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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
16/30

16 母との初めての生活

夏休みが終わり新学期になった。


「私明日から旅行行くから暫く帰ってこないけど、千紘一人で大丈夫よね?」


「うん」


「何か困ったことがあったら連絡しなさいね」


夏休みの終わりに千紘はスマホを買ってもらった。

バサラさんの快適インターネットライフが始まったわけだ。

おかげで毎日がまた楽しくなった。

ありがとう、ママさん。

留守は任せな、心配いらねぇよ。

戦国最強忍びバサラさんがあんたの息子を全力で守るぜ。


千紘母は九月の初めに家を出て九月の終わる頃に帰って来た。


「ただいま、これお土産」


笹屋伊織。

ママしゃん。

待っていました。

俺は両手を伸ばしたけど、ママさんに見えるわけがないので、千紘が無表情で受け取った。


「京都行ってたの?」


「まあね」


「そう」


「鯖寿司も買ってきたわよ、食べましょ」


知ってる、それ。

お高いやつー。

マーマさーん。

大好き。


「今日何食べる予定だったの?」


「野菜炒めとほっけの開き焼いて、あと卵豆腐買ってあるからそれも食べようかと」


「いいじゃない。鯖寿司あるからほっけはいらないとして、野菜炒めと卵豆腐は食べましょ」


「うん」


「じゃあお母さん、ちょっと疲れたから横になるわね。お夕飯の用意が出来たら呼んで」


「うん」


千紘母は料理をしない。

家にいる時は大概昼まで寝ているので、俺は堂々と台所を占拠し我が物顔で振る舞えた。

おかげで俺の生活はまるで変らず、さすらいの家事代行バサラさんの需要は増すばかりだった。

もやし、にら、キャベツ、ピーマン、人参と豚バラ肉を炒め、塩胡椒で味付けをし、大皿に盛り付ける。

そして千紘が千紘母を二階に呼びに行ってる間に、鯖寿司の端っこを少し大きめに切り、口に放り込む。

うまっ。

何この厚み、俺の知ってる鯖寿司じゃないよ。

美味しすぎ、生きてて良かった。

あ、死んでるけど。

でもこんな風に食べられるなら千紘以外に見えていないだけで俺実は生きているのでは?


