表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/148

第80話 蘇生の湯


 ……なんで、コビゥルがいるんだ。


 知波、筑波……と順調に結界を解除してきた。

 そして最後、東都の結界を破壊しに向かったときのことだ。


 なぜか、コビゥル一行と遭遇した。

 どうして彼女たちがここにいるのかは不明だったが、鬼と化したカスクソーに襲われていた。


 ……いくら相手がコビゥルでも、襲われている人間を放ってはおけない。

 わたしたちはカスクソーを無力化し、騒ぎを鎮めた。


「で、どうするですぅ~? これぇ~?」


 エルメルマータが、こちらを見て首を傾げる。

 ……どうする、って言われても。


 テンラク(と思しき服装)と、カスクソーの仲間たちは、すでに全員死亡。

 カスクソー自身は、鬼になってしまっていた。


 このまま放って先に進むこともできたけれど……さすがに気がとがめた。

 それに、今なら、まだ間に合うかもしれない。


「けが人を、ケミスト領へ運びましょう」


「けが人? はあ? あんた馬鹿なの?」


 ……バカの声が聞こえてきたが、無視。今は一刻も争う。


 わたしは呪符を取り出し、陣を描く。


「この人たちを転送します。手伝ってください」


「はぁあ!? なんであたしがっ……!?」


 ……誰もおまえには頼んでない。


 エルメルマータたちはすでに理解してくれていて、黙ってテンラクたちの遺体を運び始める。


「き、消えた!? え、なに!? 転移!? 嘘でしょ!? 今のって転移スキル!? なんで!?」


 ああもう、うるさい。


 わたしは騒ぐコビゥルを無視して、ケミスト領へと移動する。


 場所は、領主の古城。裏庭の露天風呂だ。


「ふぇる子、いますか?」

『いるわよー』


 風呂に浸かっていたフェンリルのふぇる子が、のんびり返事を返す。


「皆さん、ふぇる子が入ってるその温泉に、遺体を入れてください。ふぇる子はそのままで」


 エルメルマータたちは、無言でうなずいた。

 白王女が、そっと問いかけてくる。


「身を清め、弔ってやるということかの?」


 ……王女の顔には、どこか哀しみが浮かんでいた。

 テンラクたちと関係がないはずなのに、人の死に心を痛めている。やはり、優しいお方だ。


「いえ、違います」


「では、なんのために?」


「……ここから先で見ることは、他言無用でお願いします」


「む……? わかったのじゃ」


 わたしは視線で合図し、エルメルマータたちは遺体を温泉に沈める。

 すると──


「な……なんと!? 死体の欠損が、癒えていく……!?」


 この温泉には治癒の力がある。失った部位すら、再生させる力を。


 そして──


 しゅぉぉん! という音とともに、湯が光を帯び始めた。


「な、なんじゃ!? 一体何が起きておるのじゃ……!?」


 まばゆい光が温泉から立ちのぼる。

 黄金に輝いたその一瞬、空気が震え──


「かはっ! はぁ、はぁ……ぼ、ぼくは……」


「な、なんじゃとぉ!? し、死者が……よ、蘇ったぁあああああああああああああああああ!?」


 テンラク王子を含む、“黄昏の竜”の面々が、目を開けたのだった。


「こ、これは奇跡……!? まさかそなた、呪禁存思の使い手か!? 伝説の異能者、レイ様の転生者では……!?」


「じゅごんぞんし、ってなんですかぁ?」


 エルメルマータが小首を傾げる。


「西方で言う、死者蘇生の秘術ですよ」


「ほえー……。おくちばってん」


 エルメルマータが口に手を当てる。


「あ、もがもが……」

「おくちばって、2!」


「もがー!」


 百目鬼がわめこうとしたのを、エルメルマータが封じる。偉い。


「百目鬼さんが話すと、ややこしくなるですぅ~」

「し、しかしこれは……死者蘇生など、おかしすぎる……!」


「まぁまぁ、落ち着いて」

「落ち着けるわけないだろ! もがもが……!」


「ま、えるも納得はできませんが……セントリアですし」


 ありがとう、エルメルマータ。おまえはほんとうにいい子だ。


「死者すら蘇らせる温泉……一体どういう仕組みなのじゃ?」


「地中に眠る神の力と、聖なる獣・ふぇる子。

 その二つを合わせて作ったのが、この“蘇生の湯”です」


「そ、蘇生の湯……なんということじゃ。セントリア、おぬしはやはり神……! 叡智の神の生まれ変わりか、それとも創造神ノアール様の転生かの!?」


 どちらも【びにちる】に出てくる神様の名前だ。


「いいえ。元悪女です」


 ──これで、ひとまず危機は去った。

 あとはすぐに東都へ戻って、結界の解除を──


「ど、どういうことよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 ……耳にしたくない声が響いた。

 振り返ると、アホ面を浮かべた女が、目を見開いて立ち尽くしていた。


「コビゥル……」


「なんで、あんたが、そんな凄いことしてんのよぉおおおお!

 主人公様を差し置いてぇええええええええええええええええええ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
馬の耳に念仏暖簾に腕押し糠に釘かもしれないが、1回馬鹿にぎっちり説明というか説教と言ううか言い聞かせをしておくべきでは? まあ面倒事片付いて間ができたらッて話だろうけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