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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
6/13

6 触れるんかい

「明日野球の練習あるからお風呂上がったらすぐ寝る」


「お前野球やってんの?」


「うん。土日は練習」


「そっか」


俺プロ野球全球場見に行ったことあんのよって言おうかと思ったけど、考えたら金払ってないので教育上良くないので言わないことにした。


「泊まって行ったら?」


「嫌、いいよ。もう今日は帰るな」


千紘が俺の浴衣を掴む。

あれ。


「お前俺に触れるんか?」


「え?」


「嫌、俺」


俺は千紘の小さな手を掴む。

掴める。


「触れる、何でだ?」


「え?」


「俺死んでから生きてるものに触れなかったんだよ。人間だけじゃない、犬とか猫とか、トンボもドクダミも」


「どういうこと?」


「知らん。本とか人間が着ていない服とかなら触れたんだけど、生き物は無理だったんだよ。何でだ。いきなり、四百年たって」


俺は両手で千紘の腕を掴む。

暖かく、細い。

そのまま俺はくるくると廻る。

これ正式名称は何ていう技なんだろうな。

でもこれならそうだ。


「ちょっと散歩しよう。空中散歩だ」


「何それ?」


俺は千紘を抱え窓を開け夜空へ飛び出し、そのまま風に吹かれ二人で流されていく。


「おお」


「ははっ、どうだ。幽霊散歩。略してゆうさん」


「何それ?」


千紘は初めて高揚した顔を見せてくれた。

だって今俺ら空飛んでんだもんな。


「気持ちいい」


「それは良かった。これで飯の恩少しは返せたか?」


「うん、あ、お祖父ちゃん帰って来た」


「お、そりゃいけねぇ。祖父ちゃん、空見るなよ」


「車だから大丈夫」


「まあでもそろそろ帰らねぇとな。風呂入れってそろそろ祖母ちゃんが呼ぶだろ」


「また空飛んでくれる?」


「ああ。またな」


俺は千紘を部屋に送り届け、その小さな頭をそろそろ撫でる。


「また来るよね?」


「ああ。でもやることできたからな。また来週な」


「やること?」


「確かめなくちゃならねぇ」


「うん。あ、何か食べたいおやつある?」


「プリン」


即答してしまった。

我ながら情けない。

欲望って恐ろしい。

四百年ぶりだもん。

タガが外れてもしょうがなくない?

俺生きてたら四百歳以上なんだよ。

大大お爺ちゃんじゃん。

労わってよ。


「じゃあプリンお祖母ちゃんに買っといてもらうから」


「ああ、よろしく」


「また空飛んでね」


「ああ」


「絶対だよ」


「ああ。約束だ」


俺は勢いよく、まるで翼が映えた如く空へ飛び出してく。

ワンワンと吠える声が聞こえたので、地上に降り立ちお隣の犬の頭を撫でる。

触れるじゃん。

千紘だけじゃないんか。

これは大変なことになったな。

色々試さねば。

これは革命だぞ。

一段階ステージが上がったな。

成仏メーターも上がった気がする。

まあいい、調査開始だ。


取りあえず少し遠出して動物園行こう。

キリンとかに乗っちゃうんだぜー。

イェーイ。

って浮かれてたんだけど、動物園に入って、取りあえず象さんの背中に飛び乗ったらドスンと真っ直ぐに落ちた。

何で?

でっかい動物は駄目なのかもと思い、レッサーパンダを撫でに行ったら身体をさーっとすり抜け置き去りにされた。

あれか、ヒト科じゃないと駄目か?

え、でも犬撫でられたよな?

あれ、俺の勘違い?

ゴリラなら人間に近いかもと思い、座っているゴリラに後ろから抱き着いたが、バックハグは成立しなかった。

ダメもとでキリンの長い首にぶら下がろうとしたが、俺の手は虚空をさまよった。

ああ、悲しい。

何だよ、期待させおって、昨日だけだったんか。

それともあれか、千紘とワンちゃん限定か?

