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絶体絶命


 イスルギ・ソウウンは、南門前の広場にゆっくりと歩み寄っていた。

目の前には帝国軍の隠密部隊の隊長と、その部下の兵士がが50人に届かないぐらい。

広場の上空には飛空艇、門の外には『巨人騎士(Giant Knight)』が睨みを聞かせいた。

村人は50名前後、広場の西側の柵付近に集められ、一人の女性が広場の中央に引き出され、跪くかされながら剣を突きつけられていた。


改めて見ても、ここから村人を逃がす事の困難さに儂は顔を顰める。

儂は憮然とした顔で隊長から5mほど手前で立ち止り隊長を睨みつける。


「ご指名通り出てきてやったぞ」


「ふん、てこずらせ追って……

ところで『人工精霊』の娘はどうした?」


「さて?途中で逸れてのぅ。

何処にいるか皆目わからんのじゃ」


隊長の顔が冷めた表情になり、右手を上げる。

それに応えるように跪かせた女性に剣を向けていた部下が、女性の咽に剣を添えた。

「……どうやら、自分の立場が分かっていないようだな?」


その状況を見て、儂は顔を歪め、ため息を一つつく。

「やれやれ……女性に対する扱いがなっておらんのぅ……」


そして、おもむろに右手の平を隊長に翳す。

その動作に隠密部隊の全員が剣を持っていない手をソウウンに一斉に向けた。


儂の動作に隊長が怪訝な顔をし、尋ねた。

「……何のつもりだ?」


儂は不適に口の端を吊り上げる。

「……さてな?」


そう呟いた瞬間、上空で「ガオオォォン」「ガオオォォン」「ガオオォォン」「ガオオォォン」と四回連続で破裂音が鳴り響いた。


その音に部隊員の半数以上が上空を見上げる。

流石に、部隊長と手練の数人は儂からは目を離さず、意識だけ上空に向けていた。

隙は与えてくれないらしい。


そんな事を考えつつ、目の端で、儂も上空の状態を確認する。

上空では予定通りの状況が作りだされていた。

上空に待機していた飛空艇の四門の魔砲の砲門が全て凍りついていたのだ。

儂が敵の目を引き付け、その隙にハヤトがガンソードで氷結弾を魔砲の砲門に着弾させ、魔砲を無効化する。

魔砲は火炎系の魔法を打つ為、火属性への対抗力が付加されている。

それは逆に水属性には対抗力が低いという事だ。

結果、水属性である氷結魔法の威力は通常より上がり、通常の威力より強固な氷塊を作り出していた。

あれでは、魔砲はもう打てない。

無理に打ったら内部爆発する事だろう。


 儂は、この隙を逃さず、手からでは無く、足元(右足)から魔法を発動する。

敵には儂の手の平からの魔法に警戒していた為、一瞬、対応に遅れる。

それが致命傷となり、儂の魔法……広域地属性魔法、『アースクエイク』は難なく発動した。

『アースクエイク』とは、局地地震を起こすこものだ。

その特性は、人体では無く敵の足元の地面の土の結合を緩め、液状化させる効果がある。

液状化した土は粒子が細かく、一度引き込んだ物体は、もがけばもがくほど、地中に引き込まれる。

所謂、底なし沼が出来上がる。

今回、儂は、敵兵の足元限定で魔力を調整し、村人以外の敵兵の足止めに成功していた。

すかさず、隊長と複数人の敵兵がファイアーボールやアイスランスなどの魔法を儂に放つが、儂は『縮地』で一瞬で、跪かされている女性に剣を向けている兵士の背後に移動し、手刀を首筋に放ち昏倒させた後、剣を奪いその剣で、女性を押さえつけている兵士の背中から心臓を一突きし、絶命させてる。


そこに、その状況に築いた兵達が、魔法を放つが、儂は、女性の腕を掴んで、『縮地』で、村人達の前まで、移動し、火炎弾と氷結弾をひと括りにしたものを三個、敵兵の上に投げ込み、魔法発動命令を叫ぶ。


