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in 森

フーリは軽い浮遊感、まるで仮想現実の世界へダイブする時に感じる感覚を覚えながら、重たい瞼をなんとか開けようとしていた。

自分の近くには複数の気配が感じる事が出来たので、先ほど一緒にいたメンバー全員が自分と同じ場所に居る事を感じ取ることが出来た。



しかし、ここでふっとフーリは疑問に思った。

何故気配という曖昧な物が感じられるのか?また、この草を磨り潰したような青臭い臭いは何なのか?と。




疑問には思ったがフーリは今は周囲の確認がしたいと思う一心で、深い眠りから起きたような身体のだるさと瞼の重みに抗いながら目を開ける。


二度、三度と瞬きをしたフーリは自分が森の中、少し拓けた地面の上に居る事を確認した。

そして自分の周りには、フーリと同じ状態で4人の仲間がいる事を確認することが出来た。


重たい身体を起こして、しっかりと自分の脚で地面に立ったフーリは近くでまだ跪いた状態で苦しそうにしているコイルに手を貸す。



「おい…、コイル。

 大丈夫か?」



「あっ、あぁ…。

 ありがとう、フーリ…」



震える声で身体も震えながらなんとかフーリの手助けによって立つ事が出来たコイルは右手を額に当てて何度か頭を揺らす。

意識がハッキリしたことで自分がどこに居るのかを確認したコイルは一言呟いた。


「森?なんで…、ネコミミに居た筈なのに」


「さぁな…。無理しなくていいぞ?

 そのままじっとしとけ」


未だ意識はハッキリしたが、身体を左右に揺らしているコイルを見てフーリは休むように言うと、残り3人の場所へ向かった。



「おい、ありす…」



膝を抱える形で丸まるありすのことを心配したフールは、優しく声を掛けようとして、手を止めた。

何故なら、気を失っている筈のありすの口からは「もふもふ…うふふふぅ…」と何とも幸せそうな声が聞こえてきた。



「(こいつは、後でいいか…)」


フーリは幸せそうに気を失っているありすを放っておくと、残りの二人に近付く。


リグリットは何とか体を起こして立とうとしているので、手を貸してやる。


「リグリット、大丈夫か?

ほら…掴まれ」


「あぁ…、すまない…」


リグリットは礼を言うとコイルよりもしっかりとした足取りで立ち上がる。

完全に立ったことを確認すると、フーリは放心状態で座り込み、森を見ている謎謎へ近付く。


「…おい、謎謎?

大丈夫か?」


謎謎の顔の前で右手をふってみると、謎謎はぼんやりとした表情から、ゆっくりと目線をフーリの顔へ持っていく。


「…うち……。フーリ…?」


ハッキリとフーリの顔を見た謎謎は震える手でフーリの右手を掴む。

しっかりと掴んだことを確認したフールは、そのまま謎謎を立たせると。

リグリットを呼ぶ。


「リグリット、謎謎をコイルの所に連れて行ってくれ。

俺はありすを引き摺っていくからよ」


「わかった」



ありす以外が意識を取り戻し、フーリは未だに眠るありすの足を掴み、引き摺りながら思う。



これは"普通"ではないのではないか、と。






暫く、全員が落ち着くまでフーリは今現在、自分達がいる場所から森を見渡していた。

そして自分の記憶の中にあるGAUZSのフィールドと照らし合わせてみるが、見覚えのない森だと思う。


フーリに自信がない理由としては、GAUZSのフィールドが広大で、まだ誰も攻略していないフィールドも存在しているからだ。

しかも、少し前には毎月のようにアップデートが行われ、次々にダンジョンやフィールドが追加されていたという経緯もあり、最近は頻繁にあったアップデートも落ち着いたがフーリ達が未だに行った事のない場所は多くある。


この森はまさにそんなフィールドの一つなのかもしれない。

しかし、フーリの中ではそんな考えを否定するモノがあった。


それは今もこうして、森を見ているだけどもムクムクと大きなモノへ変わっていき、否定するための材料がどんどん減っていくのを感じていた。



彼が否定を繰り返している、そんな時だった。

彼の耳に微かな音が届いたのは。



彼は素早く音のする方に顔を向けると、ジッと森の中へ視線を送る。


彼の異変に気が付いたのはリグリットだった。

コイルや謎謎よりも比較的症状の軽かった彼女はフーリの見つめる先の森へ視線を向ける。



緊張した空気を二人が発していることに気が付いた、コイルと謎謎も億劫そうな動きで顔を森に向ける。


4人(未だにありすは寝ている)が森の一転に目を向けていた、そこへ。


ガサガサと藪を抜けてきた者達が姿を表した。


その者達は全員が全員、紫色の体で身長は人間の子供程、粗末な腰布を着けており、それぞれが錆びた片手剣、棍棒、鉈に斧を持っている。

顔はブルドックのように歪んでいて、尖った耳が左右に一対。頭髪は無く、ギョロギョロと動く二つの眼が、フーリ達5人を捉える。


『グギャギャギャ!!』


喜んでいるのか、始めに出てきた数匹の後ろから耳障りな音を奏でながら一匹、二匹と数が増えていく。


最終的に狭い森の空間に20匹の小鬼、GAUZSでも初心者がお世話になる"ゴブリン"が現れたのだった。

ゴブリンはゲーム初心者のプレイヤーでも、スキルを使うことなく倒せる、所謂ザコだ。

フーリ達古参のプレイヤーにとっては経験値の足しにも成らない本物のザコ。

しかし、フーリもリグリットもコイルも謎謎も4人が4人、同じように顔をしかめている。


それは何故か?


