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別れ


オーランド帝国の隠密部隊を殲滅した、ハヤトは、ルナとの"融合フュージョン"を解いた。


"融合フュージョン"を解くと俺の姿は元の黒髪黒目となり、両腕の魔方陣や模様は無くなっていた。

只、胸の中心にある半球体を残してではあるが……

俺は、右腕が元通りなのを確認するように閉じたり開いたりして問題無い事を確かめた。


そんな事をしてる間に、ルナが直ぐ側で徐々に実体化してたのだが……

その姿は、精霊化していない裸体の状態だった。


俺は思わず、凝視してしまう……

そして、実体化が終わったルナがゆっくり目を見開き、俺を見た後、自分の状態を確認し、「きゃぁああああああぁぁぁぁ!」と叫び声を上げながらしゃがみこんだ。


俺は急いで、明後日の方向を向く、若干頬が赤いのは思春期の男としては仕方が無いだろう。

そんな俺を非難するような涙目でルナが睨む。


「…マスター…見ました?」


俺はどう答えるべきが悩み、ここで嘘をついてもバレバレなので素直に返事を返した。

「……えっと……すまん、少し見てしまったかも……」


ルナはその返答を聞いて、「うぅぅぅ~」と呻いた。


そして、恨み言を言うように説明してくれた。

「……精霊化の余波で服は消失してしまったようなんですよ……エナルギーの塊みたいなものですし……初めてだったんで、出力調整出来なかったんです」


どうも、ルナは突然の覚醒で、自分の仕様を忘れていたらしい。


俺は、それを聞いて、考え込む。

この状況を打破する為にルナに何か掛ける物は無いかと……

自身を見るが、俺自体も上半身裸の半裸だ。


その状態に愕然とするが、『アルカナ・ナイト・マスター』の機能を思い出し、システムを作動させた。


「ウィンドウ・オープン」

俺がそのコマンドを呟くと右手側に半透明なメニュー画面が出現する。

俺は、『装備』欄を選択し、人工精霊用装備から、

『搭乗者制服』を選んで、OKコマンドを押した。


すると、初めから着ていたようにルナが紺色のミニスカートと白いブラウスに白のスカーフ、丈の短めの紺のブレザー(左胸には塔のエンブレム)、黒のハイニーソックスに紺色のベレー帽、黒いロングブーツを履いている制服姿となっていた。

これは、アルカナ・ナイトのナノエナジーを使用した擬似装備機能で、ナノエナジーを任意の形態に加工し、装備するものだ。

元々、ルナもナノエナジーで構成されているので、これなら"精霊化"しても消失しない……

少し残念ではあったが、紳士を貫くには仕方がなかったのだ。


そして、ルナが少し落ち着き、立ち上がり、お礼を言ってきた。

「マスター、お気遣いありがとうございます」


俺は、その言葉に胸を撫で下ろす。

「あ……ああ、どういたしまして」


(何とか誤魔化せたらしい)


そして俺はついでとばかりにメニューから自分用の服も選び、装備した。

こちらは、詰襟の軍服風で、色はルナの制服と同じ紺色、胸には塔のエンブレムがあった。

詰襟が煩わしかったので、即座にフックを外して、第三ボタンまで外して着崩してしまったが。


そこで、俺は、周りの状況を見て、愕然とする。

先ほどまでは何も感じなかったのに、今改めて、多数死体が転がる戦場の様子に俺は思わず胃が収縮し、口元にこみ上げてくるものを感じ、咄嗟に口を押さえる。


俺は自分が"自動防衛システム(オート・リアクション・システム)"を使用して、敵を撃退した事を無意識下ではあったが把握していて、敵兵の死を受け入れていたはずだった……

だが、融合ヒュージョンを解いた途端、以前の俺の感覚……人を殺す事の忌諱感が込み上げてきていた。


そして、更に不意に祖父が負傷をしている事を思います。

今までなぜ、そんな大事なことを忘れていたのか?


俺は愕然とした。


いや、忘れていたのでは無い……

意識の優先順位が違っていたのだ。

"融合フュージョン"中の俺はどうやら攻撃性が強くなり、戦闘行為中は、戦闘以外疎かになる傾向があるようだ。


"融合フュージョン"とはこんなに厄介なものだったとは……

下手に"融合フュージョン"してしまうと、味方まで攻撃しかけない……

特に"自動防衛システム(オート・リアクション・システム)"は、畏怖からの来る恐れまでも敵意として反応してしまっているようだったのだから……

これからは、安易に"融合フュージョン"したり、ましてや、"自動防衛システム(オート・リアクション・システム)"を使用することは極力避けなければと俺は、思うのだった。


