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襲撃者の末路

フーリは黒ずくめの1人に詰め寄ると、相手の鳩尾目掛けて蹴りを放つ。その瞬間、骨を砕く音と感触が脚に伝わる。

蹴られた黒ずくめは派手に飛んで行くと地面に数度跳ねてから止まった後はピクリとも動かない。

フーリは最後まで確認をせず、次の黒ずくめに飛び掛かる。




フーリが参戦した後、4人が一斉に黒ずくめ達に飛び掛かると、あっという間に敵を無力化していく。

黒ずくめ達もただやられるだけではなく、魔術で反撃をする者もいたが全ての攻撃を4人は避け、または防ぐことでまったく意に介す事もなく黒づくめ達を倒していく。

中には餓狼をけしかける者も居たが、そのことごとくが一瞬で切り裂かれ、潰され、蹴り飛ばされ、射抜かれていった。


全てが終わった時には襲撃者達全てが地面に転がり息のある者は数人。


襲撃者全員をフーリ達が倒し、安全が確保された事でやっと護衛の兵士達が動き出す。

結局、兵士達がした事はその後の死体を片付ける為に一ヶ所に集め、息のある襲撃者を捕縛するだけだった。

その事に気が付いている兵士は苦々しい顔をしていたが口には出さず、淡々と作業を行っていた。


襲撃者の数は死んだ者が23人、生きていた者は5人、餓狼に至っては15体全てが死んでいた。

そして護衛側の被害はフーリ達の活躍により最小限で済んだ。


死体の片付けと捕縛が終わった頃に、警邏の兵士が到着し城門前の惨状を見て驚き、バルバロイが状況説明を簡単に行うと後は警邏の兵士に任せ王女一行は城へ向かう事になった。




ゆっくりと進む王女一行を複数の影が見ており城門前から一行が完全に離れると、影もまたその場から離れていった。




襲撃者を撃破した王女一行は粛々と城へ入場を果す。

フーリ達は王女と別れ、今はフーリ達5人とロブ、カイ、ボリスが城内部の客室で待機していた。


ロブは餓狼に吹き飛ばされたフーリを心配したが、彼の体には怪我という怪我が無かった事に安心して、カイはコイルの弓捌きを絶賛し困らせていた。


フーリは落ち着いた事で改めて人間を殺した事を考えてみたが、特に自分の精神に変化が無いことに気が付き、皆に判らないよう心の中で自分を嘲り、笑った。


自分がこんなに薄情で、無関心な事に憤る訳ではなく半分は呆れての笑いだった。


他の仲間はどうかと思い部屋の中を見回して伺うが、特に目立った反応を示していないことに少し安心した。


そんなフーリの座るソファーには小さくなったクロとシロを腕に抱えたありすが寛いでおり、彼女は「もふもふ~つやつや~」と言いながら2匹へ頬を擦り付けていた。



「ロブ、この後はどうなるんだ?」


ありすから視線を外して入口近くに立っていたロブへ声を掛けると、自然と全員の視線がロブへ集まる。


「そうですね、皆さんには報酬をお渡してからは王都に滞在して貰う事になると思います。

それ以降の事についてはルチアナ様から御説明があると思います」


「?

報酬は魔術に関する情報だろ?」


「確かに報酬は魔術に関しての知識という事になってはいますが、それは私達しか知らない事です。

一応対外的に別の報酬を用意して、本当の報酬については隠す。

その方が皆さんも都合がいいでしょう、とルチアナ様から言われております」


フーリ達はその話に納得すると、王都滞在中に何をするのか話が移っていった。


「……姫さんの護衛をこのまま続けるなら魔術については後回しにするしかないか…。

どうせ俺達じゃあ魔術は使えんし、ロブ達の都合も有るだろう」


「ちょっと待って!!

魔術が使えないってどういう事!?

うちはそんな話聞いてない!!」


フーリの言葉に謎謎が興奮した声を上げる。

そこで彼等は王都に来る途中に行った『目覚の儀式』について説明をして、魔力を目覚のさせる事が出来なかった経緯を話した。


「…うちにもその『目覚の儀式』ってのやって」


話を聞いた謎謎は自分にも儀式を行うように言って来たので、次いでにありすにも儀式を行う事になった


結果は…2人とも魔力が目覚める事は無かった。

その結果に皆が謎謎の心配をしたが彼女は何か考えるような仕草をした後、顔を上げる。


「うん。

大体わかった。魔力に目覚める事が出来なくて魔術が使えないことは残念だけど…。

魔術が使えなくても帰還が出来ないわけじゃない。

帰還方法は地道に探すしかないってことね」


「いいのか?」


フーリ達は彼女の反応を意外に思っていた。

謎謎は仲間をこの世界に連れてきてしまったと思い、自分に責任と罪悪感を感じていた。魔術が使えないと分かると自力での帰還は不可能となり、彼女はまた泣いてしまうのではないかと思っていたのだ。

だが彼女の声は仲間がよく知る不適な笑顔と一緒に明るい物だった。


「何?うちが心配?

