人質
リアルが忙しかったので久しぶりの投稿です。
南門前広場に入って来た敵主力部隊と思われる黒装束の部隊の隊長と思われる男が、広場の端に集まっていた村人に近づいて行き、声を掛けた。
「この中にこの村の代表者はいるか?!」
一瞬、村人達は一人の初老の男に目を向ける。
村人の視線を集めた初老の男は、敵の隊長と思われる男の前に顔を睨みつけながら進みでた。
「儂が、このジャハト村の村長、『ギーベック』じゃ」
「そうか、お前がこの村の村長か。
では、お前に問う、この村の近くに我が帝国の飛空船が墜落した事は知っているな?
その時、墜落現場に14、5歳で金髪の碧眼少女も居たはずだ。
その少女は今何処にいる?」
ギーベックは方眉を動かし怪訝な表情をし、聞き返した。
「帝国がそんな子供に何のよう……」
敵の隊長は村長が言い終わる前にその言葉にかぶせるように発言を遮る。
「誰が質問をして言いと言った!
こちらの質問にだけ答えろ!
自分達の立場をわきまえるのだな!」
隊長がそう言い放つと回りを囲んでいる部隊員が抜剣していた剣先を村人達に向けた。
村人達から軽い悲鳴やざわめきが起きる。
村長は苦々しい顔で隊長を睨んだ後、質問に答えた。
「……その娘の所在は解らん。
ここには居ない事は確かだ」
「なら、以前は何処にいた?
保護していた者達が居たはずだ!
イスルギとか言った医者が保護していた筈だな?」
村長が黙り込んでいると、隊長は抜剣し、剣先を突きつけた。
村長は苦々しいく顔を顰めた後、溜息を一つつき答えた。
「イスルギ先生は、先ほど、ここに来たが何処かへ行ってしまった。
行き先は分からん……」
「そうか。
分からんか?」
隊長はそう呟くと、近くの部隊員に何か小声で指示を出した。
部隊員は、何やら魔道具で、何処かと連絡を取り、持っていた魔道具を隊長に手渡し、一歩下がった。
魔道具を受け取った隊長は、村長と村人を一瞥した後、魔道具に向かって、声を上げる。
すると、飛空艇から大音響が辺りに響き渡った。
「イスルギ・ソウウン!
お前等を捕らえに行った者達が未だ戻っていないことから、
お前が、我が隊の精鋭退け、人口精霊と共にこの街の何処かに隠れているのは解っている!
何故、まだこの街に居る事が解るかと疑問に思っているだろう?
それは、今、上空に待機している飛空船の探知魔法で解るのだ!
人工精霊の生体認証波動は登録済みだからな!
焙りだされたく無ければ、大人しく出て来い!
お前等の匿っている人工精霊を大人しく引き渡せば、ここにいる村人は見逃してやらなくもないぞ!」
◇◇◇◇◇
それを聞いた俺は、歯噛みする。
そして、祖父に顔を向け、意見を聞いた。
「じっちゃん……どうする?」
祖父は、腕を組み少し考えるそぶりを見せた後、俺とルナを交互に見て、意見を言い始めた。
「先ず、アヤツの言うあの飛空艇の探知機能については張ったりでは無く実在するようじゃ。
儂の波動系魔法で、飛空艇から何らかの波動を発しているのを感じるしのぅ。
それと、村人の命の保障は……無いじゃろうな……。
儂の予想が甘かったようじゃ。
確かに、本国に戻る事を考えれば、捕虜は邪魔じゃし、チツバの砦に連絡される訳には行かぬじゃろうから、この街の兵士だけで無く、住民も殲滅するつもりじゃろう……
たとえ、ルナを引き渡しても無駄じゃろうな」
「じゃどうするんだ!
ルナを渡す気はさらさら無いけど!
