殲滅
頭の中に声が響き渡る……
聞きなれた女性の声のはずなのに何処か無機質な印象の声音だ。
『マスター登録を確認、契約シーケンスを開始します。
精霊及びザ・タワーとの接続を確認。
人格の核へのバックアップを開始。
固体の融合を開始……融合を確認。
ザ・タワーからのエネルギーバイパスを確認。
エネルギー変換を完了………』
聞きなれない単語が並ぶが、俺は、いつの間にかその意味を理解していた。
解らなかった単語は、何かの辞書でも調べたようにすんなりとその意味を理解していた。
だが、どうにも自分の意識がはっきりしない。
膨大な情報が一機に頭に流れ込んできていて、整理しきれていない状態だ……
所謂、知恵熱的なものなのだろう。
そんな中、敵将の声が戦場に響き渡る。
「ええい!!構わん!ヤツに集中攻撃だ!!
最悪、『アルカナ・ナイト』を取り戻せればいい!
ここで、操縦者を殺すんだ!」
そして、敵兵は一斉に魔法と投擲武器を俺に向かって放ち始めた。
それに伴い頭の中に自動防御システム発動の声が響く。
「敵意を確認。
敵固体30体からの魔法及び物理攻撃が開始されました。
マスターの意識覚醒まで30秒……
緊急事態と判断。『自動防御システム(オート・リアクション・システム)』を起動します……
『自動防御システム(オート・リアクション・システム)』起動」
そして、あっと言う間に一人の人間に抗えるとはとても思えない量の攻撃が殺到し、盛大な爆炎が吹き上がった。
どうやら、障壁は張られていないようだ。
そうであるば、その攻撃を受けた人間は跡形も無く消滅しただろう。
上手く、相手の隙をつけたと敵将はほくそ笑んだ後、笑い声を上げた。
「ハーッハッハッハ!!覚醒したばかりで、上手く動けなかったようだな?!
我々の勝ちだ!」
敵将は勝利を確信していたが、不意に違和感を感じた。
自分の視界に頭部の無い兵士が首から血が吹き出ていたのだ。
その兵士の背中のマントは指揮官を現す部隊章の刺繍がされたもの……
それは自分が何時も使用しているマントだと気づいた時……
意識が暗転した。
敵将の周りにいた兵士が叫び声を上げる。
「た!隊長ぉーーー!」
その兵士の目線の先には、先ほどの『白金の髪の男』が部隊長の生首を右手の平に載せて佇んでい
る姿があったのだった。
その兵士の叫びに敵兵達に一斉に振り向く。
そして、自分達の攻撃が避けられ、部隊長が殺害された事に気づいた時、
雷の様な轟音が辺りに鳴り響いた。
敵兵達は再度、白金の男に攻撃をかけようと構えを取ったが、
そこには、部隊長の首が地面に落ちる光景しかなく。
男は忽然とそこから消えていた。
そして、兵士達は気が付く……すでに自分達が死んでいた事を。
◇◇◇◇◇
敵兵達の攻撃により爆炎が上がる直後、俺は、『自動防衛システム(オート・リアクション・システム)』により、敵意を向ける存在の排除を開始していた。
『自動防衛システム(オート・リアクション・システム)』とは、その名の通り、本人の意識が無い状態、深い眠りや混濁、混乱状態の時に敵意に対して、攻撃を行うシステムである。
このシステム発動中は、一切の手加減が無い為、普通に本人が戦うより強いとも言えるが、敵意には、事前登録された人物を除き、全て排除対象となる為、一種の狂戦士状態と言えるので使用には細心の注意が必要だった。
もっとも、今回は設定などする前に、隼人が意識を失っていたので自動的に発動していまったのだが……
システムは、即座に『超加速』を発動。
『超加速』は『ザ・タワー』からのエネルギー供給により、卒無く発動され、世界が遅滞する。
『自動防衛システム(オート・リアクション・システム)』は、まず、指揮を出している存在を排除に掛かる。
難なく、敵の攻撃が着弾する前に、その場を移動し、無慈悲に右手による手刀で敵将の首を刈り取る。
