第79話 バカ聖女、主人公から下ろされる
ゴキン!
……。
…………。
………………あれ?
死んで、ない? 生きてる……? 生きてる!?
な、なんで……。
「いぎゃぁあああああああ! いてええええ! 腕がぁああああああああ!」
鬼化カスクソーが悲鳴を上げた。
あたしを掴んでいた腕が、完璧に、破壊されていたのだ。
カスクソーの腕が破壊されたことで、あたしは拘束を解かれ、結果として生き延びた、というわけ。
「かはっ! はぁ……! はぁ……! げほげほ! おぇ……!」
あたしの体が、必死で酸素を取りこもうとする。
死ぬかと思った。ほんとに、死ぬかと思った……!
でもやっぱりあたしは、主人公だったわ!
だって、ピンチにはイケメンのヒーローが助けに来てくれるのがセオリーなんですもの!
さぁ! どんなイケメンかしら! このあたしを助けた、光栄すぎるキャラは!
「なんだ、コビゥルか……」
「せ、セントリアぁああああああああああああああああ!?」
あたしを助けたのは――なんとセントリア・ドロだった!
嘘でしょ!?
なんでよ! ここは素直に、ヒーローが登場するタイミングでしょおおおおおおお!?
「さっすがですぅ、セントリアさん。見事な精密射撃ですぅ~。あんな離れたとこから、腕をぶちぬいちゃうなんてぇ」
頭の悪そうな口調で喋る、巨乳エルフがセントリアの隣にいた。
……誰あれ?
「うがぁあああああ! エルメルマータぁ……! てめえ元仲間になにしやがんだぁ……!?」
え、エルメルマータ!?
うそぉおおおおおおおお!?
エルメルマータって、あの寡黙でイケメンなスナイパーエルフの!?
なんでこんな、頭空っぽそうな巨乳エルフになってんのよ!?
……名前が同じ別人??
「その声……もしかしてぇ、カスクソーですぅ?」
「ぎゃはははは! そうだぜカスクソーさまだぁ! 運がなかったなぁ、雑魚エルフぅ! 最弱の役立たずのてめえじゃあ、カスクソー様には敵わないって、もうわかりきってるもんなぁ……!」
カスクソーが喚き散らす。
……そういえば、【びにちる】でもエルメルマータはカスクソーと同じパーティだったはず。
え、じゃあこの女が、まじのエルメルマータ? 偽物じゃなくて?
なにそれ、意味わかんないんだけど!?
なんで、主人公が知らない展開が起きてんのよ!?
「てめえはいつでも処分できるからよぉ! まずは……そっちの目つきの悪いメスガキを殺してやるぜぇええええええええ!」
カスクソーがセントリアに襲いかかる。
あたしやテンラクでも敵わなかった相手。
セントリア程度じゃやられるのがオチ……と思いきや。
セントリアは敵の攻撃を、華麗にかわしてみせた!
「はぁ……!?」
足払いで体勢を崩し、その後頭部に一発、銃弾をぶち込む。
ずどんっ!
「な、なによその機敏な動き……!」
あたしの目じゃ、敵の動きすら追えなかった。
でも、セントリアにはまるで、すべて見えているかのようだった。
「はあ……はあ……! くそがぁあああああああ! 女のくせになめやがって! ぶっ潰してやる!」
「腕もないのに、どうやって……?」
「「なっ!?」」
カスクソーも、あたしも、目を見開いた。
カスクソーの両腕がついていない!
「カスクソーの腕はぁ……えるが地面に縫い付けてやったですぅ~……」
地面に、カスクソーの腕が二本転がっていた。
魔法の矢が、それらを綺麗に打ち抜き、まるで地面に縫いつけるように貫いている。
「い、いつの間に……!?」
「セントリアさんがぁ、おとりになってる間ですぅ」
なんて早業。なんて正確な射撃……!
やっぱり、【びにちる】に出てくるイケメンエルフのエルメルマータ、本人なの!?
「ナイスよ、エルさん」
「ぬへへへ~♡ ほめられたぁ~♡」
「よく私が連携して欲しいと思ってるってわかったわね」
「そりゃあ、えるはセントリアさんの右腕ですからねぇ」
は……?
はぁああああああああああああああああああああ!?
エルメルマータが……右腕!?
それってつまり、仲間ってこと!? セントリアの!?
なんなのそれぇえええええええええええええええ!
エルメルマータは、本来なら主人公のもんでしょうがぁ……!?
なーんで、セントリアなんかの味方してんのよ……!?
セントリアなんて、ただのざまぁされて終わる端役でしょうが!
なにヒロイン面して、ピンチのキャラ助けてんのよ!?
イケメン連れてんのよ!?
これじゃあ……どっちが……。
「暢気におしゃべりしてんじゃあねえぞぉ……!」
カスクソーの右手に、黒いエネルギーの球体が現れる。
それを、セントリアめがけて、放ってきた。
「危ない! セントリアさん!」
ぱきぃいいいいいいいいいいいいいいいいん!
そのエネルギー弾を、そいつは無効化した。
能力無効化……そして、その顔……!
「い、一条 一郎ぅう!?」
またしても、主人公の仲間になるはずのイケメンが現れた。
そしてこいつも! あたしじゃなくて、セントリアを護りやがった……!
「なんなの……なんなのよ!? どうして、主人公をよそに、そんなのを、名前持ちキャラが、助けてんのよぉおおおおおおおおおお!」




