ラディカルロック! 訳あり少女と悪魔憑きと口移し
キャラクター紹介
・キサラギ=ザナドゥ
本編主人公。見目麗しい美少年。碧の髪で線が細い。着飾ればメイク無しで男の娘の出来上がりである。
ミストラルという国でも超偉い貴族の家系。ハーフエルフで純潔のハイエルフではないので、継承権は無いが特に迫害はされていないどころか、溺愛されており、それが故にミストラルを出奔する。
初回であっさり強姦されかかるとおり、微妙に世間知らず。
本人は道具職人兼商人を自称するが、超空間ボックス、禍断・雪走りといった超道具を有しており、どう考えても道具職人で治まるスケールではない。
後の伝説の職人、マイスター・ザナドゥ。
・九重錠太朗
本編の主人公その2.異世界からやってきたと称する胡散臭い男。
190cmオーバーの野性味溢れる男性的な美しさを持つ男。
優れた身体能力に、高い再生能力を備え、生体電流を意図的に増幅できたりする。どう考えてもカタギの人間ではない。
行きがかりでザナドゥを助け、なぜか護衛として名乗りを上げ、そのまま強引に旅の供となる。何だコイツ。
後の鬼神・ラディカルロック。
筆者の別作品、まどろむ愚者のD世界に出てくる、とあるバカと何らかの関わりがあるらしいが、物語を楽しむ上では一切関係ない。
※このお話は『ラディカルロック! ~関所と幻想種とリヤカー~』の続編です。
「ふん!」
「ぐへえっ!?」
――こんなに鮮やかに女性がオチる様を僕は初めてみた……。
一応可憐な、訳ありの金髪少女が190セルジュ(1cm=1セルジュ)の大男に首を極められて意識を失う光景は、さながら異常なこと、この上なかった。
だが、この場合は明らかに金髪少女に原因があった。
何しろこの娘、感情が昂ぶると、途端に巨大な合成獣に変身するという厄介な体質を持っていたのだから。
***
道具職人でハーフエルフのキサラギ=ザナドゥと、ザナドゥを護衛する身元不明の異邦人、九重錠太郎ことロックが、訳あり金髪少女と出逢ったのはつい先刻のこと。
関所壊滅の犯人と思しき魔物、獅子をベースにした幻想種の合成獣をロックが気絶させたら、何故かキメラは金髪少女になっていたのだ。
何が起こったのかザナドゥにはさっぱりだったが、少なくとも少女を放置するのも役所の憲兵に突き出すだけでは解決にはならないということだけはわかった。
そういうわけで行きがかり上、ザナドゥが少女の身柄を預かることになったのだが。
「夢見がちチョップ」
「へぶんっ!?」
「せい」
「うぐぅ!?」
「そぉい」
「はぐわっ!?」
「むん」
「ほげえぇ!?」
「はっ」
「どいひー!?」
先の締め技含めて都合6度、彼女はロックに気絶させられていた。
手法は延髄チョップだったり『どらごん・すくりゅー』だったり『じゃーまん・すーぷれっくす』だったのだが、どれも婦女子に対する技で無いとしてザナドゥがロックにやめるよう命令し、最終的には『ちょーく・すりーぱー』に落ち着いた。
ほんのちょっとでも感情を昂ぶらせようものならすぐに変態が始まってしまうという困った体質の彼女。
流石に感情をコントロールすることを覚えたのか、少女はぽつぽつと己の身の上話を始めた。
「私の名前は、アレキサンドラ=フリューゲル。フリューゲル王国の第1王女です」
「……ええ!? アレキサンドラ王女? 貴女が?」
「知ってるのか、ご主人」
「そういうことも知らないんだ、ロックは……ここ、フリューゲル王国なんだよ」
「……ああ、そうなのか」
そうなのだ。海と山の両方を領土に持つ自然豊かな大陸東部の王国。それが今ザナドゥたちがいるフリューゲル王国であった。
古代語で『翼』の意を持つこの王国は、僅かではあるが魔鉄国家で島国のミストラルとも交易のある国の一つだった。
故に、ザナドゥも出奔先としてフリューゲル王国を選んだのだ。
ミストラル国内では、どれだけうまく隠れても、隠密の精鋭部隊・ニンジャフォースが草の根分けてでも探し出す可能性が高かったというのもあるが。
「それで、その王女様がどうしてこんなところに?」
「それは……」
ロックに問われ、答えようととしたアレキサンドラは一度深呼吸を行った。
