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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
15/30

15 人からどう思われようが

食べ放題は俺の分の料金を払っていないので、何も食べなかった。

いつも清く正しい幽霊でいたい。

姫様を讃える会名誉総裁に相応しい俺でありたい。

飯を終え家に帰ると千紘は風呂に入ったので部屋で漫画を読んで千紘が上がってくるのを待つ。

風呂から上がった千紘がアイスを持ってきてくれたので、千紘母が買ってくれたお高いアイスを食べる。

俺はやっぱりバニラが好き。

あ、でも千紘のマカデミアナッツも美味しそう。

ああ、アイスを食ってる時が一番幸せかも。

あ、今の無し。

姫様のことを考えてる時が一番だから。

名誉総裁何言ってんの、しっかりして。

俺は戒めとして自分の右頬をつねる。

漫画みたいにうにゅーって伸びたりしないもんだな。

幽霊なんだからもっと現実離れして欲しいよ。

リアリティ禁止。


アイスを食べ終えると千紘は壁に凭れベッドに足を延ばして座った。

足なげぇな、お前。

身体のほとんど足じゃん。

瞳がビー玉みたいなのと無表情なのでそうしてると本当に人形が座っている様に見える。

俺より二次元感出すなよ。

きー。

でも千紘、お前は浮けないだろ?

俺はこんなこともできちゃうんだぜ。

俺は胡坐をかきながら部屋の中を自分が空飛ぶ円盤になったかのようにくるくると廻る。


「バサラはお祖母ちゃん惨めだったと思う?」


「は?嫌、全然」


「お祖母ちゃん惨めなんかじゃなったよな?」


「うん。俺にはお祖母ちゃんいつも楽しそうに見えた。長生きできなかっただけで、惨めなんかじゃねぇよ」


「うん」


俺は椅子に座り千紘と向かい合う。

こういう時は視線を合わせて、だ。


「まあ人の心の中は覗けねぇからな。お祖母ちゃんがどう思ってたかなんて一生わかんないけど、俺からしたらお祖母ちゃんは幸せだったと思うよ。お前のお母さんから見たら違うんだろうけど、本当のところは誰にも分らねぇよ。心ってのは誰にも踏み込ませない人の唯一の自由な部分だ。どんな金持ちも権力者も自分の家族、友達、部下が本当は自分をどう思っているかなんて知ることはできないんだぜ。口では褒めたたえてても、心の中ではうっせー、早く死ねって思ってるかもしんない。心の中だけはな、何を思ってたっていいんだよ。お前のお母さんが自分の母親の人生を惨めだと思うのも自由だ。まあ口には出さねぇ方がいいけど。思ったこと皆が皆口に出すようになったら世の中もっと上手くいかなくなるよ。世界終わるかも。お前のお母さんから見たら惨めに見えた、まあそれもお祖母ちゃんの人生の一部なんだよ。でもいいんじゃねぇのかな。人からどう思われようが、自分が惨めじゃないと思ってたなら惨めじゃねぇんだよ」


「そうなのか?」


「だってお祖母ちゃんの人生はお祖母ちゃんだけのものだろ。お祖母ちゃんが思っていたこともお祖母ちゃんだけのものだ。俺らは知ることができない。日記だって人に読まれることを前提に書くかもしれない、人が思っていることを知ることは絶対に出来ねぇんだよ。勝手に他人に惨めだと思われようが本人が最高だと思っていたんならそれは最高なんだよ。他人が決めるもんじゃない。勿論お前が決めるもんじゃない。お前が見ていたお祖母ちゃんはお前だけのお祖母ちゃんだよ。それを大事にしたらいいだろ。どうせわかんないこと考えても仕方ねぇって。だって一生わかんないんだぜ。幸せだったって言ってくれても本当のところはわからない。答えの出ないこと一生考えてもしょうがないって。それより夏休み終わっちまうぞ」