大丈夫、魔術が使えなくても、うちが絶対に元の世界に戻る方法を見つける!

うちを誰だと思ってるの?『魔女』の名に懸けて、絶対見つけてやるんだから!」


謎謎は自信に満ちた声でそう宣言すると控え目な胸を張る。

どうやら彼女の中では決着がついており、フーリ達が心配する事はないようだ。


「そうかい、期待してるよ『魔女』さん」


「メイちゃんカッコいい~!」


ありすが謎謎に抱き付き5人がワイワイと喋っているとロブがおずおずといった感じに話しかけてきた。


「え~、皆さん。良い雰囲気のなか申し訳ないのですが…メイメイさんが言っていた『魔女』というのは?

皆さんの世界では魔術や魔法が無かったのですよね?」


そのロブの言葉に謎謎は「メイでいいよ」と言うと彼も「ではその様に」と言って了承した所で、先程の謎謎が言った事について説明を始めた。

仮想現実世界、ゲームについての説明には少し手間取ったが、伝える事は出来た。


「では、その物語の中へ入った時の姿が今の私たちが見ている皆さんの姿で、先程のメイさんが言った『魔女』というのはその物語内でのメイさんの通り名という事ですね?」


「ま、まぁ…大体あってるかな?」


謎謎の反応が可笑しいのも無理はない、何とか説明をしてはみたが仮想現実世界については物語の中という曖昧な表現となってしまっていた。


「メイさんに通り名があると言う事は他の皆さんにも通り名があるのですか?」


「ん?あぁ…あるな」


フーリの反応にロブは首を傾げたが、その意味を知ることが出来なかった。

その反応を見たコイルが苦笑しつつも質問に答える。


「…フーリはあの通り名嫌ってるからね。

 ちなみに僕は『暗殺者』、リグリットが『聖騎士』、ありすが『狂戦士』、そしてフーリが『赤鬼』って呼ばれてたよ」


この通り名に関してはGUNZS内には明確な職業という物が存在しておらず、スキルの構成によって何にでもなる事が出来る。

その為スキルの構成、プレイヤーのプレイスタイルや特徴といった物でその人物の通り名を決めるようになったのだ。しかし、この通り名は全てのプレイヤーに付けられる物ではなく、ゲーム内での認知度や特に目立ったプレイヤーに付けられるといった経緯がある。


「暗殺者、聖騎士、狂戦士、魔女…そして赤鬼ですか…」


「ほら見ろ!!ロブも反応に困ってんじゃねぇか!!

 なんだよこの通り名は!?俺だけ何か扱い違くねぇか!?」


「まぁ、本人のプレイスタイルがそのまま通り名になるからねぇ…。

 僕も暗殺者なんて呼ばれていたし…。」


「まったくだよ、私のどこが狂戦士なのさ!!こんなにカワイイのに!!

 それに私はサモナーで召喚士なの!!不本意だよ!!」


それぞれの通り名となったプレイスタイルを説明するならば、コイルの場合には遠距離からの弓による狙撃や隠蔽スキルによる隠密などが理由で、リグリットの聖騎士は見た目が銀の全身鎧と大きな盾を持って敵の攻撃を防ぐ姿が、謎謎は調薬スキルを使ったバフ、デバフなどの補助スキルによる支援、ありすに至っては2本の短剣を持ってモンスターの群れに飛び込み笑い声を上げながら切り刻む姿を見てそれぞれ付いた通り名だった。

ちなみに、ありすには知られていない通り名がもう一つあり、それは『遊び人』という通り名で知らないのはありすだけだったりする…。


「何故、フーリは『赤鬼』なのですか?フーリの姿を見て付いた名ではないような気がするのですが…」


「そりゃ…追々教える。その内見る事もあるだろ」


「はぁ…?」



その後も8人がそれぞれ話をして過ごしていると客室の扉が開いたので、全員の視線が扉を開けた人物に集まる。

そこにはバルバロイを連れたルチアナがおり、彼女の表情は少し優れない物だった。


「…親父さんとの感動の再会とはいかなかったようだな」


「えぇ…そうですね。それもあるのですが皆さんに会って頂きたい方がいます。

 どうぞお入りになってください」


フーリの言葉に頷いたルチアナに案内されて入って来たのは2人の男性だった。

1人は茶髪の髪に白い髪が混ざっていることからそれなりの年齢だろう事は見て取れる。鋭い眼をしており頬はこけて全体的に身体の線は細いが滲み出る雰囲気が鋭い眼と合わさって冷徹な印象を与える。

