俺の初恋の相手はあいつ
男性側視点
このお話のみサブタイトルを元のお題と変えました。
話的にどうしてもお題のタイトルだと難しかったので…(^_^;)
俺の初恋は高校時代
唯一俺だけを
俺自身を見てくれたあいつ……
初めての恋に浮かれ、戸惑い……傷つけた
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to 京極さん
件名 思い出しました
どうしてあの時、私にキスをしたの?
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彼女から届いたメールを読んだ俺はしばらく硬直していた。
「どうした?夏輝」
親友の晴海が俺の肩を叩き、携帯を覗き込んできた。
メールを盗み見た晴海は俺から携帯を奪うとカチカチとなにか打ち込んでいる。
「いい加減、諦めろ」
俺の携帯の電源を落した晴海。
晴海は俺と彼女の関係を悪意ある周りの者から吹き込まれそれを信じている。
晴海の中で彼女は『親友をたぶらかした悪女』になっている。
俺がいくら反論しても聞き入れない。
しばらく冷却期間を置けば分かってくれると思ったが…………逆効果だった。
誤解を解けぬまま、高校を卒業し彼女とは別の大学へ進学し今に至る。
あのキスの後、彼女が俺を避けるようになった。
廊下ですれ違う時も以前なら一言二言話をしていたが、顔を真っ赤にして視線も合わせず、挨拶もなしで通り抜ける。
視界の隅に彼女を捉え、話しかけようとしたら顔を強張らせながら踵を返して逃げた。
避けられている理由がわからなかった。
そんな状態が2~3か月続いた時、俺は偶然知ってしまった。
彼女が俺に纏わりついている女共にいじめられていることを……
俺と気安く会話をしているのが気に食わないとか
俺に色目を使っているとか
俺が彼女にキスをしたのはただの遊びだとか
さまざまな理由で彼女をいじめていた。
俺が彼女にキスをしたことをなぜ知っているんだと思ったが、それよりもあいつらの彼女への罵詈雑言が許せなかった。
俺が仲裁に入ろうとした時、晴海が止めた。
この時から晴海は彼女を『敵視』していたんだと後になって知った。
俺のせい…
全て俺のせいだ
彼女の学園生活から平穏を奪ったのも
彼女から笑顔を消したのも……
俺が彼女に勝手に惚れて
つまらない嫉妬をして彼女にキスをしてしまったから…
あの日、委員会の後で彼女と『初恋』について話していた。
たまたま読んでいた雑誌の特集がそれだったからだ。
彼女の初恋は小学生の頃、近所の年上のお兄さんだと頬を染めて笑っていた。
その時の笑顔があまりに可愛くて、そんな表情をさせることが出来る見知らぬ男に知らずに嫉妬していた。
意図的に話題を変えて、壁際に追い詰め、抵抗されないことをいいことに強引にキスをした。
唇を離した後、彼女は泣きながら
「……はじめて……だったのに!!!」
俺に平手をして逃げた。
俺の頬には真っ赤な彼女の手形だけが残っていた。
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「なあ、晴海」
電源が堕ちた携帯を握りしめ俺は目の前に座った晴海にずっと思っていた疑問をぶつけることにした。
「どうして、お前は美月が俺を誑かしているという言葉を信じたんだ?」
「え?」
「俺の一方的な片思いだって何度言ってもお前は聞き入れなかった。なんでだ?」
「夏輝?」
「なあ、なんで俺が美月を好きになったらいけないんだ?」
「…………」
「俺の周りには俺の家の財産や俺の上辺だけで寄ってくるやつばかりだった。だけど、美月は違った。俺が京夏コーポレーションの跡取り候補だと知っても『へーそうなんだ』だけだった。他の奴らだったら目の色変えて低姿勢で俺に気に入られようとするのにあいつだけは違った」
『え?だって偉いのは京極君のお父さん達で京極君自身は今はただの学生じゃない』
その言葉に、俺がどれだけ救われたか誰もわからない。
大企業の跡取り候補という重圧が年々重くなっていた頃だ。
美月の言葉はその重圧を軽くしてくれたんだ。
「高校時代、俺は会社の運営にはまったく携わっていない本当にただの学生だった。だから、そのことに気付かせてくれた美月に興味を持った。裏表のない美月に惚れるのにそんなに時間はかからなかった」
テーブルの上に置いてあるビールを煽ると苦みが口の中に広がった。
「なあ、晴海。今、美月は俺のこと忘れているんだよ」
「え?」
「3年前の事故が原因で20歳より前の記憶がないんだ」
「3年前の事故?」
「同窓会の翌日に交通事故に巻き込まれたんだと…その時のひき逃げ犯…まだ見つかってないって言ってたな~」
「………まさか……」
顔を真っ青にさせる晴海。
「アルバムを見れば多少思い出すっていうから俺のアルバムを見せた…そしたらさっきのメールが届いた。思い出したのがあのキスっていうのが……嬉しいけど辛い……たった一度きり……」
普段、あまり飲まないアルコールで俺はその時の晴海の様子に気づかず眠りに落ちた。
夢の中で懐かしい笑顔を見た
幼い笑顔が、今の彼女の笑顔に重なる
なあ、お前が覚えていない『約束』に
まだあの時の『約束』に縛られていてもいいよな
せめてお前が『約束』を思い出すまでは……