友と共に
エルメルマータにも、未来視を付与しておいた。
あとは……東都攻略に臨むだけ、なんだけど。
「…………」
わたしは、領主・ルシウムさまの部屋の前に立っていた。
ノックしようとしてはやめ、またしようとしてはやめ……それを何度も繰り返している。
「んも~。何をグズグズしてるんですぅ~?」
エルメルマータが呆れたようにため息をついた。
「ルシウムさんに協力を仰ぐべきか否か、って迷ってるんですねぇ~?」
……正解だ。
極東城の地下にある祭壇を破壊する――それが今回の任務。
当然、敵もそれを阻止すべく城に布陣を固めているはず。正面から突破するには、相応の戦力が必要になる。
けれど、極東の人々は鬼化から戻ったばかりで、まだ眠っていたり混乱していたりしている。彼らを戦場に立たせるわけにはいかない。
なら、頼れるのは――ケミスト領の人々だ。
強くて、意思疎通ができて、信頼できる。
その中でも、ルシウムさまに頼むのが最善なのは、頭ではわかってる。……でも。
「愛する彼に迷惑かけたくないんですねぇ~♡」
「……そうです」
「あ、ありゃあ……素直。かっわいいですぅ~♡」
エルメルマータが、わたしを抱きしめてくる。ぽんぽんと頭を撫でながら。
……わたしは、もうそんな年齢じゃないのに。けれど、その手を振り払えなかった。
「大丈夫ですよぉ~」
「……そうですよね。ルシウムさまは優しい人だから」
「えるがもう協力、頼んでおきましたので~」
「………………………………は?」
……今、なんと?
「今なんと?」
「ルシウムさまにお願いしておき――あいたたたっ!」
残念エルフの耳を、ぴんと引っ張ってやる。
「なんてことしてくれたのこの残念エルフ……!」
「だぁってぇ~、絶対そのほうがいいもん~!」
そのときだった。
「その通りですよ、セントリアさん」
「る、しうむ……様……」
振り返ると、すでに武装を整えたルシウムさまが立っていた。
「おれもいるぜ」「僕もだよ」
アインス街長に、トリムまでもが並んでいる。
「な、なぜお二人まで……?」
「そりゃ嬢ちゃんのピンチに、助太刀するために決まってんだろ?」
「別に君のことなんてどうでもいいけど……君がいなくなると困る。領地的に。だから助けるけど、勘違いしないでね!」
……わたしは、ゲームが好きだ。
いろんな理由があるけれど、その一つに、仲間と力を合わせられるという点がある。
現実では、ぼっちだった。
友達が作れなかったというより、作るのが怖かった。
自分がどう思われているのか、相手を傷つけてしまわないか……そうやって勝手に考えて、勝手に避けて、結果的に一人になった。
でもゲームは違った。
上手ければ、それだけで認めてもらえた。努力が、実力が、何より雄弁だった。
そうして仲間ができた。画面越しでも、たしかに一緒に戦っていた。
――だけど今、目の前にいる彼らは。
ルシウムさまをはじめとするケミスト領の人たちは、わたしと共に戦おうとしている。
わたしと、同じ方向へ向かおうとしている。
「……どうして……」
思わず、そんな言葉が漏れた。
ルシウムさまは微笑んで、そっとわたしを抱きしめてくれる。
――ああ、あたたかい。
駄目だ、このぬくもり。知ってしまったら、寄りかかってしまう。
「貴女が、一生懸命、私たちのために尽くしてくれたからですよ」
「っ……!」
その言葉には、労いがあった。感謝があった。
ぽんぽんと、頭を撫でてくれる手に、やさしさがあった。
……ゲームが好き。
それは、努力が結果に直結するから。
頑張れば、必ず報われる。そんな世界だったから。
でも現実は違う。
努力しても、報われないことが山ほどある。
熱意が、結果に比例しないことなんて、日常茶飯事。
だから、人はゲームにすがる。
わたしもその一人だった。
コビゥルは「ここがゲームだ」と言った。
わたしは、「ここが現実だ」と思っている。
……でも、もしも。
現実が、ゲームみたいに――努力が結果になる場所だったとしたら。
「……これは夢?」
「いいえ、現実ですよ。セントリアさん」
――そっか。
現実も、たまには悪くない。
「さあ、セントリアさん。望みを」
「……わたしに命を預けて、ともに戦ってくださいませんか?」
ルシウムさまは力強く頷いてくれた。
アインスたちも、それぞれに笑って。
「では、参りましょう。ちょいと、東都を救いに」




