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王都到着、波乱の始まり

王女殿下一行は予想されていた襲撃が無い事を不審に思う一部の人間がいたが順調に行程を消化していった。


フーリ達は時折現れる魔物や魔獣を本隊の進路上に居る物だけを狙い排除をしていった。

とは言っても大抵の魔物、魔獣はクロとシロの存在に怯えて自分達から襲ってくる物は皆無だった。


順調に旅が進むと暇な時間が出来る。

そんな時間はフーリとロブは話をして暇を潰した。話と言ってもフーリがこの世界の事や魔術に関しての質問をすることが多く、たまにロブがフーリ達が暮らしていた世界について聞くぐらいだった。


「複合魔術は教えてくれないのか?」


ロブがこれまで話してきた中には魔術に関する物も含まれているが、肝心の複合魔術については未だ話を聞けずにいた。


「いいえ、そうではないのです。

複合魔術をお教えするには魔術の基礎理論について御話しする必要があります。

そして基礎理論については魔術が使える事が前提となりますので…。

…そうですね、次の休憩で少し調べてみましょう」


「?」


フーリはロブの言葉に不思議に思ったが次の休憩まで待つことにした。





「…それでは、3人にはこれから魔術の基礎理論を知ってもらう為に魔力を取り出して貰います」


休憩になるとフーリ、コイル、リグリットが監視役の3人と一緒に王女一行から少し離れた場所に集まると、ロブが言った。


因みに、ありすと謎謎は王女の護衛に残ってはいるが、本当の所はルチアナと仲良くなり馬車の中でガールズトークに花を咲かせていただけとか…。

とにかく今回は2人は居ない、そしてこれはロブ側の事情もあり先にフーリ達3人に施す事になった。


「皆さんは魔力ついては何も知らない、ですよね?」


ロブの言葉に3人は頷く。

それを確認したロブは続ける。


「では、これから皆さんには魔力を知ってもらう為に、この世界の幼子に施す"目覚の儀式"を行います。

簡単な儀式なので緊張しなくていいですよ?

"目覚の儀式"とは…」


ロブの説明によると、この世界の人間は生まれて直ぐは自分の体内にある魔力を外に出す事が出来ない状態で、そのままでは魔力をエネルギー源にして魔術の行使が出来ないらしい。

魔力をエネルギー源にして魔術を行使する、その為にまずは、魔力を外に出す事が出来る人間が呼び水の役目をして幼子の中にある魔力を強制的に引き出すらしい。

そして幼子は気が付かないうちに魔力について知り、魔力の存在を感覚で覚える。

これが魔力理論の基礎中の基礎になるらしいが、なんとも強引な話だった。


「魔力を外に出すのは、その儀式を行うとずっと出す事になるのか?

それと、魔力が体内から無くなるとどうなる?」


「それはですね…」


フーリの疑問にロブが答える。

魔力を外に出すと言っても緩やかな物で、自身の魔力が枯渇することはなく、自分が魔力を外に出しているのも意識しないと出来ないレベルらしいので危険はない。

そしてもしも魔力を使いすぎると倦怠感や頭痛と言った症状が出て、体内の魔力全てを放出空いた場合には気絶、最悪の場合には死亡するらしい。


「死亡って…」


コイルが若干青い顔をするが、カイが話の補足をする。


「大丈夫です!普通人間は魔力が極端に体内から無くなると強制的に魔力の放出を中止して、無意識で自分の命を守ります。

体の中にある魔力を全部放出するには、薬物や暗示などの特殊な魔術を施さないと出来ません」


コイルの心配にニコニコとカイが応えるが何故彼は暗い話を明るく話しているのだろうか?ロブを見れば苦笑を返された謎だ…。


「…とにかく、"目覚の儀式"を行って亡くなったという話はほぼ在りません。ただ幼子の体力が低く病弱の場合には儀式で亡くなるケースもあるのですが、みなさんは大丈夫でしょう。

