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選んだ道

会談は両者が思っていた以上の時間で行われ、結果としてフーリが仲間と相談することを提案して、その日は終了となった。

フーリ達が馬車から出るときにルチアナは注告をしてきた。


「私は急ぎ王都に向かうため、あまり時間をとるわけにはいきません。

 フーリ殿達には申し訳ないのですが、明日の朝に結論を出して頂けますか。

 その結果がどのような物であれ、私達は明日王都に向けて出立いたします。

 そしてここで聞いた話は一切口外しないと誓います」


それだけ聞くとフーリは背中越しに手をヒラヒラと振ると馬車を退出するのだった。





フーリ達が退出した後、ルチアナは椅子に座ったまま小さくため息を零した。

主人の疲れる横顔を見たバルバロイは声をかける。


「殿下、お疲れのようでしたら今日はお休みください。後のことは私が執り行います」


その言葉にルチアナは一つ頷くと、小さな声でバルバロイに問いかける。


「あれで良かったのでしょうか…?

 彼らをすでに巻き込んでしまっていて、さらに力を借りて…」


「彼らが我らに助勢したのは、彼らの意志によるものです。

 殿下が気に病む必要はございません」


「ですが…」


バルバロイは優しい主人を見て、自分の中にある物が後ろ暗いものであると感じても、それを厳つい顔には決して表に出さない。


フーリ達には伝えていないが、先にあった飛竜の襲撃は偶然では無い。ランカスタ侯爵の手の者が用意した刺客だ。

この王都へ帰還する旅の途中にも様々な刺客が現れ、自分達を襲撃して来た。

さすがに飛竜が現れた時にはバルバロイも死を覚悟し、殿下だけでも逃がそうと考えていた。そこにやって来たのがドラゴンを従えたフーリ達だった。

彼らの活躍により飛竜を退けることは出来た。しかし、その時点でフーリ達の存在はランカスタ侯爵側に知られてしまったと見ていい。強大な力を持ったドラゴンを従える者達…。

注目され、危険と判断されるのは明らかだ。しかもその者達が王女側に付いたとなると、彼らはこの国にいる限りランカスタ侯爵の手の者に狙われることになる。


バルバロイは初め、フーリ達を自分たちの囮として利用するつもりでいた。

彼らにランカスタ侯爵の目が向けば、自分たちへの襲撃が減ることを期待していたのだ。…もっと言うならば味方に引き込んで利用したいという気持ちもあった。

王女を守るためには綺麗ごとを言って守ることが出来る状況ではない。そのためには何でも利用する、それがバルバロイの考えだった。


「殿下、我らはなんとしても生きて王都に着き、親王派貴族と合流してランカスタ派を止めなければなりません。そして人質となった王を何としても救い出さなければならないのです」


バルバロイが主人に強く意見を述べれば、ルチアナは「わかっています…」とだけ言うと立ち上がり侍女達に湯あみの用意を申し付ける。


バルバロイはそんなルチアナの背中へ騎士礼をして馬車から退出していった。





一方でフーリ達は長い会談を終えて、仲間が待つ王女達の集団とは離れた場所で会談の内容について話をしていた。

フーリとコイルから聞かされた話に全員が暗い顔をする。…いや1人だけ暗い顔ではなくいつものニコニコ顔の奴がいた。


「いいじゃん、そのままルチアナちゃんの護衛をすれば」


ありすのあっけらかんとした言葉にフーリは苛立ちながらも応える。


「てめぇ…、話聞いてたか?

 内乱が起こる可能性があるんだぞ?しかも外にも火種があっていつ爆発してもおかしくねぇんだよ!」


最後の言葉が語気が強くなってしまっていたが、全員が同じ意見であり、どうしたらいいのか悩んでいた。

自分たちの世界ではない、違う世界に来て戦うことに恐怖がないといえば嘘になる。

コイル、リグリット、謎謎の三人は沈痛な面持ちで黙っていた。

そんなものは見えない、または空気を読むことが出来ないありすは続ける。


「でも、一番この世界で安全なのはこの国でもあるんでしょ?

