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あの頃は俺もガキだったんだよ

女性側視点

ひょんなことから取引先の方とプライベートでも会うようになった。


彼・京極夏輝さんは私と同じ高校出身だと言っていた。


”初めて”あった日から数週間あとの休日。


彼はアルバムを持って私の家を訪ねてきた。



******


「京極さんは学生時代から常にビシッとしている感じがします」

アルバムを捲りながら今とあまり変わらない彼の姿を眺める。

「そうでもないぞ。ほらこれ…」

次のページを捲ると友人たちと仮装している写真が何枚もあった。

「これは…ハロウィン?」

「いや、こっちが七夕で、こっちが…たしか体育祭の仮装レースだったと思う」

彼が最初に指差した方は確かに七夕の彦星のような恰好だった。

その次に指差したのが……

「女装?」

余分な飾り付けがないすっきりとした若草色のワンピースを着ている姿だった。

ロングのウィッグも付けていて、パッと見ただけだと中身が男性だとは思えない程似合っていた。

うん、女の私よりもずっと似合っている。

「なんか、悔しいな」

「え?」

「この場に私もいたんですよね」

「ああ」

「その時の私はどんな事を思っていたんだろう」

ふと漏らした私の言葉に京極さんが固まった。

「京極さん?どうしました?」

「いや、なんでもない。……おっと、もうこんな時間か。長居して済まない」

京極さんの言葉に部屋の時計を見ると午後4時。

京極さんが訪ねてきたのは午後1時だから3時間もアルバムを見ていたことになる。

「ご、ごめんなさい。私ったら時間を忘れて…」

「いや、いいさ。俺も久しぶりに楽しめた」

「え?」

「アルバムは君に預ける。もし、なにか思い出したことがあったらメールで知らせて」

私の頭を軽くポンポンと叩いた後、彼は帰って行った。


彼が帰った後、アルバムを片付けようと持ち上げた時、数枚の写真が零れ落ちた。

慌てて拾って、表を見て私は固まってしまった。


零れ落ちた写真に写っていたのは私。


カメラ目線ではない。


明らかに隠し撮りされた写真。


なぜ、彼が私の写真を持っているのだろうか。


ふと、懐かしいと思える風景が横切る。



******



「なんで、私に構うの?」

夕暮れの教室にいるのは私と彼。

「美月はほかの女と違うからな」

彼の言葉に私はムスッとした表情を浮かべる。

「ふん、どうせ私は京極君の周りにいる女性とは真逆で女らしくないわよ」

彼の周りには常にキレイな女性が蔓延っている。

「違う違う!美月はあいつらと違って俺自身を見てくれているだろ?」

「どういうこと?」

「あいつらは俺のバックグラウンドしか見てないんだよ。だけど、美月は俺自身を見てくれている」

「えー、もしかしたら私もそうかもしれないのに?京極君を見ているようでその後ろを見ているのかもしれないよ」

「それはないな」

「なんで、断言できるのよ」

「ずっと見ていたからな」

「え?」

「入学式の時からずっとな……」

「京極君?」

いきなり立ち上がった彼に思わず後ずさる私。

「俺はずっと見ていたんだよ。入学式の日、体調を崩していた俺を心配してくれたのはお前だけだった。その時から俺は……」

ずるずると後ずさる私と距離を縮めようとする彼。

ここは狭い教室。

いつしか私の背中は壁に当たる。

後ろは壁、前には美しい笑顔を浮かべている男。

壁にぶち当たった私の顔の横に両手を付く彼。

「俺はね、ずっと見ていたんだ。美月のことをずっと……」

いつもと違う声色にドキッと心臓が高鳴った。

彼の右手が私の頬に振れ、顎を捉える。

逃げなければと思いながらも逃げられない。

「きょ……」

私の声は彼の唇に吸い込まれた。

驚きのあまり固まってしまった私。


そのあとの記憶はない。

ただ、一つだけ…

その日を境に私は彼を避けた。



******


------

to 京極さん

件名 思い出しました


どうしてあの時、私にキスをしたの?


------


無意識に打っていたメール。

彼の返事はあっさりしていた。


------

to AyakaMitsuki

件名 Re:思い出しました


あの頃は俺もガキだったんだよ


------


ねえ、どういう意味?



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