「あら、端っこ食べちゃったの?」


千紘母は流石に気づいたらしい。

意外とちゃんと見てるのね。


「うん。美味しかった」


美味しかったです。

ご馳走様です。

また食べたいです。

同居人のバサラより、愛をこめて。


「それは良かった。野菜炒め美味しそうね」


「うん。食べよう」


「ええ。いただきましょ」


千紘母は一か月の半分はいない。

これくらい離れて暮らす方がこの親子にはいいのかもしれない。

まあ小学生の息子を一人残していくのは本来ならよろしくないけど、俺もいるしな。

千紘坊ちゃんの最強のボディーガード、バサラさん。

三食とおやつ、昼寝付きで契約できます。

インタ―ネット完備、漫画読み放題ならとても嬉しい。


千紘母は十二月はクリスマスイブ当日に帰って来た。


「ただいま。柿の葉寿司買ってきたわよ」


「奈良行ってたの?」


「京都駅にも売ってるのよ。お昼何食べたの?」


「ケンタッキーのフライドチキンとチキンフィレバーガー食べた」


はい。

ご馳走様でした。

おいしゅうございました。


「鶏尽くしね、じゃあもう夜はいいわね」


「お母さんは何食べたの?」


「駅でサンドイッチとコーヒー。夜はどうするの?」


「エビチリと野菜のスープにしようかと」


「いいじゃない。エビチリ好きよ」


「あとケーキも買ってある」


「そう、でもお母さんケーキいいから、そんなにあるの?」


「四つだから一人で食べられる」


「そう。じゃあお母さん疲れたからちょっと寝るわね。夜ご飯できたら呼んで」


「うん」


今日はケンタッキーに行ってフライドチキンとチキンフィレバーガーをお持ち帰りし、シャトレーゼに寄ってケーキを一人三つずつ買い、鶏三昧クリスマスパーティーをした。

クックパッドで見た美味しそうな野菜スープをコトコト煮込みながら、その横でエビチリをガシャガシャ炒める幽霊、ゲームをする小学六年生、昼寝する母親。

こういうのが幸せな家庭ってやつなのかな。

まあ俺はカウントされてないはずだけど。

千紘母が下に降りてくる前に柿の葉寿司を二つ貰った。

鯖だけじゃなく鯛もあるんだ、へー。

美味しいです。

ご馳走様です。

ハッピークリスマス、ママさん。


「クリスマスプレゼント何か欲しいものある?」


「別にない」


「じゃあお金あげるから、欲しい物できたら買いなさい」


「うん」


「あんた欲しい物何にもないのね。それじゃあお年玉も貯まる一方でしょ?」


「うん」


「まあいいけど。貯めておいたらいつか大きな買い物したくなった時どーんと使えるしね。お金は腐ったりしないから」


「うん」


「でもスマホゲームに大金を課金とか止めてね。あれすぐサービス終了しちゃうから」


「しないから大丈夫」


すみません。

俺はしています。

でも課金はしていないです。

がちゃがちゃ。

やっぱりバイトしたいなー。

誰か俺に投げ銭してくれないかなー。

家康を暗殺したような最強の戦国忍びなんだけど。

あ、誰にも見えないんだった。

あーあ。

透明人間系ユーチューバーとかないかな。

料理の写真上げてみるってのはどうだろう?

インフルエンサーになったら課金も夢ではないのでは?

でも千紘に迷惑がかかるかもしれないしな。

何かほら、瞳に映った景色から住所を特定される事件とかあったし、今は俺がいるからいいけど、俺はいつまでもいないわけで、そうなったら千紘を危険にさらすわけで、あああ、駄目だ。

イケメン料理人インフルエンサー・アサシン・バサラはなし。


千紘母はクリスマスから七草がゆの日まで家で過ごした。

その後も千紘と俺の二人暮らしに時々千紘母が帰って来る三人暮らしが続き、いつの間にか春になり千紘は中学生になった。


千紘は中学に入るとバスケ部に入った。

俺が野球はいいのかと聞くと、野球は見るのが好きと言い、投げるのは好きだからたまにキャッチボールはすると言った。

千紘の通う中学校は給食がなく弁当だったので、朝からバサラさんは躍動した。

毎日違うものを食べさせるのは大変だがやりがいがあった。

卵とソーセージとプチトマトは毎日入れた。

あと、ちくわ、これ侮れんよ。

磯辺揚げもいいし、豚肉を巻いて甘辛く味付けしても美味しいし、チーズ詰めちゃってもいいし、ピザみたいにしても美味しい、万能食材ちくわ。

三年間どれだけお世話になったか。

これからもご活躍をお祈りしております。

一度キャラ弁作りたいよーと千紘に言ったら普通に嫌だと言われたので、ソーセージをタコさんにするのと、オムライス弁当にした時にケチャップで兎や猫を書くだけで我慢した。

憧れのキャラ弁!!

あー、お弁当屋さんやりたいよー。

幽霊キッチン・バサラ。

配達もできるのになー。

日替わり弁当作りたいよー。

ホント認識されないって不便。


千紘母は相変わらずだった。

千紘が中学生になると月の半分以上はいなかった。

いつもお土産に美味しくて、お高いものを買って来てくれて、俺の料理を褒めてくれた。

美味しいって言われると嬉しい。


夏休みはお祖父ちゃんに会いに大阪へ行った。

お祖父ちゃんは相変わらず無口だったが、家にいた時よりずっと元気そうだった。

伯母さん夫婦と大阪ドームで野球を見て一泊して帰った。

バサラさんのホームランチャレンジは結局未だに成功していない。

だってあんまりホームラン出ねぇもん。

夏休みの思い出はそれくらいであとはずっと部活だった。


三年間ずっと同じことが続いた。

毎年夏休みに大阪に行き、お祖父ちゃんに会って、野球を見て一泊して帰る。

学校生活も何事もなく毎日淡々と過ぎていった。

いじめっ子がいたら校内の治安を守るため思い切り暴れてやるぞと決意していたのに、恐喝の現場に遭遇することも、変態教師の魔の手もなかった。

研ぎ澄まされた戦国の技を振るうことなく、凪のような生活だった。


まあそれは来るべき運命という名の大嵐への準備期間だったのだ。

だって千紘が高校生になり入学式で俺は、姫様を見つけたのだから。








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