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仮想現実から異世界

21世紀以降、目覚ましい発展を見せた技術がある。


それが仮想現実世界、電脳世界とも呼ばれる人間の意識を電子情報として取りこみ、仮想の世界で疑似的な体験を実現する事が出来る技術だ。


この技術は年が経つごとに発展を続け、発表当初は大きな筺体の中へ入る必要があったが、今ではヘッドマウントディスプレイ型へと進化したこと、そして価格も安くなったことで一般家庭でも利用されるようになった。


この技術を使って様々な事が出来るようになったが、一番影響を受けたのがゲーム業界ではないだろうか。


色んなゲーム会社が、この仮想現実世界を使ったゲームソフトを開発、発売しており、今現在ではそのソフトの数も数える事が出来ない程存在しており、メジャーからマイナーまで様々なソフトが存在している。



そんなゲームの中のタイトルの一つで「GAUZS」というゲームがある。このゲームは多くのソフトの中でも少し特殊な仕様を採用していた。

それがファンタジーRPGなのに、『魔法が一切ない』という仕様だった。


魔法がないのにファンタジーと呼ばれる理由は、GAUZSに登場する敵モブにある。

このゲームに登場する敵モブはほとんどがファンタジー世界で代表的なモンスターであり、モンスターに限り魔法を使い攻撃を行ってくるといった仕様だったのだ。


開発者はこの仕様を発表した時。

「魔法ではない!特殊能力だ!」と言い張っていたが、魔法と特殊能力に違いがあるのか?という意見が多く出た。


そしてプレイヤーは魔法を使う事が出来ない代わりに、スキルと呼ばれる技術を用いて、または駆使し幻想上に登場するモンスターと戦うことになっているのだが、このスキルが曲者だった。


スキルは数百、数千個も存在しておりプレイヤーの行動や特殊な取得条件をクリアすることで覚えて行くことが出来る。そしてスキルの所有数は無限。どんなプレイヤーでも好きなスキルを取得する事が出来て、取得の上限が存在しない。


上限が存在しないという事は好きなだけ取得が出来るということになるのだが、そう簡単に事は運ばない。

スキルを取得する為の方法は様々で、難易度も様々だったのだ。


例えばソード系のスキルに「スラッシュ」と呼ばれる物があるが、この取得条件は一定数のモンスターを剣系統の武器で横斬りで倒すことで取得する事が出来る。

戦士系のスキル構成をしているプレイヤーであれば誰でも取得できるスキルの代表だ。


この様なスキルを初級スキルとプレイヤーは呼んでいるが、中級、上級と呼ばれるスキルも存在しており、その取得条件は級が上がるごとに難易度の高い物になる。


そして最上級スキルと呼ばれスキルが存在する。

このスキルはどのスキルも効果が高く、攻撃力が高い物ばかりであることから、全てのプレイヤーが取得する為に条件を満たそうとする。しかし、ゲームが発売されて5年が立つ今でも最上級スキルを取得出来たプレイヤーは100人にも満たない。


その理由が所得条件の高すぎる難易度なのだが、ある最上級スキルでは「ドラゴンの単独撃破」だったり、「一時間以内に1000体のオーガを撃破」といった条件である。


ちなみにドラゴンは50人以上のプレイヤーが束になってやっと倒す事が可能になるレベルであり、オーガは攻撃力と体力がバカみたいに高く、6人パーティーで普通に戦っても5分から10分の時間が掛かる。


今現在、最上級スキルの取得条件が判明している物でこれだけ難易度が高く、そして殆どの最上級スキルは今だ条件さえ発見されていないものばかりだった。


これらの理由から最上級スキルを取得したプレイヤーは他プレイヤーから尊敬とヤッカミと呆れから、「廃神」もしくは「キングオブマゾ」と呼ばれるようになった。




仕様がどこまでもマゾ仕様なことから、GAUZSを辞めるプレイヤーも多くいたが、それ以上に世界観に魅了され、やりこみ度の高さから多くの新規プレイヤーが参入するので5年経った現在も存在する人気ゲームとなっている。