 内乱も起こる可能性があるだけで、起こらない可能性もある。そうでしょ?」


「確かにそうだ、だがな?それは楽観視しすぎだ。

 もっと慎重に考えろ!このアホォが!!」


「あーーー!!ヒドイ!!アホ言った!!

 アホって言った人がアホなんだよ!!」


フーリとありすがいつもの言い争いをはじめてしまい、コイルは仕方なく仲裁に入ることになったが、そこで意外な人物が話だした。


「…うちも、この国に残るのが良いと思う。

 それで、お姫様の護衛をしながら元の世界に戻る方法を探すのが良いと思う」


謎謎は自分の足元に向いていた視線を上げると、4人の仲間を順番に見ていく。

自分に仲間全員の視線が集まったことで、謎謎は顔を苦悩の表情に変えながら言う。


「…うちがあの箱を開けたことで、みんながここにいる。

 うちは何として帰る方法を見つけにといけないの!!」


泣きながらの謎謎の答えに3人は押し黙る。確かに箱を開けたことでこの世界に来た。そしてその箱を開けてしまった謎謎は仲間をこの世界に連れてきてしまったのも事実だ。


この2日、謎謎はずっとふさぎ込んでいた。いつもは明るく、ありすと一緒にバカなことをしては3人を困らせていた謎謎のそんな姿を仲間たちは見たことがなかった。

そして気が付いていたが、敢えて気が付かないフリをしてもいた。

謎謎に余計な重荷も持たせたくなかったから、認めてしまうと謎謎を罵ってしまうかもしれないから。

その気持ちは3人の中で共通の物になっており、どうしていいのかわからないことでもあったのだ。


「大丈夫だよ!メイちゃん!

 誰もメイちゃんのことを責めたりしないよ?こんな面白い世界なんだから楽しまないと。

 仲間なんだから、心配することないんだよ?」


ありすは本当の空気を読むことが出来るのか。まさに3人の意見は一致していた。

励ましているのか判断に困るが、励ましているのだろうすごく微妙だが…。

しかし、仲間だというのは3人は同意できる。


「…はぁ、来たものはしょうがねぇんだ。

 5人だったら何とかなるだろ」


「そうだよ、僕も1人でこの世界に来たら何もできなかったと思う。

 みんな一緒にいてくれてよかったよ」


「謎謎の所為ではないぞ」


それぞれが謎謎に励ましの言葉を言うと、謎謎は嗚咽を漏らしながらありすに抱き着くとワンワンと泣き出してしまった。

不器用ながらも仲間のことを考えて行動する、それがフーリ達の信頼表現方法だった。

さっきまでの殺伐とした雰囲気はなくなり、今は謎謎をあやすありすの声と、その2人を見る3人がいた。


クロはそんな彼らを見ながら誰にも気づかれないように微笑んだのだった。





結局、話し合いは一時中断してしまったが、謎謎の決意(懺悔?)を聞いた仲間が、全員一致でこのまま護衛を行い、そして王都に向かってから帰還方法について調べることで落ち着くことになった。

ちなみに、クロとシロにもどうするのか聞いてみたところ、クロは『皆様に付いていきます』と応え、シロは「がう!!」と意味は不明だが付いてくるのだろう…フーリを捕まえて巨体でじゃれ付くという行動で示した。

なんとかシロの舌から脱出したフーリは涎にベトベトになりながらもしっかりとシロを叱り、止めに入らなかったありすもついでに叱った後には、空も暗くなり始めていた。


「今日はこのままここで野営するぞ?俺は一様姫さんに結果と護衛の了承を伝えてくる。

 お前らは先に休んでろ」


「りょうか~~い!」


ありすが元気よく返事をすると、メニューを開きインベントリから野営セットを取りだす。メニューを人前で使うことを一瞬止めようかとも思ったが、今後一緒に行動することになれば隠すのも難しくなると思い直したフーリは止めることはせず、他の仲間たちも自分のインベントリから野営セットや夕食を取り出している。

