黒幕ネタバレ
エルメルマータ、そしてふぇる子を連れて、東都へと入る。
一郎たちには、白王女とともに、入り口――川崎で待機してもらうことにした。
「姉様……! あたしもついて行きたいです……!」
二葉が一歩前に出て、手を挙げる。
「だめですよぅ。鬼になっちゃう……あ」
「そう! あたしなら鬼化できるから、鬼にはならない……!」
まあ、それはわかっていた。わかった上で、わたしは静かに首を振る。
「二葉ちゃんはここに残って、皆を守ってあげてください」
「でも……」
すると、エルメルマータがニマァと笑って、自分の胸をぱいんと叩いた。
「だぁいじょーぶ! セントリアさんはぁ、えるが全力で守りますですぅ~!」
「まあ……正直、自分の身は自分で守れますけどね」
「照れちゃってもぉ~♡」
うりうり、とエルメルマータがわたしの頬をつつく。ウザい。
けれど、否定はしない。理由? 言わせないでほしい。
「照れちゃってもぉ~♡」
「うざエルフ……」
「なはは♡ えるはぁ、セントリアさんのそういうツンデレなとこ、好きですよぉ~♡」
……まったく、勝手に人の性格を決めるのはやめてほしいものだ。
「残念エルフとふぇる子がいれば充分です。なので、二葉ちゃんは残って」
「はぁい……」
「何かあればこれを」
帝国から譲り受けた通信用の魔道具を二葉に渡す。
使い方は簡単、声を吹き込むだけ。念のため一通り説明しておく。
「セントリアよ。我が国を……頼む」
白王女が深々と頭を下げてきた。律儀な人だ。
「任せてください。――百目鬼」
「む? なんだ」
「あなたは、わたしを疑ってますよね?」
「まあな」
なんともハッキリした人だ。
「こらっ! なんじゃその言い方は! わらわたちに代わり、このお方が極東を救ってくださるのじゃぞ!」
白王女が百目鬼の頭をぺしんと叩く。
……それでも、なお疑っているようだ。
あれだけやっても、まだ「悪女の陰謀」だと思われているのだろう。
別に構わない。口では信じさせられないなら、行動で証明するまでだ。
「鬼の王との内通者は、おそらく――九頭竜直哉です」
「直哉……王子!?」
白王女の兄。だが、王位継承権は彼ではなく白王女にある。
「どうしてそんなことを知ってる……!?」
「わたしは……未来を知ってるんです」
【びにちる】でも“鬼祭り”イベントはあった。
だが、それは敗北前提のイベント。原作ではすでに鬼の祭りは完遂されていた。
その中で勝ち誇って計画を語ったのが、九頭竜直哉だった。
「もし直哉が王女のもとに来たら、すぐ警戒してください」
「でたらめを言うな……!」
「でたらめではありません」
百目鬼が睨んでくる。でも、わたしは視線を外さなかった。
やましいことなんて、何一つない。
「……直哉様が内通者だとして、なぜ今このタイミングで?」
「わたしが離れる“今”こそ、接触してくる好機だからです」
「なぜ……?」
「鬼祭りの混乱に紛れて、暗殺を仕掛けてくるからです」
「なぜ断定できるんだ!」
「一度、王女は命を狙われましたよね?」
「ぐ……!」
白王女は、すでに一度殺されかけている。
同じことが、再び起きても不思議ではない。
「一郎くん、二葉ちゃん。直哉が来たら即座に拘束して。何を言われても無視していいです。相手は真っ黒。容赦無用」
「「はいっ……!」」
よし、これで万全だ。
「……そうか、直哉が……」
白王女がうつむいてつぶやく。
――薄々、気づいていたのだろう。
自分が死んで一番得をする者が誰か。そこに勘が働く子だ。だからこそ、きっと苦労も多い。
「礼を言う、セントリア。そして……頼む。極東を救ってくれ」
「委細承知」
こうして、わたしは仲間を引き連れ、東都へと向かった。