もう一人の男性は、茶髪の男性とは対照的で金の髪に柔和な笑顔を湛えたイケメンで、見た目は20代と言ってもいいかもしれないが油断のない、しっかりとした印象を持たせるそんな男性だった。

先に茶髪の男性が入って来たことにロブ達は驚いていたが、さらにその後に続いて入ってきた金髪のイケメンを見て顔を驚きの表情のまま硬直させてしまった。


全員が客室に入るとバルバロイが扉を閉め、部屋の中には重たい沈黙が支配していた。

その沈黙を破ったのはフーリだった。


「それで、この恐そうなオッサンと金髪のイケメンは誰なわけ?」


フーリはそうは言ったがなんとなくロブ達の反応を見て、当たりを付けていた。

ルチアナはその答えをまずは茶葉の男性を指して紹介をした。


「こちらの方はフォーゲルハイツ王国宰相を勤めておられるルッテンス=ボルフハイン伯爵です」


紹介された茶髪の男性、ボルフハイン伯爵は無言で軽く礼をするが、その鋭い眼はフーリ達を見て値踏みしているのは明らかだった。


「そして、こちらの方が…」


「ルチアナ、紹介は私からさせて貰うよ。

 初めまして皆さん、ルチアナを王都まで無事護衛してくれたこと心から御礼を言わせて貰うよ。

 ありがとう。

 そして私は多分察している人もいると思うが、ヨハン=フォーゲルハイツ。

 ルチアナの伯父で陛下の弟、そして陛下へ毒を盛った張本人と言われている者だよ」


金髪のイケメンはそう言っておどける。

その紹介を聞いた瞬間フーリ以外の全員が緊張するが、ルチアナが話を続ける。


「伯父上は…彼は無実を主張されており、この宰相であるボルフハイン卿が身柄をこれまで預かってこられたのです」


「どういうことだ?」


フールは金髪のイケメン、ヨハンを警戒しながらルチアナに説明を求めると、またもや横からヨハンが話に割り込み軽く答える。


「どうもこうもないよ、私は陛下に毒なんて盛ってもいないし、陛下に変わって王になろうだなんて思ってもいない。

 全てはランカスタ派が行ったことで私自身は彼らに名を使われただけなんだから」


その言葉に全員の顔に困惑が浮かび、詳しい説明を求めようとするが、ルチアナは暗い顔で深く溜息を吐き、ルッテンスは冷たい眼に無表情で無言を貫き、ヨハンはニコニコとしており、さらに客室内では混乱が続いていた。





ルチアナとフーリ達が城内の客室でヨハンの告白に混乱している時、王城とは別の場所。王都にある貴族区では豪華な館で中年の男が大声で罵っていた。


「何故だ!?何故王女は死んでいない!?

 奴らが失敗したのか!?あれだけの金と物資を渡したのだぞ!!」


中年の男は自身の醜く弛んだ腹の肉を揺らし、眼前で跪いている男に罵声を浴びせる。


「…護衛の中に手練の者が複数存在しておりました。その者達に襲撃を行った者は全て…」


「くそっ!!」


男の話を遮りテーブルの上にあった物を乱暴に払って悪態を吐く男は今回の国王暗殺、そして王女暗殺の手引を行った張本人でありランカスタ侯爵現当主のラインハルト=ランカスタ侯爵その人だった。


「拙い…拙いぞ…。王が死に王女も死ねば継承権を持ったヨハンを立てる事が出来たのに…このままでは折角こちらに賛同した貴族が寝返りかねん…」


今回の王への毒も王都で王女を襲撃した黒ずくめが行ったことで、その手引を行い彼らを王都に侵入させ面倒を見ていたのもランカスタ侯爵だった。そして彼はその黒ずくめ達の正体についても知っており、もし彼らの目的が達成された場合には黒ずくめ達の雇い主から莫大な報酬を受け取と権力を受け取ることになっていたのだった。


「…それと、彼らの中には生きて捕らえられている者もいますが、如何いたしますか?」


「そんなモノ決まっている!!殺せ!!

 こちらの名前が出る前に殺すのだ!!分かった事を聞くな!!今すぐ始末してこい!!」


「はっ…」


侯爵に命令された男は一瞬でその場から消え、部屋に残ったのは侯爵ただ1人。彼は息を切らせながら豪華な椅子に座ると顔に浮かんだ脂汗を拭う。


「何としても成功させなければ…。こうなれば直ぐに議会で王の退位とヨハンの王位継承の審議を行うしかない、…未だ邪魔な連中が残っているが、大半の貴族はこちら側だ今ならまだ勝つ事ができる」


そう独り言を呟いた侯爵は椅子から立つと足早に扉へ向かい開け放つ。


「出掛ける!用意をしろ!」


召使い達にそう言うと馬車の用意をして屋敷から出て行くのだった。




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