 早速ですが、"目覚の儀式"をまずはやってみましょうか。

 カイ、ボリスもいいですね?」


ロブはカイとボリスに聞くと、それぞれがフーリ達の前に1人ずつ立ち、手を胸に当ててきた。

…どうでもいいが、リグレットはいいのかこれ?と思ったフーリが彼女を見れば、ボリスはリグリットの右肩を左手で掴んでいた。

どうやら手を当てる場所はどこでもいいようだ。


「ではフーリ、始めますよ?」


「ああ、やってくれ」


ロブは了承を得ると目を瞑り集中する、他の2人も同じで集中して"目覚の儀式"を行っているようだ。


ロブ達が目を瞑り"目覚の儀式"が始まり時間は流れていく…。


さらに時間が流れ、3人は未だに儀式を行っている。




さらに時間が経過…、もう休憩が終わる時間に差し掛かった時、額に汗をかいたロブが目を開く。


「…はぁ。カイ、ボリス。貴方達はどうですか?」


「…ダメです」


「こっちもだ」


3人が目を開けてそれぞれ困った表情をしている。


「おいロブ、儀式は終わったのか?」


フーリの問いに困った表情をしたロブは申し訳なさそうな表情になる。


「いいえ…、儀式は終わっていません。

 それどころか、皆さんは儀式が成功しないと思います」


その言葉にフーリ達が怪訝な顔をすると、代表してフーリが問う。


「儀式が成功しない?どういうことだ?」


「ええ、まず皆さん…5人に言えることなのですが、私達は皆さんが体内に"力"を持っている事を認識出来ています。これまでその"力"を魔力だと思っていたので儀式で魔力に目覚めさせる事が出来ると思っていました。

 …ですが違ったようです。

 御三方に儀式を行ってみましたが、誰も儀式を成功しなかった…。

 皆さんの体内にある"力"は魔力ではないのかもしれません」


「と言う事は?」


「…残念ですが、皆さんは魔術を使う事が出来ないかもしれません」


フーリ達3人は愕然とする、特にコイルの落ち込み用は激しく、地面に膝を付き「そんな…」と呟いている。

無理もない、この魔力に目覚める事が出来なければ魔術を使う事が出来ない、それは帰還の為の手段を自分たちで見つけること、実現する事が出来ないと言われたようなものだ。


しかし、フーリは心の中ではなんとなくそんな予想はしていた。

コイルの事はとりあえず今は置いておき、フーリはロブ達の詳しい説明を求めた。

それによると…。


魔力に目覚めた人間は、相手の魔力、強い力を個人の差はあるが認識する事が出来るようになる。そして魔術を使うことに特化した人間、所謂ロブ達のような魔術士の場合にはその人物の魔力量や質などを感知する為の技術を身につけるらしい。

