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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

"天国へ行こう"

「いい加減諦めろよ!」



柱の裏に隠れて痛みに耐える僕に、君が声を張り上げる

面積ばかり大きい廃工場の広間で、その声は何重にも反響して聞こえていた



君のナイフは、刃渡りも切れ味も一流が使う物に匹敵するような道具だ

相棒だったから誰よりも僕は知っている

なんなら、そのナイフを磨いた事すらある


内臓が外に出たりまではしていないが、だからといって刺された腹の中身が無事である様には思えなかった



「お前こそな!」、そう叫び返そうとして僕は愕然とした

叫ぶつもりで吐き出した声は、恐らく君に聞こえて居ないであろう程の掠れた吐息にしかならなかった

その時になって初めて、僕は自分が絶え間なく、はあはあと呼吸を繰り返している事に気が付いた



柱の裏で、靴底が砂を踏みしめる音がする

君が僕の様子を伺いながら、瞬間を狙っているのだろう

息の根を止める瞬間を


僕は指に焼き付いたように硬く握りしめられた警棒を、いつでも振れるように頭の上まで振り上げた

警棒の先には、血と毛髪が少し付いている

君のものだ



程なくして、君が柱の影から飛び出してきた

お互いに拳銃は弾が尽きている

こういう決着の仕方以外は、既に有り得なくなってしまっていた


僕が君の頭を狙って警棒を振る

意図せず互いの得物が衝突し、ナイフと警棒は僕から見て左の方向へと弾き飛ばされていった

武器を拾い上げたい気持ちもあったが、何しろ相手は君だ

戦い慣れてる人間を相手に、それが出来る自信は無かった


お互いに同じ速度で手が出たかと思ったが、そう感じていたのは僕だけだった

いつもみたいに僕は君に頬を拳で打たれ、直ぐに倒されて馬乗りで殴られ始めていた



「お前を殺さないと」


「もう俺も危ないんだよ…!」


きっと自分に言い聞かせるという側面が大きいのだろう

既に知っている事情を改めて話しながら、君が何度も僕の顔へ向けて拳を落とす

僕は両手で顔を庇いながら反撃の機会を探していた


君は僕に対して「死ねよ」「早く死ね」と言いながら、打撃を加え続けた

まだ僕は、指は何本かは折れてしまったが、かろうじて死ぬ気配が無い

叫びながら殴っていた為に失血が多くなったのか、君は段々と息が上がり出していた



せいぜい、今の躰力で出来る反撃は一回くらいだ

僕の拳が油断した君の眼に突き刺さっていくのが、スローモーションのように視えた


現実感が無かった

次の瞬間には血と、眼球の内容液が僕の顔に弾けて降り掛かった


君が片眼を押さえて倒れる

僕は急いで警棒を拾い上げると、何度も君に振り下ろした


五回目くらいで、君の骨が折れた様な感覚が警棒を持った手に伝わってきた


まだ死んでいない

君は躰を丸めて、僕に背を向ける様な姿勢になっていた

何分ほど同じ事をしたろうか

いつの間にか、君は冷たくなってしまっていた



打ち据えるのを止めると、僕は君を視た


僕の兄弟、僕の友人、僕の先輩、そして僕の恋人……



『本当にこうする必要が有ったのだろうか』



心の中ではそう思ったが、喋る程の力も残されていなかった


また、どの事に関して自分がそう思ったのかも、解らなかった

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