そんなGAUZSの上級者が利用する町、「廃都市メルビナ」の中央広場に黄緑色の服を着た青年が降り立った。


黄緑色の服を着た青年。フーリは軽い浮遊感から解放されて、閉じていた眼を開けると、そこには見慣れた廃墟の町が飛び込んでくる。

廃墟と言っても今では上級プレイヤーの多くが利用する、今のGAUZS内でもっとも賑わっている町であり、中央広場の周辺には生産職の露店が並び、プレイヤー達はアイテムを見たり、仲間と団欒しながら思い思いにゲームを楽しんでいた。



フーリはそんな中央広場を見まわしてから、右の肩をグルグルと回して調子を確かめると、大きく背伸びをしてから屈伸を行う。

この仕草は、ゲームを始めた当初からの癖であり、5年経った今でも続けている仕草でもある。


身体の調子を確認したフーリは、「よし」と小さく口にするとメニューパネルを呼びだす。

普通はメニューを開く際にプレイヤーが決めた何かしら決められた操作が必要になるが、仮想現実に慣れた人間であれば、意識するだけでこれらの操作を自由に行う事が出来る。

ただ慣れると言っても、長くこのゲームをフーリと一緒にプレイしてきた幼馴染は今も右手を上から下に斬る動作を行わないと開く事が出来ないでいるので、個人で違いがあるようだ。



メニュー内にあるフレンドリストを見て、いつものメンバーがログインしている事を確認したフーリは、青文字で「ありす」と書かれているプレイヤーにコールをする。

数回コール音が鳴ってから明るい…イヤ。

明るすぎる声が聞こえてきた。


『ケンちゃん、おそ~~~い!

 もうみんな揃ってるんだから、早くこっち来て!!』



「だから…リアルネームで呼ぶなよ…」



フーリはリアルで幼馴染のありすが、現実世界での自分の名前を呼ぶ事を何度も訂正しているが一向に直ることがない。むしろフーリ自身もこれだけ言っても直らないので既に半分以上は諦めているが。



「で?来いって、どこに?」



『決まってるじゃん!!喫茶・ネコノミミだよ!!早く来てね!!』



そう場所を告げたありすとの通話が終了すると、フーリは軽く眉間を揉むとため息を吐き出して待ち合わせの場所へ歩いて行くのだった。






プレイヤーには明確な職業は存在しない。何せスキルの取得は自由であり、スキルの構成でプレイスタイルは様々に変化するからだ。

しかし、スキルの構成やプレイスタイルから大きく3つの職業に分類する事は出来る。

それが戦闘職、生産職、営業職だ。

戦闘職ではスキル構成が攻撃系から補助系などを重視した物であり、多くのプレイヤーがこの戦闘職に分類されている。

生産職は、戦闘職が使う武器、防具、アイテムといったゲーム内で使う事が出来る装備と道具を作るスキル構成でプレイをしているプレイヤーの事を言う。

そして営業職だが、これは少し特殊な職業で、厳密に言うと一般のプレイヤーはなる事が出来ない。この職業になる事が出来るプレイヤーは企業などの人間で、ネット内でお店の営業を行う人達のことをまとめて営業職と言っている。そして営業職に参加したい一般プレイヤーは企業が営業しているお店で従業員として働くことで、リアルマネー、電子マネーへ変換する事が出来る。

この仕組みは仮想現実が実用化されたことで、多くの人間が仮想現実内で暮らす事によって、その中で生活を行う、生産性を求めた結果、企業が参入したことで普及していったのだ。

今ではゲーム内で仕事をすることで一定の給金を貰って、リアルでも生活を営む人間も出て来ている。


そんな営業職が開いている店に、「喫茶・ネコノミミ」がある。この店は確かに営業職が運営する喫茶店ではあるが、元はGAUZSのプレイヤーだったオーナーが経営しており、そのオーナーとフーリ達は知り合いだったことから、喫茶店が開店した当初からの常連客として利用している店でもある。