このままじゃ街のみんなが……」
「ふむ……先ずは我等の荷物の確認じゃ。
それから儂等に何が出来るか考えねばな。
向うは時間を掛ける気は無いじゃろうから、素早くな」
祖父はそういうと、手近に在った荷物の中身を出していく。
俺はそれ程持ち物を持っていなかったが、取合えず、ガンソードとガンソード用の魔法弾を置く。
魔法弾は、装填済みのパラライズ弾が5発、予備カートリッジが2個、一つのカートリッジに火炎弾5発、もう一つのカートリジに氷結弾5発が入っている。
そして、ルナも祖父から預かっていた、魔法弾を出した。
火炎弾が3発、麻痺弾が3発、結界弾が3発だ。
祖父の方は回復薬20個ほどと携帯用の食料としての干し肉と硬く焼いたパンが数個と先ほど敵から奪った『封印球の魔道具』だった。
俺は手持ちの持ち物からどうやって村に人たちを逃がすか考えた……
敵は50人前後……駐屯兵達の不意を突いたとはいえ、殆ど被害らしい被害を出さずにこちらの兵士を殆ど殲滅している事からかなりの精鋭だ。
先ほど対峙した敵兵のように皆平気で魔法を使えると思って間違い無い。
全員魔法剣士と見た方が良いだろう。
そして、体長15mの『巨人騎士(Giant Knight)』と飛空船……
飛空船には魔砲が4門、『巨人騎士(Giant Knight)』にも何かしら飛び道具がありそうだが、見たところ、巨大な盾と突撃槍を持っている。
人間相手だとあの武器は使いづらいだろうが、あの巨体で歩いただけで、人間なんて簡単に踏み潰せるのだから、存在自体が脅威だ。
敵の戦力とこちらの戦力……実質、俺とじっちゃんの二人だと考え、手持ちの武器を見るとどうやっても勝てそうに無かった。
俺が唸り始めるとじっちゃんが、一つ溜息を吐き、提案してきた。
「……ハヤト、まさか、まともに戦う気ではなかろうな?」
「じっちゃん……
俺だって其処まで馬鹿じゃない。
でもこの街を脱出するにしても俺達だけでもかなり困難なのに村人達も一緒となると……」
「ふむ……わし等が確実に助かろうとすれば村人達は見捨てねばならないが……」
祖父は其処まで言ってから俺とルナを交互に見る。
俺は自分でも解るくらいぐらい仏頂面をしているだろう。
隣のルナを横目で見るとこちらもかなり不満顔だ。
祖父は諦めた表情で話を続けた。
「……見捨てる気は無いか……
仕方が無い……儂が敵を引き付けるからその隙に、二人は村人を村から樹海に非難させるのじゃ」
「敵を引き付けるって言ったって……じっちゃん一人でどうにかなるのか?
俺も……」
俺も囮役になる事を言おうとすると祖父は、俺の言葉を途中で遮るように手の平を突き出した。
「村人達を逃がすにはお前が必要じゃ。
お主にはやって貰いたいこともでの。
ここは儂に任せるのじゃ。
反論は聞かんぞ?
時間も無い事じゃしな」
そう祖父が俺に言い渡すのと、敵の隊長が痺れを切らして、再び警告を発するのがほとんど同時だった。
「ソウウンとやら!返答が無いぞ!
大人しく、出てこなければこれから村人を10分毎に1人処刑する!」
その言葉を聞いて、祖父は早口で作戦を俺達に伝えるのだった。
◇◇◇◇◇
街に再び隊長のがなり声が響いた。
「そろそろ、10分だ!一人目を引き出せ!」
隊長の命令に部下の一人が無造作に一番近くにいた女性の手を掴み集団から引き出す。
村人達から悲鳴や懇願の声が上がった。
「お母さん!お母さん!お母さんを連れて行かないで!」
女性の子供と思われる少女が兵士に縋りつくが兵士は事も無げに少女を蹴り倒し、突き放す。
すかさず、近くにいた老婆が少女を後から抱えるように少女を抑えたが少女は尚も追いかけようともがく。
その姿を見た連れ出された女性は済まなそうに軽く会釈をしながら、「後の事は頼みます」といった意思を目で訴えていた。
老婆はその顔に頷き返す事で応えていた。
村人達も諦めた顔で、顔を俯かせ、出来るだけ関わらないようにするのが精一杯だった。
隊長は引き出された女性を一瞥し、拡声魔法の掛かった魔道具で最後通告を発した。
「10数えるうちに出てこなければこの女を殺す!」
隊長はそういうと、右手を大きく上げる。
それを確認し、部下の一人が女を跪かせて頭を下げさせた。
そして、もう一人の部下が剣を大きく振りかぶり、女の首に狙いを定める。
部下の動作を確認した隊長は続いて声を上げた。
「いーち!……にーい!……さーん!」
八までか数えた時、広間に初老の老人の声が響き渡った。
「帝国兵はせっかちじゃのう……今出て行くわい」
石動早雲はそう言うと、街の表通りをゆっくり南門前の広場に向かうのだった。