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番外編〜俺の過去に何があったかって?君も物好きだなぁ〜

「ごめんなさい…ごめんなさい!」


『絡む相手を間違えたのが運の尽きだな』


「知らなかったんです、あなたがまさか明さんだなんて…」


『目障りだ…消えろ!』


つまんねぇ…ありきたりな毎日。高校に入ったって何も変わらない。


クラスの奴も喧嘩は弱いし根性がある奴もいない。俺に逆らってくる奴すらいないなんてな。


まあ当然か、高一でリューファのヘッドだもんな。


いや、そういえば…俺に普通に接してくる奴が一人いたっけな。


「あっきら〜おっはよ〜」


こいつだ。朝っぱらから馬鹿みたいにでかい声で挨拶をしてきたのは大島おおしま 智則とものりだ。同じクラスでなぜか智則だけは俺になついてくる。


「お、おい…早く行こうよ、智則…」


智則の後ろで俺の顔を見てビビってる奴は…確か匠とか言ったな。


「んじゃ☆三人で行きますか!」


『いや、俺今日は学校サボるよ』


「えぇ〜?俺なんて皆勤賞狙ってんだぜ?」


皆勤賞とか中坊でも喜ばねぇよ…もう高校生になって半年も経つのにまだまだ餓鬼か…。


「智則、早く行こ!電車来ちゃうよ」


「分かったよぉ〜。明!遅刻してでも来いよ!」


俺は片手を上げて奴らの前を後にした。


駅の地下にあるゲーセンで暇を潰す。先客は学校をサボり、リューファの一員である連中がほとんどだ。


いつものくだらない不良仲間。しかし、リューファというグループのヘッドである以上、下の奴らの前では常に威厳を発しなければならない。


しかし、いかに下の奴らと言えども年上の連中ばかり。


いつまでも俺の下にいるなんて限らない。ただ、喧嘩が俺より弱いだけ。


「くそ、なんでこいつの言う事なんか聞かなきゃなんねぇんだよ…」


なんて小言はしょっちゅう聞こえてくる。


『なんか言ったか?和也さん』


「いや、何でもないっスよ」


和也かずやと言う奴はリューファで二番目の実力者であり、二つ上だ。


今まで誰にも逆らわれず生きてきた和也が年下の俺に敬語を使い、何より喧嘩が勝てないと言うのに腹が立つのだろう。


俺がいなければリューファを仕切るのも和也だしな。


「明さん!駅八番線の便所で仲間がやられました!」


腫れた顔で報告に来たのは同い年の拓哉たくやだった。きっと喧嘩でもしたのだろう。


拓哉はリューファの中ではちゃんと学校に行っている奴で、八番線と言えば拓哉が乗る電車から1番近い便所だ。


「いつも通り煙草を吸ってて、二人組の奴らに絡んだんですけど…片方の奴が強くて三人がかりでやられまして…」


『和也さん…行きますよ』


「へいへい、お前ら!行くぞ!」


俺を含めてゲーセンにいたリューファの一員四人で例の便所に向かう。


三人がかりに勝った奴なんて相当強いと期待していたが…


俺達が着いた頃にはそいつは既に床に屈していた。


とはいえ、倒れているのはリューファのメンバーも三人。


俺達より早く加勢した二人に倒されたのだろう。


ここの便所は以外と広く、一番奥のホームから近いためか、さっき電車が出たばかりのためか、あと一時間以上は人が滅多に来ない。


『もう終わったのか、たった一人にてこずりやがって…おい!』


俺は倒れている奴の髪を引っ張り顔を覗いた。


『…と、智則!?』


そこにいたのは智則だった。


「へへ、皆勤賞…逃しちまったよ」


なんでこいつなんだ?



