表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

俺はあの約束楽しみにしてたけど?

女性側視点

10年後、また二人でここに来よう


きっとその時は俺達は…………はずだから……


10年後、もう一度……




******


京極さんに借りたアルバム(正確には間に挟まっていた隠し撮り写真)が切っ掛けで記憶が戻った。

諦めかけていた学生時代の思い出が一気に蘇り、2~3日寝込んでしまった。


学生時代の記憶と共に、交通事故の時の記憶も蘇った。


私を轢いたのは若い女性ドライバーだった。

私をはねた後、助手席に座っていた男性が私を見て何もせず、ただ運転を女性と変わり逃げていくところまで覚えている。

車の車種やナンバーは覚えていないんだけど…

人物だけは覚えている。


あれは……


京極夏輝の婚約者候補とその兄だった。




私の記憶が戻ったことを京極さんに一応知らせておこうと何度携帯にかけてもつながらなかった。

メールを送っても返ってきてしまう。

着信拒否されているって気づいたのは3通目のメールを送った時だ。

アルバムを返したいが、彼の会社に行くわけにもいかない。

困っていたら叔父が手を貸してくれた。


叔父は私が勤める会社の社長。

母の弟で私とは10歳しか年が離れていなかったりする。

交通事故に巻き込まれ、決まっていた内定を取り消された私を憐れんで最初は契約社員として雇ってくれた。

記憶を失ったと言っても生活に困るような記憶喪失ではなかったし、大学も無事に卒業できた。

仕事に支障が出ない程度の知識はあったのだ。


アルバムは叔父と彼の秘書経由で彼に返却してもらった。

叔父は彼の秘書に

「大変貴重な資料をありがとうございました。おかげで、失っていたモノを取り戻せました。それと新たに見つけた資料を添付いたします。不要の場合はそのまま破棄してください」

