第28話〜コメディーにこんな話は場違いな事くらい分かってる!〜
友美視点…シリアス 智貴視点…コメディー だと思って下さい。
学校までの歩く道のり。決して近い距離ではないのに、あっという間に時間が経つのは行くのが嫌なのかな。
周りの皆は自転車通学。歩く私を地面に足を浸けずに楽して通り越して行く。
そりゃ私だって前は自転車通学だった。でも、さすがに四台も親に買ってもらうわけにもいかないでしょ?
置いておいた自転車を車にひかれた。
パンクしたから捨ててきちゃった。
遊び先で鍵を無くしたから置いてきたら次の日にはもう無かった。
苦しい言い訳だったけど何とか親はごまかせた。
それも全部嘘。本当は三台とも壊された。だから今日も歩いての登校。
「遅刻するぞ友美!後ろ乗ってけ!」
こんな私に唯一話し掛けてくるのは智貴先輩。
彼は一つ年上の陸上部。入学した時に憧れて私は陸上部のマネージャーになった。すぐに親しみ、今じゃ智くんと呼んでいる。
でも、それが全ての原因。
「いえ、結構です」
本当は乗りたかった。だって好きだから。でも、智くんは女の子から人気があるんだ。私が智くんが仲良くしているのを気に入らない女生徒に、いつも嫌がらせをされる。
自転車を壊した犯人もきっとそうだろう。
だから智くんの前ではいつも、本音とは逆さまの事しか口に出せなかった。
「いいから、ほら」
「え?ちょっ…キャ」
智くんは強引に私の手を引いた。照れながらも荷台に腰掛け、肩に捕まり、背中に身を預けた。
凄く…幸せだ。
ーーーーー。
教室に入ると床に散らかった教科書。乱れた机と椅子。間違いなく私のだ。
「あんた、頭良いんだから教科書なんかいらないでしょ?」
女生徒の表裏一体となる団結力が、この嫌がらせを先生にバレる事なく継続させた。
「今朝見ちゃった。智貴先輩と二人乗りしてるの。…知ってる?二人乗りって罪になるのよ?」
知ってるわよ。でもあんた達のこの行為は罪じゃないって言うのかしら。
この学校は共学だけどクラスは全部で五クラスの二校舎。
第一校舎には主に男子が。第二校舎には私達女子の教室がある。
これは五クラス全てが異なった専門の学科なので仕方ない事だが、最悪な事に私のクラスの学科は食品と言って、女子専用の学科のため、男子がいない。
つまり、クラスの全員が敵なのだ。
男同士の喧嘩ならその後友情が芽生えるケースも少なからずあると聞くが、女は質が悪い。
我が身が可愛い女は表向きな行動は一切せずに陰から嫌がらせをする。
基本的に女の子同士は、初対面の人でもすぐに仲良くなれるが、一度友情が崩れると修復が効かないという欠点もある。
もう嫌がらせは慣れた。
何度も強がってはみるものの、痛みや寂しさ、悲しみは慣れるものじゃない。
この日は特に苛立っていたから朝のHRが始まる前に教室を出て、そのまま帰路についた。
幸せと不幸の極端な繰り返しに、精神が不安定になっていた。
そんな時に公園にたまっていた同じ学校の制服を着た高校生が。俗にいう不良だ。
いつもここにたまっているのは知っていたが、この公園を通らなければ家に帰れないのだから仕方がない。
「ちょ…あの娘可愛くねぇ?」
「マジだ!おい、ノリオ、行ってこいや」
「ウッス!」
三人組の不良の一人がこっちに近づいてきた。
「なぁ、俺らと遊ばねぇ?」
ドカンと呼ばれるダボダボのスボンに両手をポケットに入れ、短ランと呼ばれる短い学生服を着て、肩で風を切るように歩いてきた。
「いや、昭和の方ですか?今は平成ですよ?」
私はニッコリと笑ってその場を立ち去ろうとしたが、腕をガッチリと掴まれた。
「てめぇ…ちょっと来いやぁ!!」
所詮、女の力じゃ男には勝てないのは分かっている。
でも…ずいぶん悔しい話じゃない。
性別が違うだけで不運に勝てないなんてさ。
それにしてもこんな展開は漫画の中だけかと思ってたのに…実際に目の前で起きてるんだから否定はできないですね。
ハハ…私、どうなるんだろう…?