動物園で父親らしき男に肩車をされている幼稚園児くらいの男児がいたのでそのおつむりをそうっと撫でようとしたが成果は得られなかった。

俺は失意を抱えたまま水族館にも行ったが、結果は全打席空振り三振に終わった。

せめてバットに当てろ。


来週なと言った手前千紘の所に行くのは躊躇われたが、隣の犬ならいいと思い吠えられたが、撫でることには成功した。

やっぱり犬と千紘限定なのかと思ったが、自転車に乗りながらイヤホンで音楽を聴き、恐らくサビの部分になると歌っている若い男がいたので追いかけてハンドルを握る手に触れてみたら成功したので、その説はなしだとわかった。

男子限定?

でもそれなら動物園の肩車男児はどうなんだということになる。


女性に触るのは躊躇われたので、老婆の肩ならギリ許されるのでは思い民家をすり抜け婆さんを探していたら、ベッドの下に転がって枕を抱きしめている白髪頭の恐らく老女を発見した。

婆さん、ベッドから落ちたんかなと思っていたら、ドアが開いて、若い男らしき三人が部屋に入って来た。

三人とも初夏だと言うのに黒い目だし帽を被っている。

婆さんの孫じゃないよな。

これ強盗だ。

俺は取りあえず立っている三人組にダイブする。

どうやらクリーンヒットになったらしい。

倒れ込んだところに六発ずつ往復ビンタをかます。

必殺幽霊パンチ。

何もない所からの攻撃はさぞ怖いであろう。

そして俺は背こそこいつらに敵わないが鍛えられた肉体をしていたので、膂力が違う。

戦国の忍びだった俺がこんな若い以外取り柄のないヒョロガリどもに後れを取ったりはしない。

俺は奴らが着ているズボンを脱がして手足を逆エビフライの形になる様に思い切り縛る。

何か喚いてるのが喧しかったので、もう一発ずつお見舞いする、今度はグーで。

腹にも一発蹴りでも入れとこうかと思ったが、俺の本気アルティメット幽霊キックを食らったら死ぬ危険性があったので思いとどまった。

殺生ダメ、絶対。


老婆は見た所怪我はなさそうだ。

俺は足に巻かれた電気コードを解いてやるが、老婆は枕を抱きしめたまま動かない。


「婆さん。もう大丈夫だ。警察呼ばねぇと」


返事は当然ない。

小さな縮こまった背に触れる。

大丈夫、暖かい。

ベッドの傍の鏡台に置いてあるスマホを取り、祖母さんの顔の傍に置いてやり、背をぽんぽんとしてみる。

俺の声が聞こえるかわからないが、警察に連絡するか。

あ、千紘起こすか。

でもなぁ、面倒なことに千紘巻き込みたくない。

巻きこんじゃいけない、あいつは子供だ。

もう婆さん抱えて、交番に飛び込むか。

そう考え腕を組んでいると、こちらをそうっと見た婆さんと目が合った。


「お、大丈夫か?」


婆さんの返事はない。

俺の後ろの伸びている三人組を見たのか、スマホを掴んで部屋からそうっと出て行ったので、俺は追いかけた。

婆さんはサンダルを履いて、鍵もかけないで、走り出した。

足取りはかなり遅い。

でも安心しろ、婆さん。

あいつらが追いかけてきたとしても俺がボコボコにするから。

婆さんは角を曲がるとコンビニに入っていった。

二十四時間営業素晴らしい。

そのままトイレに飛び込んだので、俺は扉の前で待機する。

どうやら警察を呼んでいるらしい。

冷静だな。

よし、警察が来るまで、婆さんは俺が守るぞ。


婆さんはポカリスエットを二本持ってレジに向かう。

金持ってんの?

スマホケースからカードを出し支払いを済ませると、レジの若いお兄さんが深夜のパジャマ姿の老女に対するマニュアルでもあるのか、バックヤードへ連れて行き、椅子に座らせてくれた。


警察が来たので俺は婆さんを敬礼で見送った。

これでわかったのは性別や年齢は関係ないということだけだった。

次の日駅まで行き議員宿舎に愛人を連れ込んでいた議員が街頭演説しているところに遭遇したのでその禿げ頭をぽかりぽかりと二発ばかし殴ってやろうと握りこぶしを作ったが、残念なことに俺の最強幽霊拳は届かなかった。

悔しい。

でもこれで俺の最新能力・触れる、は性別年齢問わず発動し、対象者が善人であるか悪人であるかも関係ないということがわかった。

これだけでも収穫だ。

まあ後は要経過観察だな、うん。

















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