といって返したと笑っていた。


その後、彼から連絡が来ることはなかった。

叔父経由で彼が正式に婚約したことを知らされた。

叔父は憤慨していたが私は逆に冷静だった。

「祝福してあげなきゃ」

「しかし……」

「彼と私はただの同級生よ。なんで叔父さんが怒るの?」

「それは……」

言いよどむ叔父を不思議に思いながらもこの話はこれで終わりと言わんばかりに私からは二度と話題を振らなかった。


だから、知らなかった。

叔父が彼にあることを告げていたことを…



*~*~*~*~*~*


彼の婚約パーティーの当日

私はとある場所に出向いた。

『約束』の日まではあと3年あるけど

もう『約束』は果たされないとわかったから。

だから、彼に内緒でアレを処分しなければ…



高台にある桜の木

今は薄紅色の花をきれいに纏っている。


高校の卒業式の後、彼が私に告白してくれた場所だ。

だが、私は彼の告白を断った。

その時にはもう彼には決められた相手がいると知っていたから…


桜の木の根元に埋められた小さな箱。

ほんとうは私が28になる誕生日の時に掘り起こす予定だった。

約束の日よりも3年早い。


箱を開けるとさらに小さな箱が入っていた。

蓋をあけるとほのかに花の香りがした。

中には四葉のキーホルダーがついた鍵と匂い袋が入っていた。

「鍵と匂い袋?」

匂い袋から微かに香るのには女郎花。

女郎花の花言葉は『約束』

私との『約束』を果たすという意味だろうか。


でも、その『約束』は永久に果たせない。


そっとキーホルダーに触れると真っ二つに割れた。

「ふふ、やっぱり『幸福』にはなれないってことね」

私は匂い袋と鍵と割れたキーホルダーをハンカチで包んで鞄に入れ立ち上がった。


「なんで、勝手に一人で掘り起こした」

この場にいないはずの人の声がした。

驚いて振り返り、数歩後ずさる。

そこには髪を振り乱し、ネクタイを緩めている彼がいた。

「ど、どうして…今日は、パーティーのはず……」

「そんなのどうでもいい!どうして1人でここに来たんだ」

なぜか怒っている彼。

なぜ怒っているのかわからない。

一歩一歩後ずさる。


トンっと背中に桜の木が当たる


彼は桜の木に手を置き、私を閉じ込める。

「なあ、なんでひとりで来たんだ?」

ぐっと近づく彼。

私は彼から視線を逸らそうとしたが彼の手がそれを遮った。

「俺は……俺は楽しみにしていたんだ。お前との約束」

「え?」

「あの時の俺はガキだった。実力を見せれば『恋愛』は自由にしていいと思っていた」

「…………」

「だけど、『恋愛』と『結婚』は違うということを大学卒業と共に突き付けられた。お前は知っていたんだろ?」

「…………」

黙る私に彼は深いため息をついた。

「知らなかったのは俺だけ。だからあの日、お前は俺の告白を断ったんだろ?」

「…………」


高校の卒業式の日

この場所で彼に告白された。

本当は嬉しかった。

私も彼に淡い想いを抱いていたから…

しかし、あの時すでに彼に婚約者候補がいて、いろいろとあった。

そう、いろいろと…

だから、私は逃げたんだ。

地方の大学に

彼のいない場所へ


「婚約は破棄した」

「え?」

彼の突然の言葉に思わず逸らしていた視線を彼に向けてしまった。

「両親も納得させた」

「どうして……」

「犯罪者を一族に迎え入れるわけにはいかない」

「え?」

「3年前…お前をひき逃げしたのがあいつらだった」

彼の言う『あいつら』というのは婚約者候補兄妹のことであることはすぐに分かった。

でも、私はまだ思い出したことを警察にも弁護士にも話していない。

「お前の叔父さんが教えてくれた。物的証拠なども揃えてな」

「……え?」

「お前が事故にあった現場は人通りが少ないことを警戒して防犯カメラが設置されていた」

「でも!何も映ってなかったって!死角になっていたって…」

防犯カメラの件は警察に聞いて知っていたけど、ちょうど死角になっていて映っていなかったと言われた。

「あいつらの親がもみ消していた。その証拠もちゃんと揃えてある。しかも、ただの事故じゃない。故意的であることもわかっているから殺人未遂罪が適用されるだろう」

「故意的?」

「俺がなかなか色よい返事をしないのはお前のせいだと逆恨みで偶然見かけたお前をひき逃げしたと白状したよ。親の権力使ってもみ消したこともな。あの一族は近いうちに消えるだろう」

淡々と語る彼の話を呆然と聞いていた。



「行くぞ」

呆然としてた私の手を取り歩き出した彼。

「え?行くって?」

「その鍵の元だよ」

笑みを浮かべて私を促す彼。

呆然としていた私はあっという間に彼の車に乗せられ、鍵の元へ連れて行かれた。


鍵の元は彼の母親の宝石箱の一つだった。

突然連れ来られた私を見ても彼の両親は何も言わなかった。

ただ、宝石箱が開くのをどこかワクワクしながら私たちを見守っていた。

「ほら、鍵を指して開けてみろ」

彼に促されて宝石箱の鍵穴に鍵を差し回すとカチャリという音が響いた。

隣に座っている彼を見上げると小さく頷いて蓋をあける様に促した。

恐る恐る蓋をあけると小さな箱が出てきた。

彼は宝石箱から小箱を取り出すと蓋をあけて私に差し出した。


「美月彩夏さん、これからは、ずっと俺の側にいてくれませんか?」


彼が差し出した小箱には私の誕生石が一粒はめ込まれた指輪が鎮座していた。

戸惑う私に彼の両親はにっこりほほ笑むと彼の後押しをした。

すこし時間が欲しいと伝えるとちょっとがっかりした表情を浮かべる彼の両親。

不思議に思って「私でいいんですか?一般庶民ですよ」と聞いてしまった。

そしたら驚いたことに、彼の両親も婚約者候補の娘さんにはいい印象がなく、むしろ高校時代息子が唯一家に招いた女の子…私の事を気に入っていたというのだ。




驚きの展開に私は『(頭の中を整理するための)時間が欲しい』と何度も言い、最終的に1年間のお試し期間を設けることになった。



作中の女郎花の匂い袋の件は女郎花の花言葉『約束』『約束を守る』を使いたかったので登場させました。

お香や匂い袋については詳しくないので突っ込まないでください(苦笑)




お題はここまでですが、あと1話続きます。(たぶん)

美月と京極の視点のみで話を進めているの脇キャラ(晴海や夏輝の婚約者候補)の話を書く予定はないです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