薬草でもご入り用ですか?」



時々いるのよね~医者にかからず直接薬師のところに薬だけもらいにくる人って。



とりあえず症状を聞いて適当に薬を渡して……



なんて考えるも入口に立ち尽くす人物からは何の反応もなく、こちらとしてもどうしていいか分からない。



……冷めると美味しくないし無視して続きを食べよう。



「……君、それは食べ物だよな?臭いが外まで漂っていたが………」


あ~んと大きく口を開いて2口目を頬張ろうとした私に、男がようやく声をかけてきた。


何回邪魔をする気よっ!!と、思いつつ私のカレーをジッと見詰めている男に嫌がらせを込めて、食べかけのカレーの乗った皿を差し出した。



「食べてみますか?お口に合うとは思いませんが」



差し出した皿を戸惑いがちに受け取った男は、おそるおそるカレーを口に運んだ。


瞬間、大きく目を見開き眉間に深いシワを寄せた男に「やっぱりね」と呟いた。


この国の人たちにカレーが口に合うはずがないのだ。

ほら見たことかと男の持つ皿を奪い返そうとしたが、目の前で起こった予想外の展開に呆気に取られた。



苦い表情で固まっていた男が突然動きだし、猛烈な勢いでカレーを口に運び始めたのだ!!


元の世界で言っていた『カレーは飲み物です!!』発言を彷彿させる光景にただ呆気にとられるしかない。

……あれ、『麻婆豆腐は飲み物です!!』だったっけ???



そんなどうでもいいことを考えていると、高速でカレーを食べ終えた男が空になった皿を差し出した。





「……まさか、お代わりですか?」



そんなはずはなかろう、と思いつつ聞いてみると無言で頷かれた。


口に合ったということなのだろうか、再び皿に入れられたカレーを一心不乱に食べる男に共通の味覚を持つということで親近感が湧いた。



ほら食べろほら食べろ、とばかりに何度もお代わりを皿に入れていると、なんてことでしょう!!鍋の中身が残り僅かに………!!!


「…………もう鍋の中は空です、なのでそれが最後です」



再び食べ終わった皿を差し出してきた男にそう告げると、またまた眉間に深いシワを寄せた。


無言で立ち上がった男に、やっと帰るのか!!と嬉しさが込み上げてくる。


食べる量が少なくなったけどやっと食べられる!!


と、思いきや男の予想外の行動に悲痛な悲鳴をあげることになる。



立ち上がった男は帰るどころか早足で鍋の元に行くと、お玉をスプーン替わりに残ったカレーを食べ始めた!!



「なんで、なんで、最後のカレーなのに!!なんてことすーるーのーよー!!」


必死に袖を引っ張ってもカレーを運ぶ動きは止まらない。焦った私は背中を殴るわ、蹴りつけたりするが男はビクともしない。


ようやく動きを止めた男は満足気に息をついたが、私は気が気ではない。


慌てて鍋の中を覗き込むが、そこには辛うじて残っていたカレーすべてがなくなっていた。



「うそっ………私のカレーが……」



まだ一口しか食べてないのに!!悔しさのあまり目の前が涙で滲んできたよ!!(怒)



「やっぱり、これはカレーだよな?!あんまりにも懐かしすぎてバカ食いしちゃったよ!!でもまさかこの世界にカレーがあるなんて……俺、感動したよ!!」



……ちょっと待て、今なにやら聞き流せない言葉が……



「もしかして貴方も私の元いた世界の人?」



「……あれ、もしかして君も日本人?黒目黒髪なんてこの世界では見たことないし」



やっぱり!!同郷の人間!!!!しかも同じ日本人!!!!!!!

……でも目の前のこの男の容姿はとてもじゃないが日本人には見えない。

どういうこと???

不思議そうな顔をしている私に男は苦笑した。


「俺は異世界トリップしたんじゃなくて、転生の方をしたみたいなんだ。小さい頃から前世の記憶があったからその知識を利用して今までやってきたんだけど、食文化だけは変えることができなかった!!」



今までの苦労を思い出したのか次第に苦虫を噛み潰したかのような表情をする男に、ある意味同情。

だってこの世界の料理って…………


「~~~~~あり得ないだろっ!!食べる物みんな『甘い』って!!」


そう、この国の食べ物はみんな『甘い』のだ。

初めこの国で食事をした時あまりの衝撃に食べた物を吹き出しそうになったよ!!