謎謎を見れば、仲間に打ち明けたことで少しは気が楽になったのか、ありすと一緒に笑いながら夕食を何にするのか決めているようだった。

フーリは仲間達から離れると、王女の馬車へ1人向かっていく。

先ほどまで負傷者の治療や飛竜の死骸を片付けていた兵士達も数人で固まって野営の準備と夕食の用意をしている。

フーリはそんな兵達の横を通るとまっすぐに王女の馬車へ向かうが、途中にその進路を塞ぐ人物がいた。

豪華なローブを着た茶髪の女がフーリの行く手を塞ぐように割って入ってきたのだ。


「どちらに向かうのですか?」


女はフーリに油断のない視線を送り目的を訪ねてきた。


「…今から姫さんに護衛をすることを報告に行くんだよ。

 邪魔だからどいてくれねぇか?」


そういって女の横を通ろうとしたフーリの前にまた女は体を入れてフーリが進むのを阻止する。

女の行動に片眉を上げて不快な表情をしたフーリは女を睨む。


「…おい、聞こえなかったのか?

 そこを退け」


怒気をはらませた声に女は怯むことなく、無言で睨み返してくる。


「…わかった、お前はあれだろ?

 言葉も理解していない人間なんだな?俺はそこを退けと言ったんだ。

 ど・け!」


「…あなたは王女殿下を守るに値しない男です。即刻この場から立ち去りなさい」


フーリの怒声が大きくなり周囲の兵が注目し始めると、女は淡々とした声でフーリにここから出ていけという。


「テメェ…姫さんからは何も聞いてないのか?

 …ははぁん、さてはお前俺らにヤキモチ焼いてんだろ?

 最初の時からお前の目は俺らを見下したものだった。そんな見下した相手に自分の仕える主人が助けを乞う。それで出ていけとか言ってるんだな?」


女はその言葉を聞いた瞬間、表情を憎悪に変えて睨み返してくる。フーリは自分が言ったことが真実とは思っていない、だが遠からず女の真意に近い場所を言い当てたのではないかと思って、女を観察する。

何故わざわざこんな挑発紛いのことをするのかといえば、先ほどの言葉のように、この茶髪の女はフーリ達を見て見下している感がしていたからだ。2度目に会ったときは女の付き添いで来た3人の兵士も同じようにフーリ達を見下していた。

ほとんどの兵士はフーリ達のことを危険な獣か何かを見るかのような、怯えた表情をするのに対して、この女と綺麗な鎧を着た連中だけが敵意にも似た感情を隠しもしないで、フーリ達に向けていたのだ。

今後、王女を護衛するにあたって他の兵士とも信頼関係を作るとまでは言わないが、親しくする必要がある。だから、この場で一気に問題を片付けようと考えたのだ。


暫く女とフーリが睨み合いをして、その周りには一般の兵士達が遠巻きに2のことを観察していた。

するとそんな兵士の間から厳つい顔をした豪華な鎧を纏った男、バルバロイが姿を現す。


「何事か!?王女殿下を守る兵が何をしている!!」


周辺全てに聞こえる大きな声で怒鳴ったバルバロイは騒ぎの中心がフーリと茶髪の女だとわかると、兵士の波をかき分けて2人に近づく。


「フーリ殿困ります。問題を起こさないで頂きたい。

 エリア。お前も何をしている、自分の班に戻れ」


「…はい」


バルバロイに言われた茶髪の女…エリアは最後にフーリを睨むとその場を離れた行った。フーリはそんな彼女の背中を見えなくなるまで見ていると、バルバロイが声をかけてきた。


「フーリ殿、申し訳ない。彼女が何かしたようだが…」


「いや、別に姫さんのところに行こうとしたら声を掛けられただけだ」


「…そうですか。

 しかし殿下に用とは、いったい何ですかな?

 殿下は今お休みになられたところです。私から殿下に用向きはお伝えしておきますが」


「ああ、もう休んでんのか。

 それなら伝えといてくれ、護衛の依頼は受けると」


「おお!左様ですか!

 殿下もお喜びになられるでしょう。必ずお伝えしておきます」


そう言ってバルバロイは胸に腕を当てると「では」と言って去っていった。去る時に周囲の野次馬は彼が散らしていったので今はフーリが1人で女が去った方向を見てから、苦い表情をして天の仰いだ。

この世界で見る夕焼けに染まる朱い空は綺麗だが、「ふう」とため息を零すフーリは誰にも聞こえない声で呟く。


「なんか、最近ため息ばっかりだ…」


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