結界にそんな使い方が!?
「それでぇ? 捕まえた鬼さんたち、どうするんですぅ?」
わたしたちは東都の結界内部にいた。ついさっき、広域に展開した結界で鬼たちを捕獲し、それをぎゅっと小さく圧縮したところだ。
「あっ、える、天才だから気づいちゃったぁ! この小さい結界の中に『浄化!』ってやるんですよね? つまり、いっきに捕縛&浄化ができるってことぉ! 名探偵える~!」
「惜しいですね」
「ほえ?」
「正解は、こうです」
わたしは胸元からアクセサリー風に隠していたそれを取り出す。
「おしゃれ……じゃなくて? その、ガラス玉……?」
「これは、結界です」
そう言って、わたしはガラス玉に手を突っ込む。
「ふぁあああ!? て、手が入ったぁ!?」
『それ……まさか……結界!?』
「ふぇる子、正解です」
中から取り出したのは、水筒だった。
「どこからどうなってるんですかぁ!?」
「飲み込んでください」
「ぬぐぐぐぅぅ……」
エルメルマータが口元を押さえる。よし、良い子だ。
わたしはその水筒のキャップを開け、捕縛しておいた鬼入り結界に注ぐ。
しゅうぅぅぅ……
白濁していた結界が、透き通った色に変わる。
「……あれ? 結界の色が変わったですぅ?」
「鬼化、解除完了です」
「ふぁああああああああああああああああああ!?」
では、理屈を説明しよう。
わたしが身につけているガラス玉は、時間停止の設定を付与した《空間型結界》である。内部の時間を止めることで、アイテムを劣化させず保管できる――簡易アイテムボックス、というわけだ。
そして捕縛用の結界に、時間停止させて保存しておいた“鬼化解除用の温泉”をかけた。すると、結界内部で浄化効果が発動し、鬼化が解除される。これで鬼たちは元の人間に戻る。
さらにわたしは、結界から通信用の魔道具を取り出す。
「こちらセントリア。白王女、聞こえておりますか?」
『うむ、聞こえておるぞ! どうしたのじゃ?』
「今から東都の人たちを、結界の外へ送ります。転移陣で、ケミスト領へ避難誘導をお願いします」
「はぁああああああああああああああああ!?」
エルメルマータが叫ぶ。
「ど、どういうことですぅ!? どうやって“結界の外”に送るんですかぁ!?」
「はい、これ」
わたしは、鬼化解除済みの極東人が入った球体結界を手渡す。
「……ど、どうすればいいんですぅ?」
「矢に結びつけて、白王女の元へ飛ばしてください」
「えるの役目それなのぉ!?」
「そうです」
「ふぇぇぇ……」
エルメルマータは魔法矢を準備しながら、ぶつぶつ言う。
「本当はさぁ~……セントリアさんのピンチを、ばびゅーんっ! て矢で救うのが、えるの理想だったのにぃ~……」
とは言いつつも、矢を正確に放ち――
『おおっ! どんぴしゃで、わらわの手元に届いたぞ!? すごいな!?』
弾速も絶妙に調整されていた。障害物にぶつからず、まっすぐ白王女の手元へ。
まったく、人間離れしてる。さすが残念エルフ、やる時はやる。
「その結界の中には東都の人たちが入っています。球体は、指で軽く砕けます」
『わかったのじゃ! 理屈はさっぱりじゃが、セントリアがすごいからできるのじゃろうな!』
話が早くて助かる。向こうで百目鬼が叫んでいた。
『意味がわかりませんよ!? どういう仕組みなんですか!?』
『知らん! じゃが、セントリアがすごくて、えるがサポートした! それで今は十分じゃろ!』
白王女、実に柔軟な思考だ。よし、次に進もう。
「この先も、同じように進めていきます」
「は~い……えるは、えるの仕事をがんばるですぅ~……思ってたのとはちがうけどぉ~……」