「ホントに地獄だった。まだ幼い頃は良かった、けど大人になるにつれて食事が苦痛になったよ!!だって、甘い肉だよ!?甘い魚に甘い野菜、甘いパンに甘いスープ!!あり得ねーよ!!!」



あ~……確かに小さい頃からそれだったら地獄だわ。何事にもほどほどが大事だよね。



「最近なんて甘い物の食べ過ぎでお腹の肉が気になりだしたし、このままじゃ糖尿病まっしぐら!!」



……確かにこの国の人ってぽっちゃり率が異様に高いよね…。

目の前の男はスタイルよく見えるけど、やっぱ服脱ぐとお肉ブクブクついてるのかな???

顔はいいのに勿体ないね♪



私の熱い視線から何かを読み取ったのか、男はムッとした表情で『腹を見るな!!』とばかりに睨んできた。




「とりあえず、お前が日本人だということはわかった。まぁ同郷の人間同士仲良くしよう。………………そして、またカレーを作ってくれっ!!いや、カレーだけじゃない他の料理でもオッケーだ!!甘くなければな!!!!!」



こほん、と咳払いをしつつ冷静に握手を求めてきた男は突然語りがヒートアップしてきて、痛いくらいに手を握られた。


ちょっとは冷静になろうよ、それ以前にせっかく綺麗な顔してんのに目が血走ってるってなんて悪夢だよ…


現在夜中の2時すぎ。


『甘いのは嫌甘いのは嫌甘いのは嫌………』なんてブツブツ呟きながら天井を見上げている男の姿はなんてホラー。

……ちなみに手は握られたままで力が強くて離すことができない。

―――なんて馬鹿力だ。



「私もこの世界の料理には不満たっぷりですけど、なにせ元の世界の料理を作るには材料が足りないんです。値段が高い物もあるし、希少で手に入らないものもあるし。このカレーだって試行錯誤で何日も何日もかかって作ったものだったのに……」



あっ、なんかカレー全部食べられたことの怒りが再びよみがえってきたぞ!!

そうだよ、あんなに苦労して作ったのに!!

私の中でふつふつ沸き起こる怒りに目の前の男は気付かない。

それどころか『材料がない』=『作れない』という事実に打ちのめされた様子で茫然としている。


力が抜けてやっと自分の手を取り戻し、とりあえず目の前の男の排除にかかる。

茫然と立ち尽くしている男の背中側に回り、力一杯ドアの方向に押し戻す。


「もう夜中ですし貴方は帰ってください!!変な噂立てられても困りますので、もうここに来るのは止めてください。」


「ちょっ、待て、それはないだろ!!また料理を食わせてくれっ!!……ってかそんな押すな、マジ転けるっ!!」


グイグイ押していると我に返った男が慌てた様子で踏みとどまろうと足に力を入れたが、もう遅い。


「―――えいっ!!」


「―――うわっ」


掛け声と共に押していた背中に渾身の力を込めた蹴りを炸裂させると、バランスを崩した男が部屋の外へと転がり出た。



「ちょっ、お前、乱暴すぎるだろ!!」


「うるさい、今は夜中です。静かにしてください。大体、いくら同郷とは言え貴方は何様なんですかっ!!私は安いお給料の中でやりくりしながら料理の材料を買ってるんです!!それを全部食べたあげくにまた作れなんて、どんだけ俺様なんですかっ!!見たところその服装からしてお貴族様かなんかでしょう?だったら自分で材料買って自分で作ってください!!」



言いたいことを言ってスッキリした私は、部屋の外でこけた拍子に尻餅をついてそのまま呆気に取られた様子でいる男に満面の笑みを送った。



「では、おやすみなさい。あと、また会うこともないでしょうからサヨウナラ」



言うだけ言って部屋のドアを力強く閉じた。

もちろん、鍵もしっかりかけましたよ!!



不法侵入断固反対!!!


「あ~あ、カレーもっと食べたかったなぁ」


空っぽになった鍋を見つめて溜め息をつく。

またいちからやり直し……

一応、レシピの材料は記録してるからまた作れるとは思うけど、それを作るまでの材料調達などを考えは深い溜め息が出る。


「…………もう今日は寝よう」



鍋を洗うのは明日にしよう。なんか体力的にも精神的にも疲れちゃった。


部屋の外から何の音も聞こえてこないから男も帰ったんだろう。


部屋の灯りを消して、掛布を持って定位置になっているソファーの上にごろりと寝転ぶ。


目を閉じたまぶたの裏に思い浮かぶのは温かい湯気を立てるカレーの姿………


容姿端麗な同郷の男より、カレーが1番!!!