そんな「喫茶・ネコノミミ」の前に着いたフーリは、また溜息を零す。



「なんで…こんな外装を選んだんだろうな、アイツ…」



フーリの前には目に痛い程のショッキングピンクの壁と、木の看板には猫が手招いている絵が描かれ、「喫茶・ネコノミミ」の文字は以上に丸みを帯びている。

ハッキリと言うとファンタジー世界でここだけ違う世界に迷い込んだような、そんな店の外装が「喫茶・ネコノミミ」なのだ。



フーリはもう一度溜息を吐くと、扉を押し開ける。チリンチリンと来店を告げるベルが鳴ると、店のカウンターから店長兼オーナーが顔を扉に立つフーリへと向ける。



「あら、フーリちゃん。いらっしゃい♪

 もう、みんな待ってるわよ」



そう言った店長兼オーナーの大柄な"男"は店内の奥を指さす。そう、店長兼オーナーは紛れもなく"男"である。ピンクの猫耳にフリフリのエプロンを付けていようが、"男"なのだ。



フーリは引き攣った顔で「ああ…」と言うと片手を上げて軽く挨拶をして店の奥へ入っていく。

そこには丸いテーブルに、いつのものメンバーが4人腰掛けてそれぞれが寛いでいた。


フーリが到着した事に気が付いた4人はそれぞれの反応を示す。

金髪の優男コイルは笑顔で片手を上げて、赤髪ポニーテールの鎧女リグリットは閉じていた眼を片目だけ開けてまた閉じる、ケーキをフォークに突刺して口に入れた状態で「んっん~」と何を言っているのか分からない黒髪で黒いローブを着た女謎謎は挨拶はしたということなのか、また食べかけのケーキに取りかかる。

そしてピンク頭の幼馴染でこのメンバーの一応リーダーである、ありすは腕組をして仁王立ちでフーリを睨んでいる。



フーリはそんな4人の反応を見た後に、空いている席に腰掛ける。


「おう、待たせた」



「本当だよ!!待ちに待ってカビが生えるかと思ったよ!!

 遅れたバツとして今日はケンちゃんの奢りだからね!!」


そう言ってありすは腕組を解くと大きな声でマスターを呼ぶと「レアチーズケーキ追加で!!ホールで持って来ちゃって!!」と言いながら席に座る。

そんなありすに追随するようにそれぞれが注文をしていく、コイルは「コーヒーをお願いします」と言い、リグリットは「ミルミル貝の海鮮パスタを大盛り」と言い、謎謎は「んっんん~ん!」と謎の言葉を言っている。



フーリはそんなメンバーに「少しは遠慮しろぉ~」と言いながらテーブルのメニューからサンドウィッチセットとオレンジジュースを頼む。



猫耳巨漢マスターは「は~い♪」と言ってカウンターの奥へ消えていった。



とりあえず注文が終わると満足したのかニコニコとした、ありすがメニューを開いて一つのアイテムを取りだした。



「よし!じゃあ昨日の成果を山分けする前に、ちょっと見て欲しい物があるんだ~♪」



そう言うと、ところどころに細かな細工がされている木箱をテーブルの真ん中へ置いた。

全員の視線がその木箱へ集まった事を確認すると。ありすは真面目な顔になる。



「実は…昨日のアースドラゴンのドロップにコレが入ってたんだけど…。

 何かわかんないだ、誰か調べて☆」



最後は真面目な顔ではなく「テヘ☆」と言って他のメンバーに丸投げしてきた。



「『テヘ☆』じゃないだろ…。こんなの生産職の鑑定持ってる奴に聞きゃいいじゃないか」



そう言ってフーリは箱を右手に持つと、表と裏を繁々と眺める。



「いや~、実は僕もありすと一緒に鑑定をして貰いにいったんだけで、鑑定じゃ分からなかったんだよねぇ」



コイルが苦笑しながら言うと謎謎が目を瞬いてケーキを飲み込んだ。



「え?マジっすか?

