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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
18/30

18 仲良くなっていただきたい

「千紘さん、こちらにお座りなさい」


「嫌、俺椅子座ってるだろ」


「じゃあ、俺が座るか」


俺はいつも千紘より年長者ぶりたいので千紘と一緒にいる時は常に浮いているのだが、頼みごことをするのにこの態度はいただけないので、ベッドの上で正座した。

千紘はくるりと椅子を回転させ俺と向かい合う。

いい顔だ。

俺が四百年で見たどの顔よりも整っている。

背も高く、足も長い。

こんなのあの時代に持って帰れたら、俺大名なれるんじゃない?

新次元じゃん、宝石かよお前。

お前の存在が幽霊の俺よりファンタジーしてるよ。

俺より希少価値出すなよ。

ああ、俺も来世では黒髪クール、主人公のライバルキャラになりてぇなぁ。

そりゃヒロインもこっち選ぶよ。

俺だってこっちがいいもん。


「何?」


お前声もかっこいいな。

自分だけ低くなりやがって、ちくしょーう。


「姫様に気があると思われないで仲良くなっていただけないでしょうか?」


「は?」


「嫌、その、あのですね」


「うん」


「キショいって言わない?変態って罵らない?」


「ものにる。場合によってはしばく」


「えー。千紘こぇぇ」


「えーじゃねぇよ。何言うつもりだよ」


「姫様の私服が見たいです…」


「あ、そう」


「はい」


つーか、何だよ、その心底ほっとした顔。

さっき信じてるって言ったのに。

バサラさんショック。

バサショック。


「それは俺が仲良くならなくても、柳が帰る時家までついて行って後は土日に家の前に張り込んでたら見れるだろ」


「それ、あれじゃん。正規の方法じゃないじゃん」


「正規の方法って?」


「お休みの日に待ち合わせしてー」


「できるか。ただのクラスメイトだぞ。それも話したこともない」


「そこを何とか…。この哀れな幽霊の魂をお救い下さい…」


「無理だろ。まず、どうやって話しかけるんだよ」


「別にクラスメイトなんだから、休みの日遊びに行かない?でいいんじゃねぇの?」


「そんなこと言ったことない。無理」


「えー。じゃあさ、小林と坂本と田中に言ってさ、姫様の方にも女子連れてきてもらって、四対四で遊びに行くってのは?」


「行きたくない」


「えー。女子可愛いじゃん」


「可愛くても行きたくない」


「え、意味わかんなーい」


「それを坂本達に言うのがめんどくさすぎる」


「坂本達も彼女が欲しい年頃だろ?喜ぶんじゃねぇの?」


「おい、ちょっと待て。彼女って、柳が例えばそいつらの内の誰かと付き合ってもいいのか?」


「嫌」


「嫌なのか」


「当たり前だろ。姫様は、そんじょそこいらのヒョロガリじゃ駄目だよ。もっと胸板の厚い男じゃねぇと」


「レスラーとでも付き合えってか」


「姫様を守れる強い男じゃねぇと」


「嫌、柳にだって好みってのがあるだろ」


「あ、姫様、どんな男が好みですかー?」


俺は虚空に大声で叫ぶ。

望む返事はない。


「知らんけど、筋肉ゴリラが好きってのは確率的には低いんじゃないのか。柳小っちゃいし」


「男の中の男みたいなのと付き合って欲しい」


「勝手なこと言うなよ」


「だってー。姫様には幸せになって欲しいよー。今度こそ」


「それはわかったから」


「だって、十五で死んじゃったんだぜ。つまんねぇ流行り病で。今なら簡単に治るんだよ。それなのに、あんまりだ。今度こそ長生きして、美味いもんいっぱい食って、綺麗な服着て、毎日楽しく暮して欲しいんだよ、俺は」