教訓が生きて感情を平坦にしようとしているのだろう。
「……謀反が起こったのです。宰相をはじめとする政務の重鎮と大貴族が手を組んで……」
「政変か。それはいつごろの話だ?」
「……私の記憶では1週間ほど前です。私は信用できる者たちと一緒に王都から逃げ出したのです。しかし追手に爺ぃやエルザが、私を逃がすために掴まって、それから……!」
「ストップ、ストップ! 落ち着いて、感情を昂ぶらせたら駄目だよ!」
語り口に徐々に気持ちが乗っかっていくアレキサンドラを、ザナドゥは慌てて止めた。
何しろここで落ち着かなければ、またロックが彼女を気絶させる。
この男、婦女子に対してもまるで遠慮というものが無いのだ。
「……っ! あ、ありがとうございます、キサラギ様」
すぐに感情を昂ぶらせるのは、それだけ彼女が義に厚い証拠であり、よほど辛いことがあったのだろうとザナドゥは思った。
落ち着きを取り戻したアレキサンドラが続きを口にした。
「それから、私の視界が真っ赤になって……そこから先は覚えていません。次に目を覚ましたのは、キサラギ様に保護されてからですから」
「……そっか」
ザナドゥは右手で前髪を掻き揚げながら頭を押さえこんだ。情報が少ないうえに、随分と厄介な話に頭が痛くなったのだ。
「君は翼を持つ獅子に変身していたんだ。それについて、心当たりはある?」
「……フリューゲル王国の紋章をご存知でしょうか?」
しばし考え込んだ後、アレクサンドラが二人に質問した。
当然ロックにはわかるはずも無いが、ザナドゥにはぴんと来た。
「……あ、翼の生えた獅子だ」
ザナドゥが答えがあっていたのかアレキサンドラが頷いた。
「王家の始祖は、翼の生えた獅子の聖霊様の眷属であったと伝えられています。私がその翼の生えた獅子の姿になっていたのなら、その血の影響だとは思うのですが……」
「王家が興って、何年になる」
これを聞いたのはロックだ。
「およそ500年というところです」
「では、その始祖からの血脈というのも、そこそこ薄まっているのではないか?」
「いえ、なるべく濃い血を残そうと王家は外部の血をあまり入れていません。時には近親婚をすることも珍しくはありませんし。私の祖父は、妹君と結ばれたと聞いています」
「……どう思う、ご主人。これはいわゆる『先祖がえり』という現象じゃないかと思うのだが」
ロックが問いをザナドゥに投げかけた。ロックが自身と同じ答えにたどり着いたことに少々驚きながらも、ザナドゥは頷き返した。
「……僕もそう思うよ、ロック。可能性が高いのは、先祖がえりだ。きっと姫様の中の翼の生えた獅子の因子が覚醒を果たしたんだと思う」
ザナドゥはさらにその先、なぜ近親婚までして濃い血を残したかというところまで踏み込もうとしてやめた。
「問題は、その覚醒した因子を、姫様には制御できていないってことだと思う。姫様が感情が昂ぶると、すぐに変身しそうになるってのは、そういうことだと思う」
「……っ!」
ザナドゥの推察にアレキサンドラは身を固くした。
ザナドゥは鋭く刃を入れるかのように踏み込んで自論を展開する。
「制御出来るなら、それは王家が持つただのエクストラスキルとして認識してもいいけれど、今のままじゃあ、姫様は危険な魔物と変わらない。実害も出ているしね」
ザナドゥは、一国の王女に対し、特に物怖じもせずに切り込んでいく。
「ほう……」
ロックがザナドゥを見て、感嘆の声をひそかに上げた。
その度胸は、彼自身高位の貴族という出自も関係していたが、割と現金なものでロックという圧倒的存在が自分についていることで、自身の危険を半ば度外視していた。
それにザナドゥは一度何かを決めたら、遠慮をまったくしない男だった。
超空間ボックスだの、禍断・雪走りといった使い方次第で世界のバランスをひっくり返すほどの道具は、ザナドゥ自身の情熱のままに作り出した結果であった。
「あの、実害というのは……」
まだアレキサンドラには、彼女が起こした実害について、話していない。
それについてザナドゥも流石に話すかどうかを逡巡した。これには彼女の覚悟を必要とするからだ。
「言ってもいいと思うかい、ロック」
「俺に聞くな。まあ、その王女次第じゃないか?」