その技術によってフーリ達5人には魔力のような"力"を体内に宿している事はわかっていたそうだ。

しかし、その"力"の本質については曖昧で魔術士の彼らでも理解する事が出来なかった。そのため、その"力"が魔力かどうかを判断する為にも、儀式を行ったらしい。


結果は魔力とは似て非なるモノがフーリ達の体内に存在していること。

それは魔力ではない"力"で彼らには魔力として引き出す事が出来ない事が分かったのだった。

話を聞いたフーリはロブを見て質問する。


「…じゃあ俺らは自分で帰還の方法を見付かる事が出来ないってことか?」


「申し訳ありません…、今の状態では魔術を使う事が出来ません。

 よって魔術を自分達で行使することでの帰還は今の段階では不可能だと私は思います…」


「そうか…」


上手くは事が運ぶとは思っていなかったが、まさかここまで難解な問題が出現するとは。

フーリは嘆息した気分を押し込めると、コイルに近づいて肩を叩く。


「コイル、諦めんな。

 俺らが魔術を使う事が出来ないなら、他の奴に魔術を使って貰えばいい。

 それに帰還の方法が魔術だけとは限らないんだ」


「フーリ…」


フーリの言葉に顔を上げたコイルは、フーリの顔を見ながら頷く。


「ロブ、俺らが魔術を使う事が出来なくても魔術についての知識は身につける事ができるのか?」


コイルから目を離してロブに質問すると彼は「ハイ」と答える。


「ただ、魔術を使う事が出来ないので実際に知識を利用する事は難しいです。

 しかし、魔力が無くても、魔術を使う事が出来なくても出来ることは在ります。

 そのお手伝いは私達がしますのでご安心ください」


そう言うとロブ達3人は頷きそれぞれが励ましも言葉を言ってくれた。

フーリは新たな問題が生まれはしたが、改めてこの3人を信じることにした。

その後は簡単な確認事項等を行ってそれぞれが護衛の担当場所に戻っていった。コイルを励ますカイを見ながらシロに跨りフーリとロブも護衛に戻っていった。


その日の夜は昼間にわかった事実についてありすと謎謎の2人にも説明をしたが、謎謎は取り乱すことなく話を聞いていた、逆にヤル気を出していたので心配はないだろう。

ありすに関しては…純粋に魔術や魔法が使えないことに悔しがっただけだった。





王都までの護衛はその後も続き、偶に出る魔物を蹴散らすだけで、襲撃と呼べる物は起こらなかった。

そして時間の空いた時には各人がこの世界について知識を蓄え、ありすと謎謎はさらにルチアナと親交を深めていた。

偶にロブの妹であるエリアがフーリにちょっかいを出してはきたが、フーリは"大人の対応"でやり過ごしたりもした。


そんな旅も順調に進んだが、王都へ到着目前になって問題が発生したのだった。


「クロとシロを王都に入れられない?」


疑問の声を発したのはフーリで、それに応えたのは今日はピンクのドレスを着たルチアナだった。場所は王女の馬車の中で、テーブルにはフーリとルチアナの他にありすと謎謎もいる。


「はい、王都へは使役獣の立ち入りは制限されています。

 それに制限がされていなくても大きなクロちゃんと、シロちゃんを王都に入れるのは不可能なのです」


どうやらクロとシロはルチアナにとっては「ちゃん」と付けて呼ぶ存在になったらしい…。

そんな事よりも問題の解決が先で、フーリは提案をする。


「クロとシロは身体の大きさを自由に出来るぞ?それで入る事は出来ないのか?」


その言葉に驚いたルチアナはありすへ顔を向ける、…どうやらありすからは何も聞いていなかったらしい。

ルチアナがありすを見るが、視線を受けたありすの様子が変だ…顔を反らして震えてる?


「ありす?本当ですか?」


ルチアナの言葉にビクッ!!と身体を大きく震えさせたアリスが、まるで錆びたブリキのおもちゃのようにギギギッと首を動かしルチアナの方に顔を向ける。

ありすの顔は引き攣っており、顔色は悪い…ありすのこんな姿を見た事がないフーリは驚き無言で事の成り行きを眺めていた。…むしろルチアナから出る黒いオーラに黙っているしか出来なかったが…。


「いっ…言ってなかったかなぁ~…、あっあははは…。

 ご…ゴメ~ンちゃい☆テヘ」



ブチッ



何か不穏な音がするとルチアナはスッと立ちあがり、手を2回打ち鳴らす。すると何時の間にかありすの後ろに紺色のエプロンドレスを着た侍女が2人…ありすの両腕をそれぞれが持っていた。


「ありす…。私は貴方に聞きましたね?適当に応えていたのですね?そうでしょう?

 …悪い子にはお仕置きが必要ですね…フフフッ。

 連れて行きなさい」


「「はい!!」」


「イヤァーー!!メイちゃん!!ケンちゃん!!

