本物の聖女無双
「える、がんばるですぅ~! セントリアさんをぉ、お守るですぅ~!」
ふがふがと鼻息を荒くするエルメルマータ。
お守る、って……。
その過程でおまえが傷ついたらどうするというのだろう。
……大事なこの子が、怪我なんてしてほしくない。本人にはあんまり言いたくないが(調子に乗るので)。
「貴女の出番はあと」
「ふぇー……? でもでも、鬼さんがいっぱいこっち来ますよぉ?」
彼女の言う通り、鬼化した極東人たちがぞろぞろと歩いてくる。
さすが東京(東都)、人の数も規格外だ。
『一気に駆け抜けるわよ!』
「待って。ふぇる子、力を試させてください」
『力……?』
「なんのですぅ~?」
二人がそろって小首をかしげる。
「せっかく手に入れた、とても便利な道具を。【結界】です」
右手を掲げる。すると、頭上に○の術式が展開される。
「それが結界ですぅ~?」
『結界って、防御に使うものじゃなかったっけ?』
それが、普通の使い方。だが――
「結界って、意外と色んなことに使えるんですよ」
わたしは球体の結界をぽんと投げた。
それは空中に浮かび上がり――
「広域展開」
ぶあっ、と結界が一気に広がる。
次の瞬間、目の前の鬼たちがまとめてその中に閉じ込められた。
「圧縮」
ぐぐぐぐ……と結界が収縮していく。
みるみるうちに小さくなって――最後はピンポン球ほどのサイズで静止する。
わたしはそれを回収。
「よし」
「よしじゃないですよぉおおおおおおおおおおおお!?」
……まあ、こうなるよね。
「なにそれ!?」
「結界術の応用です。前に見せましたよね? 領域結界で似たようなこと」
「そうだけどぉ!? どういう理屈なんですぅうう!?」
――説明しよう。
結界は、実は空間魔法に分類される。
空間を拡げたり縮めたりすることができる。
その性質を利用して、まず広く展開し、複数の対象を取り込み。
そして一気に狭めて、全員まとめて捕縛する。
ゲーム内では、展開範囲と収縮範囲をマニュアルで設定することもできる。
初期設定だとオートで適当にやってくれるが、それではここまで器用なことはできない。
熟練者は、結界スキルをマニュアル操作に切り替えて使う。
だから、こういう芸当も可能になるというわけだ。
と、いう理屈を――
「飲み込んでください」
「ふぇええええええええええええ! そぉんなぁ……!」
気持ちはわかる。が、飲み込んでほしい。説明してる余裕はないのだ。
「……ごめんね」
自然と、そんな言葉がこぼれた。
この子はもう、前みたいなただの手下じゃない。
本当はちゃんと答えてあげたいけど、それができないのが苦しい。
けれど、エルメルマータは――そんなわたしの顔を見て、ふわりと笑った。
「わかったですぅ~」
「……いいの?」
「いいんですぅ~。だってぇ~……ぬへへ♡ セントリアさんがぁ、えるのこと大事に思ってる~って、伝わったからぁ」
……なぜ。それが、どうして伝わった。
『妬けちゃうわ。あたしのセントリアに、そんな顔させるなんて』
顔……?
「ぬへへぇ~♡ えるはルシウムさまと同じカテゴリの人間ぅ~」
「……ルシウムさまのほうが格上です」
「はいはい~。照れ隠しぃ~♡」
まったく、ほんとこの残念エルフは。
――意外と、鋭いからタチが悪い。