「『フリージング』!『カラム・フレイム』!オーダー!」


すると、一瞬上空に、広場を覆うほどの薄い氷と霜が辺りを覆った瞬間、今度は爆発音の後、『濃い霧』が視界を覆った。

尋常ならざる火系統と水系統魔法の温度差で、霧が発生したのだ。

それは、殆ど視界0に近いほどの濃密な霧となっていた。


その視界の中で、西の柵付近から「ガラン、ゴロン、ガガン」といった。

木材が転がる音が響いた。

その付近から、ハヤトの大声が響き渡る。


「柵は壊した!みんな、森まで走るんだ!」


この街を取り囲む柵は5m程の丸太を2mほど地中に埋めたものだ。

それをハヤトは根元付近からガンソードの振動剣モードで5、6本切り裂き、倒壊させて、通り道を作る事に成功していた。


一先ず、作戦の第一段階は成功だ。

これで多少、逃げる時間は稼げた筈だ。

振動系の探知魔法で、相手の部隊には地属性魔法の使い手はいない事は分かっている。

闇、火、風、水、回復が主の隠密、火力特化型部隊だ。

地魔法への対処は苦手だろう。

今も、殆どの兵士が泥沼から抜け出せずにいるのが振動系探知魔法で把握できていた。


流石に今日は、連戦の上、この広域魔法の使用で魔力は残り少ないが、何とかなるかも知れない…


…そう思いながら、敵の動向を探っていると…


南門から「ガガァァァン」といった盛大な破壊音が鳴り響き、

ガォン、ガォン、を地鳴りをさせながら、『巨人騎士(Giant Knight)』が南門を破壊して、広場に踏み込んできた。


そして、右手首を回転させ、持っていたランスを風車のように回転させ始めた。

すると忽ち、辺りに立ち込めていた濃霧はその風車によって、拡散させられ、視界が開けてきてしまった。


儂は歯噛みし、次の手を開始した。


◇◇◇◇◇


 ソウウンは、霧が吹き飛ばされると見るや、今あるアトドバンテージを生かすべく『縮地』での移動による敵兵の各個撃破を開始していた。


敵が動けない今が好機なのだ、視界が開ければ、敵は村人達に攻撃を開始する。

視界が鮮明ならば誤射は無いのだから。


儂はかく乱も兼ねて、敵の真っ只中に現れ、敵兵を屠っていった。

儂は足元が液状化していようと関係ない、『縮地』で移動可能だし、泥の上でも地属性魔法の耐性により、問題なく立ててるのだった。


 翻弄される状況に敵の隊長は苛立ってが、こちらの攻めてに欠けているのに気づき、攻撃方針を村人に即座に代えたてしまった。


「そのジジイに構うな!障壁を張った後、村人に向けて、魔法を放て!

どんなものでも良い、最速で攻撃せよ!」


「チッ……」

儂はその声に舌打を打つ。


敵は儂の陽動に乗ってこないつもりだ。

さすが歴戦の部隊と言えよう。

障壁と攻撃の二重魔法発動も可能な所から敵兵の魔術師としての錬度の高さも伺える。


こうなれば、ハヤト達に期待して、自分は少しでも敵の戦力を削る事に専念する事にしようと決めたのだった。


◇◇◇◇


 敵の隊長からこちら(村人が逃げる方)に向けて魔法攻撃の指示が飛ぶのが聞こえた。

ハヤトは、すかさず、崩した柵の前から、村人の最後尾に出て、ガンソードを構える。

そして、いつの間にか隣にはルナが来ていた。

俺はルナに一瞬目を向けた後、声を掛ける。


「ルナ、作戦通り行くぞ!」

「はい、任せてください!」


俺はその返事を聞き、ガンソードを敵兵の前方の地面向けて、魔弾を発射する。

魔弾には空の魔石に先ほど自身で魔法を詰め込んだものを使用している。

威力を上げる為、5発全弾同じ箇所に魔弾を放った。

地面に着弾した魔弾は5発分の増加された魔法を辺りに振りまいた。

そう、『ウェービング・モーション』という魔法発動阻害魔法を!