…………花より団子なミーナだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



翌日、きゅるきゅるという可愛らしいお腹の音で目が覚めた私は、寝起きでボーっとしながら昨日のカレーが入っていた鍋の中に少量の水を入れて火で温めた。



しばらくして出来上がったのはカレースープ。

鍋にこびりついていたカレー

残りで作ったそれは、具こそないものの温かく私を満たしてくれた。



「さて、今日も頑張りますか!!」



気分も変えてまた頑張ろう。

カレーが出来たんだから他の料理だって作れるはず。

次は味噌汁とかいいなぁ。

日本人はやっぱ味噌汁だよねっ!!


そんなことを考えながら食器を洗っていると、最近恒例になっている廊下をドタドタ歩いて(?)来る音が………



「ちょっ、ミーナ!!アンタやっぱりやらかしたわね!!大変なところから呼び出しが来たわよ!!」



すごい勢いで部屋の中に飛び込んできたノーラは肩で息をしながら早口でまくしたてた。


「おはようノーラ、今日も元気ね。今度はどこから苦情の呼び出しが来たの?」


毎度のことながら、あまり仕事の成果をあげず日々なにか得体のしれない悪臭を漂わす物を作り続ける私に世間の目は厳しい。


ここでなにか1つ研究の成果とか発表しないと城から追い出されちゃうよね~……うん、それはとってもマズイな。



「アンタってば何でそんなに落ち着いてるのよ!!今回はホントにヤバイわよっ!!なんてったって宰相閣下からの呼び出しなんだから!!」


「……確かに、大変なところから呼び出し受けちゃったわね…」



まさか、国王陛下の腹心で冷酷だと噂の宰相様からの呼び出しとは……

これはいよいよ転職かなぁ。


「ほら、ボーっとしてないで早く宰相閣下の執務室に行ってきなさい!!」


ノーラの激しい勢いによって自室を追い出された私は足取り重く、執務室までの道のりをトボトボ歩いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


目の前にあるのは重厚な扉。

その両サイドに立つ警備兵に視線を向けながら、恐る恐る扉をノックした。


「城付き薬師のミーナ・コバヤカワです。宰相閣下からのお呼びということで参りました。」


「入室しなさい。」


声をかけるとすぐに返事があり、入室を許可される。

軽く深呼吸して執務室の中に入ると書類が高く積まれた机で忙しなくペンを動かしている人物が目に入った。


宰相アーノルド・クロイツ。

若干28歳の若さで近隣諸国にその名を知られた人物で銀髪、メガネのクールな感じのイケメンだ。



城の若いメイドたちにもその冷たい瞳で見つめられたい罵られたいと大人気で、注目の的だった。

見目麗しいと評判の国王陛下と並ぶと1対の絵画のようで、ますます人々の注目を浴びる存在だ。

そんな雲の上の人物がなぜ私を?


「ミーナ・コバヤカワ、君の噂はよく聞いている。怪しい薬を日々作っていると報告が上がっているが、それ以上に君の作る薬がよく効くと城の者たちが言っていた」


「…………」


確かに最近よく薬をもらいに来る人が多いなとは思っていたけど、そういうことだったのか。

医務室に行けばいい症状でもわざわざ研究所の薬師のとこにくるなんて普通はないよね。


でもだからと言ってこの呼び出しの意味はなんだろう?

医師の仕事を奪うな、とか研究所から出て医師と協力して薬を作れって話かな?


どっちにしろ面倒そうな話だよね。


イケメンビームにヤられないようにやや目線をそらしながら直立不動でいると、書き物を終えた宰相がペンを置くとメガネを少しずらして眉間をグリグリと揉みながら深い溜め息をついた。


「本題はその君の薬師としての技術を見込んで国王陛下に滋養の薬を作ってほしい。……これは内密なことだが陛下は先日、隣国に遊学に行かれている王弟殿下と久しぶりにお会いになられたが、そこで様々な問題が発覚し頭を悩ませておられた。王弟殿下が隣国に戻られてからも悩まれることが多く、元々が少食であられたのにそれ以降は尚のこと食が細くなり昨夜はとうとう自室でお倒れになった……」


ちょっとちょっと、なんか話が大きくなってきてない?まさかここで国王陛下の話になるとは想像できなかったよ!!

ていうか、それって平の薬師にはとてもじゃないけど荷が重すぎじゃない???


しかも何か粗相があると一発で処刑とかされそう……


よし、お断りしよう!!


「宰相閣下、私のような薬師にはとてもじゃないですが陛下のお薬を作ることはできません。ここは長年お仕えしている侍医の方や専属の薬師にご相談すべきかと存じます。」


「……この話は内密なことだと言ったことを忘れたか?もはやお前に拒否することはできんのだ。もし断ればどうなるかわかっているだろう………?」


「慎んでお受け致します!!」



なにあれ、なにあれっっっ!!