彼等が一様に顔をしかめた理由は二つのある。

一つは紫のゴブリンを彼らは見たことが無かった。

ゴブリンだと思ったのは特徴が一般的なファンタジーに登場するゴブリンの容姿だっただけで、確実にゴブリンと断定出来ないこと。


そして二つ目が、"臭い"だ。

ゴブリン(仮)のいる場所は風上で、フーリ達がいる場所が風下になっている。

その為、ゴブリン(仮)の臭いが漂って来るのだ。

何とも表現できない、表現するとしたら真夏の公園にある公衆トイレの臭いを更にキツくした臭い。


ゴブリン(仮)から漂う臭いに顔をしかめたまま、フーリは三人に聞く。


「おい…。

ありゃあゴブリンだよな?

紫なんて見たこと無いんだが…」


「あぁ…。

私も紫は初めて見るが、フーリもゴブリンだと思うか?

だったらゴブリンだろ」


「僕も初めて見るけど…。

ゴブリンじゃないかな?うっ…」


「うちは何でもいいから、この臭いどうにかしてぇ…」


リグリット、コイル、謎謎と返事が返って来るが、コイルと謎謎は臭いに参っているようで二人とも鼻と口を塞いでいる。


確認をしたフーリは一歩前に出ると、両手に砂嵐のようなノイズがはしり、ノイズが無くなると武骨な手甲が両手に嵌まっていた。



「この際、何でもいい。

向こうはヤル気だ、俺が相手するからリグリットとコイルはフォロー頼む。

謎謎はありすとポーションの用意をしといてくれ」


少し早口になるがフォローを頼んだフーリは無造作に一歩、また一歩とゴブリン(仮)に近付いて行く。


背中には三人がそれぞれの動きを感じながら、一番近くにいたゴブリン(仮)へ飛び掛かる。


古参であり、ゲーム内での戦闘経験は何千、何万とあるフーリの踏み込みはステータスの高さも合わさり、ゴブリン(仮)には目で追うことさえ出来ない。


先頭のゴブリン(仮)にスキルも使わない無造作な突きを繰り出したフーリはインパクト瞬間に嫌な感触を味わう。


それは、風船に水を詰めて殴ったような、そんな感触。


「(マズイ!)」


フーリがそう感じた時には、既に遅く。

先頭にいたゴブリン(仮)の頭が爆発した。

緑とピンクの肉片が辺りに飛び散り、ゴブリン(仮)達に降り注ぐ。


ゴブリン(仮)達はキョトンとした顔をして自分達に降り注いだモノを眺め、その後にフーリの足下へ倒れた頭の無い仲間を見ると、やっと何が起こったのか理解した。


『『『グッギィャ!!』』』


ゴブリン(仮)達がそれぞれの得物を構え耳障りな声で喚きだす。

フーリは素早く後ろへ飛ぶと、着地した瞬間構える。しかしその表情は苦々しいものだった。



「ちっっくしょうが!!

こりゃあアレか?俺の思った通りか!?

ふざけやがって!!

グロ過ぎなんだよ!畜生がぁ!!」


フーリは悪態を思うがままにぶちまけると大きく息を吸い、そして吐き出す。

そして自身の右手にこびり付いた緑の液体を振り払う。


地面に振り払った緑色の"血"が先ほど自分がした事の結果を嫌でも思い出させる。


「え?何?今の?

あれ?フーリが今殴ったゴブリンどうなっちゃったの?」


フーリは背中越しに聞こえた謎謎の声を聞いてもう一度大きく息を吸う。

そして近くに居るにも関わらず大きな声でハッキリと混乱した仲間に指示を出す。


「謎謎!

今は考えるな!とにかく、とっととありすを起こせ!!

そんで起きたらポーションを出してそこに居ろ!!

リグリット!

今すぐ俺の真後ろに来い!武器を構えるだけどもいい、皆を守れ!

コイル!

テメェは俺の逆の敵を狙え!!いいな!?逆だぞ!

絶対に俺に当てるな!!」


一息でそこまで言ったフーリは、また大きく息を吐き出し、また大きく息を吸う。

一度目を閉じて、三つ数えるとカッ!と目を限界まで開き、一歩を踏み出すと同時に叫ぶ。



「動け!!!」



その叫びは自分に言ったのか、それとも後ろの仲間へ言ったのか…。

フーリは右の拳を限界まで握り込み、手甲がギチギチと音を出す。

そしてそのまま、一番近くにいたゴブリン(仮)目掛けて拳を降り下ろす。


「うおぉぉぉぉおおおぉぉぉぉ!!!」



静かな森の中、フーリの声が響き渡った瞬間だった。

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