世界の成り立ち
俺達は、『次元収納』から出した、簡易シャワールームで汗と埃を落とし、幾分すっきりしてから、テントの中に寝袋を二つ敷き、半永久ランタンをフックにかけ、
寝袋の上に座って、向かい合う形で、ルナから『アルカナ・ナイト』を含む、この世界の成り立ちを聞いた。
「今からお話するのは、『アルカナ・ナイト』が作られた約5000年前の話です。
マスター達がおっしゃる『旧文明』時代となります。
マスターは旧文明の事をどんな風に聞いていますか?」
「そうだな、俺達に伝わっているのは、今の亜人達を作った存在で、今よりかなり優れた文明だったらしいという話ぐらいかな?」
因みに亜人とはエルフ、ドワーフ、獣人など、普通人とは異なる外見を持つもの達の総称だ。
「そうですね。概ね間違っていませんが、亜人だけでは無く今の普通人と呼ばれている人々も旧文明人によって創られています」
「そ、そうなのか?」
「はい、今からその経緯をお話します……それは、旧文明末期の話です……」
「……今から5000年前、正確には5012年前、旧文明の年号で、西暦3010年。
この星『地球』では世界の文明を支えてきた化石燃料が枯渇し、代替エネルギーの確保が急務の状態でした。
各地で化石燃料の取り合いが激化し、世界各地で紛争が勃発していたんです。
そんな時、当時の大国『アメリカ合衆国』が宇宙空間で、画期的なエネルギーを発見したんです。
それが、『ナノ・エナジー』と呼ばれる万能エネルギーです。
ただ、『ナノ・エナジー』を作り出す物質は、宇宙空間か地球上ならば、遥か地底のマントル付近にしか存在しない『暗黒物質』が原料だったんです。
その為、各国はこの新エナルギー確保の為、国際宇宙ステーション『アマテラス』とそれを繋ぐ軌道エレベーター『バベル』の建造を国際連合主導で行いました。
その後、『日本』の研究者『三橋 学』博士が、『ナノ・エナジー』を使った画期的な人工知能、『人工精霊』を開発し、『人工精霊』をマンマシーンインターフェイスに使った、マシン『アルカナ・ナイト』が開発されました。
因みに『マンマシーンインターフェイス』とは、機械と人間の間で、人間の要求を機械に、あるいは機械の状態を人間に理解させるための伝達を一定の思想の下で把握できるようにさせるものですね。
この制御機能によって、人間はマシンを自分の手足のように動かす事が可能になりました。
そして、世界情勢の安定維持に使用するという目的で『アルカナ・ナイト』の建造が始まり、公平を喫す為、各国に建造を割り振って創られたそうです。
因みに建造国と建造機数は……
アメリカ合衆国2機。
ロシア2機、。
中華人民共和国2機。
フランス1機。
イギリス1機。
ドイツ1機。
オランダ1機。
スイス1機。
デンマーク1機。
日本1機。
カナダ1機。
イタリア1機。
オーストラリア1機。
インド1機。
ブラジル1機。
サウジアラビア1機。
韓国1機。
アラブ首長国連邦1機。
イスラエル1機。
となっていました。
各『アルカナ・ナイト』は世界各地の重要拠点……主に『ナノ・エナジー』の生成施設などに配置されました。
中でも『ナノ・エナジー』の原料、『暗黒物質』を収集する国際ステーションの管理・警護には『アメリカ合衆国』の『ザ・スター』が配置され、地上に輸送する為の軌道エレベーター『バベル』の管理・警護には『日本』の『ザ・タワー』が配置されたました。
その結果、人類は、新エネルギー『ナノ・エナジー』によって、再び繁栄を謳歌するかに思われたのですが……
エネルギーを独占しようと目論む幾つかの国家が、『アルカナ・ナイト』数機を強奪、共同で『ザ・タワー』を強襲、破壊し、『バベル』を占拠したんです。
その作戦は、ロシア、中国を中心とした8カ国合同作戦であった為、世界を二分した世界大戦へと発展させる結果となり、『第三次世界大戦』が勃発してしまったんです。
そして、大戦中、各国は新エネルギー『ナノ・エナジー』を使用した兵器を続々と開発し、戦闘に導入していきました。
只、その膨大なエナルギーの変換、制御には私達『人工精霊』が不可欠でした。
並みのコンピューターでは、巨大化しすぎて、兵器への組み込みが困難だった為です。
ですので、兵器はもっぱら、『アルカナ・ナイト』用の兵装となりましが……『ザ・タワー』の『バスターライフル』のような。
そして、戦争が始まって3年……世界人口は半分までに減少し、戦争前、100億人に届かんとする人口爆発を懸念していた各国上層部は、これ幸いと選民政策を取り始め、人々の貧富の差は広がる一方だったとか……。
そんな中、人類は更なる脅威に直面する事になります。
原因不明な病魔の発生です。
