まさにチート
豪華というには派手さはなく、所々には絵画や花が活けられているその何れもがシンプル、大きな窓からは徐々に陽が沈んで来ているのが見え、西日が掃除の行き届いた廊下を照らしている。
そんな城内の廊下を奥に向かって歩いている集団があった、城内に勤める者達は、その集団を見ると一様に驚いた顔をするが直ぐに表情を消すと廊下の端へ寄り腰を折っていた。
集団が通り過ぎた後には様々な憶測が小さな声で語られ、または首を捻り疑問を浮かべていた。
廊下を進む集団は、王女と宰相であり、他には護衛の近衛隊副長や魔術士、見慣れない格好の男女達。さらには最近になって王宮の奥から出てきた王弟の姿があった。
彼等は確りとした足取り、それも少し速い歩みで城内にの奥へ進んで行くと。
1つの大きな両開きの扉へ辿り着く。
その扉の前には綺麗な鎧冑を纏った兵士が、左右に合わせて2人立っており、少し離れた場所には更に複数の兵士の影が見える。
王宮の王族が生活する一角に存在する、警備が最も厳重な場所。
王の私室前で止まった一同は、宰相が警備の兵士に一言二言話をすると一度フーリ達を見てから、了解した兵士2人が扉を開ける。
王の私室は想像以上に広く、しかし質素なものだった。目につくのはそれなりに上質なソファーが幾つかとテーブルが1つ、大きめの棚が1つあり部屋の奥には大きなベットが1台。
そしてベットの周囲には複数の人間が立っており、少し離れた壁に侍女が2人。
入室してきた者達に顔を向けて近付いてきたのは初老の男性で、彼はルチアナの前に立つと胸に手を当てて挨拶をする。
「殿下…如何なさいましたか?」
「ケイン、御父様…陛下にこのもの達を引き合わせたいのです。理由は後でお話します」
ルチアナが示した先にはフーリ達5人がおり、ケインと呼ばれた初老の男性は訝しげな顔をすると、宰相を見る。
宰相は小さく頷く事で応え、初老の男性はそれ以上何も言わずルチアナ達へ道を譲った。
「ありがとう。
フーリ殿、行きましょう」
ルチアナに言われ、フーリ達5人がルチアナと共に部屋の奥へ進んで行く。
ベットの前には、際ほどのケインと呼ばれた初老の男性よりも高齢な老人が2人いたが、ルチアナ達が近付くと腰を折って礼をすると、ベットから少し離れた。
彼等は豪華な黒のローブと白いローブを着ており、フーリは魔術士と医師ではないかと当たりをつける。
広いベットの上には顔色が土色となり、頬の肉は削げ、目の辺りには隈が出来ている…。
どう見たところで健康とは言えない姿をした金髪の中年男性が横になっていた。
意識はあるのか、その男性の瞼が少しだけ開き、ルチアナ達に向いた。
「…御父様」
その男性、ルチアナの父でありこのフォーゲルハイツ王国の国王その人はルチアナを認めると少し口の端を持ち上げ微笑んだようだが、痛々しい印象しか受けない。
ルチアナは、そんな父の姿を見て苦しそうな顔をすると、縋る思いで謎謎を見る。
「メイ、お願いです…。
御父様を助けて下さい」
「…わかった、何とかやってみる」
そう言った謎謎は肩から掛けていたボロい鞄を開くと、3つの小瓶を取り出す。
彼女の持っている小瓶、それはフーリ達もゲーム内において何度もお世話になった物。
『万能薬』、『SPポーション』、『回復ポーション』の3つだった。
ゲーム内においては何でもない只のポーションだ、これを使う事に気が付いたフーリ達は、その効果がこの世界でも有効なことを既に自分達で試し、確認をしていた。
ただこの世界の住人に使って効果があるかはわからない。
ここに来る途中、謎謎が半泣きで追い掛けてきた後に、どうやって解毒するかは全員に説明をしていた。
勿論、懸念される効果が無いかもしれない事、また解毒が出来ず、違った症状が表れる可能性も話した。
それらの懸念を理解した上でルチアナはこの方法に賭けることにしたのだ。
今回はゲーム内のショップで普通に購入する事が出来る『回復ポーション』の他に、謎謎がスキルを使い調薬した『万能薬』、『SPポーション』を使う。
「ルチアナのお父さん、今からこの薬を飲んで貰うからね?
