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意外な真実

お気に入り登録が500件突破しました!

ありがとうございます!!

今後も作品、作者ともによろしくお願いします(>_<)

ラヴァナ協会の外に出ると協会内での騒動は外にも聞こえていたらしく、入口の周囲には人だかりが出来上がっていた。

協会から凄い音が聞こえて、その後出てきたフーリ達に視線が集中するのは仕方がないことだった。


「はぁ~…、殺っちまったな」


「何だか字が違う気がするんだけど?」


遠巻きに視線を向ける野次馬を見たフーリは一つ溜息を零し言うと、すかさずコイルがツッコミを入れるが彼も傭兵のうち何人かは本当に死んでしまったかもしれないと思い、それ以上は何も言わず無言になる。


彼らの身体能力は、ゲーム内で培ったステータスそのままなので、少し力を入れただけで思わぬ破壊を行ってしまう。

そのことから彼らはこの一カ月で自分達の力をセーブする事を、文字の習得の合間に少しずつ進めて来ていた。

努力の成果としては、意識しておけば物を壊すことはないと言う事、そしてフーリの最大出力はドラゴン(クロ特大バージョン)との綱引きを王都郊外の森の中で行って互角に対抗できるだけの力がある事が分かっていた。


ちなみに昔の話になるが、この世界で最強と呼ばれた魔法士はドラゴンと戦い苦戦の末に勝利したらしいが「ドラゴンと純粋な力比べをする者は唯のバカだ」と後に語ったらしい。


フーリは一応、先ほどのラヴァナ協会では手加減をして傭兵達へデコピンをしたが、天井に突き刺さることで二次被害が起こり危険な状態の人間もいたかもしれない。

その点を考えれば手加減をしていたとしても、彼らの振るう力は命の危険があることには変わりはない。そのため今になって後悔をしたのだが、幸い彼は切り替えが早い。


「まぁ、殺っちまったもんは仕方ねぇ」


「そうね、あいつらウザかったし。

 これからグチグチと言って来ただろうから、最初にガツン!とやっておけばいいのよ」


謎謎はそう言って「当然!」と言わんばかりの顔をしていたが、彼女はフーリの言った「殺る(やる)」の意味を理解出来ていないようだった。


4人が謎謎へ生温かい視線を送っていると野次馬の中から見覚えのある顔が出てきてフーリ達に声をかけてきた。


「……君達は何をしたんだい?」


いつもの装飾のない質素なローブではなく、少し仕立ての良い白のシャツに黒のズボンを履いたロブが5人を見て呆れ顔になっていた。


「ああ、ロブさんも来てくれたからソロソロ行こうか」


「そうだな、行くぞ謎謎」


「…」


「メイちゃん行くよ~」


「あれ?何でみんなそんな反応なの?

うち何かした?あれ?」


ロブが何か聞こうとしたがコイルがそれを遮り、野次馬の中をロブの背中を押して進み、そのあとを4人が着いて行くが、ロブと謎謎は4人の反応に首を傾げたまま協会前を後にしたのだった。