 助けてぇーーーー!!もうお風呂はイヤァーーーー!!!」


ありすから助けを求められた謎謎は何も聞いていない、見ていないと椅子の上で膝を抱えて丸くなるとガタガタと震えながら耳と目を強く塞いでいた。

フーリはポカンとした顔で侍女2人に連行されるありすを見送る。

残っていた最後の侍女が部屋の奥の扉を開けて、そこに入れられてしますありす…。

最後まで「イヤァーーーー!!」と叫んでいたが、扉を閉められた瞬間声がパタリと聞こえなくなった。


「うふふ…、女の子なのですから何時も清潔にしていませんと…。

 ねぇメイメイ…」


謎謎はそれまで震えて耳を塞いでいるのに、ルチアナの声が聞こえた瞬間頭を凄い勢いで上下に動かしていた…。


「…お前ら、仲良くなって何よりだな…」


フーリは遠い目をしてそう呟くのだった。

どうやら彼女達の中でルチアナは最強の捕食者として君臨してしまっているようだった。





結局ありすが戻って来た時には魂が抜けた状態になっており、フーリがクロとシロに小さくなるように伝えて王女の馬車へ連れていった。

2匹は真っ白になったありすの事を心配してチラチラと見ていたが、がっちりとルチアナに捕獲されており大人しくルチアナの腕の中にいるしかなかった。


その後はクロとシロがいない事で護衛は歩いて(ほぼ駆け足)行うことになったがステータスの高い3人にとっては苦ではなく、他の兵達はフーリ達が魔術を使っていないで走っている姿に驚いてはいたが誰も話し掛けてはこなかった。


日中殆どを駆け足で走ったことで、王女一行はまだ陽の高い時間に王都の城壁を見る事が出来る場所に到着する事が出来、そこからは直ぐ城門へ向かった。

初めて見る高い壁にフーリは感嘆のため息を吐きながら、隣を走るロブに聞いた。


「この城壁も魔術で造ったのか?」


「ええ、これは王都がこの場所に出来てから造られ、その後も修繕などを行いここまでの大きさになりました。

 今までこの城壁を超えた外敵は存在しません」


ロブの話を聞いてから、改めて目の前の城壁に目をやる。

高さは優に100メートル近くはあり、近代の高層ビルを知るフーリだが壁一枚、それもここまで巨大な壁を前にすると圧迫感が半端ではない。

フーリが城壁を見ている間にも一行は城門に近づく。


大きな城門の前には門番だろう兵士が数十人と、行列を作る馬車と人がいた。

王女の一行は、そんな行列の横を悠々と進み先頭に移動していたバルバロイが門番の兵士に何か話していた。


「…おい、内乱の可能性があるのに普通に王都に入って大丈夫なのか?」


フーリは小さな声でロブへ声をかける。


「ええ、大丈夫です。

 王都の警備を担当する警邏、そしてその上部組織である国軍は完全に独立した組織です。

 陛下の命令が無い限りは動きませんし、どちらの派閥にも属しません。

 それに国軍を預かる将軍は陛下の乳母兄弟ですから、どちらかと言えば親王派に属しています。

 ですから、王都ではランカスタ派は大きな動きが出来ません。

 そのため殿下の襲撃は王都の外で行ったのです」


ロブの説明に一様の納得はしたが、フーリは腑に落ちない事もいくつかあった。

国軍が独立した組織であり、王の命令が絶対で反逆者達は大きな動きを王都では出来ないにも関わらず、その王に毒を盛った。

いったいどうやって?王弟自身が盛ったのか?警備や警戒はどうなっていたのか?

