貴族の長女は世界の旅へ
私が生まれた土地はガーウェングラード。
毎年隣国と戦争になるルスキ帝国の首都から遠く離れた国境に沿う土地の領主の一人娘。
歳の離れた弟が二人いる、父は隣国ミジルク王国との戦争で武勲を挙げて貴族になった。
母は三人、私の母と長男エミルの母と次男ミゲルの母。
「え?、身分証明が必要ですか?」
「ちょっと、待って下さいね」
「おい、田舎者!早くしろよ!」
何処にでも、頭の弱い方は居るのもので。
「おい、サル、お嬢に文句でもあるんか?」
可愛い顔してますけど、中身は戦闘狂で狼系統の獣人、パーティーメンバーのシィナ。
何処でも、誰にでも噛みつくのが問題でしょうか?
おかげで退屈しない旅をしています。
「シィナ、ステイ、構えを解きなさい」
「ですが、お嬢!」
「いいから、待ちなさい」
そう言うと、シィナは引き下がってくれました。
「私の仲間が申し訳ありません、これはトラブルのお詫びですので受け取ってください」
そう言って私は魔獣、いえ、あるモンスターの素材を渡しました。
「お嬢、そんなサルに詫びなんて不要だと思いますよ」
シィナはそう言いますが、別に私の中では詫びの品のつもりはありません。
散々問題を起こしては解決させてきた経験から、最も穏便かつ手短に済ませる為の手段なのです。
「おい、これって」
「私達のパーティでちょっと、狩り過ぎましたので」
周りの人達からも見える様に、周りの人達に聞こえる様に気を付けて言いながら渡します。
「おい、あれって」
「多分、そうだよな」
「狩り過ぎたとか言って無かったか?」
「あんなの人間が相手に出来るのかよ」
「それよりも、あの素材をあいつに渡してたよな」
周りの皆さん、頑張って下さいね。
「シィナ、行きますよ」
「あい、お嬢!」
「おい、ちょっと待ってくれ!」
私達は気にする事無く街に入りました。
その後の事は知りません、たとえ一匹のサルが裏で狩られようとも。
「相変わらず、お嬢は回りくどいよな」
「なんの事ですか?」
「目の前で力の差を見せつけるのが一番早いのに」
「シィナ、それは民に恐怖を与える行為です、ダメですよ?」
「別に、そんな事を気にする必要は無いと思うんだけどなぁ」
「民あっての貴族、貴族あっての国ですから」
「お嬢、貴族なんか、ごめん、言わなくて良い事だった」
「そうですね、シィナ、まずは宿と御飯の確保と行きましょうか」
私は元貴族のキャスリナ、今は冒険者として生きている。
シィナと二人でパーティを組んで旅をしている。
私達は帝都と呼ばれる街に辿り着いた所だった。