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王都への旅、新たな味方?

フォーゲルハイツ王国は大陸の中央から離れ、強大な魔物からの被害も少なく豊かな国だ。しかしそれは中小国家群の中では比較的といったものであり、国民がみな裕福かと聞かれると、周辺の国と同じように貧富の差は存在し貧困に苦しむ国民も当然存在する。


そんなフォーゲンハイツ王国の中でもっともその影響がある地域が、王国の首都である王都だ。

王都の周囲は高い壁に囲われており外敵からの侵攻を防ぐ役目がある、王都に入ってすぐに一般市民が暮らす市民区と商店が並ぶ商業区が存在する。さらに奥に進むと豪華な館が並ぶ貴族区があり、そのさらに奥には王族が暮らい、政治の中心でもある王城の高い尖塔を見ることが出来る。

王都に暮らす一般市民にとっては貴族区や王城は見えてはいるが無断で立ち入ることが出来ない、別の空間として見られている。


綺麗な街並みも一歩でも裏道に入れば孤児や怪しい大人達がおり、さらに王都のゴミ捨て場近くにはそんな人間の暮らすスラム街が存在していた。


スラム街近くにある一軒の娼館に黒ずくめの男が入っていく。

娼館の店主へ黒ずくめの男は小さな袋を渡すと、館の奥へ案内される。

娼館の店主に案内された部屋の中には複数の男達が薄暗いなかでそれぞれ寛いでいた。


「襲撃は失敗した。王女は生きている」


先ほど入室してきた黒ずくめの男が短く報告をすると、男たちは彼に注目する。


「飛竜でも失敗したのか?どういうことだ?」


男の1人からの質問に黒ずくめの男は"見て"きたことを有りのまま伝える。


「要らぬ邪魔が入った。しかも相手は黒いドラゴンを従えている」


部屋の中が一気に騒然となる、ある者は男の言葉を疑い、またある者は今後について他の者と相談する。


「騒ぐな、目的に変更はない。王女は必ず消す。

 …向こうにドラゴンがいるのならば、これ以上は外で襲撃しても意味がない。

 王都に入る直前、もしくは直後を狙う。いいな?」


部屋の中は直ぐに静かになると男達はそれぞれ部屋を出ていく。残ったのは黒ずくめの男と、先ほど命令をした男の2人。


「どうやら王女に強力な護衛が付いたようだな?」


「はい…、私が使役した飛竜7体が一瞬で潰されてしまいました。

 …このまま続けて大丈夫でしょうか?

 ドラゴンだけではなく、それを従える者達もかなりの手練れのようでした。

 一度"上"に報告しては…」


「あの方が失敗を許さないことは知っているだろう?

 この作戦はなんとしても成功させる必要があるのだ。

 …必ず王女の首を獲るぞ」


「…ハッ」


黒ずくめの男は返事をすれとすぐに部屋から出ていく。残った男は1人部屋の中で呟く。


「失敗は出来ん、なんとしても成功させねば…。

 もう一度あの者を利用するか?…」


娼館にある奥の部屋から王都の各場所に男達は準備のために奔走する。

そう、王女リチアナ=フォーゲンハイツを殺すために。





◆◆◆◆





フーリ達は王女護衛依頼を受けることを決め、翌日の朝一番にルチアナから呼び出され感謝の言葉と、護衛の手順について話がされた。

とは言っても、彼等にとってはクロとシロという戦力が有るために集団と連携するのではなく、上空からの監視、障害の早期発見と即時排除をすることになり、取り零した物に対して兵士が対応する事になった。

これは王女側から提案されたのでは無く、フーリ達からの提案で、提案を出した時点では護衛を任せきりになってしまう事へルチアナが難色を示したが、フーリの「ヤルなら徹底的に」という言葉で折れることになり、直ぐに出発の準備に取り掛かった。