本気で怖いんですけど、あの眼力!!

お城の人たちってば、なんであんなのに見つめられたいとか思うのか理解不能なんですけど!!



「ん、素晴らしい答えだ。では早速だか陛下の元へ案内する。症状を聞いて体に合った薬をその場でお作りしろ、必要な物はこちらで用意する」



あー……、確かに王様が口に入れる物だから警戒するよね。

まぁこちらとしても毒なんて入れるつもりはないし、材料用意してくれるなら願ったり叶ったりだけど。



そんなことを考えながら、深い溜め息をついた。

昨日からホント、ついてない。



◇◇◇◇◇◇◇


やって来ました国王陛下の寝室に。


私がこんなとこまで入り込んでまずくないんですかっ!?

心の中で悲鳴を上げながら宰相に連れられて入室するとベットの前には大きな衝立が置かれていて向こう側が分からないようになっている。


辛うじてベットの上に人の気配を感じるだけ…


「陛下、薬師を連れて参りました。すぐに薬を用意いたしますので、要望があればこの者にお伝えください。」


「……薬など必要ない、下がれ」


衝立の向こうからわずかに苦し気な呼吸音が聞こえ、掠れた声が私たちの存在を拒絶した。


「陛下、貴方がいつまでも寝込んでいては国政が滞ります。ただでさえ隣国と緊張状態になっているのに、付け入る隙を与えるつもりですか?」


「………………分かった」


しばらく考えた後、薬を飲むことを了承した国王様は私の簡単な質問に戸惑いながらも答えていく。


まずは普段の食生活、睡眠時間など日々の生活内容を聞き取り必要な薬草などを紙に書き取っていく。


大体の聞き取りを終えた私は、最後に国王自身の体調を見せてもらえるよう宰相に許可を取ることにした。


昨夜倒れた原因は何なのか、只の疲労からくるものなのか予期せぬ病のせいなのか、正確な情報が必要だ。

食欲もないようだし、水分もあまり取れていない。

深刻な病だった場合は侍医と相談もしなくてはいけない。


「……症状は深刻なようだな、仕方あるまい陛下の側に行くのを許可しよう」




許可を得て、顔を下に向けたまま衝立の向こうに足を進めた。

高貴なる国王陛下に謁見する場合、陛下自身から声がかかるまで顔を上げることはできない。

面倒なことだけど、ちゃんとこの国のやり方を通さないとどんな目に合うかわからないし……


「……………………………………」



ベットの上に居るはずの陛下は何故か無言のまま、こちらを観察しているみたいだった。

なんでもいいから早く声かけてよ!!

舌打ちしたくなるのを我慢してひたすら頭を下げていると、ようやく声をかけられた。


「…………よい、面を上げよ」


「はい、失礼いたしま………………………す」



「……………………………………」


「……………………………………」


沈黙が辺りを包み込む。

顔を上げたまま固まった私と、眉間に皺を寄せながら居たたまれない様子でベットの上に座っている国王陛下……………?


「宰相様、陛下の倒れられた原因がわかりました…………」


「なんだと!?もう分かったのか!?」


素早く紙に必要な薬草などを書き衝立の隙間から手渡すと宰相様は急いで寝室から出ていった。


まさか宰相様自らが動くとは……意外に思いながらも部屋の中に2人だけという好都合な状況に感謝した。


「…………そりゃぁ夜中にあれだけカレーをバカ食いすれば食い過ぎて倒れますよね~。お腹いっぱいだからご飯も食べれるはずないですよね~国・王・陛・下!!」


「………………」


まさかのまさか、昨夜のカレーを全部食べた同郷の男が国王陛下だったなんて!!

全然そんな偉い人には見えないのになんてことだ!!


「……日頃から少食だと言われている俺が食い過ぎで倒れたなんて言えるわけないだろう。特に宰相であるアイツにそんな弱味を見せたら最後、何を言われることかっ!!」


羞恥のあまり頬を赤く染め、シーツをギュッと握りしめた国王の姿に溜め息がもれる。



それからの展開は速かった。


すぐに紙に書かれた材料を集めてきた宰相様は私にその場で『薬』を作るように指示し、作業工程を見守った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「―――――出来た」


