そういうとこ全然変わってないな
男性側視点
取引先で”再会”した彼女
この再会は”偶然”なのか”必然”なのか
そんなのどうでもいい
もう一度、彼女に会わせてくれたんだからな
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「まさか、俺の事忘れちゃった?…忘れるはずないよな?…………美月彩香さん」
彼女の耳元でわざと囁く様に告げると彼女は顔を真っ青にさせてキョロキョロと廻りを見回した。
多分、さっきまで俺の目の前に座っていた上司を探しているんだろう。
だが、俺は前もって『お願い』していた。
彼女が入室したらしばらく二人っきりで話させてほしいと。
相手は怪訝な顔をしていたが『お願い』を聞いてくれたら御社に有利な条件で契約を結ぶと契約書を見せたらあっさりと契約書にサインして承諾した。
彼女は上司に生贄にされたようなものだ。
まあ俺にとってはこの会社との取引は彼女と再会するためだけのものだから彼女を手に入れた後でどうにでも出来るからな。
むしろ、彼女を手に入れることが出来るならどんな条件でも飲んでやる。
不安げにキョロキョロと部屋の中を見回す彼女の姿は高校時代の彼女と同じ。
不安なことがあると周りを見回して助けを求める。
助けがいないとわかると、ギュッと瞳を閉じて自分で解決策を練りだす。
昔と変わっていない。
当然だよな。
彼女は彼女なんだから。
「君の上司である高坂さんは自分の仕事に戻ったよ」
「え?」
「御社との契約はもう結んだからね」
「あ、あの……」
「…………まだ、俺の事……思い出さないのか?」
「…………すみません」
謝る彼女に俺の胸が痛んだ。
高校時代、ある日を境に彼女は俺を避けていたことは知っていた。
だけど、逃がしたくなかった。
今迄、近づいてくる女はみんな俺の家の財産目当てだって思っていたから。
ただの同級生として接してくれたのは目の前にいる彼女だけだったから。
「あ、あの……本当にごめんなさい。私、20歳より前の記憶がないんです」
「え?」
彼女の言葉はあまりにも衝撃的だった。
「同窓会の翌日、交通事故に巻き込まれて……命は助かったのですが、記憶を失ってしまったんです」
「では、高校時代の事も?」
「アルバムを見れば少しは思い出せるのですが……今覚えているのはクラスメートの事だけです」
「なるほど……俺はクラスは違ったからな」
「ごめんなさい」
必死に謝る彼女に俺こそ悪かったと謝り、できればプライベートでも会いたいと告げた。
最初は驚いていた彼女だが、記憶を取り戻す手助けをさせてほしいと言ったら嬉しそうに微笑んだ。
「アルバムを見ても何の感情も浮かんでこないんです。クラス会に参加しても思い出話にも参加できない。だから、思い出したいんです。どんなつらい過去だったとしても」
確かに彼女にはつらい思い出がある。
原因は俺。
都合よくその部分だけ思い出させない方法があれば…と思ってしまう。
だけど、彼女はどんなつらい過去があっても思い出したいと願っている。
俺は彼女に手を差し伸べ、俺も立ち向かわなければ。
彼女を傷つけた過去に……
これは償いになるだろうか……
4/30:一部内容を変更