「そうだな」


「つーか、姫様は幸せになるべきだろ。こんなにも長い時間俺をずっと幸せにしてくれたんだから」


「わかった。でも身体を鍛えてるからっていい人間とは限らないだろ?」


「それはそうだよ。でも鍛えてない男より信用できる」


「鍛えてる人間の平手打ちえぐいと思うけど」


「そんなことしたら殺す。かすり傷一つ付けただけで殺す。一撃では殺さない。苦しめて苦しめて、生まれてきたことを後悔させてから死なせてやる」


はっ。

ヤバい。

バーサーカー・バサラ出ちゃったよ。

いかんいかん。

愛と平和の調停者バサラさんだろ。

嫌、やっぱり許せねぇ。

念入りに殺す。


「うん、まあ、死なない程度にな」


「は?」


「もし柳が傷つけられるようなことになったら、好きにしていい。死なさない限り俺は止めない」


「千紘?」


「ちゃんと完全犯罪するんだぞ」


「お、おうよ。任せとけ。つーか、そうなる前に守りたい」


「というより、本音は?」


「本音?」


「本当に柳に誰かと付き合って欲しいのか?」


「嫌です。一生誰とも付き合わないで欲しいです」


千紘は笑う。

いつもの笑ってるんだかカウントしにくい笑い方で。

流れ星みたいだと思う。

本当に見たのか見てないのか、一瞬過ぎて瞬きしてる間に終わってしまうから。

だからきっと千紘は笑わない子だと思われてるんだろうな。

皆千紘の笑顔を拾えてないんだ。

結構笑うよ、千紘。


「じゃあ、この話は無しで」


「えー。しょうがないじゃん。俺からしたら姫様はアイドルなんだよ。四百年推してんだ。年季が違うわ。姫様ファンクラブ終身名誉会長だぞ俺は」


「そうだろうな。凄いな」


「凄いか?」


「凄いよ。ずっと同じ人推していられるって、中々ないと思う」


「そうかなー。アイドルとかだと親子二代に渡ってって人いるじゃん?」


「四百年はいないだろ」


「だって姫様可愛いもん。天使だよマジで。嫌天使以上。だって千紘だって可愛いと思うだろー?」


「まあ、うん」


「ん?」


「可愛いと思う」


「ほれ、そうなんだよ。姫様は可愛いの。四百年間ずっと可愛いの。四百年変わらぬ可愛さ。永遠の世界一位」


「本当に本人なのか?」


「そうだよ。声だって同じだもん。髪もあのくらいの長さだった。色白で、小さくて細くて」


「背はまだ伸びるだろ」


「あー、制服姫様可愛い。ブレザー姫様最高。でも私服が見たいです。おおお、何とかなりませんか?千紘殿」


「ならない。無理。部活違うし、話しかけようがない」


「姫様ひょっとして彼氏いたりするかな?」


「さあ、いないだろ」


「あんなに可愛んだからいる可能性高くない?」


「可愛いからいるって発想は違うと思うけど」


「そうだな、超絶イケメンのお前に彼女がいないんだもんな」


「弁当の時間とか近くに行って友達と話してるのに混ざればいいだろ。柳からは見えてないんだし」


「盗み聞き良くない」


「それくらいはいいだろ」


「知りたいような、知りたくないような」


「自分の理想像とかけ離れたら嫌だからか?」


「嫌、俺は姫様が家でお母さんにうっせーんだよ、クソババァって言うような子でも大好きだし。がっかりはしない。ただ何ていうか、ほら、四月から毎日怒涛の供給がありましてな、はい。まだかみ砕けておりません」


「は?」


「今日も姫様可愛かったな、に浸る間もなく次の供給が来るのよ。エブリディ。俺達を休ませない、マイスウィートスーパーアイドル・ヤナギ・サツキ」


「あっそ」


「だってしょうがないじゃん。毎日可愛いし、毎日何か新しい姫様なんだから。毎日可愛いを更新していくのよ。毎日会えるアイドルだから。あー、ハートがふるふる壊れちゃう」


「もうとっくに止まってるだろ」


「かーみーさまーがー、ひーめーさまーのー、きょうきゅうをーやーめーなーい」


「オリジナルソングいいから」



姫様と千紘の関係は特に話したこともないクラスメイト以上にならないまま一学期の終業式を迎えてしまった。

だが運命はまたしても俺の味方をしたのである。



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