疑問を言えばキリがない。フーリはそこで考えを止めると動き出した集団と一緒に城門に近づく。目の前に城門が迫った時にフーリは無言でスキルを発動する。


発動したスキルは『死線』と呼ばれるスキルで後衛から攻撃をするプレイヤーが取得する事が多いスキルだ、効果はアクティブモンスターの選別。詳しく言うならば自分に攻撃を仕掛けようとしたモンスターが攻撃の前に赤く見えるといった効果で、ゲーム内では乱戦の時などに重宝したスキルだ。

しかしこのスキルはプレイヤーの視界内に入ったモンスターだけを認識するので常に廻りを見渡す必要がある。

そして攻撃の瞬間にしか敵が赤くならないので一瞬を見分けるのが難しいスキルでもある。

フーリの場合には軽装で行動する事が基本となっており、攻撃は受けるのではなく避ける事が基本だ。そのため本当なら後衛役のプレイヤーが取得するスキルを取得しているのだった。


フーリは一応警戒を行って城門を潜ると、そこで仲間達にも警戒をするように連絡しようとメニュー画面を起動して「コール『パーティ』」と呟く。

これはパーティ編成をしたプレイヤー全員へ同時にコールを行い通話が出来る、謂わばチャットの様な機能だった。


フーリは今現在ロブと一緒に王女一行の先頭集団の中程を歩いており、一番後ろにはリグリット、そして中間地点にコイルが居た。ありすと謎謎はルチアナの馬車に一緒に乗っている。


仲間全員にコールが行われそれぞれが反応を返してきた。


『フーリ?どうしたの?』


「コイルか?今先頭集団が城門を抜けたが警戒して置いてくれ、最後の最後で何か起こるってのが定石だからよ、他の連中も警戒だけはしておいてくれ」


『了解』、『わかった』、『りょ~か~い☆』


リグリット、謎謎、ありすからも返事を聞いた時には王女が乗る馬車が城門を通過する瞬間だった。

そしてフーリは後方に警戒しておらずコールを全員が使っていたことで反応が遅れてしまっていた。



ドッゴォオオオォォン!!!



王女の馬車が通貨した瞬間に跳ね橋のように上にあがっていた城門がいきない落ちて来たのだ。

その大きな音に反応したフーリは後ろに振り向く、そしてまたもや反応に遅れてしまった。

フーリの視界の端に赤い物がチラッと映った瞬間、フーリの身体へ大型トラックに全力で跳ねられたかのような横殴りの衝撃が走り、フーリが気が付いた時には目の前に石造りの家の壁があり。

盛大な破壊音を発して壁に激突したのだった。


ロブはフーリを一瞬で吹き飛ばした存在を見上げる。

その生物は狼の顔を持ち赤い目は血走り濁っている、身体は3メートル近くあり灰色から黒の毛皮に覆われている、四肢には逞しい筋肉と鋭い爪が見えた。

フーリと一緒に飛ばされてしまった兵士の数人で無事な物は立とうとしているが、無事ではない物は上半身と下半身が吹き飛んでしまい、絶命してしまった者も数人いた。


「餓狼…」


誰かが呟いた瞬間、二足歩行の狼の口が大きく開けられる。


『ウォォォォオオオオオォォォォン!!』


あまりの大きな咆哮にロブと近くにいた兵士は耳を塞いだ。

そして餓狼と呼ばれた大きな狼男は血走った眼をギョロギョロとして兵士達を見る。

全ての人間が動けないでいる時に素早く動いた者達がいた。


餓狼はいきなり大きく飛び退くと、餓狼が立っていた場所に光の矢が突き刺さる。

それを見たロブは正気に戻るとフーリが吹き飛ばされ、瓦礫となった家屋に顔を向ける。


「フーリ!!」


「待て!!今すぐ陣形を整えろ!!王女殿下の馬車をお守りしろ!!」


ロブが駆け出そうとした瞬間、大きな声が響く。声を張り上げたのはバルバロイで、彼は混乱した兵士達をまとめると王女の馬車へ向かおうとしていた。

ロブもその時になって王女の馬車がある後方に目を向けると、そこにも数体の餓狼がおり、餓狼から離れた場所には複数人の黒ずくめ達の姿を捉える事が出来た。


「立てる者は盾を構えろ!!絶対に殿下に近づけさせるな!!」


バルバロイがもう一度命令をした所で黒ずくめ達の数人から複数の魔術式が浮かび上がるのを確認したロブは自分も魔術を発動するため集中する。

ロブと同じように魔術士達が防御の魔術を使おうとするが間に合わない、数瞬速く黒ずくめ達の魔術が王女の馬車に殺到する、ある物からは不可視の風の刃が奔り兵士もろとも斬り裂きながら迫り、赤く燃える火球が複数空中を飛び殺到する。

