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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
3/30

3 行くとこないなら

「行くとこないならずっとここにいてもいいよ」


「は?」


「お祖母ちゃんには見えてなかったみたいだし」


「あー、そういやそうだったな」


ってことはこの子供にしか俺は見えてないってことか。

やっぱりこの子霊感とかあるんじゃ。

そういや顔きりっとしてるもんな。

溢れ出る特別感。

整ってるというか、どっからどう見ても可愛らしい子供だよな。

間違いなく将来イケメンに成長するやつだろ、絶対。

嫌、俺だって子供の時は可愛かったよ、多分。


「今までどこにいたの?」


「いろいろだよ。日本中放浪してる」


これは本当だ。

姫様を探して、あっちうろうろこっちうろうろ。

だってどこにいるかわかんねぇし、幽霊だから疲れないし。


「どうして幽霊になったの?」


「知らん。気が付いたらなってた」


「この世に未練があるんじゃないの?」


「お前難しいこと知ってるね。それはある」


多いにある。

寧ろそれだけで今日まで生きてきたんだ。

あ、死んでるけど。


「漫画で読んだ。この世に未練があると地縛霊になったりするんだって」


「ああ、まあそれだよな」


「バサラの未練は何なの?」


「そいつは言えねぇな」


初対面の子供に言うにはちと恥ずかしい。

だって片思いだったし。

今の子にはストーカー扱いされちゃうかも。

一途に純愛だっただけなんだけどなぁ。

それに俺は姫様とどうにかなりたいなんて大それたこと考えてたわけじゃないんだ。

これは神様仏様姫様に誓ってそうだ。

でもこの世で一番大好きだったんだよなぁ。

だって姫様可愛いもん。

あれから四百年以上あったから俺色んな女性を見たよ。

滅茶苦茶綺麗な女優さんとかも見た。

それでも姫様は不動の一位なんだよなぁ。

殿堂入りだから。

揺るぎない俺の世界一位。


「じゃあ聞かないね」


えー。

聞かねぇの。

そんなに俺に興味ない?

いてもいいって言ってくれるのに。

それともあれか、俺を尊重してくれているのか。

何か変な子供だな。

落ち着きすぎだろ。

やっぱり人生二週目なんじゃ。


「漫画だと地縛霊はどうなるんだ?」


「霊能力者にお祓いされて成仏する」


こえぇ。

絶対やだかんな。


「バサラは成仏したくないんでしょ?」


「したくねぇよ。少なくとも本懐を遂げるまでは」


「何それ?」


「目的を達成するってことだよ」


「どういう字書くの?」


子供が学習机の引き出しからノートを出し、机に広げる。

どうやら落書き帖みたいだ。

如何にも子供らしい絵が書かれている。

良かった。

こいつが絵まで上手かったら本格的に転生者を疑うところだった。

あれ、ひょっとしてコイツ俺を迎えに来た死神だったりする?

まさかな。

俺は浮かんだまま丸顔のキャラクターらしきものの横に本懐を遂げると書き、!マークも二つ書き添える。


「字綺麗」


「ありがとよ。お前も大きくなったらそれくらい書けるよ」


「幽霊って他にもいる?」


「嫌、会ったことねぇから知らない」


「そっか」


「会いたい人でもいるんか?」


「いない。知ってる人で死んだ人いない」


「まあお前の年ならそうだよな」


「ずっと一人で寂しくなかった?」


「うんにゃ、あんまりなー。俺元々家族いないし、寂しいってのはなかったかなー」


「そっか」


「うん」


四百年なんてあっという間だった気がする。

いつのまにやら時間は経って、こんなとこまで来てしまった。

もし今天国へ行って姫様に会ったら話せることいっぱいあるな。

だって四百年分だもん。

色んなものいっぱい見たよって言える。

でもその中でも姫様が一等価値がありますよって言える。

言わんけど、そもそもそれを俺が言うことすら烏滸がましいけど。

あ、姫様は天国だろうけど、俺は地獄へ落ちるかな。

やっぱり現世で会いたい。

生きている姫様に会いたい。

動いて、笑って、あの星のように輝く瞳に会いたいのだ、俺は。

四百年という歳月は俺という無学な小僧を詩人にするんだな、うん。


「もっと難しい漢字書ける?」


子供は俺の方へノートを寄せる。

何だ漢字が好きなんか。

可愛らしい所あるじゃねぇか。

俺は浮かんだまま少し考える、できるだけ画数の多い漢字がいい、かっこいいし。

書いてもそれ何?って聞かれて上手く説明できるかわからないので、絶対に知ってるであろう一文字を書いて見せた。


「何て読むの?」


「うなぎ」


「あー」


「食ったことあんだろ?」


「ある。お祖父ちゃんが好きだから、結構食べる」


「そりゃいいな」


「もっと書いて」


「おーし」


俺は意味もなく腕を回し、画数の多い字を考える。


「さかなへんに師匠のしで鰤」


「ぶり?照り焼きの?」


「そうそれ」


俺は食ったことないけど知ってる。

今までは食いたいとも思わなかったけど、今はちょっと食ってみたい。

ひとかけらでいいから。


「さかなへんに雪でたら」


「しろいやつ?」


「そうそう。お前よく知ってるな」


「お祖父ちゃん魚好きだから」


「そっか。祖母ちゃんの料理美味いか?」


「うん」


「そりゃ良かった。さかなへんに弱いでいわし」


「昨日食べた」


「へぇ、どうやって?」


「フライ」


「美味そうだな。見たことはあるぞ。さかなへんに周でたい」


「たい焼きのたい?」


「よく知ってんな。そうだよ、好きなんか?」


「お祖母ちゃんが好き」


「そっか。じゃあさかなへんに京都の京でくじらだ」


「ぽい」


「くじらっぽいってか」


「魚以外も書いて」


「じゃあそうだなー、これだ。さて何でしょう?」


「わかんないよ」


「ヒントはホーホケキョ」


「うぐいす」


「正解だ。賢いな、お前」


「これはどうかな、でーんでんむーしむし」


「かたつむり」


「正解」


「二文字なんだ」


「おうよ、これは、ヒントは恩返し」


「つる」


「そうそう。ちゅーちゅー」


「ねずみ」


「正解。寝てる兎に勝つぞ」


「かめ」


祖母ちゃんが唐揚げ揚がったわよーと階段の下で呼んでくれるまで俺達のやり取りは続いた。

子供が行こうと言うので俺はのこのことその小さな背中について行った。








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