…味の保証は出来ないけど、これで毒を治せるかも知れない。
だからお願い、飲んでください」
「…」
謎謎言葉に国王はルチアナをもう一度見る。
「御父様、私を信じて下さい」
ルチアナの必死の懇願に暫く考えた国王が緩く頭を縦に動かす。それを確認した謎謎が国王に近付き、その口に先ずは『万能薬』のポーションを流し込む。
味が悪いのか、国王はポーションを全て飲み干す間、顔をしかめていたが、それは毒の苦しさからきている物なのかフーリ達には判断出来なかった。
そして全てのポーションを飲み終えた国王に、周囲が注目するなか、変化は直ぐに表れた。
土色だった顔に色が戻っていき、どんどん血色が良くなっていく、先程のまで苦しそうな顔だったのが、最初は戸惑い、次に驚愕、そして完全に健康な人間の色を取り戻した国王の顔には歓喜の表情があった。
「…ぉぉぉぉおおおおお!!!!」
「陛下!?」
「おっ…御父様!?」
いきなり国王が雄叫びを上げベットから起き上がる。
余りの変化と国王の反応にルチアナ達から驚きの声が出るが、国王本人はそんな周囲にも構うことなく、謎謎の腕を勢いよく掴みブンブンと音が聞こえる勢いで上下に動かす。
「そなた!礼はいくらでもする!!
先程の薬を売ってくれ!!
今までウンともスンともいかなかったワシの息子が復活しおった!!
ホレ!この通りじゃ!!」
そう言って謎謎の手を離すと、ベットの上に立った国王は毒に侵され病人だったことから薄い夜着で、下半身の一部が大きくなっている事が一目でわかった。
それを目の前で見せられた謎謎は…。
「…」
声のない叫びを上げると、白眼を剥いて倒れてしまった。
「…おい?どうした?
…この者はどうしたのだ?」
そこにはベットの上で自分の息子の勇ましさを周囲に魅せ付ける国王がいた。
「…御父様……」
「「「…」」」
「ルチアナちゃんのお父さんって変態だったんだね」
その国王の姿を見た娘であるルチアナは頭を両手で抱えしゃがんでしまい。
フーリ、コイル、リグリットは無言で目を反らし、ありすは的確にルチアナの止めを差す言葉を呟いたのだった。
漸く国王が色々と落ちつた事で、国王の解毒に成功した事を認識した部屋の中にいた者達は、国王の快復を喜び、フーリ達に御礼の言葉を述べていくが、一番の功労者である謎謎は未だ目が覚めないでいた。
結局、ゲーム内のポーションは、此方の世界の住民にも使う事が出来る、効果が有ることは理解できた。
しかし副作用も起こる事が分かり、今回はその副作用が体に悪い物でなかった事は幸いだった。
…1人不幸になった者もいるが。
この結果を見て、フーリは今後検証する必要が有るとも思っていたが、絶対自分は試したくは無いとも思っていた。
「いや、先程は失礼した。
出来れば先の事は無かった事にして貰いたい、余りにも嬉しく…ゴホン!
助けて貰った事、ありがたく思う。
ワシはフォーゲルハイツ王国、国王。
ベルトラン=フォーゲルハイツだ」
ルチアナに睨まれた事で咳払いしてから、自分の事を名乗ったら国王、ベルトラン。
彼は体に違和感等が無いか、その場にいた医師に診断して貰い、一応は快復している事が分かったが、念のために未だベットの中にいる。
直ぐにでも王が快復した事を城内に報せるかと思っていたが、それはベルトラン自身が止めさせ、それを宰相も支持した。
今はベルトランの私室で彼が毒に侵され、床に伏せていた間に起こった事を報告し終えた所だ。
「ルチアナの命だけでなく、ワシの命まで救い。そなた達の働き誠に感謝している。
報酬としてワシが用意出来るものであれば何でも用意しよう。
…しかし、そなた達も知っての通り、まだこの国は混乱の中にある。今暫く待ってくれ」
「勿体無き御申し出、有り難く思います。
ですが私達は既に王女殿下より報酬についての御約束を頂いております。
これ以上は過分となります。お心遣いだけお受け致します」
「…そうか、欲が無いな。
そなた等を選んだルチアナは正解だったようだな」
フーリのバカ丁寧な言葉に何人かは吹き出しそうになってはいたが、何とか堪えると話は進んでいき、今後の方針について話になった時、扉の外から声が掛かる。
『宰相閣下の御付きの者が参っております』
その兵士の言葉に話は一時中断となり、宰相が部屋を出ると同時に老人の医師と魔術士もベルトランへ挨拶をして出ていった。
部屋の中にはベルトランとルチアナの親子、そしてフーリ達5人にロブ達3人が残り、ベルトランは侍女達も下げるとルチアナへ目を向ける。
「ルチア、心配をかけた。
公国では義兄上に良くして貰ったか?」
「…はい、叔父様にも叔母様にも良くして頂きました。
……本当に、本当に良かった…御父様…」
人が居なくなると、ベルトランはルチアナを近くに呼び、彼女の頬に触れて愛しそうに撫でると、彼女は顔を歪め父の胸に抱きついてしまった。
家族の無事を喜ぶ親子がそこにあった。
フーリ達はその現場を見て、気恥ずかしい気持ちになったが、悪くない気分で2人を見守る。
「そなた達も、先程も言ったが感謝する。
これは王としてではなく、この子の父親としての気持ちだ。
本当にルチアを守ってくれて、ありがとう」
ベルトランはルチアナを抱いたまま、フーリ達へもう一度王としてではなく、親として御礼を言った。
「こっちも目的があったからな。
その次いでだ。それに姫さんにはちゃんと報酬を貰ってるから気にしないでくれ」
フーリの言葉を聞いたベルトランは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに笑みに変わると面白そうにフーリ達を観察する。
「そちらが本当のキミだな?
