領民突撃
……ケミスト領の皆さんを味方につけた。
作戦は、シンプルだ。
――包囲殲滅戦。
全員で極東城に突入し、混乱に乗じて内部へ。
最速で祭壇を破壊し、鬼祭りを止める。
もちろん、鬼への対抗策は全員に施してある。
温泉に浸かってもらい、鬼化と瘴気への耐性を付与済みだ。
あとは魔法陣。
先行する私たちが極東城に到達し、出口を作ることで、ケミスト領民たちが一瞬で転移できるようにしておく。
「では……ルシウムさま。しばしお待ちを」
私、エルメルマータ、ふぇる子の三人で、先んじて極東城へ向かう。
武装を整えたケミスト領の民たち。その先頭に、ルシウムさまが立っていた。
彼は、静かに微笑んでうなずく。
……本当は、行ってほしくなんかない。
でも、言えない。
彼が自ら提案してくれたのだから。
それに、もう準備は整っている。ここで「やっぱりやめて」なんて――言えない。
「はーい、ルシウムさーん。センちゃんをぎゅっとしてあげて~」
残念エルフが、わたしの背中を押してルシウムさまにくっつけてくる。
こ、この……! なんてことをっ!
でもルシウムさまは、嫌な顔ひとつせず、私をそっと抱きしめてくれる。
……やめてほしい、こんな人前で。駄目だ、顔がにやけるのを止められない。
「いってらっしゃい」
「………………はい」
「帰ってきたら、そうですね。ゆっくり温泉に浸かりましょうか」
「……いいですね」
声が、自然と弾んだ。
よし。さっさと問題、片付けにいこう。
私はふぇる子に乗り込み、土地瞬間移動を起動する。
「ふぇる子、極東城へ」
『らじゃー!』
瞬間、景色が飛ぶ。
――そして。
私たちは極東城の眼前に現れた。
そこは、まるで異世界に切り取られたような風景だった。
現代の東京、その中に忽然とそびえ立つ、和風の巨大天守。
黒漆塗りの瓦屋根に、金の鯱。城門は石造りで、巨大な赤い旗が棚引いている。
空気は淀み、瘴気が地を這い、地響きとともに鬼たちの咆哮が響いていた。
「ふぇー……ご立派な、でも、なんかヤバそうなお城ぉ~」
城の周囲には、無数の鬼たち。
武具を身に着け、あるいは腕を刃に変え、こちらを待ち構えていた。
中からも、気配がびっしり詰まっている。まるで蜂の巣。
「鬼さんうじゃうじゃいるですぅ~。それでぇ、どうするですぅ~?」
「ふぇる子、エルメルマータ。派手にやっちゃってください」
にまぁ……と、ふたりが笑う。
「その言葉、待ってたわよ!」『待ってたわ!』
エルメルマータが、極東城の上空で弓を引き絞る。
「える、最大火力の必殺技――竜の矢……!」
魔法エネルギーを凝縮した矢が、唸りを上げて飛翔し――
ドォン! という轟音と共に、天守閣が爆発四散する。
漆黒の瓦が空に舞い、炎が吹き上がる。
続いて、ふぇる子が咆哮する。
『アオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
スキル【氷神】発動。
極寒の息吹が城の周囲を薙ぎ払い、地にいた鬼たちがバリバリと音を立てて凍りつく。
氷像と化した鬼が、風に触れて崩れ落ちる。
戦意を削ぐ、完璧な先制攻撃だ。
「センちゃんは派手にやらないんですぅ?」
「まさか」
私は簡易アイテムボックスから、手榴弾を何十個も取り出す。
次の瞬間――地上へ爆撃。
どごごごごごごごおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
爆炎が地を焦がし、瘴気が吹き飛び、爆風で鬼たちが吹き飛ぶ。
「わー、派手ですぅ~」
『慎重なセントリアにしては、豪快ね』
まあ、今回は攪乱が目的だから。
ふぇる子が城の敷地へと着地する。
鬼たちは次々と、城から現れてくる。
目が血走り、雄叫びを上げながら突進してくる異形ども。
「では、こちらも予定通りに」
私は転移用の魔法陣を地面に貼りつける。
魔力が走る。
次の瞬間――
魔法陣から、ケミスト領の兵士たちが一斉に現れた。
武装完了。やる気満々。敵に囲まれても怯む者はいない。
さあ、攻城戦だ。