ロックの答えにザナドゥは薄く微笑んだ。
「気が合うね、僕もそう思うよ」
「あの……」
不安げな表情を向けるアレキサンドラに、ザナドゥは引き締めた表情で向き合った。
「姫様、貴女は結構酷いことしてるんだけど、それでも知りたい?」
「……はい。それが私の業であるのでしたら」
毅然とした態度で、アレキサンドラは言った。
「わかった。じゃあ、話すね」
ザナドゥは、わかってる範囲で変身した状態のアレキサンドラが起こした事を説明した。
***
「……私は、なんて事を」
ザナドゥに事の次第を聞かされたサンドラの顔が青ざめ、口に手を当てた。
何の罪も無い自国民、しかも国に尽くす衛兵を殺めたのだ。
良識のある王族ならば悔やんで当然といえた。
そう、良識があった。
このことは、ザナドゥを酷く安心させた。
良識も無いような外道であったならば――ザナドゥはそんな人物を助けてしまったと後悔することになる。
「さて、どちらにしても王女を今の状態で解放出来ないぞ」
「えっ、どういうことでしょうか?」
「お前の体質だ。感情制御が出来なければ、すぐに変身してしまう奴など、野放しに出来るか。そんな奴がいたら、お前が為政者だったとしても間違いなく対処するだろう?」
「そう、ですね……」
「というわけでご主人、何とかできないか」
ロックは問題をザナドゥに投げた。
「いや、君も考えてよ」
「俺なら殺す一択だぞ。あいにくだが、肉体的損傷ならなんとか出来ないこともないが、こういう特殊なケースでは俺は無力だ」
「肉体的損傷なら何とか出来るんだ……」
「まあそれがこの世界で通じるかどうかは別にしてな」
しれっと物騒かつ意外な技能を言ったロックだが、武威の塊のようなロックが行う治癒行為と聞いても、ザナドゥにはまったく想像できなかった。
「……しょうがない、アレなら多分」
ザナドゥはため息をつきながら、超空間ボックスの中を漁り始め、薄青の液体の入った瓶を取り出した。
瓶の栓をはずし、瓶をアレキサンドラに差し出した。
「これは……?」
「エリクシール。金策用の一本だけど、出し惜しみ出来ないしね」
「エ、エリクシール!?」
アレキサンドラが、ザナドゥが気軽に差し出した瓶を、驚愕と共に受け取った。
「ご主人、そんなに凄いものなのかそれは」
「僕が作ったレプリカだけどね。おいそれと作り置き出来るものじゃあないけど」
「いえいえいえいえ。そのような次元のお話ではございません! あらゆる病魔を治し、呪いを解呪し、肉体欠損も治してしまうという幻の霊薬です。製法はおろか、材料も失伝し、御伽噺の産物としか考えられていない代物です。本当に、これが……?」
「効果は確認してるよ。姫様の体質に効くかわからないけど、多分大丈夫じゃないかなあ」
ザナドゥを見るアレキサンドラの目がゆれた。信じられないものを見る色をした目だった。
意を決して目を瞑り、瓶の中の液体を一気に飲み干すアレキサンドラ。
「甘い……不思議な味です」
飲んだ感想を漏らすアレキサンドラだったが、変化はすぐに訪れた。
「うぐっ!?」
アレクサンドラは突如として身体を背中が軋むほど体をのけぞらせた、白目をむいて。
「あが……くけ……」
既に首ブリッジを決めているような状態で、アレキサンドラは苦しみ悶えていた。
「……悪魔憑きかよ。何が起こっている?」
「多分、暴走している翼の生えた獅子の因子を沈静化しているんだと思うど。――でもちょっと気持ち悪いかな」
ぴくぴくとブリッジを決めながら痙攣するアレキサンドラだったが、跳ねるようにブリッジをやめると、
「おぶ、うぼああぁ……」
口から赤黒くなった血を吐き出した。
どろっとして粘性があり、明らかに普通の血ではないことが伺えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……うええ」
四つんばいの格好で荒い呼吸を繰り返すアレキサンドラ。
「ロック、彼女に水を。口の中に残ってるものをゆすいで出させて。少しでも残っていると良くないと思う」
ロックはそんなアレキサンドラにそっと近づき背中をさすり、ザナドゥから受け取った水筒をアレキサンドラの口に近づけた。