「この野郎!」


和也が智則を蹴り飛ばす。智則の鼻と口からは夥しい程の血が出ている。


『やめろ和也さん!もういいだろ!』


「まだだよ!せっかく来てやったんだ、殴らなきゃ気が済まねぇ。お前らもやれ!」


和也が一員に声をかける。もう智則は動けないと言うのに袋だたき。


「ほらほら、リューファのヘッドであろう男が見学ですか?明さんよぉ!」


『…めた』


「あ?」


『たった今、俺はリューファをやめた。』


「ってことは俺がヘッドって事でいいですね?お前ら!みんなで明も潰せ!」


くくっ、五対一か…。


でもな、智則は友達だ。こいつらは全員許さねぇ!




ーーーーー。


ハァハァ、さすがに厳しいな。拓哉は俺に勝てないと察したのか腰が引けているし、和也は俺が苦しむのを楽しんで見ている。


おそらく俺がバテた所で出てくるのだろう。


三人相手に俺は死闘を繰り広げたがさすがに限界だ。


「そろそろ疲れただろう、お前らどけ!俺がケリをつける」


この状態で和也が出て来てしまってはタイマンでも勝てない。


もうダメか…そう思ったその時だった!


「お前ら!何をしているんだ!!」


駅員が駆け込んできた。後ろには匠がいた。おそらく匠が駅員を呼びに行ったのだろう。


結局この事件が学校にバレてしまい、俺は一週間の停学をくらった。


停学で済んだのはリューファを辞めていた事と智則を守るための不可抗力として認められたためだ。


現場にいたリューファの奴らは学校に席が残っている奴は退学。


さらに全員補導された。




智則はというと…頭の打ち所が悪かったため緊急で手術をした。


命に別状はなかったが…記憶喪失になってしまった。


とは言え、今までの事を全て忘れたというわけではない。


言葉の理解能力が欠けてしまい、思うようにしゃべれないのか、海外まで治療に行くため俺の前から姿を消した。


仮に元通りしゃべれるようになっても決してこの街には帰ってこないだろう。


匠はずっと泣いていた。友達を守れなかった事、己の非力さを悟った事。


しかし、それは俺も同じだった。友達一人守れなくてどうする?


これから俺に何ができる?


停学中の一週間、家で悩み苦しんだ。


停学が解消された日、家を出ないと間に合わない時間になっても俺はまだ部屋にいた。


正確に言えば、今日ほど学校に行きたくない日はない。


周りの連中は何と言うだろうか…俺が仕切っていたチームの奴らに友達を消されたんだからな。今まで以上に冷めた目を浴びるだろう。


重い足どりで玄関を開ける。


「あ…おはよ!」


門の前には匠の姿があった。一番怨まれる人間。


大親友を失った人間。


そんな匠に俺はどう接すれば良いというのだ…。


「遅刻しちゃうよ?」


『また…サボろうかと思って…』


この台詞も口癖のようになってしまった。智則に誘われたあの日だって、俺は学校に行こうとしていたんだ。


ただ、人と馴れ合うのが嫌いで、素直じゃない損な性格。


「ふざけんなよ!」


今まで根性がない、ただのビビりだと思っていた匠が意外な言葉を発した。


「責任…とれよな!」


『ああ、責任か…分かった。俺はこの街を出ていく事に…』


「だからふざけるなよ!そんなの逃げてるだけだろ?」


『じゃあ…どうすればいい?』


匠は下をうつむいて、俺の目を見た。こんなに真っ直ぐな目で見られるとつい気落ちしそうになってしまう。


「俺は親友を失った…だから!明君に俺の親友になってもらう!」


…え?


「ほ、ほら…早く学校行くよ!クラスのみんなには俺から言っといたから。明君は良い人だからって…」


俺は何を勘違いしていたんだろう。智則を守れなかったのはあの時、俺がいっしょに学校に行かなかったからじゃないか。


ゆっくりしすぎてて…気がついた時には遅くて…盗られるに決まってるじゃないか!


これから毎日…学校へ行ってやる。次は匠という親友と共に。


「明君、早く!俺の親友はこれから皆勤賞を狙わなきゃ駄目だからね!」


『匠…ありがとう。それからな、親友だったら君つけはいらねぇ…明でいいよ』


「そっか…よし、行くぞ!明!!」


『おう、匠!』


智則…いつか戻って来いよな。その時は今度こそ、三人で学校に行こうぜ。

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