自分がそんな思考(戦闘狂)になっていた事に唇をかんで後悔したが、

そこで首を振り意識を切り替える。


早く祖父に治療をわなければ、拙い状況だった筈だ。

俺は必死で辺りを見渡した。


程なく、祖父を発見したが、祖父は胸に裂傷を負い、周りには大量の血が流れ、血溜りが出来ていた。

俺は祖父に駆け寄り状態を確認する。


少し上体を上げ、息使いや脈拍を確認した。

息は浅く、脈拍も弱い、急いで、傷口をナノエナジーで修復する。

通常の回復治療は、患者の体組織を活性化させるものだが、今の祖父の状態では、それは体に負担がかかりすぎる。

そこで、ナノエナジーで体組織を作り、傷を修復した。

しかし、ここまで血を失っていては失血死する可能性がかなり大きい危険な状態であった。

傷の修復が終わった時、祖父は目を開けた。

その顔は土気色で、目の下には隈が出来ていた。

俺はそんな祖父に声をかける。


「じっちゃん!しっかりしろ!」


祖父は、虚ろな目で俺を確認すると、擦れた声で応えた。

「……そんな大声で叫ばなくても聞こえとるわい」


そう応えた後、祖父は自分の胸に手を当て、自ら診断し、俺とルナを交互に見、見たことが無い服装に何か合点がいったように頷いた。


「……そうか、ルナは覚醒したようじゃな……恐らくそうなるだろうとはおもっとったが隼人を"マスター"に選んだか……これも運命だったのかのう……」


そんな祖父の言葉に俺は訝しむ。


「その口ぶりだと……じっちゃんはルナが"アルカナ・ナイト"の人工精霊アーティフィシャル・スプリットだって知ってたんだな?」


「……まあ、そうじゃな……儂は以前、他のアルカナ・ナイト"の人工精霊アーティフィシャル・スプリットとそのマスターに会った事があるからのう。

その特徴は把握しておる……」


「まぁ、今はその話は良いよ。

取合えず、何処か休める所に移動しよう」


俺がそういって当たりを見渡し始めると、不意に祖父は、俺の手を握り、

首を振った。


「……場所の移動はしなくてもよい……

というか、もう、儂には時間がないようじゃ」


「くっ!そんな事は無い!いやさせない!」


「隼人……自分の事は儂自身が良く解っておる……

もう、時間がないんじゃ、ここは黙って、儂の話を聞いてくれ」


俺は唇をかんで、黙り込む。

俺も先ほどの見立てて手遅れな事は解っていた。

いや、今こうして生きて喋っている事が既に奇跡だと思える状態だ。


祖父は俺のそんな態度を同意と判断して、話始めた。


「隼人、お前に言っていなかった事がある……

お前の父親……フレッド・Bブラッド・石動は生きておる」


俺は、祖父の顔を驚愕の表情で見つめた。


「……父さんは俺の生まれる前に死んだって……」


「……すまんな……嘘を付いて……

あやつは、ミズホやおハヤトの未来を守ると言って暗黒大陸へ行くと言って出て行ったのじゃ……

18年前のあの当時……世界の所々で天変地異とも呼べる異常気象に見舞われておったのじゃ。

火山が各地で噴火し、津波や大型台風が頻繁に起きておった……

アヤツはどうやらその天変地異を起こす元凶を知っておったらしくてのぅ……

それを止めると言って、出ていったのじゃ」


「……そんな!人一人がそんな異常気象を何とかできるのか?」


「……アヤツ…"フレッド・Bブラッド・石動"は、お主と同じ、"アルカナ・ナイト・マスター"じゃ」


俺は目を見開いて驚いた。

まさか、親父も"アルカナ・ナイト・マスター"とは、何か運命的なものを感じずには要られなかった。

俺が驚いて思考が停止していると、俺の後からルナが祖父に声を掛ける。


「先生……その隼人様のお父上が以前、仰っていた"ザ・フール"のマスターなのですね?」


祖父はルナの言葉に頷いて、肯定する。

「そうじゃ。アヤツは"ザ・フール"マスターじゃった。

そして、"アルカナ・ナイト"の中でも、天変地異を起こしている元凶を止める事ができるのも"ザ・フール"でないと出来ないとも言っておったのぅ……

そして、アヤツが出立して半年後に天変地異が治まったのが何よりの証拠じゃろう」


「でも、親父はその後、帰ってこなかったんだろ?

