まさか俺を忘れるはずないよな?
女性側視点
これは『偶然』?
それとも『必然』?
彼と私の”再会”は会社の会議室だった。
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上司から
『大切なお客様が来社するからお茶よろしく~♪』
という内線を貰ったのは数分前。
秘書はどうした!?
と愚痴っていたら上司ご自慢の美人秘書様は早退なさったと同僚が教えてくれた。
で、「なんで私に?」と問うと先方からの要望だと…
思わず「なんで!?」と叫んでしまったのは仕方ない事だろう。
私はただの平凡な事務員。
お偉い様の前に出るような人間じゃないんですけど…
ぐちぐち文句を言いつつもお茶の用意をする。
文句はお客様が帰ってから上司にしようと心に誓う。
約束の時間5分前にお客様はお見えになったらしい。
私は準備のためにその場にいたなかったので知らなかった。
女子社員達の間で『お客様』にどうやって近づこうかという画策が練り始められていることを……
「失礼いたします」
ノックの後、会議室に入ると上司とお客様は笑顔を浮かべて談笑していた。
お茶を出し、さがろうとした時、お客様に呼び止められた。
「ああ、やっぱり。君だったんだ」
何のことかわからずに戸惑っていると
「先日、電話でアポを取る時に対応してくれた子だよね」
私は事務員なのでよく電話対応はしている。
それが仕事の一環だからね。
ただ、電話でのやり取りはよくあるけど直接会って話すことは今までなかったので、今日のお客様がどの電話の人までかはわからない。
電話では名前を伺っているけど、今日のお客様の名前は一切聞いていない。
ただ『大切なお客様』としか聞いていない。
せめて名前くらい教えてくれよ、上司殿!
「覚えていない?君と俺、同じ高校だったんだよ」
「え?」
「クラスは違ったけど委員会でよく一緒になったよね」
にっこりと微笑む彼。
だけど、思い出せない。
「えっと……」
「まさか、俺の事忘れちゃった?…忘れるはずないよな?…………美月彩香さん」
いつの間にか上司は席を外し、会議室には私と彼しかいなかった。
上司、どこいった!?