未来視未来視
白夜様から、異能をコピーした。
そして、それを他の人たちにも使えるようにした。
戦力は多い方がいい。
その過程で、ひとつわかったことがある。
「異能持ちには、異能を付与できないようですね。多分、体の中に既に異能があると、コピーした異能が入れないのかと」
「なるほどぉ~」
湯上がりのエルメルマータが、感心したようにうなずく。
「つまりどういうことだってばよぉ?」
……残念エルフは今日も頭が残念だった。まあ、そこが可愛いところでもある。
「異能のコピーはできても、異能者に異能を渡すことはできないってことです」
「ふぅん~……。だから、一郎くんが未来視を獲得できなかったんですねぇ?」
「そういうことです」
西方の人間である、異能を持たない私たちには、いま白夜様の異能が宿っている。
「える、これがあれば無敵……! どんな敵も百発百中!」
「でしょうね。だから付与してあげたんです」
「なるほどぉ~♡ センちゃんの愛ですね~♡」
……腹立つのが、まあ、それが事実ってことだ。
反応すると面倒なので、スルーする。うざ絡みされるのはごめんだ。
「センちゃん、これからどうするですぅ~?」
後ろから蛇みたいに絡みついてくるエルメルマータ。
……うざい。でも、嫌な気持ちにはならない。不思議だ。
「ぬふふ♡」
「やめてくださいその顔」
「はいはい~♡ えるはわかってんだよなぁ~♡ センちゃんズらぁぶを~♡」
ムシムシ。
「これからするのは、鬼祭りの祭壇をぶっ壊します」
「祭壇……儀式の中心ってことですぅ? あれ、でも祭壇がどこにあるかって、そもそも誰か知ってる~?」
一郎たちが、当然のように首を振る。
白王女も。
そして、白夜様までも。
「白夜様はぁ、未来視でそういうののぞけるんじゃあ?」
「遠い未来の未来視は、かなりランダム性が高いのです。自分ではコントロールできないのですよ」
数秒先なら、意志で発動できる。
でも、遠い未来は不確定となり、自分の望むタイミングで見れるものではない。
だから、祭壇の場所を未来視で特定するのは無理――そういうことだ。
「ふぅえええ……じゃあどうやって祭壇を突き止めるのですぅ?」
「未来視を使って」
「………………?」
エルメルマータが、首をかしげながら私の額に手を当ててくる。
「なんです?」
「熱でも出てるんじゃあないかって」
「出てません」
「さっき自分で言っていたこと忘れちゃってるんですぅ? もしかして……ぼけ……」
「違う」
忘れたわけでも、ボケたわけでもない。
「えるはセンちゃんがたとえぼけても介護する自信ある……いふぁいいふぁい」
残念エルフの柔らかいほっぺたを、ぷにーっとつねる。
強くはつねらない。跡がついたら困るから。
「今からやって見せます」
私は簡易アイテムボックスから、東都の地図を取り出す。
「さらっと出してますけどぉ、なんですこの色々書き込まれた地図?」
「東都のマップです」
「ほぅほぅ、おくちばってん」
えらいぞ、エルメルマータ。
どうやってこんな正確な地図を手に入れたのかって聞きたかったんだろう。
でも、私の進行を妨げないために黙ってくれた。百点。
もちろん【びにちる】をやりこんでいるから、知っている。
私は目を閉じて、未来視を発動。
発動。発動。連続発動。
違う。このルートじゃない。次。発動……。
頭の中で私は、東都の街を歩いていく。
その中で未来視を使い、さらにその先の未来視を使い……。
よし。
「わかりました」
私は赤ペンで、大きく○を描く。
「極東城。その地下に、祭壇があります」
「!? ど、どうしてわかるのだっ!!?」
百目鬼が突っ込んでくる。まあ、予想通りだ。
「未来視で見たからです」
「バカ言うな! 未来視は数秒先しか見られないのだぞ!?」
「ええ。だから、未来視の中でさらに未来視を使ったんです」
「は……!? 意味がわからん! なんだそれは!?」
「数秒先で未来視を発動して、さらにその先の未来を視る。それを繰り返せば、最終的に遠い未来を正確に視ることができます」
私は“祭壇を破壊する”という明確な目的を持っている。
その未来へ向かうルートを、何度も何度も未来視していけば――いつか必ず【祭壇にたどり着く未来】に至る。
「何回くらい繰り返したのですぅ?」
「さあ」
未来視中、こちらの時間は流れていないようだし。
「一〇〇万回を超えたあたりで、数えるのやめました」
「ひぃい~……そんなに繰り返して、頭おかしくならないですぅ?」
「全然」
ゲーマーだもので、トライアンドエラーは日常だ。
「はーえ……すごいですぅ~。さすが、えっちの神ですぅ~」
「やめろ」
言うなら“ゲーマー”と呼んでほしい。
でもそれはこの世界では通じない。
せめて、叡智の神って扱いはやめてくれ。
「極東城の最下層には、巨大な空間があります。そこなら、確かに祭壇も設置できるかと」
白夜様が、私の推論に賛同してくださる。
よし。
「では、極東城最下層を目的地とし、最終作戦に移行します」