最初は、前線の兵士、そして次には貧困層へと原因不明の病魔が広がりました。
『グラック・ディジーズ』という病名です。
発病すると、肌が黒ずみ、段々衰弱して、2週間程度で命を落とす、死の病です。
原因は、『ナノ・エナジー』を作り出す時に出来る副産物『魔素』の存在でした。
『魔素』は『ナノ・エナジー』よりもエナルギー効率は良くないもののエネルギーとして十分使用可能だった為、一般兵器や一般兵の装備、『アルカナ・ナイト』の汎用型量産機『ギガント・ナイト』、また一般市民の私生活でのエネルギーとして使用されていたんです。
それが災いし、一般兵士や一般市民から『グラック・ディジーズ』に掛かるものが続出したんです。
そして、魔素は、大地をも侵食し、侵食され、変質した大地からも魔素が吐き出されるようになっていたのです。
各国の上層部が気づいた時には、既に手の施しようが無い状態まで地表は魔素に侵食されていました。
結果……戦争は勝者のいないまま終息し、人類は生き残る為、地下に『隔離空間』を作り、細々とした生活を余儀なくされたのです。
しかし、地下にいようと、魔素は侵食して来たんです。
そして残った人類の上層部と科学者は、自分達の遺伝子を残す為、魔素に抵抗力がある新人類を創り出す事を画策しだしたんです。
そして、生まれたのが、亜人であり、新人類と呼ばれる人々です。
最初の魔素克服の成功例は、魔素に抵抗力を示した動物との遺伝子を掛け合わせた『獣人』が最初の新人類だそうです。
次に体力、筋力を強化した『ドワーフ』。
さらに環境適応力と長寿を目指し、光合成を行える種族として『エルフ』が誕生し、そしてそこまでのデータを基に『普通人』と呼ばれるようになる新生人類が創られました。
そして、各人種の遺伝子を組み込まれた亜人や新人類は、地上へと放たれたそうです。
ユーラシア大陸では、日本と、ロシア、中国、ドイツ、イギリス人の遺伝子を基に。
アメリカ大陸では、アメリカ人の遺伝子を。
各国は、自分達の民族の遺伝子を組み込んだ、亜人及び、新人類を放出したそうです。
どの人種が一番現在の地球に適合するか不明だったので、色々な亜人も放出したと記録にはあます。
そして、地下まで浸透した魔素により旧文明いや『旧人類』は一部、『冷凍冬眠』で未来に魔素が無くなる時代を期待して眠りに付き、それ以外の人類は滅んだらしいです……。
ただし、不死性とあらゆる毒性に耐性のあった『アルカナ・ナイト・マスター』を除いててですが……」
◇◇◇◇◇
話を聞き終わった俺は、ルナに幾つか質問をした。
「質問なんだが……『ザ・タワー』は破壊されたんだよな?」
「はい、『初代』『ザ・タワー』ですね。
今の『ザ・タワー』は初代を元に改修されたものになります。
同時に初代が守護し、南極にあった『バベル』も戦中に破壊されたので、今はありません」
「じゃあ、今の『ザ・タワー』には、守護するべきものは無いって事でいいのか?」
「まあ、そうなんですが……
大戦末期にエネルギー確保の為に『バベル』の再建計画が立ち上ったんです。
その時に『バベル・セカンド』と合わせて『ザ・タワー』も改修されたんです。
『ザ・タワー』と『バベル』は良くも悪くもセットですので。
しかし新たに北極で建設中だった『バベル・セカンド』は、病魔の原因が魔素である事が判明すると同時に、元凶である『ナノ・エナジー』を創り出す『暗黒物質』の宇宙からの搬入が禁止され、『バベル・セカンド』は破棄というか、放置されてしまったんです。
『ザ・タワー』も含めて……
ですので、『バベル』の守護に関しては、『ザ・タワー』の優先項目から除外されているんです。
でも稼動権限は『ザ・タワー』が持っているので『バベル・セカンド』を稼動させようと思えば可能ですね」
「へえ、じゃあ、『ザ・タワー』と『ルナ』は北極からここまで運ばれてきたのか?」
「いいえ……北極に配備される前に『バベル・セカンド』の放棄が決定したので、日本の基地で保管されていました」
「日本か……『アルカナ・ナイト』の内蔵世界地図だと、大陸の東の諸島らしいけど……
そこら辺に諸島があった記憶が無いんだよな?」
「おそらく、この5000年の間に大規模な地殻変動があって、かなり地形が変わってしまったんだと思います。
日本は元々火山が多かったですから……」
「うーーん?そうか……因みに現在の日本のルナ達がいた基地の位置はわかるのか?」
「場所は、緯度と軽度から特定できますが、5000年の年月を考えると、
基地に行く意味はあまり無いと思います。物資は無いですし、
『アルカナ・ナイト』に関するものは全て『ザ・タワー』の『次元収納』に保管してありますので」
「そうか……じゃあ、『ウィンドウ』で物資の確認をすれば良いか?