「ほら、水だ。口に含んで出すだけでいい」
「…………」
呼吸を整えるので手一杯なのか、ロックに対しアレキサンドラは反応しない。
「落ち着け、ゆっくり、ゆっくりでいいんだ」
「…………」
「しょうがないな」
ロックは水を口に含むと、アレキサンドラの肩を掴んで上半身を起き上がらせて、口付けをした。
舌をもぐりこませて無理矢理口を開けて、口移しで水をアレキサンドラに流し込む。
「もっ、もがっ……!」
「……ふっ、飲み込まずゆすいで吐き出せ」
涙目になりながらもアレキサンドラはロックの言うとおりに口の中で水をもぐもぐと動かし、地面に吐き出した。
「な、何をするんですか!」
顔を真っ赤にしてアレキサンドラはロックに怒鳴りつけた。
「お前が水を口にしないからだ。――それより良かったな、感情を昂ぶらせても変身しなくなったぞ」
「あ……」
ロックに言われ、はっとなるアレキサンドラ。
「うん、エリクシールはちゃんと効いたみたいだね」
「……本当にエリクシールだったのですね。身体がカッと熱くなったと思ったら……体が言うことを聞かなくなって……こみ上げてくるものを吐き出さずにはいられませんでした」
「多分、先祖がえりを起こして身体がビックリしてたんだろうね。エリクシールが君の身体の中を整えて過反応を起こしていた因子を纏めて吐き出させたんだ。それがさっきの黒い血だと思う」
ザナドゥが先の気持ち悪いと評した反応のことを説明した。
ちなみに気持ち悪いと言った暴言は、彼女の耳には届いていない。
「さて、ご主人。これでこの女に関する問題も解決したな、荷台に乗ってくれ」
ロックは、解決と口にした。それは、王女とはもう関わる気は無いのだということ。
「お、お待ちになってください!」
「なんだ?」
「私も一緒に連れて行ってくれるのでは……?」
「お前は何を言っている? 別にお前を荷台に乗せる義理は無いだろう」
「ええっ? でも貴重な霊薬まで与えてくださったのに?」
「ご主人、この女、こう言っているが、連れて行くつもりで治したのか?」
ロックとアレキサンドラの視線がザナドゥに集まった。
ここまでロックに流されるだけだったが、ロックからすると、話の主導権はザナドゥが握っているらしい。
「えっと……連れて行くつもりは無かったよ? 姫様を気の毒には思ったけど」
「だそうだ」
「そんな!? これから謀反起こした者達から国を取り戻さなければならないのに!」
悲壮な顔をして言うアレキサンドラだったが、ロックは冷たい視線を向けるだけ。ザナドゥはまだいまいち話を飲み込めていなかった。
「あの、僕に何か期待してるのなら、それはちょっと違うって言うか、荷が重いって言うか……」
「そんなキサラギ様! 王権を取り戻すためにはキサラギ様のお力が――」
「そこまでだ、アレキサンドラ=フリューゲル。お前の都合に、ご主人を巻き込むんじゃない」
ぴしりと叩きつけるように、ロックは言った。
「お前を助けたのは成り行きでそれ以上でも以下でもない。ここから先はご主人に義務は無い。お前がどうしようと自由だが、それはご主人に関わらない限りという注意がつく」
「……でも、私は、私を逃がしてくれた爺ぃたちのためにも――」
「だから、それはお前の都合だ。俺達にしてみれば国の頭がすげ変わったというだけのことだしな。それにそもそもの話、お前が本当に王女かどうか、王権を奪われたという話が本当かどうかも、俺達にはわからないのだぞ?」
「……それは」
「それとも何か証明するものや、証拠はあるのか?」
ロックの畳み掛けるような言葉に、俯き、服のすそを握り締めて身体を震わせるアレキサンドラ。
「……ありません。真実は、私の胸のうちにしか。でも、本当のことなのです!」
「それを訴えられてもな。俺達にとってはその政変がいいとも悪いとも判断がつかんし、なにより――」
「ロック!」
ザナドゥは大きく声を発して、ロックの言葉を遮った。
「あんまりいじめないで上げてよ。姫様もきっと混乱してるんだよ」
「……そうだな、少々言い過ぎたかもな。済まなかった、アレキサンドラ」
恐ろしい武威を持つロックも、ザナドゥの諌めには素直に従った。