使いなれない材料を使用して作った『薬』はホカホカと温かい湯気を放ちながら、少し深めなお皿に入れられた。


『それが本当に薬なのか!?』という宰相からの疑惑の目を向けられながらも、皿にスプーンを添えて国王陛下に差し出した。


「………………」


皿を無言で受け取り軽く目を見開いた後、恐る恐るスプーンを口に運ぶ。


「―――旨い」


この世界では初めて口にしたであろう懐かしい『お粥』に似た味の料理に自然に感想がもれたようで、昨日のカレーのように掻き込むように食べるのではなく味わうように一口づつ口に運んでいる。


美味しそうに皿の中の物を食べ進める国王陛下の姿に宰相様は驚きを隠せない様子で、目の前の光景を固唾を飲んで見守っている。


かたや、私はといえば宰相様が用意した材料を眺めながら『やっぱ王宮だと高級食材も簡単に手に入るのね…』などと思いを巡らせていた。


城下ではなかなか手に入らなかった『お米』もどきの食材はとても高級な品物として取引されていて、料理の研究に購入するなんて夢のまた夢だったのだ。


ダメ元で材料リストに書いたんだけど、さすがだなぁ。


理不尽な思いを感じながらも、これでお米の代わりになる食材を確認することができたということでよしとしよう。


そんなことを考えている間に、お粥もどきを食べ終わったらしい国王陛下に宰相様が慌てて駆け寄って体の具合を確認していた。


「陛下!突然そんなにたくさん食べられては逆に体に障ります。……吐き気とかそういうものは大丈夫ですか?」


「案ずるな、逆に寝ていた時よりも気分がいい。さすがは薬師が作った『薬』だ。……今後も私のためにその腕を振るうがいい。」


ん?『私のため』って……

これってもしかして国王陛下直属の薬師になれって意味なのかな???

もしそうだとしたら………


「残念ながら私は薬師としてはまだまだ駆け出しの身、陛下の薬を作るなんて身に余ります。それに陛下のお体のことは今までお仕えしていた者のほうがよくご存じのはずです、これ以後もその方たちに腕を振るってもらうのが一番かと存じます。」


使いなれない敬語で不敬にならないよう言葉に気を付けながら拒絶の意を伝えると、宰相様は石のように硬直し、国王陛下といえば苦虫を何百匹も噛み締めたかのような表情を浮かべていた。


そうは言っても面倒事は御免だし、恨みを買いたくもないし目立ちたくもない。


平凡・平和に暮らしながら美味しい物を食べるために日々研究していくのが1番いいよね。


転生トリップして『国王陛下』になっちゃった彼には悪いけどやっぱり自分が1番!!

まぁ、見る限り色々な苦労してるみたいだからたまにはカレーをご馳走してもいいかな~



……なんてことを考えながら、その場を後にした私は気付かなかった。

『国王陛下』が恨みがましい目で私の姿をジッと見つめていたことを、そしてそれら一連の光景を見ていた宰相様が何ごとかを考えながらほくそ笑んでいたことを………



翌日、前代未聞な人事異動の張り紙が研究所の壁に貼られた。


『薬師・ミーナ・コバヤカワを医療カウンセラーとして国王陛下専属で仕えることを命じる』



あまりの内容にノーラは激しく嫉妬し辺り構わず騒ぎ立て、私は理解不能・現実逃避とばかりにその場で気絶した。






――――――それから数ヶ月後、偉大なる国王陛下の治める国には珍妙なる料理『カレー』が貴族階級の人々の間で流行ることになる。



見た目も悪い『カレー』は初めのうちは誰もが眉をひそめ拒絶していたが、ただ一人国王陛下のみがそれを美味しそうに食していたことから物は試しにとばかりに食べ始めた人物が、たるんでいたお腹が引き締まり体調も良くなったと吹聴して回ると瞬く間に貴族たちの間で食べられるようになった。


ある者は顔中に出ていた吹き出物がなくなり綺麗な肌へと変わっていき 、またある者は始めに食べ始めた者と同様に丸々と太っていた体が別人かのようにスマートになった。


まさに夢のような『薬』!!


人々は国王陛下の薬師に敬愛の意を込めてこう呼んだ。



『奇跡の薬師ミーナ』


また、薬師ミーナを傍から片時も離さず国民の健康のためにと様々な料理を広く広めた国王陛下。

彼もまた人々から敬意を込めて


『カレー(華麗)なる王様』


と呼ばれ、慕われた。


―――――そして今日もまた研究所の一室で、新しい薬膳料理を開発しようと奮闘するミーナと王様の姿があったとかなかったとか………








国王陛下「~~~~ちょっと待て!!カレー(華麗)なる王様なんて冗談みたいな呼び方、俺は断じて認めないぞ!!」


ミーナ「別にいいんじゃない?カレー好きなんだから。」








おしまい。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

次話は本日18時に投稿します。

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