普段は、魔弾になど込めずに発動していたが、今回は、カバー範囲と、即時発動が必要だった為、さっき、用意したものだ。


 敵兵はそれぞれ魔法を発動させようとしたが、威力が弱く、発動が早い魔法を選んでいた為、皆、『ウェービング・モーション』の影響を受け、魔法が発動せず、魔力だけ霧散するといった現象を起こしていた。

だが、かろうじて、阻害魔法圏外から遠く、威力の強めの魔法がそれでも幾つか放たれていた。


その数10程度だろうか?

火力の強いフレイムジャベリン系の火属性の魔法がこちらに向かっている。


それを確認したルナが、魔弾を前方上空に投げて、叫ぶ。


「『サンクチャリ』!オーダー!」


すると、上空に直径10mの魔方陣が出現した。

魔方陣にフレイムジャベリンが当ると、フレイムジャベリンは赤い光の粒になって霧散したのだった。

【サンクチュアリ】とは結界魔法の一つで、聖魔法に使い無属性系の魔法だ。

通常は、発動者の半径5mドーム型の結界を作りだし、各種魔法を防御するものだが、今回は、上空で発動する事で、10mの半円形の盾としていた。

発動時間は10分程度だ。


これで暫く持つとはいえ、村人達の避難はかなり遅い……

それはそうだろう、老人、女、子供が殆どなのだから。

今、柵を壊したこの5mほどの出口を突破されれば、村人達の蹂躙は容易いだろう。


じっちゃんも奮闘して5、6人の敵兵を倒しているが、敵兵が結界魔法を併用し、その魔術抵抗を利用して、泥沼から抜け出し初めていた。

この間々では、包囲されてしまう。

『巨人騎士(Giant Knight)』が広場の兵が邪魔で、こちらにこれないのが、救いではあるか…


このままでは、じっちゃんが危ない!

でも、この場所も死守しなければ村人が危ない。

俺は残りのパラライズの魔弾を撃ちながら焦っていた。

そしてとうとう……残弾……0!

ルナに預けた結界弾も残り1個……。

俺はルナに村人達と一緒に逃げるよう促した。


「ルナ、君も森の中に避難するんだ!後は俺達が引き受ける!」


その言葉にルナは不安そうな顔で、こちらを見返す。

俺は不安にさせないよう努めて軽い感じで、笑顔を作りながら、言葉を続けた。

「なーに、心配するな!俺もじっちゃんもいざとなれば『縮地』で逃げる!

だから、ルナも自分が助かる事を考えるんだ」


俺は、軽い感じでそういったが、実際はそんな簡単なものではなかった。

俺達が使用している『縮地』と言う技は、地属性魔法につらなっていて、

地脈に沿ってしか移動できないという条件がある。

その、地脈上に障害物や、阻害する物や者がある場合発動しない。

地脈はこの村の街道に沿って存在するのだが、あの『巨人騎士(Giant Knight)』は、地脈から魔素を吸収しているらしいし、厄介な事に例の墜落した『巨人騎士(Giant Knight)』もその傾向があり、落ちた当初より、付近から魔素が無くなっていた。

