表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/149

同化した極東の先王を助ける


 ……無敵鬼むてきを捕縛した。

 二つの異能を持つ、かなりの強敵だった。


「さて……次です」

「ですですぅ」

「ケミスト領に一度戻りますよ」

「その前に……! 治癒でしょ、ちーゆ!」


「……治癒? エルさん、怪我でもしたんですか?」

「えるじゃあないですぅ! センちゃんですよぉ!」

「ああ、わたしのこと……」


 正直、自分のことなんてどうでもよかった。

 それより次を……。


 と、動こうとするわたしを、エルメルマータがギュゥウウっと抱きしめる。


「なにするんですか……?」

「もっと自分を大事にしてっ! ですぅ!」


 ……すぐ目の前にある、エルメルマータの瞳には、怒りの炎が宿っていた。

 声を張り上げ、本気で……わたしを叱ってくれた。


 ……それは理不尽に怒りをまき散らすのとはまったく違う。

 本気の怒り。そう、本気でわたしを心配してくれている。


 わたしのことを、大切に思ってくれている。……わかっていたつもりだった。

 この人がわたしを、自分のことのように大事に思ってくれてるんだって。


 それなのに……わたしは彼女の思いをわかっていながらも、心配させるような捨て身の策を選んでしまった。


「……ごめんなさい」


『……驚いたわ。セントリアが、まるで幼子のようだわ』

「幼子なんですよぅ、センちゃんは。実際に」


 ぎゅうっ、とエルメルマータがわたしを強く……しかし優しく抱きしめる。


「わかってるですぅ。こうするほかに、最短で無敵鬼むてきを倒すルートはなかったんでしょう?」

「ええ。……でも、あなたを心配させてしまいました。すみません」


「なははっ。反省すれば良いですよぉ! ま、と言っても結局また同じようなことするんでしょうけどぉ~……」

「時と場合によります」

「ほらねぇ~……」


 でも……。


「次は、もっと頭を使います」


 もう二度と、エルメルマータを悲しませたり、心配させたりしないように。


「それがいいですぅ~……♡ おーよしよし、痛かったねぇ~♡ 早く治癒しないと。それとも、えるのちゅーがいいですか、ちゅー♡」

「【治癒】」

「あーんいけずぅ~」


 ややあって。

 ふぇる子の背に乗って、結界の外へとやってきた。


「セントリア! どうしたのじゃ?」


 はく王女がこちらへと駆けつけてきた。

 東都結界はまだ降りたまま、それで戻ってきたものだから、何かあったと思って心配してるのだろう。


 ……言うのを、ためらってしまう。

 これから突きつける真実は、はく王女にとっては酷なこと。

 それでも嘘は言えない。優しい嘘は、かえって人を傷つけるから。


「攻略の途中で……異能者を喰った鬼を捕まえました。……白夜様を、喰らってました」

「!?」


 案の定、はく王女の顔から血の気が引く。

 じわ……とその目に涙が貯まる。

 自分の愛する祖父が死んで、悲しんでいるのだろう。


「だ、大丈夫ですよぉ! ほらほら、セントリアさんの温泉があればぁ! 死んだ人だって元に戻せるですぅ!」

「そ、そうか……! なら……」


 すると麻痺状態の無敵鬼むてきが、にやぁ……と邪悪に笑う。


「無駄無駄ぁ……! おまえの祖父は、このおれと完全に同化しちまってるのよぉ!」

「同化……」


「そうだ! おれと九頭竜くずりゅう白夜は完全に一緒になったってことだ! 蘇生術をかけようが無駄なんだよぉ!」


 完全同一個体になって、生きてる以上、蘇生術が通用しない。

 無敵鬼むてきは、そう言いたいらしい。


「ひぐ……ぐす……うぇええええ……」

「ぎゃははは! 王女のくせに泣いてやがるぜ……ぶぼぉ!」


 エルメルマータが魔法の矢を無敵鬼むてきの口にぶっ放す。


「もががががぁ……!」

「……黙れですぅ。口に火矢突っ込んでやりましょうかぁ?」

「ぺっ! 突っ込んだ後に言うなや……!」


 鬼の再生能力のおかげで、無敵鬼むてきの傷は一瞬で治る。


「でも……セントリアさん」


 一郎がわたしに尋ねてくる。


「一体この鬼を、どうするおつもりですか?」

「今から白夜様を元に戻します」


 ぽかん……と無敵鬼むてきと白王女が口を大きく開く。

 わたしははく王女の涙を、指で拭う。


「わたしに任せてくださいまし」

「う、うん……でも、どうするのじゃ……? お爺さまは、もうこの鬼に取りこまれてしまったのだろう?」


「大丈夫です。ふぇる子、ケミスト領へ行きますよ」


 わたしは転移の魔法陣を使って、ケミスト領、領主の古城へと戻ってきた。


「また温泉ですぅ~?」

「もちろん。わたしの必殺技です」


 別に殺す訳じゃあないが、エルメルマータにならってあえてそういった。


「温泉がどうしたってんだ……!?」

「ふぇる子、そこの鬼を温泉にポイ捨てしてください」


 ふぇる子はうなずくと、無敵鬼むてきの首根っこをくわえて、ぽーいっと温泉に投げ入れる。


「げぼげぼ! なにしやがる……!」


 そのときだった。

 パァアアアアアアアアア! と無敵鬼むてきの体が光り出したのだ。


「なんだ?! 一体何が起きてやがる……!」


 無敵鬼むてきの体が二つに分裂する。

 そして……。


「お爺さまぁああああああああああああああああああ!」


 湯船には、白髪の美しい中年男性が浮いていた。

 あれが、九頭竜くずりゅう白夜さま。はく王女の祖父である。


「ふぇええええ!? どうなってるんですかあ……!? 一体何を……はっ! ここって……まさか……若返りの温泉!?」


「そのとおりです。若返りの湯に、無敵鬼むてきを突っ込みました。そして……白夜さまが同化する前まで、体を若返らせたのです」


 結果、同化していた白夜様を、分離できたという次第だ。


「信じられん……」


 呆然と、無敵鬼むてきがつぶやく。


「喰らったら最後、相手は終わりで、絶対に分離不可能なはずなのに……なんなのだ、あの黒髪女……!? いや、どうでもいい。麻痺が治った! これなら反撃を……きょんっ!」


 無敵鬼むてきの額に、わたしの麻酔弾が炸裂。

 やつのみぞおちには、エルメルマータの魔法矢が突き刺さり、そのまま湯船の外へとぶっ飛ばされていた。


「ナイス、コンビネーションです、エルさん」

「センちゃんならこうするかなーって思ってたんで」


 麻痺って動けなくなってる無敵鬼むてきを、わたしたちは見下ろす。


「残念だったな」

「相手が悪かったなぁですぅ!」

「く、くそぉ~……」


 無敵鬼むてきは情けない声でそういうと、涙を流すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