ーーーーーーー。
くはぁ〜眠ぃ。もうお昼か。午前中の授業の記憶なんてありませんが何か? って感じだぜ。
「智貴ぃ〜飯食おうぜ」
俺の名前を呼び昼食に誘ってくれている奴は、名前をあげてもしょうがない。クラスメイトAとしよう。
俺はA君と昼食を食べるべく、母親特製愛情弁当をとりだそうとバックを開けた。
ーーーーーーーない。
あ、俺…母さんいないんだった。
別に淋しくないもん。
腹に貯まれば食い物なんて購買で良いのさ。
ーーーーーー財布忘れた。
はい、お約束ですよね。
「わりいA、ちょっと家帰って財布取ってくるわ」
「おう、…って、Aって俺の事!?」
昼休みに学校を抜け出し、自転車で家までの道を爆走する。
すると、どうでしょう?
公園で友美が柄の悪い野郎共に絡まれているじゃありませんか。
「こらあ君達、駄目じゃないか!女の子に暴力振るっちゃ!」
「…と、智くん…」
殴られたのか…乱れた制服を見ると相当辛い目に会いましたな。
「うっせぇな!」
右頬に強い衝撃を受ける。どうやら俺まで殴られちゃったみたいだ。
「智くん!大丈夫…?」
何かが込み上げてくるのが自分でも分かった。
「あぁ〜あ…切れちゃった☆」
俺は我も忘れて三人組に殴りかかっていった。
ーーーーーーーー。
「クスン…ウゥ…」
「泣かないの!もう終わったんだから」
「だって…だってぇ…」
「あの昭和のヤンキー達もどっか行っちゃったからさ!だから…もう泣かないで?智くん」
「……うん」
はい、ボコられました僕。だって相手三人よ? 漫画じゃあるまいし勝てるかっつーの。
「もう…無茶しないでよ?でも、助けようとしてくれて…ありがと☆」
しかも女の子に慰められる俺ってどうよ?
…え? あれ? もう友美視点になるの? ちょっと待って、最後に一発ギャグやらしてよ。
えーとえーと……〈それゆけ!寝過ごしちゃいました特急車!!〉
ーーーーーーー。
あら、智くんどうしたんだろ。ちょっと元気が出たと思ったのに急に落ち込んじゃって。心の中でスベッたのかしら?
あの涙は傷の痛み?
それとも心の痛み?
でも、そんな落ち込んだ智くんの表情も好…って、私ったらこんな時に…恥ずかしいです。
「ねぇ、喧嘩弱いのにどうして飛び出してきたの?普通なら、助けを呼びに行くんじゃない?」
「弱い…俺?」
あ、また落ち込んじゃった。
「…さぁ?好きだからじゃね?」
…え? 好き…私を?
「ちょ…急にそんな事言われても…」
「喧嘩が」
そっちかーい! またベタな展開…。
「何怒ってんだよ友美?」
「別に怒ってません!」
「友美の事も好きだよ。誰よりも」
智くんはニッコリと笑った。その笑顔に心臓の鼓動が大きく、そして速くなった。
「…私も…智くんの事…」
好き。
「…え?」
言えなかった。
私の馬鹿。
智くんを直視できずに思わず上を見た。
屋根の上にはタンポポが咲いていた。
ありえない所にでもちゃんと咲くんだね。
私の恋にも…花は咲くのかな?
私はそのタンポポをずっと見ていた。
次はちゃんと言おう。
ーーーーーー。
だけど次の日、智くんは学校から姿を消した。