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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
26/30

26 出逢った時からずっと

二学期が終わってしまった。

何も起こらなかった。

九月からどれだけ時間があったと思ってんだ、千紘。

何やってたの、ホント。

お前アニメ見てただけじゃん。

えー。

クリスマスよ、もう。

今年も男二人でケーキ食べるんか。

まあバイトがあるからな、夕方一緒に過ごせるしとか思ってたりする?

控えめすぎるだろ。

もう、何やってんの。

言えよー、何か言えよー。


千紘がバイトから帰ってくると二人でクリスマスなのにカツ丼を食べ、俺が焼いた苺のショートケーキを食べた。

ちゃんとスポンジも焼きました。

生クリームも泡立てたよ。


「何か固いなスポンジ」


「そうかな。美味しいと思うけど」


「千紘は何でも美味いって言ってくれるからなぁ」


「ホントに美味いよ」


「お店のみたいにしっとりしてないよな。軽やかさが足りない。難しい。でも素朴だよな。これはこれで手作りにしか出せない味というものでは?」


「うん。美味い。生クリームも甘さ丁度いい」


千紘はいつも俺の作ったものを食べて美味いと言ってくれる。

不味いと言われたことは一度もない。

明らかにしょっぱくなっちゃったなぁって時も、ご飯と一緒に食べたら丁度いいよと言ってくれるし、これは味薄すぎたなぁって時も、減塩で体にいいんじゃない、素材の味が生きてるよって言ってくれる。

お祖母ちゃんが生きていた時からそうだった。

いつも残さず食べて美味しいって言っていた。

千紘はそういう子なんだ。

出逢った時からずっと。


二十八日には千紘母が帰って来たので外食が続いた。

俺は一人寂しくラーメンをすすり、ママさんのお土産のシュトーレンをちびちび切って食べた。

大晦日も千紘はバイトに出かけた。

姫様も出勤だったので俺も今年の姫様を見納めして、今年最後のローソンで千紘に肉まんとピザまんを買ってもらい夜空で食べた。

帰ってきたら千紘は母と寿司を食べ、アニメを見て寝た。


お正月の三が日はスーパーが休みなので姫様に会えなかった。

俺は千紘母が寝ている間に餅を食ったり、千紘母が買って来てくれた有名デパートのお節を食べたり、最中を食べ、クグロフを食べたりとお正月を満喫した。

もうこれ貴族の暮らしじゃね?

幽霊貴族。

略してゆうき。

幽鬼、あら?

三日間千紘は相変わらず朝からアニメを見ていた。

四日になると店が開いたので、千紘は出勤したが、姫様はシフトに入っていなかったので会えなかった。

五日は千紘は休みだったが姫様は出勤だったので俺は初姫様を拝みにいそいそと出かけて行った。

千紘は母と焼肉に行ったらしい、俺は三時間姫様の傍で浮いていた。


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします、姫様。


冬休みが終わると千紘母がいつも通り京都に帰ったので俺は朝昼晩と食事の用意に勤しんだ。

穏やかな何もない日常が続くかと思われたが、二月に入り急展開があった。

何と、バレンタインデーに千紘が姫様からチョコを貰ったのである。

嫌、貰ったのは正確には二月の十五日の土曜日だ。

でもチョコを貰ったのである。

姫様から、千紘にチョコを。

だがあろうことか千紘は、柳からチョコ貰ったけど一つ食べる?と言ったのである、俺に、俺に。

姫様からのチョコを、何という罰当たりな。

許さんぞ千紘。

説教じゃ。


「いやいやいや、いかんだろ、姫様はお前にくれたんだよ。お前が全部食べるべきだよ」


「でももう来年はもらえないし、柳のチョコなんてもう一生食べられないぞ」


「何で来年貰えないんだよ。貰えるかもしれねぇだろ」


「お礼に貰っただけだから」


「お礼?姫様にお礼してもらえるようなことお前がしたのか?」


「先週仲野緑が出てるアニメのトークショーがあって、そのチケット俺が当たったから柳にあげたんだよ。俺が行ってもしょうがないし、そしたらものすごく感謝されて、それで」


「チョコくれたんか?」


「うん。当てただけでチケット代は柳が払ったんだから気にしなくていいんだけど」


「そうか。それは感謝するだろ。姫様からしたら仲野緑に会えるってのは、人生で最も嬉しいことだろ、そりゃ感謝するよ」


「一個だけなら食べていいよ」


「嫌、いいよ。ホントにいい」


「柳のチョコだぞ」


「お前が貰ったもんだから食えない」


「何でそんな頑ななんだ?」


「姫様はお前にお礼がしたかったんだよ、その姫様の真心はお前だけが貰うべきだし、お前だけのものだ。全部食え。俺はお前の母ちゃんが買ってきたゴディバ食うから」


何故かバレンタインデーに千紘母は帰って来た。

一個だけ食べたけど、高い物って本当に美味いんだなって感心した。


「三月十四日にちゃんとお返ししろよ」


「うん。何を返したらいいと思う?」


「それはお前が選ぶんだよ」


「何か作る?」


「俺がか?」


「うん。そしたら柳に食べてもらえるだろ。ずっと食べさせたいって言ってたから」


「嫌、いい。それは違う。お前が作らなくても買いに行くべきだ。これはお前のことだ。俺はこの件に一切介入しねぇよ」


「もうこんなチャンスないと思うけど」


「何でだよ。姫様ともっと仲良くなって家に連れてくるような、友達になれたら、カレーとかミートソースとか食べさせてやれるだろ。まだまだチャンスあるよ」


「そんな仲になれないだろ」


「決めつけるなよ。なれるって」


「なれない。俺は面白くないし」


え、何この展開。

恋愛相談じゃん。

四百年の知恵を今こそフルに使う時!!


「なれるよ。面白い人間って何だよ。人を笑わせられる人間か?」


「笑わせられなくてもいいけど」


「いいか、千紘。面白くなくたっていいんだよ。大切なのは誠実に約束を守って嘘をつかないことだ」


「そうかな」


「お前は本当にいい奴だよ。優しい奴だ」


「そんなことない」


「ある。大丈夫。まだまだこれからだよ」


「本当に食わなくていいのか?」


「いいよ。つーか」


結構姫様と仲良くなってんじゃん。

そっちに驚いたわ。

焦らなくていいよ。

多分大丈夫だよ。

何とも思ってない男にチョコなんてあげやしないよ、絶対。


「まあいいから食え」


「うん。じゃあホントに一人で食うからな」


「うん。どうぞ。あ、でも見せてはくれるよね?」


「ああ、うん。いいよ」


「じゃあ見せて下され。拝みますので」














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