そして、あえて、その場に少し留まる事で、残像を残し、敵兵の目をこちらに向けた後、残りの敵意を出している個体29体を無効化(殺害)した。
そして、今ある光景は、死屍累々の死体が転がる光景。
ある者は首を刈られ、またある者は心臓を一突きされ、また在る者は、蹴りによって頭部を粉砕されていた。
そして、当面、敵意を発する個体が感知範囲から無くなると、『自動防衛システム(オート・リアクション・システム)』は、『超加速』を停止したのだった。
途端に、ソニックブームによる轟音が辺りに鳴り響く。
その轟音を聞いた時、其処に居た敵兵達は皆、自身の死を知るのだった。
◇◇◇◇◇
轟音が鳴り止んだ頃、ようやく俺は意識を取り戻す。
そして、周りの惨状を目の当たりにした。
「……こいつは…凄まじいな」
普段の自分ならば、この死屍累々たる惨状に眉を顰めるところなのだが、
何故か、今ま冷静にその光景を見る事が出来ていた。
自分の感情がやたら冷めている事に多少違和感を感じたが、今はその違和感を深く考える気になれなかった。
そんな時、頭の中にルナの声が響いた。
『マスター。お加減はどうですか?』
そして視界の左端に半透明な窓があり、其処にルナの顔が映し出されている事に気づく。
俺は一瞬驚いたが、すんなりとその状況を理解した。
今の俺は、ルナと融合(フュ-ジョン)している状態だ。
この状態は知識の共有も兼ねているので、『アルカナ・ナイト・マスター』の仕様も理解していた。
今のルナは、俺のナビゲーションシステムの一部となっているようなのだ。
「ルナか?……いや、本当の名前は『ルーン・ナンバー・セーデキム・セカンド』だったな」
『それは……機体ナンバーなので……出来れば今まで通り『ルナ』と御呼び頂ければ幸いです』
「そうか、じゃあ、"ルナ"これからもよろしく頼むよ」
『はい、もちろんです。マイ、マスター』
そんな脳内会話をしていると、新たな敵意を頭上から感じ、その場を飛び退く。
すると、轟音を響かせ、今まで居た場所に『巨人騎士(Giant Knight)』の巨大な足が落とされた。
俺は、無造作に、右手の拳を突き出し、足の破壊を試みる。
しかし、俺の拳は『巨人騎士(Giant Knight)』の足に肩までめり込んだが、そこで止まってしまった。
今の俺の攻撃は確かに威力はあるが、如何せん、『巨人騎士(Giant Knight)』とは質量が違いすぎる。
装甲は貫通出来ても、これでは、大してダメージを与える事はできないだろう。
俺は、舌打すると、一旦、『巨人騎士(Giant Knight)』から距離をとる。
「うーん、どうしたものかな?」
俺が少し考え込んでいると、ルナが提案をしてきた。
『マスター。
『ザ・タワー』の『バスターライフル』ならば、問題無く、敵機の無効化が可能です』
「『ザ・タワー』は動かせるのか?」
『はい、10km圏内ならば、遠隔起動及び簡易操作可能です。
操作可能範囲ギリギリですが問題ありません。
エネルギー残量は少ないですが、少ないエネルギーでも、あの程度の敵ならば、撃退は可能です』
「わかった。
『ザ・タワー』起動!」
「イエス、マイ、マスター」
◇◇◇◇◇
マスターであるハヤトの了承を得て、『ザ・タワー』の起動シーケンスが始まった。
『『ザ・タワー』起動準備……
縮退炉起動開始……
ナノエナジー出力上昇……
各部機構チェック……問題なし……
出力50%……
『ザ・タワー』起動します』
ルナの『起動』の合図に伴い、『ザ・タワー』の黒光りする外装の間接部の節々に白金のラインの光が走る。
そして最後に人間の目の部分に白金の光が差すと、「ゴウン、ゴウン、ゴウン……」といった、起動音が鳴り響き、『アルカナ・ナイト』、『ザ・タワー』はその身を起こすのだった。
◇◇◇◇◇
身を起こす『アルカナ・ナイト』にこの場を確保していた帝国軍兵達が、慌て出す。
機体を固定していた特殊なワイヤーは簡単に引きちぎられ、魔力炉の起動を抑える術式はまったく効果を示していなかった。