まあ、急ぐ旅じゃないが、基地に役立つ物が無いんじゃ寄る意味もないか?
……もしかしたら、帝国兵もいる可能性も無い訳じゃないからな。
よし、最初の予定どおり『ビルーナ』に向かおう」
「はい、ですが……『ルビーナ』の後、西に向かう前に、北極を目指す事を推奨します」
「?どうしてだ?」
「『ザ・タワー』の『ナノ・エナジー』の残量が現在27%となっています。
前回の戦闘で3%ほど消費しました。
通常の『ギガント・ナイト』程度と戦闘を行うのに支障ありませんが、
もし他の『アルカナ・ナイト』と戦闘になった場合……全力稼動は20数分しかもたないでしょう。
ですので、北極の『バベル・セカンド』で『ナノ・エナジー』を採取するべきだと思うんです。
あそこには軌道エレベーター用の『ナノ・エナジー』が保管してあるはずですので」
「そうなのか?
でも5000年もたってるんじゃ、他の『アルカナ・ナイト』が盗っていってないか?」
「それは大丈夫です。『バベル・セカンド』内に入る権限は他の機体にはありませんし、下手に無理やり『ナノ・エナジー』の保管庫の扉を破壊しようものなら誘爆して木っ端微塵です」
「そうか……解った、じゃあ、西に向かう前に、『バベル・セカンド』に向かおう」
「はい、マイ、マスター」
俺達はそこまで話して、長かった一日の眠りにつくのだった。
◇◇◇◇
翌日、俺達は樹海を抜けるべく、北に進む。
先日までは普段、俺が行動して範囲だった場所であったが、これから進むのは、未だ踏み込んだ事が無い、樹海の中央部に差し掛かる。
ここら辺には、周辺地域と違い、強い魔物が出没するとの話を聞いていたので、いっそうの注意が必要だろう。
まあ、今の俺をどうこうできる魔物はいないと思うが……
いざとなったら『融合』すれば対処可能だろう。
おっと、でも理性を無くす可能性があるから、何とか保てるようにしないといけないから、『融合』に関しては、色々検証が必要だな。
そこで、俺はルナおの『完全融合』では無く、部分精霊化を試しながら歩を進めていた。
結果、腕先、足先、思考に関しては『融合』しなくても短い時間ながら発動させる事が出来た。
攻撃対象に触れるインパクトの瞬間に右手だけ精霊化し、高速高電圧の手刀で攻撃したり、足に発動して、走り出しや、蹴り足を強化したり、思考を100倍速ぐらいにして、攻撃をかわす事に成功していた。
これなら、『アルカナ・ナイト』の『ナノ・エナジー』をさほど消費しないので、問題ないだろう。
また、ルナには、こういった体を使っての攻撃は出来ないので、
普通に危険な時は、敵対対象への攻撃を許可しておいた。
このマスターからの『許可』をしておかないと、ルナ達『人工精霊』は人に対して攻撃できないとの話だったので、それを許可した。
因みにルナの攻撃方法は、『ナノ・エナジー』での防壁。
これは蜂の巣のようなハニカム構造のエネルギー障壁の展開で、魔法、物理どちらの攻撃も完全に防ぐものだった。
そして、攻撃は指先からの高電圧粒子ビーム攻撃で、殆どの物体を高熱で貫くものだった。
なんだろう……マスターである俺より強くないか?と思わず思ってしまうほどの威力だった。
まあ、俺も『融合』すれば使えるんだが……
一部精霊化ではエネルギー量が足らなくて、出なかった。
そんな感じで俺達は、魔物や魔獣を実験も兼ねて撃退しながら、樹海を進むのだった。