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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
12/30

12 伯母と母

ケーキのないクリスマスとお節もお餅もないお正月が終わった。

いつも通りあったのは紅白と箱根駅伝だけだ。

冬休みは天気が良かったので毎日あの流行っていない公園でキャッチボールをした。

千紘は投げるのが好きなんだと思う。

いつの間にかこんな遠くまで投げられるようになったんだな。

あんなに小さかった千紘が。


「中学入ったら、野球部入るんか?」


「わかんない。投げるのは好きだけど」


「中学はバスケ部で高校から野球部でプロになった選手いるよ。中学から野球始めてプロになった人もいる」


「プロになりたいわけじゃないから」


「えー、お前でっかくなりそうだし、向いてると思うけどな。意志が強いし」


「そうか?」


「うん。鋼の意思」


「そんなのないよ」


毎年食べていた恵方巻と塩鰯ははちゃんと食べた。

恵方巻を巻こうと思ったが、毎年お祖母ちゃんが働いていたスーパーで買っていたので、フードロスの観点から売り上げに貢献させていただくことにした。

捨てんの勿体ないよな、捨てるくらいなら俺食うのに。

幽霊バサラさんの胃袋は無限の可能性を秘めているのだ。

塩鰯は大根おろしと一緒に食べたし、千紘がやらなかったので鬼は外福は内は俺がやった。

二人で年の数だけ豆を食った。

千紘はまだ俺より少なかったが、そのうち俺より沢山の豆を食うようになる。

俺は永遠の十五歳なのか。

アイドルじゃん。

アイドル伝説バサラ、白熱オーディション編。

姫様あんなに可愛いんだからそのうち芸能人になったりしないかな。

そしたら俺姫様に逢えるじゃん、画面越しだけど。

あ、でもあんなに可愛い姫様があんな薄汚い世界に入るのは反対。

終身名誉ファン代表バサラさんは大反対です。

ハイエナの群れにハムスターが放り投げられるようなものだよ。

助けなきゃ。

俺が助けるぞ、ハム姫様。


春休みになると伯母さんが一人で泊まりに来た。

お祖父ちゃんは行きたくないと言うので伯母さんと千紘で駅前の大型ショッピングモールへ行き、マクドナルドでお昼ごはんにした。

俺はこっそり千紘のポテトを食べさせてもらった。

ああ、ビッグマック美味そう。

伯母さん帰ったら千紘と来よう。

伯母さんに何か欲しいものない?と千紘は聞かれたが、特にないと答えた。

これは伯母さんだから遠慮してるということではなく、お祖母ちゃんにもそうだった。

クリスマスや誕生日のプレゼントを聞かれるたびに特にないと言うのだ。

お祖母ちゃんはいつもないって言われる方が困るのよと言っていた。


それから伯母さんは毎月必ず泊まりに来るようになった。

お祖父ちゃんは相変わらずだ。

寝て起きて飯は食っているが、相変わらず元気はなく、部屋に引きこもっている。

俺は料理の腕をメキメキに上げたので、伯母さんが来ると披露できなくなり寂しいのと、伯母さんと千紘が二人で食べるのでこっそり千紘が食べているのから摘まむしかできなくなり、これも寂しい。

夏休みに入り伯母さんがお祖父ちゃんを病院に連れて行き検査入院になった。

検査の結果がんだった。

ステージ1なので薬で治療していくことになった。

そしてこうなることを予見してたかのように千紘の母親がやって来た。

長かった髪が肩くらいまでの長さにバッサリ切られていた。


「じゃあ、お姉ちゃん、お父さん引き取ってくれるのね?」


「そのつもりだけど」


「良かったぁ。じゃあ私この家帰って来るから。千紘、お母さんと暮らそうね。嬉しいでしょう?」


千紘は答えない。

テーブルに三十を超えた余り似ていない姉妹が向かい合い、千紘は母親がいつも自分が座っている椅子に座ってしまったので、その隣の、お祖母ちゃんが生きていた頃は空席になっていた席に座っている。

伯母さんは亡くなったお祖母ちゃんが座っていた席であり、現在は俺が千紘と飯を食う時に使っている椅子に座っている。

俺は空いている伯母さんの隣に座るべきだろうか。

空気を読んで浮かんでいることにした。


「帰って来るってどういうこと?何かあったの?」


「離婚するの」


「え?どうして?」


「不倫されちゃって」


「小林さんが?」


「そう。あの男自分の娘よりも下の女と不倫したの。気色悪いでしょう?ぞっとしたわ」


「そう…」


「もう一緒になんか暮らせないわよ。でもいいの。慰謝料たっぷり貰って別れられるから。これからは千紘と楽しく暮すわ。もう東京暮らしも飽きたしね。これくらいの田舎が丁度いいかも。スーパーもコンビニもあるし、もう服も一生分買ったしね、美味しいものもいっぱい食べたし、もういいわ」


「本当に?」


「本当よ。これからは今まで千紘に何にもしてやれなかったから、千紘が成人するまではちゃんと母親らしく暮らすわ」


「それならいいけど」


「でも良かった。お父さんと暮らすのは無理だなって思ってたから。お姉ちゃんが引き取る気になってくれて良かった」


「だってもうほっとけないじゃない。あんなに弱って、がりがりよ」


「自業自得でしょ。自分で何もできないからよ。お母さんに依存して、本当に弱い人」


「しょうがないでしょ。お母さんがあんなに早く亡くなるなんて想定してないわよ」


「罰が当たったんじゃない?」


「なんてこと言うのよ。千紘君、ごめんね。お部屋にいてくれる。伯母さんお母さんと二人で話あるから」


「いいじゃないの。聞いてもらいましょうよ。この子だってもう来年には中学生よ。現実ってものを理解しとかないとろくな大人にならないわよ」


「二階行く」


「千紘、大丈夫だからね、これからはお母さんがいるから。お祖父ちゃんいなくなるんだし、大人がいないと、あんた暮らせないでしょう?施設とか行きたくないでしょう?」


千紘は返事をせず首を縦にだけ振って部屋を出て行った。








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