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早雲vs黒装束


 イスルギ・ソウウンは、村の民家の中や路地を気配を消し、【縮地】を多用して移動していた。

現在、ハヤトの気配は2人の帝国兵と思われる者に挟まれる形で移動していた。

前方側の気配がかなり薄い……恐らく、治療院前で対峙した手練の帝国兵だろう。

組するとするならば、後方のハヤトの結界に付き添っている方だと、儂は判断した。


敵は、村中央に集結しつつある本隊と合流するべく、移動しているが、その速度は歩く程度……

尊重に警戒している為、移動速度が遅いのではなく、恐らくハヤトを捕らえている結界の移動速度が制限されているように思えた。


儂は、敵の50m程の手前の物陰に移動し、後方の敵兵への奇襲の準備をする。

一瞬で倒せなければ、前方の手練の敵兵との戦闘は困難なものになるだろう……


儂は黒装束の動向粒さに観察する。

後方の部下らしき者はそこそこ使える兵なのだろうが、黒装束と比べれば対したことは無い。

注意すべきは黒装束の動向だ。

儂がそんな事を考えていると、黒装束が前方に意識を向けたのが感じられた。

前方には大通りが見え、敵兵の数人が確認できた。

距離にして100mほどか。

儂はその黒装束の意識が前方の兵達に向いた瞬間を見逃さず。

縮地で、後方の敵兵の背後に跳んだ。

そして間髪要れずに手を背中に当て振動魔法【ショック・ウェーブ】を心臓に放った。

敵兵は一瞬『ビクンッ』と痙攣し、その場に崩れ落ちる。

その気配にすぐさま、前にいた黒装束が振返ると同時に短剣を引き抜いて横なぎに振るって来た。

儂は、その素早い反応に驚きながら、その場から後に飛退いた。


黒装束は、儂をジッと睨み、倒れた兵を一瞥すると話しかける。

「ご老体……また会いましたね。

こんなに早くに再開するとは思っていませんでしたよ?