王女の馬車へそれらの魔術が当たる瞬間、誰もが絶望する。

しかしその時、空から銀色の影が落ちてきた。


銀色の影は自分と変わらない大きさの銀の大盾を持ち、殺到する魔術のと馬車の間に着地すると、右手に持った盾の下部分を地面に突き刺す。

その瞬間地面が爆発した。


地面が爆発したことで舗装として使われていた岩が砕け辺りに飛び散り、それは殺到していた魔術にもぶつかり火球が爆ぜ、風が飛んだ岩を斬り裂く。

そして銀色の盾にも魔術がぶつかっていく。


爆発によって発生した砂煙が晴れると、そこには傷一つ付いていない銀の大盾を持った赤髪の女。リグリットが愛用の盾を構えて立っていた。

魔術を放った黒ずくめ達は一瞬その姿に怯む、何故なら攻撃魔術を何も魔術的な付与を行っていない盾で防ぐ事は不可能で、女の盾からは何も魔力を感じる事が出来なかった。

それでも一部の黒ずくめが懐から赤いクリスタルを取りだすと、何やら呟く。すると餓狼3体が女、リグレットへ一斉に襲いかかる。


しかし、その次の瞬間には黒ずくめ達は目を剥くことになる。

3体いたはずの餓狼が一瞬のうちに"3人"によって倒されたからだ。

一体は横から飛び込んできたピンクの影にズタズタに切り裂かれ、体中から赤い血を噴き出し倒れ。

一体は馬車の上から放たれた赤い光の矢に胸の真ん中を貫かれ、身体の中心には大きな穴を作りその場に倒れる。

そして最後の一体は銀の盾を振りおろした赤髪の女にベシャ!という音とともに潰され、上半身は潰れ下半身がピクピクと動いている。


餓狼を赤いクリスタルで操った黒ずくめは信じられないモノを見るかのように唖然としていた。

餓狼は飛竜程ではないにしても、力と地上での素早さは脅威であり、一体の餓狼を倒す為には10人近い兵士と魔術士が必要とされるからだ。決して一撃で倒す事が出来る魔物ではない。

しかしそんな餓狼を彼らは一撃で倒して見せた。

黒ずくめ達が動揺している、いや周囲にいた味方の兵士もリグリット達の強さを知ってはいたが、間近にその力をみることで言葉を無くしていた。

周囲が異常な沈黙を保っていた瞬間馬車から離れた場所で爆発が起きた。


その爆発がした場所はフーリが吹き飛ばされた民家であり、始めに餓狼で倒した人間が飛び込んだ場所だと思った兵士と黒ずくめがそちらに目を向ける。

爆煙から出てきたのは黄緑色の服を着た黒髪の男で両手には鉄色の武骨な手甲が嵌められ、彼は両拳を胸の前で打ち鳴らすと…。


「このぉ…、くそったれが!!

 結構痛かったぞ!?

 全員血祭りにあげちゃる!!覚悟しろ!!!」


そういって拳をガイン!ガイン!と打ち鳴らし何事もなかったように歩いて来る。

倒したと思った男が表れた瞬間、今度こそ黒ずくめ達は混乱してしまう、そんな黒ずくめ達の前に一足飛びに飛んで馬車の上に着地したフーリは右手の中指を立てて黒ずくめへ向ける。


「覚悟しろ、テメェら1人たりとも逃がさねぇからよ!!」


そう言うとフーリ、ありす、リグリット、コイルが黒ずくめ達に襲いかかるのだった。


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