フーリ達がラヴァナ協会で人間活け花を作っていたころ。

御披露目を終えたルチアナは王城の自室で乳母妹であるエリアと、数人の侍女に化粧直しをして貰っていた。


無事に国民へ御披露目を終えた彼女は、次は貴族達への御披露目を行う為に晩餐会用の装いへ着替えの真っ最中であった。


ルチアナの乳母妹でロブの妹のエリアは女の自分から見ても美しい彼女を見て、気付かれない様に感嘆の言葉を心で洩らす。


「(ルチアナ様…何て凛々しく美しいのでしょう…)」


彼女は自他共に認めるルチアナ教の信者で、ルチアナの幸せなら火の中、水の中を路で行く娘だった。

彼女から見て今日のルチアナは特別輝いて移っていた。

しかし、鏡越しにルチアナの表情を見ると、エリアの表情が曇る。


「(でも…ルチアナ様の本心は今日という日を喜んでいらっしゃらない…全てはあの男が原因だ!!なんて忌々しい!!)」


先程までの見惚れた表情から一変、エリアの顔には憤怒の色が差す。


「(あの男が現れてからルチアナ様は変わってしまわれた、人前でも屈託ない笑みを魅せ、とても楽しそうに日々を過ごされていた…)」


ルチアナは元々社交的とは言えない性格で、一人になりがちな所があった。

これは彼女が望んでそうなったのではなく、現国王の唯一の御子として生まれたが、女である事を理由に、心無い貴族から陰口を言われている事を知っていたから…。

心優しく、それでも王族の1人としての彼女は、凛々しくそして気高くあろうとして無理をしてきた。


そんなルチアナの姿を幼い時より間近で見てきたエリアは彼女が無理をしていること、そして優しくて心が弱い事を知っていた。


ルチアナの無理をしている姿を見た彼女は、自分がルチアナを護り、そして一番の理解者で在ろうとこれまで努力してきた。


「(昔とは違う、力も地位も手にいれた私なら、ルチアナ様を御守りできる!)」


彼女はルチアナを思う一心で魔術の技術を磨き、魔力も高い。魔術士として一目置かれる存在になる事が出来た。

その結果として近衛隊付魔術士としてルチアナの近くへ侍る事も許されていた。


そんな中で起きた、ランカスタ侯爵の事件、そしてルチアナへの襲撃。

そこで彼女はルチアナを守る事が出来る事に喜び、実際に目覚ましい活躍を見せていた。

…飛竜が現れフーリ達が来るまでは。


彼女からしたら、フーリ達は自分の功績を横取りした卑しい者達と写り、実際に今でもそう思っていた。

さらに卑しい者達は敬愛するルチアナの信頼まで勝ち取る事になると、彼女の心は穏やかではいられなかった。


「…エリア?どうしたのです?」


ルチアナに名前を呼ばれた事で我に返ったエリアは極上の笑顔を顔に張り付けて、ルチアナを見る。


彼女は先程着ていた純白のドレスから着替え、淡い"翠"のドレスを身に纏っている。

その"翠"はあの男の色、ルチアナが意識して選んだかは分からない。

だがエリアは彼女が無意識でも、意識していたとしても気が付いていた。


「(ルチアナ様の中であの男、…フーリが大きくなっているのは確か…)」


ドレスへの嫌悪を少しも表に出さないエリアは応える。


「たいへんお似合いです。ルチアナ様」


エリアの誉め言葉に気分をよくしたルチアナは、本当に嬉しそうに「ありがとう」と答える。


エリアは、そんな彼女の笑顔を見ながら心中では嫌悪、憎悪の感情が止めどなく溢れるのを必死に耐えるのだった。





王城の別の場所では、報告書を片手に国王ベルトランが宰相と向き合い、悩み唸っていた。


「…これは何時のことだ?」


「つい先日の事です。報告は、帝国軍が連合軍と戦端を開いて直ぐのことです。

この報告書が届くまでの時間を考えれば既に初戦は終えている可能性はありますが」


「…そうか」


ベルトランはそう言って、手元の書類を机の上に置いた。そこには2枚の報告書と一通の手紙があった。


2枚の報告書…、その1つは公国からもたらさえた大陸中央の戦局状況と中小連合へ帝国が戦線を布告し開戦したことが書かれ。

近い将来、公国と王国へ帝国の侵攻があるかもしれない事が書かれていた。

報告書の最後には公王のサインがあり、公国軍はこれから国境の閉鎖と警戒を強める事が記されていた。


「…こちらが出遅れたとは考えたくはないが、相手が早すぎる。

まだミレイル王国との戦いから5年しか経っていないのにも関わらず、大陸中央は既に帝国の手の中…。

外への侵攻を直ぐに始めるとは…」


帝国はこの5年の間に大陸中央に存在した国々へ侵攻、これを制圧。5年前に比べてその国力は軽く計算しても10倍、いや10倍以上となっていた。

これは王国と帝国で比べると100倍以上、もう計算するのも嫌になる程の差が存在した。


ベルトランは帝国への備えとして友好国へ連合加盟の手続きを行っている最中毒に倒れた。

言っても取り返しのつく事ではないが、もっと早くに動いていれば…、上手く国内貴族を牽制する事が出来れば…。

そう思ってしまうのも仕方のない事だった。


そしてもう一枚の報告書へ目を向ければ、これもベルトランの頭を痛ませる内容だった。

そこにはランカスタ侯爵と彼と関係が深かった貴族の処分の結果報告と、ルチアナを襲撃した者達で生きていた者が獄中にて死亡した事が書かれていた。


囚人が獄中で死んでしまうことはままあることなので、その者達の死は簡単な報告しか記されていない、だが…。


「この襲撃者…口封じされたのではないか?」


ベルトランは予想を口にしたが、真実であると自分の勘が伝えていた。


「はい、憲兵隊の者達もその事を申しておりました。

しかし、証拠もなく侵入された形跡もない。

元々"彼等"の手によって重症だった者達なので、本当にただ死んでしまっただけかも知れないと、今後も町の警備、侵入者が存在したかもしれない事を考えて調査は続けると申しておりました」