お一人ですか?」


「おう。

お一人様じゃ。

残念じゃったな?」


「ええ、残念です。

手間が省けると良かったんですが……

まあ、良いでしょう。

貴方は中々の脅威だ。

ここで排除させてもらいましょう。

人工精霊アーティフィシャル・スプリットへの人質は一人で十分でしょうから」


「ふぉふぉふぉ。

儂も舐められたものじゃな」


儂はそう言うと、左の掌を真直ぐ相手に向け、右手は拳を作って、腰の位置に置き、

左足を軽く前に置く形で配置し、右足を後方し腰を落とし力を乗せた。

石動流魔古武術の【雲流ウンリョウ】の型だ。

相手の攻撃を受け流す事に特化した構えである。


その構えを見て黒装束は怪訝な表情をする。

あまりにも世間一般の体術の構えからすると、動きが制限されるように見えた為だろう。


「ご老体、随分変わった構えですね。

どちらの武術ですか?」


「ふぉふぉふぉ。

これは儂の家で代々伝わる武術の構えじゃ。

得と味わうが良いぞ」


儂はそう言うと、左手の手の平を上に向け、

指を折り曲げ掛かって来るように誘う。


その仕草に黒装束は目に殺気を込めて睨み返し、

何やらぶつぶつと呪文を口ずさぶ。

すると、その姿が霞んだように見えた。

恐らく、認識阻害の闇魔法を使ったのだろう。

目の前に居ながらこの魔法を使っても、認識を既にされているのでそれほど効果は無いが、

細かな動作の識別が困難にさせる事はできる。

闇魔法の使い手……特に斥候や暗殺者は戦いの時に良く使う事を儂は思い出す。


黒装束の体がゆらりと揺らめき、一機に間合いを詰めてきた。

目にも留まらない左手からの短剣による連続の突きが放たれる。


儂は、それを前に突き出した左手だけで瞬時に捌き続けた。


その攻防は暫く続き……

そして儂は、不意に左側からの寒気に似た気配を感じ、すぐさま、後退した。


その先ほどいた位置にはいつの間にか短剣が突き出されていた。

まったくの意識外からの攻撃……


黒装束は左手の攻撃に意識を向けさせ、

うしろに隠していた右手に持った短剣で、死角から攻撃してきていたのだ。


何故、儂が最初から右手に意識がいかなかったのかは、

ヤツが認識阻害魔法を掛けた時、右手を隠していたからだろう。


それはつまり、その時、儂はヤツの右手を認識していないという事……

あえて、自身と左手の短剣を認識させた上で認識阻害魔法を掛ける掛ける事で、隠していた右手を認識させなかったのだ。

さすが、隠密行動に長けた兵だと言わざる負えないだろう。


必殺の攻撃を避けられ、黒装束が感嘆に目を見開く。


「まさか、今の攻撃を避けるとは……」


「なに、なに。

儂で無ければ食らっていただろうて。

そんなに落ち込む事はないぞぃ」


儂は内心の焦りを出さずに軽く答えた。


黒装束はその言葉を聞き流し、今度は両手の短剣を突き出す形の構えを取る。

今度は不意打ちでは無く、正攻法の二刀流の短剣術を使うのが解った。

儂は、改めて構え直し、攻撃を待つ。


静かな時が数分流れ……

黒装束は今度は両手の短剣を連続で突き出した。

手数で儂を圧倒しようと言うわけだ。

儂は連続の攻撃に後づさる。

黒装束は好機と感じたのか攻撃を加速させた。

儂はその攻撃に思わず、体制を崩す。

黒装束はそれを見逃さず、一気に極めようと、

渾身の右手短剣による突きを放ってきた。

刀身が赤く光っていく事から火属性魔術を付与しているのだろう。

当れば切り裂かれるだけで無く、追加で火属性魔法のダメージを食らわすつもりだ。

だが、儂は、その大振りの攻撃を待っていたのだ。

わざと体勢を崩す事で、その攻撃を呼び込めたと儂は内心ほくそえむ。


儂は、黒装束の右腕を左手で裁きながら手首を掴み取る。

黒装束はギョっとして左手の短剣を突き刺そうとするが、

もう遅い。

儂は相手の右腕を自身の体重も乗せて後方に倒れるように引っ張り引き寄せ。

背中を向けながら左肩に地属性魔法【セイバー・クウェイク】を発動されながら、相手の胸元をカチ上げた。


【セイバー・クウェイク】という魔法は振動魔法の一種で、

振動をある一点に集中させてダメージを与える魔法だ。

【ショック・ウェーブ】との違いは、物理、魔法防御を通過できる事にある。

この魔法はあらゆる物理・魔法防御を振動という形で浸透しながら、

有る一点で振動を収束させるものだ。

本来は医療用の魔法で、結石や血栓を振動で破壊するもので、

通常は両手を翳して発動する。

小さい結石でも破壊には、1、2分かかる、戦闘には向かない魔法だ。


それを儂は改良し、背中全体から広範囲に発動させ、その振動を一機に収束させる事で、多大な威力を出していた。


そして今回は、相手の心臓に振動を収束させたのだ。


これは相手の手を掴んで引き込んで左肩からのカチ上げ背中を相手に密着させた瞬間に地属性魔法【セイバー・クウェイク】を発動させる技……

石動流魔古武術で【浮激ウゲキ】という連続技である。


儂は、手加減無しでこの技を放った……

当然、黒装束の心臓は破裂しているだろう。

その手ごたえは確実だったので間違いない。


儂が手加減無しに技を繰り出した理由は、

ここで、この黒装束を倒しておかなければ、今後の儂達の行動に支障を来たす為だ。

たとえ、拘束して放置したとしても、この男なら脱出可能に思われる。

ここで、他の敵に儂らの動向を悟られるのは余りに危険だと儂は判断した。

儂は医者として人を治すが、自分の大切なものを守る為には敵対する者を殺す事に躊躇しないと決めている……


そう……あの我がイスルギ・ミズホを敵の負傷兵によって殺された13年前から……


……あの時儂は、共和国と帝国の紛争地帯に従軍医師として従軍していた。

ミズホも看護士としてそれに同行していたのだ。


そこで、儂は軍の静止も聞かずに、共和国兵、帝国兵問わずに傷の治療を行っていた。


そんな中……治療中の負傷兵がミズホを人質に立て治療所に立てこもったのだ。

儂は説得を心見たが、説得叶わず、負傷兵は捕まる間際にミズホを殺したのだ。

儂は悔やんだ……


あの時、あの負傷兵を治療していなければ……

あの時、儂が躊躇せず、負傷兵を倒していれば……

あの時、他の怪我人に魔力を使いすぎていなければ……

儂は、後悔の念を抱き、それ以後、自分が大切”者”を優先すると決めたのだ。

たとえ、それで他の誰かが死んだり、儂が殺す事になったとしても……


儂は一瞬そんな過去の思いをめぐらせる。


黒装束は、【浮激ウゲキ】で心臓を破裂させ、空中に吹き飛ばされた。

そして「ドサッ」という音を立てて、地面に仰向けに倒れ、「ゴホッ」と口から血を吐いていた。


儂は、油断無く近づき、倒れている黒装束を見下ろし、様子を見る。

すると黒装束は目だけこちらに向け、苦しそうに言葉をかけてきた。


「……見事な体術……何という技ですか?」


「石動流魔古武術【浮激ウゲキ】じゃ」


「【浮激ウゲキ】ですか……お見事です……」


黒装束はそれだけ言うと、ガクッと体から力が抜けた……

儂は感覚を研ぎ澄まし生死を確認する。

どうやら事切れたようだ。

儂は久しぶりに人を殺した感覚に苦いものを感じ顔を顰める。

そして、黒装束の死体を一瞥し、ハヤトが捕らわれている封印球へと進むのだった。


『悪いが……儂はこれ以上家族を失う訳に行かぬのじゃ、

医者の教示を曲げて人を殺したとしても……』


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