今現在、この二体によって、この付近の魔素はかなり目減りしている状態だった。

なので、俺達は『縮地』による移動に制限がかかり、一回の移動で精々4、5mの移動が限度となっていた。

敵の後に回るぐらいなら出来るが、戦線を離脱することは到底出来ない距離だ。

それに柵の外側は地脈外なので、『縮地』は使用出来ない。


俺はそんな考えを隠し、ルナに逃げるように更に促す。


「時間が無い!早く行け!」


ルナは一瞬躊躇するが、意を決して森に向かって走り出した。

俺はそれを確認し、広場を見据える。

もう直ぐ、結界魔法が切れるし、敵も何人か足元を取られながらも自身に結界魔法を掛けながら、接近してきていた。

こうなれば、ガンソードを剣モードにしての接近戦しかない。

俺は腹を括り、ガンソードを構え直した。


◇◇◇◇◇


 ソウウンは、追い詰められていた。

数人は倒せたが、障壁魔法を張られ始めてから、こちらの魔古武術が透りづらく、一人の兵を倒すに梃子摺ってしまっていた。


その内、泥沼から抜け出し、氷結魔法で足元を固め、反撃してくる兵が徐々に増えてきたのだ。

儂は、徐々に追い込まれてきていた。


儂は自分の最後を覚悟し、心の中で呟く。

『せめて、隼人達が少しでも逃げ延びる可能性が出来るようにせねばのぅ……』


 そう考え、指揮系統を混乱させるべく隊長に向かおうとした時、

隼人が儂より早く、【縮地】で隊長に肉迫するのが見えた。


 儂は焦った。

隼人の技量は確かに一般兵と比べれば高いが、敵の潜入部隊の精鋭にあっけなく掴まったように詰が甘い。

手練と思われる隊長に相対するには危険だと儂は思った。

儂は心の焦りを何とか鎮め、目前の敵を早く倒し、加勢するべく、魔古武術を駆使するのだった。


◇◇◇◇◇


 ハヤトは、敵に包囲される事を避け、敵陣に討ってでいた。

敵の指揮系統を混乱させるべく、連続して【縮地】を使用して、敵の隊長に肉迫し、ガンソードを振動剣モードにして、切り込んでいた。

しかし、隊長を守る4人の精鋭により、奇襲は失敗し、逆に追い詰められる結果を招いていた。

振動剣とは恐ろしく切れる剣ではあるが、まともに打ち合わず、避けてしまえば、通常の剣での戦いとあまり変わらない。

しかも、援護の魔法がそれに追加されれば、こちらが攻めあぐねるのは当たり前だった。


 不意を付いて倒せなかった以上、これ以上ここに留まっての戦闘は自分の敗北……死を意味していたが、手練の四人は俺を逃がすまいと取り囲み、その包囲陣から俺は抜け出す事が出来ずにいた。


そのな俺をさも可笑しそうに隊長は笑い声を上げる。


「ハーハッハッハ!甘く見るなよ小僧!

お前如きが、俺の相手をしようなど十年早いわ!

キサマは終わりだ!

これだけ、俺達をコケにしたんだから、楽に死ねると思うなよ!

手足を引き裂いて達磨にして、村人達を殺し尽くしてから殺してやる!」


 俺は、今日、封印球を脱出する為に魔力を大量に使った事を後悔した。

ここはもう、全力で逃げに徹するしかなかった。

俺は、自身の残り少ない魔力を搾り出し、【縮地】で距離を取ろうとした。

だが、その気配を察知した、敵兵四人は、俺を中心にした結界魔法を発動したのだ。

四人の魔法発動の声が響き渡った。


「「「「サンクチュアリ」」」」


俺は【縮地】を発動するが、結界内からの脱出に失敗する。

結界によって、地脈のラインが断たれた為だ。

俺の魔力は霧散し、倦怠感が襲い掛かる。

これでは、まともに剣を振るうことも出来そうになかった。

そこにすかさず、四人の兵は分銅付きの鎖を投げ放ち、それぞれ、右手、左手、右足、左足を拘束する。


最早、俺にこの場を脱する事は叶わなかった。

俺は本日2回目となる捕縛に自分の不甲斐無さを感じづには居られなかった。


そして、その状況を見ながら隊長が上機嫌で俺に近づいてきた。

「どうだ?

手も足も出ないこの状況は?

自分がいかにチンケな存在か良く解っただろう?

大人しく、人工精霊を渡しておけば良いものを!

多少は出来るようだが、所詮、素人に毛が生えた程度の実力。

よくもそんな腕で我々にたて突いてくれたものだな?」


隊長は鞘ごと剣を向け鞘先で俺の顎を無理やり上げて、自分に顔を向けさせてそういった。


俺は精一杯の抵抗として、「ベッ」と、唾を隊長に向けて吐きかけた。


隊長の顔が見る見る赤くなり憤怒の表情を作り出す。


「お前は!自分の立場が分かっていないようだな!」


そう言ったが早いか、鞘から剣を抜き放ち、剣を大上段に構えると、

そのまま、俺の右腕に力いっぱい剣を振り落とした!


途端、俺の右腕は持っていたガンソードと共に宙に舞っていた。

そして、切断された右腕の傷口からは盛大に血飛沫が上がり、周りを真っ赤に染めたのだった。


「ガアアアァァァァァァア!!!!」


俺は激痛で叫び声を上げる事しか出来なかった……


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