「そうか…ルッテンス。お前はルチアナを襲撃した者、ワシに毒を盛った者、この2つのことどう思っている」


「同一犯、帝国の者ではないかと」


「そうか…、であろうな。

我らに気付かれることなく城と軍の牢獄へ侵入する者達か…、厄介な存在だ」


ベルトランの言葉に宰相も深く頷く。

彼も襲撃者達が獄中で死んだ事にたいしてはそこまで重要と考えていない。

尋問したとしても口を割る可能性は低く、現に死ぬまでに行った尋問では誰1人として口を割らなかったのだ。


問題は自分達が万全の警備体制を引いていたにも関わらず、気付かれず、そして証拠も残さず侵入された事。

そんな事が出来る者、または者達が複数存在するかも知れない事実。

そんな手練れが帝国の小飼として存在するかも知れないということ。

もしも存在、いや確実に存在するとなると対策が難しいというのが2人の共通認識だった。


ベルトランは疲れた表情のまま報告書から目を離し、手紙を持つとヒラヒラと振って、宰相にみせる。


「侵入者については警戒を強めるだけにしろ。…むしろそれしか出来んのが本当の所だが…。

それに、いざと成ればフーリ達には頼る事も考えておけ。マチルダも帰って来るしな」


その言葉を聞いた宰相は器用に片方の眉だけ動かしてベルトランから手紙を受け取ると、内容を流し読みする。

読み終えた宰相は一度目を瞑り、眉間を片手で揉んでから手紙をベルトランへ返した。


「…あの方が帰ってくるのですね。まぁ、それについては彼に同情しますが…。

陛下は彼をどうするおつもりなのですか?

彼だけではなく"彼等"ですが…」


宰相であるルッテンスはフーリ達のことをベルトランとルチアナから簡単に説明はされていたが、信用はしていなかった。

彼にとってフーリ達はただの戦闘能力が高い人間、そこらに存在する傭兵へ向ける感情と違いはなかった。


しかし、彼の仕える王と王女は違うようだった。

彼等の事を認める信用し、また扱いに困っているようだった。

これはまるで、親しい友人へ向ける物に似ている。

ルッテンスはその事に気が付いていたがこれまで黙って見てきた。

しかし、状況が動けば見ているだけではなく対応を考える必要がある。

国内が一応は落ち着いたが、国外には帝国の驚異が存在し、戦争ともなればフーリ達の力は魅力的であり、そして驚異でもあった。


彼は直接その力を見ていない、聞いただけだがフーリ達の能力が本当で強力なドラゴンや魔獣を従えているなら、是非とも帝国戦に使いたいと考えていた。

そして驚異になるなら"処分"する事も考えた。


そう考えたからこそのベルトランへの質問だった。


ベルトランはルッテンスの顔を見て苦笑すると彼の質問へ応える。


「わからん」


「どういうことですか?」


「わからんのだ、フーリはルチアナへ『信じろ』と言い、自分達はルチアナを『信じる』と言ったそうだ。

…ワシはな、その様な言葉を言われた事が人生で一度もない、勘違いするな?その事で拗ねたりはせん。

…だが、その言葉を言われたルチアナが羨ましいと感じた、そしてフーリ達のことは好ましいと感じた。

王としてではなく、ベルトラン=フォーゲルハイツとしてだ。

だから、彼等をワシも信用し信用される者になりたいと思った。

可笑しな話だろう?王が"友"を求めたのだから」


そう言ってベルトランは楽しそうに笑う、ルッテンスは静かにその姿を見る。


「多分、フーリ達は自分達の目的の為ならなんでもするだろう。だが、自分達を信用し信じた者へは必ず力を貸してくれる。

信じた者を裏切らない、そんな者達をワシは利用しようとは出来ん。

ただ願うことしか出来んのだ。

…ルッテンス、わからんとはそう言う意味だ」


ベルトランは笑い話した後は微笑みを浮かべ、彼を王太子時代から支えてきた"友人"へ顔を向けている。


"友人"である冷たく鋭い眼をした男、ルッテンスは彼を見て深く溜め息を零すと深く腰を折り礼を取った。


「僭越ながら、陛下の"友人"として言わせて頂ます。

…私は彼等を信用出来ません、しかし貴方様を信じる者として彼等を信じようと思います」


そう言って顔を上げた"友人"へベルトランは「すまんな」と言って席を立つ。


「融通のきかん"友人"を持つと言葉が多くなっていかんな」


そう笑ってみせたベルトランへルッテンスは…。


「歳でしょう」


と短く応えると2人で笑うのだった。

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