それはそうだろう、通常の『巨人騎士(Giant Knight)』とは、違い、『アルカナ・ナイト』は魔力炉では無く、『ナノ・エナジー・リアクター』といったまったく違う系統の出力炉を仕様しているのだから。
『ザ・タワー』は、立ち上がるとおもむろにジャハト村の方角に体を向けた。
そして、右腕を前に伸ばすと、丁度その手の上辺りに巨大な魔方陣が空中に出現する。
そして、魔方陣からゆっくりと平たく細長い金属の棒が徐々に出現し、
その手の中に納まった。
その金属の棒の長さは『アルカナ・ナイト』の1.2倍ほどの長さがあり、槍の様にも見えたがその太
さから槍では無い事が確認できる。
全長は20mはある。
後方から幾分先にはトリガーらしき指を差込む部分が確認できるのだから銃なのだろうが、
弾丸や魔法を射出する為の穴は無かった。
『ザ・タワー』はそれを右脇に抱えると、
棒の上部が一部せり上がり、肩の部分と接合した。
見た目には、肩から長い棒を下げているようにみえる。
そして、先端をジャハト村の『巨人騎士(Giant Knight)』に向けた。
すると、長大な銃と思わしき物体は徐に3分の2の範囲が上下に「バカン」と音を立てて開く。
開いた内部の上下では、バチバチと放電が開始され、電磁路を形成されていた。
そして電磁路の始めの地点には、エネルギーが収束された球体(陽電子)が輝いていたのだった。
『『バスターライフル』召還……
肩部固定パーツ接続、エネルギーバイパス形成。
『バスターライフル』装備完了。
照準……敵『巨人騎士(Giant Knight)』の核。
サーチ……
照準セット。
砲身展開。
電磁誘導路を形勢。
ナノエナジー変換収束……
陽電子化を確認。
……出力10%。
『バスターライフル』発射準備完了しました』
俺は『巨人騎士(Giant Knight)』の巨大な足によるスタンンピング攻撃を避けながら、ルナの準備完了の声を聞き、俺は、発動許可をした。
「発射ぁ!!!!」
『アルカナ・ナイト』がそれに伴いトリガーを引いた。
すると凄まじい一筋の閃光が『巨人騎士(Giant Knight)』の中心部を貫く。
収束されて射出された陽電子は、狙いたがわず、『巨人騎士(Giant Knight)』の核を破壊したのだった。
核を破壊された『巨人騎士(Giant Knight)』は壊れた玩具のように、その場で停止し動かなくなった。
『巨人騎士(Giant Knight)』の核とは……
『巨人騎士(Giant Knight)』の制御装置…人工精霊を指す。
核は直径1mほどの黒い球体で、古代文明のロストテクノロジーで現在では、製造不可能なものだ。
人工精霊は本来、核内にのみ留まっていて、外部には出れない……
というか、実体が無いのが普通だ。
光子生命体……"エネルギーの塊"が意思を持ったような物であるため、外部に出ると、エナルギーが拡散してしまうからだ。
ルナも本体(意識)は、『アルカナ・ナイト』の核に存在するので、今の実体があるルナは端末のような物だと言える。
閑話休題……
『巨人騎士(Giant Knight)』の撃破を確認した、俺は続けて指示を出す。
「ルナ!飛空艇の動力炉も狙えるか?!」
『はい、問題ありません』
「2謝目!続けて発射!標的は敵、飛空艇!」
『イエス、マイ、マスター。
敵、飛空艇の動力炉を狙撃します。
バスターライフル続けて発射します』
元々、低出力で発射していた事もあり、殆ど間髪入れずに2謝目の陽電子が射出される。
そして、眩い閃光が今度は飛空艇を襲うのだった。
閃光に貫かれた飛空艇は、もうもうと煙を立てながら、急激に傾き、村の西の柵を超えた平地に盛大に墜落し、大爆発を起こした。
……オーランド帝国の隠密部隊は『アルカナ・ナイト』確保に向かった数名を残して石動隼人と『アルカナ・ナイト』『ザ・タワー』によって殲滅されたのだった。