 じゃあもしかして超レアなの?この箱?」



謎謎はそう言うが早く、フーリの手から箱を奪い取ると蓋らしき所を開けようと悪戦苦闘している。

箱を取られたフーリはそんな謎謎に「この守銭奴が…」と小さな声で呟くとオイルの言った事を考える。


このゲームには様々なアイテムが存在しており、そのアイテムの中には通常では手に入らない超レアなアイテムが存在している。その超レアと呼ばれるアイテムは様々で武器であったり、防具であったり、ステータスを成長させるものであったりとプレイヤーなら喉から手が出るほどに欲しいアイテムだ。


プレイヤーの中にはその超レアを専門に探してオークションに掛けてリアルマネーと交換する連中も存在している。オークションでの金額はピンキリだが、高額な物だと数百万になることもある。

なので、謎謎の反応は当然であり、何のアイテムが早く知りたいと思うのも当然だ。



そんな謎謎を放っておいてフーリはコイルへ疑問に思った事を聞いてみる。



「でもよ、今まで超レアでも鑑定が不可能なアイテムってあったか?古参である俺らでも、そんなアイテムが出回った何て話聞いたことないぞ?」



「う~ん、僕らは確かに古参ではあるけど、鑑定をして貰ったプレイヤーは『そんなアイテムもある』って言っていたからねぇ。

 まだ、僕らが知らなかっただけじゃない?」



「中身が何か分からないのなら考えても仕方がないだろ。

 それよりパスタはまだなのか?」



コイルは鑑定をしたプレイヤーから聞いた話を報告して、リグリットはもっともな事を言うが、両手にスプーンとフォークを持っていることから、別にアイテムのことはどうでもいいらしい。



「ありすはどうすんだ?調べないことには超レアなのかどうかもわかんねぇし、売る事も出来ないだろ?」



レア、一般のアイテムに限らず、アイテムの販売を行う為にはそのアイテムの名称と効果を知っておく必要がある。何か分からないままでは売りに出すことも出来ないし、使用することも出来ない。




「うん?う~ん?

 私は何のアイテムか分かればそれでいいし、売るのも使うのも別に興味ないかなぁ」



ありすとしては何か分かればそれで良いらしく、所有権を主張するつもりはないらしい。

それが理解できたフーリは頷くと今後の方針について話をする。



「じゃあよ、今はこのアイテムが何のアイテムでどんな効果があるか、鑑定出来る生産職のプレイヤーを探すでいんじゃね?

 かたっぱしから当たれば誰か鑑定出来るだろ。それか、高レベルのプレイヤーを中心に当たればもっと早く分かるかもしれないしな」



そういって締めくくると3人は異論はないのか頷いてくる。フーリはそれを確認すると、静かになった隣の謎謎の方を向いて了解を取ろうとした。



「謎謎もそれで…」




フーリが確認の為に謎謎の方を向いて固まった。

そんなフーリの反応を見た3人も謎謎の方に目を向けるとフーリと同じ様に固まる。


そんな4人の視線の先では謎謎が泣きそうな顔でプルプルと震えている。




「あっ……、開いちゃった…」



そう言って今まで何をしても開く事がなかった箱は蓋が開きそこには、歯車の様な物が金色に光りながら一定の間隔で時を刻むように動いていた。



「ど、どうしよう…」


謎謎がそう言った瞬間、歯車がぶわっと5人を包み込む。

反応出来た物はその場から動こうとしたが、身体が動かない、声を出そうとした者も同じで声が出せない。


5人を包んだ歯車が一層激しく金色に光るとギュルと回転した瞬間。

光が収まった店内には5人の姿が無くなっていた。





「おまちど~♪たぁ~んと…お…たべ…。

 あら?あの子達どこに行ったの?」


5人が居なくなった店内では巨漢ネコミミ男の独り言だけが残った。



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