「それはいつか終わるだろ」


「れいせい」


「夏休みは来年もあるだろ」


「そりゃそうだけど」


「お祖母ちゃん最後に北海道行けて良かった」


「ああ、そうだな。北海道行きたいって言ってたもんな」


「うん。北海道だけは絶対行きたいって言ってた」


「千紘、人間そんな全部やりたい事やって死ねないんだよ。お祖母ちゃんのことはもうお前は気にしなくていいんだよ。お前が毎日元気で生きていることがお祖母ちゃんにお前がしてやれることだよ」


「うん。わかってる」


「千紘、実際には俺はまだ本当には死んでないけど、死んだらもう何も持っていけないんだよ。楽しかったことも辛かったことも。それを持っていられるのは生きている人間だけだよ。もうお祖母ちゃんは何も思ってないよ。あれもしたかったこれもしたかった、それを思えるのは生きている間だけだ。お祖母ちゃんに満足して死んで欲しかったって思うのはお前の優しさだからそれでいいよ。でもお祖母ちゃんはまだしたいこといっぱいあったのにって思ったってしょうがないんだよ。百年生きていたって、ああ、フレンチクルーラー食べたいって思って死んだら、思い残すことがあったってことになるだろ。まあしょうもなさ過ぎる例えだけど」


「うん」


「思い残すことなく死ねるなんてのはあり得ないんでねぇの。何かそんな気がしてきた」


「バサラも?」


「俺はなかった。あ、強いて言うなら生まれ変わったら今より姫様の近くに行きたいと願ったな」


「近くって?」


「さあ、一番近くってわけじゃないんだ。まあ毎日顔が見れたらいいかな。お喋りして、飯一緒に食えたら嬉しいかな。あ、図々しいかも、今のなしで」


「ご飯食べるくらいいいんじゃないの」


「今なら手料理振る舞えるのになー」


「そうだな。バサラの料理美味しい」


「何が一番美味い?」


「ハンバーグかな」


「おー、確かに自信あるわ。バサラさん特製ハンバーグ姫様にも食べさせたい」


「あと餃子も美味い。肉じゃがとホワイトシチューも」


「なー」


「親子なのに嫌い合ってていいと思う?」


「俺親知らんからなぁ。わからんけど、それも仕方のないことなんじゃね。そもそも好きって人に頼まれたりするもんでもねぇし、義務でもねぇし、好きってもう勝手になっちゃうもんだし。止められるもんじゃねぇし、嫌いも一緒じゃねぇの。どっちも人間の感情なんだから」


「そっか」


「でも俺はお前のお母さんはお祖母ちゃんのこと好きだったと思うよ」


「え?」


「離婚したらよかったのにってのはお祖父ちゃんから自由になって好きに生きたらよかったのにってことだろ?お前のお母さんはお祖母ちゃんに幸せになって欲しかったんだろ。自由に風邪がひけるような何にも人に縛られない人生を送って欲しかったんじゃねぇの?」


「そっか」


「うん。多分。それは愛情だろ?相手を思ってるわけだから」


「うん」


「別に嫌いでもいいと思うぜ。好きでもいい。お前の自由だよ。お前の思うことはお前だけのものなんだから。この世にたった一つしかない、複製できないオリジナルだ」


「うん」


「でも嫌いって言われると傷つくからなぁ。言わんほうがいいと思うぞ。こっそり思ってな」


「うん」


千紘が笑う。

いつもの儚い笑い方をする。

俺よりお前の方が消えちゃいそうじゃん。

俺より先に消えるなよ、千紘。

まだまだ一緒に人生を楽しもうぜ。


「夏休み終わる前にもう一回かき氷食いに行こうぜ」


「うん」


「あと、マックフロートも」


「フロート好きだねバサラ」


「だってジュースの上にソフトクリーム乗っけるとか天才かよ。クリームの溶けだしたのと炭酸がよく合うのよ。毎日食べたいね、俺は」


千紘が笑う。

千紘はもうこういう笑い方しかできないんだろうな。

でもいいと思う。

千紘の笑い方だ。

千紘だけの。






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