ザナドゥはロックは、ザナドゥとの間に交わした契約を重んじ、常にザナドゥの安全を優先する。
ことさらきつい物言いでアレキサンドラを突き放すのもその一環だろうとザナドゥは思った。
それにこうしてザナドゥの諌言を聞くということは、ザナドゥの意志を尊重しているのだろう。
「とりあえず、最寄の村か町までは一緒に行きましょう。ロックもそれでいいよね」
「ご主人がいいのならな。荷台に乗せるのもやぶさかではない」
「だってさ、とりあえず姫様。ここから離れましょう」
ザナドゥが俯くアレキサンドラに優しく声をかけた。
「……う」
「……うん?」
「うわああああああん、私だって、私だってーーー!」
アレキサンドラの目から溢れる涙。息せき切ったように彼女は泣き出した。
「突然襲われて、何もかもわからないうちに逃亡生活で! 爺ぃたちの安否もわからなくて! しかも知らぬ間に私が民の命を奪ってしまったなんて言われたって! 私だって好きでこんなことになったわけじゃないもん! うわああああああん!」
盛大に泣き出したアレキサンドラに、ザナドゥはおろおろと右往左往し、ロックはため息をついた。
「しかも! しかも、誰とも知らぬ無頼の男に私の唇が奪われてしまいましたわーーー!」
「切羽詰った状態だったんだ、あの程度のことをとやかく言うな」
「初めてだったのに! 舌まで入れられてーー!」
ロックは心底うんざりしたような顔で、助けを求めるようにザナドゥを見た。
「ご主人、何とかしてくれ」
「いやあ、これはなんともならないんじゃないかな」
ザナドゥは自分にはお手上げだと肩をすくめた。
「責任とって! 責任とってくださいまし! というか取りなさいよおおおおおおおっ」
「おい、ものすごい乱暴なこと言ってるぞ、この女。逆に聞くがそれで責任取られていいのかよ」
ロックの物言いは、泣き喚くアレキサンドラには届かない。
「まったく、どうすれば泣きやむ……ちっ」
ロックは、苛立ち頭を搔いて――突然血相を変えてアレキサンドラに飛び掛かるように近づき、彼女を胸のうちに抱きすくめた。
「えっ、ええっ」
ひゅっ……。
空気を裂くかのような音がザナドゥに聞こえた。
「あっ……!」
そして理解に至る。ロックの突然の行動は、アレキサンドラを遥か遠方より放たれた長矢による狙撃から守るためであったことを。
ロックは、アレキサンドラの身を庇いつつ、飛んできた矢を掴んでいたのだ。
「た、助けて、下さったの……?」
突然の出来事に泣き止んだアレキサンドラも理解に及んだのか、ためらいがちにロックを上目遣いで見た。
「……まぐれだ」
ロックは、アレキサンドラを自分の胸に押し付けながら答えた。
「視力強化……退いたか」
ロックは、アレキサンドラを解放した。
「やれやれ……狙撃による暗殺か。下手を打ったな相手も。これでは、自分のやましさを証明するようなものだろうに」
ロックはぼやくように呟いた。そして大きく息を吐くと、アレキサンドラに向き直った。
「アレキサンドラ。近くの町まではとご主人も言った。それまでの間はとりあえず、お前のことも守ってやる。荷台に乗るといい」
「は、はい。わかりました……ココノエ、様」
応えるアレキサンドラの頬はほんのり赤かった。
――こんなに鮮やかに女性が恋に落ちる様を僕は初めてみた……。
ザナドゥは、このときの出来事を鮮明に記憶した。
それが酒の肴の思い出話になるのは、先の話である。
「なんか、とんでもないことになりそうな予感がしてきた」
「ご主人、早く乗れ」
ザナドゥは一人つぶくと、ロックに促されつつ荷台に乗った。
***
この時のエピソードは『聖王女との出会い』と呼ばれ、マイスターと鬼神の最初の伝説として有名である。
キャラクター紹介
・アレキサンドラ=フリューゲル。
フリューゲル王国第一王女。年は16歳。
ふわふわの金髪に碧の瞳。程よい肉つきの美少女。さすが王家の血筋。
クーデターにより現在追われる立場。
幻想種・翼ある獅子への変身能力があるが、現段階では自発的な変身は不可能。イロモノにもほどがある.
作者初の〇〇〇インである。吊り橋効果は偉大で「なんでこんな粗野な男にドキドキするのか」と、意地っ張りなツンも兼ね備えたてんこ盛りヒロイン。