30 俺のお星さま
俺この人知ってる。
何でだろ。
どこで見たんだろ。
でも絶対知ってる。
初めて会ったはずだけど、知ってる。
キレイ、かわいい、顔を見るだけで嬉しくなるよ。
思い出せない、でも知ってる。
絶対知ってるもん。
あれ。
何だろ、これ。
目が。
「どうしたの?大人しい、やだ、何で泣いてんの?すみません。いつもは元気過ぎるくらいなのに」
「いえ、初めてのお家で緊張しちゃったかな?」
「すみません。息子の朔です。四月から小学一年生です」
「そうなんですか。さく君。初めまして」
俺は唐突に全てを思い出す。
目の前の美人さんを俺は知っている。
俺の産まれてきた意味、俺の前世を素晴らしいものにしてくれた人。
こんなに美しくなられたんですね。
目が洪水状態なのでぼやけていますが、鮮明に見れたらもう心臓止まっちゃうかもしれないからこれでいいです。
ひーん。
会いたかったです。
ひめしゃまー。
俺はその笑顔にぽてぽてと可愛い擬音を奏でながら近づこうとしたが、何故か地上から遠く離れた。
あれ、何だこれ。
ちょっとー、何してくれてんのー?
あーん。
ひめしゃまー。
「あら、すみません。お邪魔しています。隣に引っ越してきました石原です。どうぞよろしくお願いいたします」
「佐倉です。こちらこそよろしくお願いします」
「背お高いですね。何センチあるんですか?」
「百八十八です」
「わあ、何かスポーツやってらしたんですか?」
「中高バスケ部でした」
「そうですか、朔、良かったわね。眺めが全然違うでしょ?」
ぐしょぐしょだった目が漸く通常営業に戻りつつある。
この顔。
全てを手に入れおって、こやつー。
「いいですね、うちはどっちも小さいから。ねー」
「いやあ、申し訳ない。横には伸びてんだけど」
「横なら伸びないでよ。もう」
そうだぞ、父ちゃん、ちょっとはシュッとしろよ。
でも髪ふさふさなのは希望が持てる、いいぞ。
まあこの男と比べるのは可哀想だ。
俺が知ってる人類で最も顔のいい男だぞ。
いい顔になりおって、こいつー。
「しかし、朔が泣くなんて珍しいな。すみません。いつもは元気いっぱいで、ちょっと大人しくしていなさいって言っても聞かないんですけど」
「いえ、子供は元気なのが一番ですよ」
俺は目の前の美形の右の頬をつねる。
「何してんの、朔。もう、すみません本当に」
「いえいえ」
「ほら、朔、もう行くわよ。手離しなさい」
「やだー」
俺は千紘の首をがっちり両手でホールドする。
むー。
でっかいなぁ。
俺も今生では激渋になるもんね。
背も頑張って伸ばすぞ。
いつかメジャーリーガーになって、華麗なショートの守備を披露するんだ。
ジャパニーズ・シノビ流行らすよ。
ホームランボールを待つんじゃなく打つんだよ、今生の俺は。
でもパティシエにもなりたいし、動物園で働くのもいいなぁ。
キリンのお世話したいよ。
声優もいいな、アニメーターも捨てがたい。
なりたいものいっぱいあるよ。
「すみません。もうホントに、もうすぐお兄ちゃんでしょ。ワガママ言わないの」
「あら、何か月ですか?」
「四か月です」
「うちも四か月です」
「あら、じゃあ同級生ですね。二人目ですか?」
「三人目です」
これは両の頬をつねられる案件。
また目が決壊して来た。
おおお、幸せになったんだな。
じっくり聞かせろよ、千紘。
お前の恥ずかしい告白とか、初デートとか感動プロポーズとか。
根掘り葉掘り全部聞いてやるからな。
昔言えなかったからな、ありがとう、バサラ。
千紘が俺の耳元で囁く。
「さく君、うちの子二人とも女の子なんだけど、今日は、ばあばとお出かけしてるのね。また今度一緒に遊んであげてね」
はひっ。
あ、声出なかった。
俺は首を縦に高速で振る。
千紘の隣にいる姫様が俺の可愛い真っ黒な頭を撫でて笑う。
もう俺の髪が白くなるのは年を取ってからだろう。
世界で一番美しい大好きな人。
未来永劫俺の推し。
俺のお星さま。
スタープリンセス。
千紘の自慢の奥さん。
可愛い娘さん達の優しいお母さん。
今生でも俺を幸せにして下さりありがとうございます。
一生ついて行きます。
来世でもよろしく。
ずっとずっと輝いていてください。
俺はその周りをずっとくるくるしてるから。