構わん、公式の場でもない。それに恩人に対して素直になるのは当たり前のことだ」
ロブ達はフーリ言葉に嫌な汗を掻いたが、ベルトランがそれを許可した事に安慮の息を吐く。
「それで?そなた等は何だ?
ワシを蝕む毒をたちどころに治し、話に聞けばドラゴンや巨大な魔獣を従え、かなりの手練れだそうじゃないか」
「あ~…それについては簡単な説明になるがいいか?
後で姫さんにも話を聞いてくれると助かる」
そしてフーリは簡単に自分達の紹介をして、自分達の現状と目的を説明した。
「…なるほど、巻き込んでしまったとも思ったが、そなたらにとってはルチアとの出逢いは良いことだったのかもしれんな」
「まぁ、後はこの国が安全に成ればもっと最高何だがね」
「ははは!そうだな、恩人の為にも努力しよう。
…それにしても、ルチアはよく信じたな?
解毒もしてもらい、話を聞いたワシもにわかに信じられん」
「そりゃ…「俺らを信じろ、そして俺らはお前らを信じる」お?」
今までベルトランの胸に顔を埋めていたルチアナが顔を上げると笑顔で彼の疑問に応える。
「フーリ殿は、私にそう言って説得したのですよ?
御父様」
その応えに目を丸くしたベルトランは次の瞬間大声で笑いだす。
それは愉快そうに、そして大爆笑と言える笑いだった。
「…おいおい、何もそこまで笑わなくてもいいんじゃねぇか?」
弱冠不機嫌な顔をしてフーリが言えば、ベルトランは必死に笑を堪えてから彼を面白そうに見る。
「いや…すまんすまん。
余りにも初対面の人間に言う言葉では無い物だったのでな?
しかも、それを言った相手がルチア…王族の人間と言うのが…何とも可笑しな話と思うだろう?」
そう言って、ベルトランは笑いを堪えるのに失敗して肩が大きく揺れている。
「はっ!こっちにも事情が有るんだ、話を進める為にも、そして俺らの目的の為にも必要だったんだよ!」
「ああ、わかったわかった。
もう笑わんから、そうヘソを曲げるな」
「チッ!」
「まぁ、フーリに全部任せてしまっていた僕にも責任は有るんだろうね。ハハハ…」
フーリがヘソを曲げ、その交渉の場にいて何も出来なかったコイルはフォローをしようとするが、自分の不甲斐なさを再認識しただけだった。
「ではワシもそなた等を信用しよう、そしてワシ自身が信用される人間でいるとしよう」
そう言ったベルトランの顔はとても晴れやかで嬉しそうな顔だった。
フーリ達の話も終わり、王都までの旅の話になった時、宰相が部屋に戻ってきた。
彼は無表情のままベルトランに近付くと一礼して、報告にあった内容を彼に伝えた。
「陛下、明日に臨時の貴族議会が開かれる事が決定しました。
そして議題は陛下の退位、そして新王の審議、選定を行うつもりのようです」
無表情に淡々とした声で宰相が特大の爆弾を投下した。
部屋の中にいた殆んどの人間が唖然とし、次いでベルトランへ視線を向ける。
そんな視線を受けた彼の反応は軽いものだった。
「そうか、ランカスタもいよいよ後が無くなったようだな」
「そのようです」
国王と宰相は慌てること無く状況確認を行っていく。
「…ランカスタの派閥を悠長に切り崩すのは不可能になったな、いいだろう。
奴が強行策で事を急ぐならやり用はある。
ルッケンス、準備をしておけ」
「御意」
話を終えたベルトランがフーリ達に顔を向けると真面目な顔になる。
「フーリよ、ワシを信じるか?」
その質問にフーリはため息を吐くと、諦めかおで応える。
「言ったのは俺だ。
…王様?俺はあんたを信用する。
あんたも俺らを信用してくれ」
「ははは!!
そうでなくてはな!
明日、この騒動を終わらせるぞ?
その為に力を貸してくれ」
「はぁ~あ、何であんな事を言ったかなぁ~俺…」
フーリの後悔の言葉に部屋の中にいた一同が笑い、その後に明日に向けての話し合いが始まるのだった。
読んで頂いてありがとうございます!
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もっと皆さんに楽しんで貰える、そして読みやすい物語を作ろうと頑張ります!!
追伸、外伝を制作中です。詳しくは活動報告に上げていこうと思います。よろしくお願いします。