そして兵士達が出発の準備を終えて、フーリ達は配置について話をしている時に、彼等に3人の男が近付いてきた。


「少し良いですか?」


そう言ってフーリに話し掛けて来たのは灰色のローブを纏った茶髪の男で、自分の事をロブライアンと名乗った。


「私達は皆様に本隊との連絡要員として殿下から派遣されました。

私のことはロブとお呼び下さい。そして他の2名も私と同じ命令を受けています。

護衛には一緒に行動することになりますので、宜しくお願い致します」


そう言って3人が折り目正しく礼する。

フーリとしては王女側が寄越した監視と認識したが、本当の連絡役も担当するらしく、全員が魔術士で風の魔術を使い本隊と連絡をすることを説明もされた。

ロブ以外の2人は、若干まだ幼さの残る顔立ちと薄い緑色の髪をした少年「カイ」と、神経質そうな雰囲気があり白衣を着せたら似合いそうな黒髪の中年「ボリス」。

この3人がそれぞれフーリ達に同行する事になった。


少し時間を取られてしまったが新たに3人を加えて護衛の配置を決めていく。

上空の監視としてクロに乗ることになるのが、コイルと連絡役のカイ。

集団の先頭を歩き、早期警戒と斥候役にシロとフーリ、ロブが当たり。

中央の集団、王女の直衛にありす、謎謎が付き。

集団の一番後ろにはリグリットとボリスが着くことに決まった。


そして各々が護衛の為に移動を始めるが、フーリは2つ心配があった。

1つは、ありすと謎謎をルチアナの直衛に回したこと、特にありすが問題を起こさないか心配をして謎謎には一応「頼む」とだけ伝えたが難しい顔をして王女の馬車へ向かった。

2つ目だが…リグリットとボリスは会話が成立しているのか?無言で数秒見詰め合うと、そのまま黙って集団の後ろへ歩いて行ったぞ…。

フーリは2人を見てそう感じていると、隣にいたロブが苦笑して「大丈夫でしょうか?」と言っていたので彼も同じ事を感じていたらしい。


フーリとロブは体を大きくしたシロの背に乗ると集団の先頭に出た。

そこには馬のような生物に跨がったバルバロイがおり、シロを近付ける。


「よろしいですかな?」


「ああ、何時でも」


フーリの返事を聞いたバルバロイは馬上で右腕を掲げるとグルグルと横に回した。

不思議に思い見ていると、集団のそこかしこで緑と白の歯車が出現する。

フーリはそれを不思議に思い、後ろに座るロブに尋ねた。


「あれは何してんだ?」


「え?ああ…あれは風の魔術と土の魔術を使って速度の上昇と、鎧などの重さを軽減しているのです」


「へぇ~…」


「見たことが無いのですか?」


「さてね…」


フーリは迂闊だったと思った。魔術についてフーリ達は何も知らない、しかしこの世界の人間は魔術を当たり前のように使う。

そのことから魔術を知らない人間は珍しいと感じるだろう。下手をすると自分達の素性を疑われる。

そこまで考えたフーリはどう答えるか悩んでいるとロブの方が先に声をかけてきた。


「殿下が言っていたことは真実だったのですね…」


その言葉に怪訝な顔をしたフーリが問いただそうとしたが、そこにバルバロイの大声が被さる。


「しゅっぱ~~つ!!」


集団が普通では考えられない速度で走りだし、フーリはロブに、先程の言葉の意味を聞く前に、シロへ進むように促す。

シロは集団のよりも速く走り、直ぐに置き去りにしてしまう。


大分先行する形になったが、ここなら他の者に話し声も聞こえないと判断したフーリはロブに先程の言葉の意味を問うことにした。


「…さっきの話だが、どういう意味だ」


「殿下が言われた事、ですか?」


「そうだ」


フーリはルチアナに自分達の事を口外するなと言ったにも関わらず、既にロブはこちらの事情について知っている風で、これはルチアナが喋った、もしくはバルバロイがロブに言った事になるが…、殿下と言っていた事からルチアナ本人がロブに伝えたのだろう。

フーリは返答次第では今後の関係を大きく修正する必要があると思い、ロブの次の言葉を待った。


警戒しているフーリの背中にロブが笑った気配を感じたフーリは首だけ後ろへ向ける吠える。


「おい!どうなんだ!?」


ロブはフーリの声に笑いを納めると、人馴っこい顔で答える。


「…殿下にフーリ殿はこう申されたそうですね?

『俺らを信用しろ、そんで俺らはお前を信用する』と…。

殿下は楽しそうに仰っていましたよ?

貴方の真似までしていましたから」


「…」


そう言ったロブはまた可笑しそうに笑うと、今度も直ぐに笑いを納めて続ける。


「多分、貴方は私達3人のことを監視役だと思っているでしょう?

…やはり。確かに私達は貴方がたの監視役でもありますが同時に味方でもあります。

そして魔術を教える講師でもあります」


「どういうことだ?」


「…そうですね。まずは私の素性からハッキリとさせましょうか。

王都まではまだ時間がありますし。

私は王女殿下…ルチアナ様の乳母の息子で彼女とは幼い頃から妹と一緒に過ぎしてきました。

まぁ乳母兄弟、自称兄と言ったところでしょうか。

因みに本当の妹にもフーリ殿は既にお会いしていますよ?」


そう言われてフーリはロブの顔を見ると気が付いた。


「あ!確かエリアだったか?」


「そうです。先日は妹が失礼致しました。

あれは少々ルチアナ様に依存している所がありまして。姉のように慕うのは良いですが、たまに暴走してしまうのです。

申し訳ありません」


あれはそれだけの様では無かったがな…とフーリは口には出さないが思った。

そう言って頭を下げたロブはさらに話を続ける。


「ルチアナ様は私達を信用して皆さんの事情を御話しになりました。

私達はルチアナ様の信用にお応えするため、また私達が信頼する者の為に決して事情については口外致しません。

それに魔術を知るためには、事情を知った者が居ないと話が進まないでしょう?」


「…確かにな。

魔術を教える奴を後で用意するとは言っていたがここまで速く用意してくれるとは思わなかったがな」


「それについてはルチアナが貴方の信用にお応えしたと思って下さい。

今後は私達が皆さんの補佐もすると思いますので、宜しくお願い致します」


「…わかった。

言い出したのは俺だ、あんたの事は信用しよう。

…だが、後の2人はどうなんだ?」


「彼等も私とは違いますが、ルチアナ様に忠誠を誓う者達です。口外はしません」


フーリはロブの目を見てから信用出来ると感じる事が出来たので、それ以上は何も言わなかった。

ただ…。


「じゃあ1つ頼みがある。俺を呼ぶとき敬称はいらねぇ。フーリでいい。

俺も普通にロブって呼ばせて貰う。

…どうも様とか殿って呼ばれるのは慣れん。

喋り方も普通でいいぞ」


「わかりました、ですが喋り方についてはこれが普通なのでお気に為さらず」


フーリはその言葉に頷くと前を向き、護衛の任を真面目に行う。

途中でロブと話をしながらだったが、襲撃もなく順調に王都への行程を消化していった。

そして1回目の休憩では他の2人にも話を聞くことが出来、コイルはカイを、リグリットはボリスから話を聞いて信用できると判断したようだ。

…リグリットとボリスは終止無言で見詰め合うという特殊な会話方法であったが…。


そんな中でも一行は襲撃を受けることなくその日の行軍予定を大幅に進む事が出来、護衛一日目は終了した。


野営の警備もクロとシロが交代で行ってくれるのでフーリ達は安心して眠る事が出来、明日の護衛任務の為に確りと睡眠を取るのだった。


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