なんで今も生きてるってじっちゃんは断言できるんだ?」


すると、祖父はポケットからチョーカーを取り出して見せ、手渡した。

チョーカーには丸い水晶が付いていて、水晶の中には『旅人』の絵が描かれていた。


「……この水晶は儂のミズホにアヤツが渡したものじゃ。

どうゆう仕組みかは解らんが、アヤツが滅ぶとこの中の『旅人』の絵も消えると言っておった。

だから、絵が消えるまでは、自分を信じて待っていて欲しいと娘に言って出ていったのじゃ。

……未だに、絵が消えていないという事は生きているという事じゃろう……

その水晶付きのチョーカーはお前に託す。

お前の両親の形見でもあるしな」


俺はその水晶をジッと見つめる。

どうやらその水晶は"ナノエナジー"で作られたものらしい。

おそらく、製作者となんらかの同調がなされていて、製作者の反応がなくなると、中の絵が消えるのだろうと推測した。


「アヤツは、元凶の場所を特定する為、探知系の能力を持つ他の"アルカナ・ナイト・マスター"の所に行くと言っておった。

もし、お前が、アヤツを探すのなら、その"アルカナ・ナイト・マスター"の所に行くと良いじゃろう」


「その"アルカナ・ナイト・マスター"は何処にいるんだ?」


「その"アルカナ・ナイト・マスター"は大陸の西にある国家…『ブリンクス皇国』にいる。

"アルカナ・ナイト"の名は"ザ・テンペレンス"……

マスターの名は、『オリビア・エバンス』皇国の"三守護騎士"の一人じゃ。

世間にはあれが"アルカナ・ナイト"であるとは公式には公表されておらぬがな。

それと、お主らは、この場から直ぐにでも離れよ。

"アルカナ・ナイト"の力は強大じゃ、この間々『シルヴァ共和国』に付いたとしても、軍部に良い様に使われて戦乱が拡大するのは目に見えておる。

出来れば"アルカナ・ナイト・マスター"である事を隠し通せ」


「まさか?幾らなんでも……この国は専守防衛を掲げているはずだろ?」


「いいや……今の上層部は軍部……『一条中将』のタカ派が牛耳っておる。

強力な戦力が加わればこの国は一気に周りの国々に侵攻するだろう。

帝国へ反抗を装ってな……

アヤツはそういう男だ。

少なくとも、アヤツが存在する限り、この国の軍部には関わるな。

良いな」


祖父ソウウンは其処まで話すと目を閉じた。

「そろそろ、限界のようじゃ……

隼人、ルナ、達者で暮らせよ……

ルナ、隼人の事を頼む……

こやつは物事を深く考えずに行動する事が多い。

お主が上手く導いてやってくれ……さらばじゃ……」


祖父ソウウンがそういった途端、俺が抱えていた祖父の体から力が一気に抜けていくのを感じた。

俺は、慌てて祖父に声をかけた。


「じっちゃん!!嘘だろ!!俺を置いて逝くな!

俺はまだまだ、じっちゃんに教わってない事が山ほどあるんだ!

こんな未熟者を一人にしないでくれ!!」


俺は、止めど無く流れる涙を拭いもせずに祖父ソウウンの亡骸を抱きしめ、叫ぶ続けた。

俺の嗚咽が辺りに響く中、背後からも「ヒックッ、ヒック」と小さい嗚咽がしている事に俺は気づいた。

振り返ると、ルナもスカートの端を摘んで立ちすくんだ状態で涙を流して嗚咽していた。

ルナも俺と同じく、祖父ソウウンの死を悼んでくれている事に、俺の心が柔らんでいくのを感じる。

俺は、空を見上げた後、涙を袖で拭い、ルナを見つめた。


「ルナ、お前も悲しんでくれるんだな……

ありがとう。

でも、じっちゃんも言ってた通りお前だけでもここから離れないといけない。

村のみんなにもお前が『人工精霊アーティフィシャル・スプリット』だと帝国軍にバラされたからな」


ルナは、俺の言葉を聞いて、涙を拭うと、俺を真直ぐ見返して、宣言した。

「私はもう隼人様・・・の『人工精霊アーティフィシャル・スプリット』です。

どんな事があろうもマスターである隼人様のお側を離れる事はありません」


俺はその事実……『マスターと人工精霊』は『一心同体』だという事を思い出す。

そう、俺の魂(記憶)と情報は『ザ・タワー』の核と融合している。

そして人工精霊も同じく核内に自身の魂(記憶)と情報があるのだ。

そう、俺達は『ザ・タワー』の核が破壊されない限り、再生可能……所謂『不老不死』だといえる。

そして、『ザ・タワー』の核が破壊された時、俺達は滅ぶ事にもなっていた。


俺は、ルナを見つめ返した。

「……ああ、そうだったな、俺達は一心同体だった。

一緒に行こう!」


そして、俺はルナに手を伸ばす。

ルナは迷い無くその手を掴んだ。

「もちろんです。

マイ、マスター!」


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